アナタの幸せに 4話
「ねえ杜若」
「な~に?」
「僕がいなくなったら好きな人を見つけてね」
「ずっと好きでいさせてはくれないの?」
「杜若には幸せになってほしいんだ」
「分かった約束する、奏がいなくなったら他の誰かを好きになる。ちゃんと幸せになるから」
「ありがとう杜若、大好き」
「俺も大好きだよ、奏」
ごめんね奏、俺うそついてた。
他の誰かを好きになるつもりなんてなかったよ。
だって奏以外の誰かを好きになるなんて考えられなかったんだもの。
奏へ誓った一方的で勝手な約束。
でも永遠に守り続けようって思ってたんだ。
あの時は、本気でそう思ってたよ。
『お父さんとお母さんは本当に愛し合っていたの、だから杜若が生まれたのよ。お前を生んだことを一度だって後悔した事ない』
何度も何度も聞かされた母の言葉。
でもそれ以上の事は何一つ教えてもらえなかった。
お陰で父の名前はおろか生きているか死んでいるかもわからないし、周囲がどんな目で母と自分を見ていたかも子供ながらによく分かっていた。
『今度お母さんの友達を招いてお茶会をやるの。みんなに杜若のことを紹介してあげたいの。みんなも杜若に会いたいって』
母からそう聞いたときも、自分は出ようなどとは考えなかった。
だからお茶会の当日、見つからないように大きな天使像の影に隠れ、母が何度呼んでも返事もしなかった。
やがて中庭の方で母とそして知らない誰かの楽しそうな笑い声が聞こえてくると、急に涙が出てきて止まらなくなった。
自分が本当に一人ぼっちになってしまったような気がして、寂しくなってしまったのだ。
膝を抱えて寂しさに耐えていると、ふわりと温かい何かが自分を包み込む。
顔を上げると見た事のない小さな男の子が自分を抱きしめており、目が合うとその子は嬉しそうににぱーっと笑った。
母と執事以外でこんな風に笑いかけてくれたのは初めてで、それが嬉しくてこちらも気がつけば笑っていたらしい。
その事が嬉しかったのか声を出して笑いながらその子はまた抱きついてきた。
ふわふわした猫っ毛に頬をくすぐられていれば、離れた場所で知らないロードナイトがにこにこ笑いながらこちらを見ている事に気づく。
「おかあさまー!ぎゅーってやったらねーにこーってしたのー!」
どうやらこの子の母親らしい。ロードナイトに向かってぶんぶん手を振っている。
「あら良かったじゃない。このまま2人で一緒に遊んできたら?」
「うん!ねえあそぼ!あそぼ!」
「あ…えっと」
ぐいぐい腕を引っ張られてどうしたらいいか困惑していると、誰かが屈むように自分を覗き込んできた。
「あ、おとうさま!」
自分を見つめる見知らぬハイウィザードは父親なのだろう、父の元に駆け寄るとしきりにマントを引っ張る。
「おとうさま、あそんできていいでしょ?ね、いいでしょ?」
早く遊びたくてたまらないのかその場をぴょんぴょん飛びながら父の返事を待っている。
「息子が大人ばかりに囲まれて退屈しているようでね。よかったら一緒に遊んであげてくれないかな」
息子の頭を撫でながら優しく話しかけられ、戸惑いながらも無言で頷くと了承を得たといわんばかりに
キャーと歓声を上げながらせわしなく今度は自分の元にくるとまたぐいぐい腕を引っ張ってくる。
「いこ、あそぼ!」
「…うん!」
今度は素直に立ち上がって一緒に走り出した。
「僕は杜若、君はなんていうの?」
「えんじ!………えっと、か…か…」
「かきつばた。だよ」
「か……きく…ば…………おにぃちゃん!!!!」
どうやら口が回らなかったらしい。
「おにぃちゃんあれなぁに?」
「あそこは温室。お母さんの育ててる薔薇の花があるんだ」
「すごーい!!おにいちゃんおはないっぱいあるよ!!!!」
「おいで、ここの葉っぱに乗れるんだよ」
「のれた!はっぱのれたのおにぃちゃんすごいね!あっおしゃかな!ここにおしゃかないる!!みてみてここにおしゃかないるの!!!」
「これ有名な彫刻家の人がつくったんだって」
「きゃははははっへんなかおしてる!おひげにょろろーんって!きゃははははっ!!!!」
