プリとAXのお話。


 据え膳食わぬは男の恥とは良く言ったもの。

「へぇ、これが噂に聞く毒瓶かぁ」
 プロンテラは噴水前のベンチで、俺は知り合いのアサシンクロス、由伊と肩を並べて居た。
 こいつは攻城戦に参加するギルドに所属していて、主にエンペリウムを割る役割をしているのだと言う。
 その時にこの毒瓶を飲み干して、一気に叩き割るらしい。
 アサシンクロスは一般人が飲めば、即お陀仏になる劇薬なこの猛毒の力で通常より4倍もの力を引き出し
 攻撃力に変える事が出来ると言う話。なるほどなぁと納得する。
「いーい?これは華楠ちゃんへのお祝い品であって、あんたはぜーったい飲んじゃだめだからね?」
 由伊は俺の口元に人指し指を突き立てて、め!っと言わんばかりに眉を寄せてみせる。
 喋り方だけ聞いていれば女だと思うだろう。
 だが、こいつは正真正銘男である。なんと言うか・・・本人は否定するがぴったり当てはまる言葉は、オカマだ。
 歩き方はしゃなりしゃなり。仕草は殆ど女のそれ。オカマじゃなくて何だと言うのか。
 でも、怒ったらそこら辺の男より怖いので、本人目の前にしてオカマオカマと連呼はしない事にしている。
 そこら辺はアサシンクロスだよなぁ。裏表激しい。
「分ってるって。俺だってまだ死にたくねぇよ」
「そうよ、アタシだって大事な友達に死なれたら困るわよ」
 一人称もアタシ。
 出会った時は激しく突っ込みたかったが、誰も突っ込まないままここまで来てしまったので
 今は普通の事になっている。俺も慣れたもんだよな。
「ただ、一つだけ注意ね?慣れてない内は副作用出ちゃうの。まぁ、どんなかはわかんないんだけど」
「ほーん、そうなんだ」
「まぁ、一晩経てば治まるから。そこまで問題ないわ」
 由伊が軽く言うので、俺も深くは捉えなかった。
 蕁麻疹とかなんかそんな軽いもんなんだろう。
「せっかくアサシンクロスになったんだもの、飲まなきゃ一人前とは言えないわよー」
「そんなもんなんだ」
「そうよ!」
 鼻息荒く言う由伊に圧倒される。
「じゃ、華楠ちゃんにおめでとうって伝えておいてね」
「おぅ、わかった」
 毒瓶がごっそり入った皮袋を受け取る。
 ガラス同士が擦れ合う音がする。一体何個入ってんだか。
 由伊はすくっと立ち上がると、自慢のポニーテールをなびかせてくるりと身体を反転させた。
「アタシ、これからGvの会議なのよ。もっと蓮とお話してたいんだけど、申し訳ないわね。用件だけで」
「いや、仕方ねぇだろ。気にすんなよ」
「もぅ、蓮ってば。いつも優しいんだから。そんな所が好きよ」
 言いながら抱きついて来て、ほっぺたにキスをしてくる由伊。
 まぁ、毎回の事なので慣れては居るんだけど、正直あんまり嬉しくない。
 女の子にされるならこんなに喜ばしい事はないけど、何度も言うがこいつはオカマだ。
 美容だなんだってヒゲの処理はきちんとしてるみたいだけど・・・。
 そして、ここはプロンテラの噴水前。
 露店街の入り口でもあり、人通りだって多い。
「お、おい。やめろって。いっぱい人居るんだからさ」
「あら、人の居ない所ならいいの?」
「そう言う事じゃねーだろ」
 俺から離れた由伊はくすくすと笑い声を上げながら、背筋を伸ばす。
 どうやらギルドチャットで呼ばれたみたいで、一瞬だけ真顔になった。
「呼ばれちゃった。行かなくちゃ」
「おう。サンキューな、これ」
「ええ、またお話しましょうね」
 ひらひらと手を振って、由伊は俺に背を向けて小走りに駆けて行った。
 その後姿も見た目とは裏腹に、何処か女臭い。
 あれが、攻城戦で一体どう変わるのか・・・。一度見てみたい気がする。
 噂では鬼のように怖い男って話なんだけど・・・。うーむ。
 喋り方とかも男に戻るのかな。やっぱ見てみたいな。
 うちのギルドって攻城戦に出られなかったっけなぁ。瑠玖さんに今度聞いてみようかな。
 ・・・まぁ、出られたとしても俺みたいな中途半端な支援プリじゃ何の役にも立たないか。
「よっこらせっと」
 重たい皮袋を持ってベンチから腰を上げる。
 どうすっかな、これ。
 早速試してみたい、気もする。
 あ、そうだ。
「いー事考えたっ!」
 とりあえずは全部持ってるのは重たいので、半分くらい倉庫に突っ込んで。
 先に華楠の所に行こう。



