「ちょっと、頭冷やしなさい」
その声は、その意味からすれば驚くくらいに、暖かかったのに。
・・・・・。
お部屋で、ひとりにされるのは耐えきれなくて。
でも、修ちゃんと一緒にいるのも辛かった。
「散歩してくる」
思わず、外に出て。でも。
視線は、部屋にいても外にいても、あまり変わらずに足元に落ちる。
自分が意地を張ってるの、わかってるけど。
・・・。空気が、肌を刺す。
それは、部屋にいるときとは違う。
きゅっと、身が縮むような冷たさは、あたしを、責めてるみたいで。
道行く人がすぐ傍にいても、あたしがひとりでいることはお部屋の中と変わらない。
暖かいお部屋に、帰りたい、のかな。
修ちゃんのいる、お部屋に。
・・・迎えに来て、ほしいのかな。
わからない。
当てもなく歩いていた道を外れて、小さな公園のブランコに腰掛ける。
ふうっと、大きく溜め息をついた。
大きく吐けば、大きく吸うことになる。・・・きぃんと、冷える。
・・・。
吸い込んだ息を、ふっと吐いたら視線が上がった。
遠くに、雪を冠した山。
きれい、だ。
張りつめた、身の引き締まるような冷たさ。
明るい、雪の真白。
それはとても、鮮やかで、大きくて、遠くて、・・・正しくて。
それは、あたしを責めるようなものじゃなかった。
もっと、ずっと圧倒的で。ただただ厳然と、そこに在って。
ちいさな意地なんて、なにも関係がないほどに強くて。
あたしは立って、息をもう一度吸って、吐いた。
この白い息は、あの真白の雪と、つながっている。
きゅっと、こぶしを握る。
あんなふうに、美しい、ひとりで立つ、何か。
そうありたいと、望めるあたしを胸の中に抱いて。
あたしは山に背を向けて、修ちゃんのいる家に向かった。
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