「ここを通ると屋敷の廊下に出れるんだ」
「すごいねだんじょんみたい!ぼすでるかな?ぼすはね、おとうさまみたいにすとおむがすとぉおおおってやってやっつけるんだよ!」
『えんじ』は連れて行く場所連れて行く場所にいちいち感嘆の声を上げては楽しそうに笑う。
気がつくと時間を忘れるほど夢中になって『えんじ』と一緒に屋敷の外と中を走り回った。
「いやー!!!!まだかえんない!!!!おにぃちゃんとあそぶのーーーーー!!!』」
帰るよ。と両親に手を差し伸べられてもぷいっとそっぽを向いて自分の服を掴み、『えんじ』は離れようとしなかった。
「お別れするのがさみしいのよ。杜若と一緒に遊ぶのが本当に楽しかったのね」
そう言って自分の肩に手をおき微笑む母を見上げる。
『えんじ』もこうやって笑ってくれた。遊んでいて自分も楽しかった。
『えんじ』もまた楽しかったと思ってくれていたのが嬉しかった。
そして、自分と別れるのが嫌だとすがる『えんじ』に会えた事が幸せだった。
「ねえ、次来た時は一緒にポリンの池に行こうよ」
聞いたことのない、でも興味をそそる言葉だったのか頑なにしがみついて離れなかった『えんじ』がそろーっと顔を上げる。
「ぽりんのいけ?」
「うん。パーティ組んで一緒に探検しよう」
「…うんっいく!おにぃちゃんと一緒にいく!!」
さっきまで泣きそうになっていた表情が打って変わって笑顔になりぴょんぴょんその場で
はねていると、『えんじ』の父親のハイウィザードが顎に手を当てうーんと唸った。
「ポリンの池かぁ…あそこはおとうさまでも攻略の難しい所だぞ?艶司にいけるのかなー?」
隣で苦笑いしている『えんじ』の母であるロードナイトをよそに『えんじ』はすっかりその気になっている。
「ぼくいけるもん!へいきだもん!!」
「そうか、艶司はすごいな!でも行くからにはちゃんとした準備が必要だぞ。地図にアイテムに…
あぁでも早く家に帰って準備しないと間に合わないなぁ、このままだとポリンの池には行けないかなぁ~」
「じゃあかえる!はやくかえって用意する!おとうさまのつえと、ポーションとそれから………」
屋敷で遊んでいるうちにすっかり冒険者気分になっていた『えんじ』は父親の『誘導』に気づくことなく杜若の元を離れていく。
離れた手に少し寂しさを覚えたが、その時はまた『えんじ』に会えるという喜びの方が大きかった。
「おにぃちゃんばいばい!ポリンの池いこうね!絶対いこうね!!」
何度も振り返りながら手を振る『えんじ』を見送った事を今でも後悔している。
その1週間後に両親が亡くなり、『えんじ』と会えなくなる事が分かっていたら絶対に離さなかったのに。
ポリンの池に行くために用意していたポーションや母のお古の武器を見るたびに会えない『えんじ』を思い悲しさを募らせていた。
今から思えば全部なかった事にしてしまったのだろう。
『えんじ』の記憶を自ら奥へ奥へと押しやってしまわなければ心が壊れそうなくらい大好きだったから。
「でも、また会えたでしょう?」
「―――――」
フェイヨン外れの東屋。
いつの間にか眠っていた杜若は、聞こえた声で目を開く。
そして目の前に立っていたプリーストに、驚くどころか嬉しそうに口元に笑みを浮かべた。
「こんばんは奏。俺のリトルプリンセス」
杜若の視線の先に立っている奏は照れくさそうに頭につけている天使のヘアバンドの羽を指先で遊んだ。
「こんばんは杜若。やっぱりその呼び名慣れないなぁ」
「もぉ~やっと会えたよ~彩も、澪も、らこも。君と会った事のない人たちでさえ姿を
見かけたっていうのに俺の前には全然姿を見せてくれないんだも~ん」
「確かに杜若の前に姿を見せるのは初めてだね」
「嬉しいけど何か裏がありそうで杜若こわ~い」
「………もう、大丈夫だと思ったんだ」
それを聞いた杜若の顔から笑顔が消える。
「大丈夫って、何が?」
「杜若に大切な人ができたから。だから大丈夫だねって意味」
「なんで怒らないの。俺は約束破ったのに」
「約束って『僕には内緒』の方?」