 時間的にはモーニングな時間。
 起きて、朝飯食ってるくらいの時間かな。
 女の子だったら朝風呂入ってたりするかもしれない。
 バスタオル姿でドアを開ける華楠の姿を想像しながら、ノックした。
「はーい?誰ー?」
「俺ー」
「は?誰よ」
 最初の「誰ー?」と聞く声から一変。
 俺が返事をすると、たちまち声のトーンが下がった気がした。
 華楠はいつもそうだ。なんでだか知らないが。
 俺の事、嫌いなのかな・・・。
 そう思ってる内にドアが開いた。
 誰よ、って言ってる割りに俺だって分ってるんだから。可愛いよな、そこんトコは。
 残念ながら、華楠は既にアサシンクロスの黒い正装姿で、風呂上りバスタオルではなかった。
 まぁ、この正装も露出度が格段に高いのでとても目の保養になるから、結果オーライな訳だけど。
「おはよう、華楠」
「何よ、こんな朝っぱらから」
 寝起きだから、ではない。
 華楠はいつもこんな感じなローテンションで機嫌が余りよろしくない。
 それでも喋ってはくれるから会話は成り立つので、なんとかなっている。
 本当はね。もっとこう、恋人同士的な会話したいんだけどね。
 瑠玖さんと海月的な感じの。
「実はさ、知り合いからコレ、貰ったんだ」
「何?」
 訝しがる華楠に皮袋から毒瓶を一つ取り出して見せる。
 真っ赤なガラスの手の平サイズの小瓶。
 華楠はそれに魅せられるように、手を伸ばして来たのでそのまま握らせた。
「何?これ・・・」
 空にかざし、中身を透かして見ている。
 中身は透明ではないみたいで、とろりとした液体がゆらゆらと波打っていた。
「毒瓶だよ。聞いた事あるだろ?」
「・・・これが、毒瓶なの?」
「うん」
 頷いて見せると、華楠は目を輝かせた。
 華楠だってアサシンクロスだ。存在は聞いた事あっただろうし、その効果に憧れても居たと思う。
「知り合いからの、華楠への転職祝いだって。すげぇ数貰ったよ」
「嘘ー?嬉しい」
「使ってみたいだろ」
 言ってやると、華楠は毒瓶を見詰めたまま何度か頷いた。
 よし、第一段階クリア。
 実は俺は華楠ともう一人のアサシンクロスを連れて、ボス狩りに行こうと思っている。
 ターゲットは怨霊武士。
 天津のダンジョンに居るMVPだ。
 二人に毒瓶を飲ませて攻撃させればなんとか倒せるんじゃないかな、なんて思ったんだ。
 ちょっと実験的な事だから、怖いたぬきの人には言わないで行こうと思っている。
 ・・・まぁ、後から多分ばれると思うけどね。
「海月も連れてさ。怨霊武士倒しに行かね?」
「は?あんたちょっと、本気?」
「飲んだら攻撃力4倍だぜ?二人がかりならなんとかなるって」
「そりゃまぁ・・・そうだけど・・・」
 華楠は毒瓶を見詰めたまま俯いた。
 何か考えている様子だ。
 もう一押し。
「俺も支援しっかり頑張るしさ。任せとけって」
「・・・うん、それは信頼してるけど」
 信頼!
 なんだか初めて華楠に支援の腕を認められた気がするぞ。
 これは俄然やる気が沸いて来た。
「おし、じゃ行こうぜ」
「天津?」
「ばーか、海月誘いにだよ」
「ば、馬鹿って何よ!待ちなさいよねっ準備するから!」
 華楠は小走りに部屋の奥へと消えて行った。



 無事に海月を連れ出す事にも成功し、天津へとやって来た俺達。
 いつ来ても桜が舞い散っている街だ。
 デートに来てもいいよなぁなんて。いつも思う訳だが。
 アコライトの頃に嫌って程来たもんだから、風情なんてモンを感じる事も無く。
 なんだか故郷に帰って来たような。そんな感じすら覚える。
 二人にとりあえず6個づつ毒瓶を渡してみた。
 多分そこまで使わないで行けると思うんだけど。
 装備品とかをカプラサービスで整えて、ダンジョンへ突入した。
 畳迷路は俺を先頭に楽に抜けた。道順なんて身体に染み付いている。
 途中、必死にヒール砲を放っているアコライトに辻支援をしながら進んだり。
 気持ちが痛い程分るので、頑張れーなんて声掛けたりしてね。
 2階も適当にモンスターを殲滅しつつ。
 まっすぐに3階を目指す。途中一反木綿を発見して、カード出せ!って叫びながら攻撃したりして。
 結局出なかったけど・・・。出ろって思うと出ないもんだよなぁ。
「さて、到着だな」
「初めて来たかも、3階」
「なんだか、空気の重たい所ね」
 華楠の言う通り、なんとなく蒸し暑いような空気。
 2階で会った一反木綿も普通にうろちょろしている。
 カブキ忍者も普通に居るし。
 とりあえず、慣れてない狩場なのは確かなので。
 囲まれ過ぎない程度にゆっくりと進む事にした。
 確実に殲滅をして、しっかりと回復をしてから進む。
「怨霊武士って取り巻き何?」
「カブキ忍者じゃなかったかな」
「目印それね」
 確か遠距離攻撃とかもしてくるはず。
 そこら辺は気を付けないといかんなぁ。
 ニューマで防げるといいんだけども。どうかなあ。
 一応青石は持てるだけ持って来たから、何とかなるはず。
 頑張ってサンク張ろう。
「あ、マステラ」
「ホントだ。こいつ落とすんだね」
 華楠と海月が嬉しそうにモンスターが落としたマステラの実を拾った時だった。
 何か大きな影が近寄って来た気配。
 来たな。
 いつもならちょっと怖くなるMVPの襲来。
 だが、今日の俺の心はわくわくとドキドキ。
 嬉しさと楽しさ、希望に満ちていた。
 

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