プリとAXのお話。
どうしようかなぁ・・・。
倉庫で装備とにらめっこして、今日の狩場を考える。
そろそろオットーくらい狩りに行けるだろうか・・・。
「華楠だ、おはよう」
不意に声をかけられて振り返ると、そこに居たのはギルドのサブマスター。
同じアサシンクロスの海月だった。
まだ眠そうな顔をして、大きな欠伸を漏らしている。
「おはよ、海月。まだ眠そうね」
「うん、眠い。昨日夜中まで、瑠玖と次のギルドイベントの相談しててさー」
「次は何やるの?」
「うーん、まだ秘密」
口唇に人差し指を当てて、片目をぱちっと瞑ってみせる。
男のくせにこう言う仕草が気持ち悪くなく、逆に可愛く見えるから
海月も不思議な男だと思う。ちょっと羨ましいくちょっと腹立たしい。
「どっか行くの?武器選んでたんでしょ?」
「あー・・・うん。でも、何処行こうかなぁって悩んでたとこ」
「そうかぁ。俺、ソロの狩場わかんないからなぁ・・・」
「そうよね」
「うん、ごめんね」
そうなのだ。海月には瑠玖が居る。
幼馴染で小さい頃からずっと一緒で、二人で一緒に転生もして、
今も二人で狩りに出かけてる。瑠玖は殴りタイプのハイプリーストだ。
狩りに於いても、とても相性がいいんだと思う。
私は二人が羨ましくて仕方無かった。
昔のまま行けていれば、今私も蓮と二人、海月達のように狩場を回れていたかもしれないから。
「瑠玖によさげなトコ無いか、聞いてみる?」
「ううん、いいよ。適当に行って来るから」
倉庫から対オットー用の装備を取り出してみた。
まだうまく戦えなくても、少し気晴らしにはなるだろうと思う。
昨日まで行ってた狩場はお金にはなるけど、ちょっと飽きて来てたから。
それに、出来れば効率のいいところで早くレベルを上げたいのだ。
「無理しないようにねー」
「うん、ありがとう」
海月はまだ眠そうに目をこすりながら、露店街の方へと歩いて行った。
朝の露店街はまだ閑散としていて、ぽつぽつ食べ物露店が出ているだけ。
朝食でも買いに行ったのだろう。
私も少し何か食べてから行こうかな。
海月の後を追うような形で歩き出した。
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キューと切なげな声を上げて、倒れるオットー。
なんとか、1対1なら戦えそうだ。少しずつターゲットを取って、何匹かと戦った。
最初にソウルブレイカーを当てられれば、大幅に体力を奪える。
回避底上げの為にモッキングマントを装備しているから、後は被弾に注意すればいい。
「気をつけて!」
叫ぶような声が聞こえて、その方向に目を向けるとペアのパーティが居た。
女性プリーストと男性アサシンのペアだった。
アサシンが1匹と戦い、プリーストが他のターゲットを取って支援しながら戦うといったような。
ちょっと危なげな戦い方。まだレベルの低いペアなのかもしれない。
さっきの「気をつけて!」と言うのはアサシンの言葉で、プリーストを気遣ってのものだった。
そこでふと顔を上げて回りを見てみると、結構パーティやペアで来てる人達が。
・・・ソロで、1人で来ているのは私だけかもしれない。
「・・・いたっ」
背中に衝撃を受けて振り返ると、そこに居たのはチンピラだった。
くちゃくちゃとガムを噛み、にやついた表情で近寄ってくる。
どうやら背中に蹴りを入れられたらしい。
やばいよ。まだオットーがやっとなのに・・・。
「ねぇちゃん、金持ってそうだなぁ・・・?」
ナイフを片手に詰め寄って来る。
思わずきょろきょろと辺りを見渡した。
周りに人が居ないかどうかを確認する為。
誰も居なければ、ハエの羽を使って逃げようと思ったんだけど・・・。
すぐ後ろにさっきとは別のパーティが居て、逃げようにも逃げられなかった。
しかも、彼らも戦いに必死で私に気付いてはいないみたいだし。
「辻支援も望めない、か」
仕方ない。やってみよう。
上半身だけ向いていたのを身体ごと向き直って、チンピラと対峙した。
武器を構えて隙を見る。
「なんだぁ?やるってぇのか?」
「そうよ、かかってきなさいよ」
「気のつぇえねぇちゃんだ。嫌いじゃないぜ」
「あんたに好かれても嬉しくないわ」
にやにやと笑いながら距離を更に詰めて来る。
油断は出来ない。確か、こいつは遠距離の攻撃も出来たはずなんだ。
隙を見て、ソウルブレイカーを当てられれば・・・。
「っ!」
嘘!
どうしよう、オットーが後ろに居る。
ばちばちと背中を殴られていて痛い。
どうしよう、どっちを先に叩けば・・・。
「先手必勝!」
「きゃっ」
大きな声と共にお腹に蹴りをくらってしまった。
オットーに気を取られていてかわす事が出来ず、そのまま後ろへ倒れこむ。
肺がびっくりしたのか、呼吸がうまく出来ない。
早く、早く立ち上がらないと。
「ほぉら、オットーも加勢してくれるぜー?」
「くっ」
チンピラの言う通り、尻餅をついている私をオットーが殴ってくるのだ。
これじゃあ上手く起き上がれなくて、まともに戦えないよ。
周りに人が居なければ・・・。どうしよう・・・。
ヒール!!
聞きなれた声だった。
顔を上げると、杖でオットーを叩いている姿。
オットーの私へのターゲットが離れる。
ホーリーライト!!
「いてっ!」
続いて、チンピラへの魔法攻撃。
威力はそんなにないけど、これもターゲットを離れさせるのに有効だった。
「華楠、先にオットー叩け」
言われるがまま。
私は彼をばちばち殴っているオットーの背中に向かってソウルブレイカーを放った。
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