「そう、『奏がいなくなっても絶対に奏以外の誰かを好きになんてならない』俺が勝手に決めた約束の方」
「……僕さ、艶司に会ったよ」
奏の口から艶司の名前を聞くと無表情の顔に少しだけ驚きの色が混ざる。
「艶司ね、優しくてとってもいいこだった」
それを聞いた杜若は大げさにえぇぇ~と大声を出してみせる。
「いいこなの?あれで結構わるいこわるいこしてたんだよ?」
「そうみたいだね。でも僕から見たらやっぱりいいこだよ、人のために涙を流してくれるとってもいい子だよ」
「いい子っていうか~おばかちゃん?キライキライって言うのに手を差し伸べるとすぐに寄って来るの。
寄ってきたところでイジワルしたらまたキライキライって。面白いから何回もやっちゃった♪」
それを聞いた奏は困ったような表情で笑う。
「もう、僕の知らないところでそんな事してたの?」
「ちょ~っと考えれば先の事なんてすぐ分かるはずなのに簡単に懐に入り込んじゃってさ。ほんと艶司っておばかちゃん」
「でも、それは杜若が一番欲しかったものでしょう?」
「…………………そうだよ」
長い沈黙のあと静かに発せられたのは率直な肯定の言葉。
「艶司はいつも嘘をつかない感情をぶつけてきた、ただ杜若自身を純粋に求めてくれた子だものね。昔も、今も」
そう言って奏は杜若の目の前に立つと、顔を寄せその頬にそっと口付ける。
「えーおでこー?唇にはしてくれないの?」
「それはもう僕の役目じゃないでしょう?」
小さな子どもに言い聞かせるように杜若の頭を両手で優しくひとなでしてやり今度は額に口付ける。
「幸せになってね杜若。今度こそ約束だよ」
「奏ずるい~俺好きな人のお願い断れないのに~」
「うん、知ってて言った」
「もうっこうなったら艶司には俺をこれでもかってくらい幸せにしてもらわないとね」
「あははっ艶司は責任重大だね」
奏は声に出して笑うと杜若から離れていく。
その姿がどんどん透けていっても杜若は追おうとせずにそれを見送った。
「大好きだよ杜若」
「俺も奏が大好き」
そして既に見えなくなってしまった奏のいた場所に向かって小さく呟く。
「今度こそ約束は守るから」
* * *
「ただいま黒松」
御形に見送られ杜若の元へ向かう筈だった艶司は、アルデバラン水堀そばにある『ぼくンち』ともう胸をはって言える黒松の家へと戻ってきていた。
「お帰り、御形はいたかい?」
「うん。お土産のゼリー渡したらすごく喜んでたよ」
「私もさっき頂いたよ。ご馳走様」
「ほんと?良かった…………えっと、あのね黒松」
「ん?」
窓際の椅子に腰掛け本を読んでいた黒松は小首を傾げてみせる。
しばらく黙ったまま目を泳がせていたがやがて意を決したように口を開いた。
「僕これからちょっと出かけてくる」
「今からかい?一人で?」
「うん。今夜は…その、多分帰らないと思う」
それからしばらくの沈黙。この数秒とも言える時間が艶司には妙に長く感じた。
「………分かったよ。気をつけて行っておいで」
「えっいいの!?」
ダメと言われたらそれはそれで困るのだが、あっさり出たOKに思わず艶司は聞き返していた。
「ただ歩く場合は中心部を歩いた方がいいかもしれないね。今の時間だと水路側の近道は暗くて危ない」
「うん、じゃあいってくるね」
「いってらっしゃい、気をつけて行くんだよ」
何処にいくのか、何をしにいくのか、どうして今日帰らないのか。
何一つ詮索せずに笑顔で見送る黒松に後ろめたさを感じずにはいられない。
それでも意を決し、家の玄関のドアに手をかけた時だ。
「お?」
「え?」
外側からドアが開き、顔を覗かせた白樺とほぼ同時に艶司は声を出していた。
「よぉ艶司。なんかお前とこういう出会い頭が多いな」
「そだね。うちに何かご用事だったの?」
「マスターの本かりに来た」
「本?白樺が本読むの?」
「いーや読むのは楠。大聖堂に提出する資料作成に使いたいっていうから」
「なーんだよかったぁ。白樺が読むとか言ったらどうしようかと思った」
「お前今さりげなく失礼なことぶっこいたろ。うらうらうらっ!」
「ふえええええええっっ!」
艶司の頭をくちゃくちゃに撫でくり回していたが、思い出したように手をぱっと離す。
「お前もしかして出かけんのか」
艶司の服装を見て出がけだという事に気づき問うと、艶司は黒松の方を気にしながら少し小声になる。
「ちょっとプロの方に」
「あープロポタ上書きしたな」
「カプラの空間移動使うから平気。いってきまーす」
「待て待て待て」
「ふぇ!?」
出て行こうとした艶司のマントを白樺が引っ張ってそれを制する。
「カプラまで送る」
「別に1人でも大丈夫だよ。ちゃんと人通りの多いトコ歩くしさ」
「いいから。マスターちょっと艶司送ってくる!」
入り口から大声で叫ぶと、居間から少しだけ顔を見せた黒松が手を上げる。
「あぁ、頼むよ白樺」
「…………………?…あー艶司待て待て先行くなって」
黒松に対し何か違和感を感じるも、既にてくてく歩き始めた艶司の後を追った。
(うっわぁ…まだ結構残ってるんだなぁ)
ちらちらと周囲に視線をやりながら艶司は心の中で呟いた。
アルデバラン一帯は攻城戦参加者であろう冒険者たちで賑わっており、夜遅くになってもその興奮は冷めやらぬ状態だ。
ルイーナの砦はかつて自分がギルドマスターをしていた際、積極的に攻めていた場所だっただけに
『悪い意味での顔見知り』は少なくない。
「ふぇっ?」
白樺が突然艶司を抱き上げ背中に隠すようにしてきたので、何事かとその肩越しから前方を見た。
そこには正に『悪い意味での顔見知り』が数人立っており、艶司を後ろにやったことで白樺が丁度対峙する形になる。
「どうした?」
「あ、いや………」
喧嘩を売るでもない淡々とした白樺の物言いに、高レベルのチャンピオン相手となっては
毒づく度胸もタイミングも完全に失ってしまったようだ。
背後の艶司にはもちろん白樺にすら何も言う事なくその場を離れていってしまった。
「……白樺ごめんなさい」
白樺がわざわざ送っていくと言ったのは恐らくこういう事態を心配しての事だったのだろう。
また過去の自分のせいで嫌な思いをさせてしまったとしょんぼりしている艶司の頭を白樺はひと撫でしてやる。
「人多いんだからぷらぷらしてはぐれんなよ。ここ掴んどけここ」
「………………うんっ!」
嬉しそうに返事をすると、ここ。とつまんだ胴衣の部分をぎゅっと掴んだ。
艶司から白樺へ直接過去を話した事はなかったが、多かれ少なかれ耳には入っている筈である。
それでも因縁をつけられそうになった今でさえ変わらない態度で側にいてくれる。それが艶司には嬉しくてたまらなかった。
「やっぱ無理だ明亭。なんか今日はいつにも増して空即是色の防衛が半端なかった!」
聞き覚えのあるギルド名に艶司が声のした方を見ると、声の主であろうアサシンクロスが石畳の上に座り込みうな垂れている。
そのそばで苦笑いしながらヒールをしていたハイプリーストがなぁ。と声をかけると仏頂面のアサシンクロスは僅かに顔を上げた。
「お前にひとつ聞きたい事あるんだけどさ、『明亭の死神』って3人とも天使のヘアバンドつけてなかった?」
「あー…そういやつけてたかも。頭装備見た目系とかかなめくさってんなとか思ったら
ものすごい勢いでご退場願われたんだぜ。マジで一瞬」
「よりにもよってその日に行くとかバカかてめーはと言う言葉を君に送ろう」
「そんなもんいらねえ!!!っつか天使のヘアバンドと今日攻めにいくのと何の関係があんだよ」
「本当に何にも知らないんだなお前。んーどっから話せばいいか……まずはなんで
天使のヘアバンドかっていうと、死神3人の幼馴染『奏』っていうプリーストのお気に入り装備なんだ」
「!?」
記憶に新しい名前に艶司の足は完全に止まる。
「死神に幼馴染?奏?なんか初めて聞くワードばっかなんだけど」
食い入るように身を乗り出すアサシンクロスにヒールを続けながら、ハイプリーストは艶司も気になるその先を話しはじめた。
「奏ってのは死神3人を追う形で故郷から出て来たらしいけど相当仲が良かったみたいだよ?
当時腹黒微笑がテンプレみたいな色即是空の澪がその奏に対して悪意皆無の笑顔を見せてた相手なんだから」
「何それ怖ぇ!怖ぇんだけど!!!!」
鳥肌でもたっているのか自分を抱きしめるように身体に腕を巻きつけるアサシンクロスの心情がハイプリーストも分からなくはないらしい。
「攻城戦での色即是空・澪の事を知る人間ならではの感情だな、うん」
「………で?その腹黒微笑を向けられる事のなかった奏とか言う奴と砦とどういう関係があるんだよ」
「色即是空が初めて明亭を落としたのはその奏っていうプリーストの一撃だったって話」
「マジか!」
「マジで。そして見事防衛成功。色即是空は初の砦持ちになった」
「全然しらんかった………あれでも待てよ。その奏ってプリーストは色即是空所属なんだよな?
一度もそれらしきプリなんて見た事ねぇんだけど」
「だろうね。砦を取得した数日後に彼は亡くなった」
「………………マジかよ」
「マジだよ。そして残された死神たちの手元には彼の落とした砦の明亭」
そこでハイプリーストが目配せすれば、アサシンクロスもその先の予想はついていたらしい。
「死神たちは死んだそいつが残した砦を何が何でも守ってやろうってか」
「はい正解。こうして明亭は死神たちの守る難攻不落の砦になったとさ。めでたしめでたし」
「おい!なんかいい感じに完結すんなよ俺の怒りのやり場がないだろうが!」
「じゃあちょっと付け足す?それ以降死神たちは彼の命日には死んだ幼馴染のお気に入り装備だった
天使のヘアバンド身につけてものすごい勢いで防衛するようになり、攻城戦参加の皆々様は
あぁ今日なのねと明亭をことさら避けていくようになりましたとさ、めでたしめでたし」
「全然めでたくねえし!………っつーかやけに詳しいな」
「攻城戦やってる人間なら基本の情報です。そんな事も知らんで明亭攻めようとかお前はやっぱりおバカだね」
「うっせー2回もいうな!!!!」
(なんで今まで思い出せなかったんだろう)
2人の会話を聞き終えた今、艶司は容易に記憶を遡る事ができた。
琉風が、理が、色即是空が、空即是色が。とにかくなにもかもが自分の思い通りにならなくてくやしくてくやしくてたまらなかったあの時。
どうにかして奴らを一泡ふかせてやろうと色々調べさせ、漸くたどり着いたのは死んだ幼馴染の存在。
他の砦には目もくれず、これだけ長く防衛を続けているという事はあいつらにとってよほど大切な存在だったんだろう。
だったらあいつらから砦とりあげてしまえばすごく悔しがるに違いないと思った。
結局は失敗に終わってしまったが。
その幼馴染の名前が―――。
「奏」
艶司はその名を口に出していた。
出会っていたのに、話していたのに、抱きしめられた感触すら今もはっきりと覚えているのに。
奏は死んでいた。この世には既にいない存在だった分かった今でも艶司に恐怖はなかった。
代わりにぐるぐると渦巻くのはいいようのない感情。
(奏は離れたくてアイツと別れたんじゃない――――死んじゃったから。
そばにいたくてもいられなくなったんだ。なのに僕怒鳴って怒って)
艶司の頭に思い浮かぶのはただただ優しく微笑む奏の顔ばかり。
(なにがいいこだねさ、なにが抱きしめてあげてさ!他にもいっぱいいっぱい僕は
ひどいことしてきたのに!!何言ってんのばかじゃないの!!!)
「おい、どうした?」
気がつくと艶司は白樺に頬を拭われ、自分が泣いている事に気づく。
「…白樺」
「どうした、何かあったのか?」
心配そうにたずねて来る白樺に艶司はぷるぷる首を振る。
「うぅん違うの………あのね、僕やっぱりうちに帰る」
「帰る?プロの用事はいいのか?」
「かえる。だって、だって、だってぇ…………」
最後まで言えずに手の甲で顔を覆ってしまう。
奏は今でも杜若を大好きだと言っていた。
それなのに今自分が杜若に想いを伝えたら奏の気持ちはどうなるのだろう。
奏が杜若の側にいられなくなった本当の理由を知った今、自分が今しようとしている事が正しい事なのか艶司は分からなくなっていた。
「―――――違えた道もまた真の精進に通ずる」
「…ふぇ?」
白樺の言葉の意味が分からず艶司が泣きぬれた目をきょとんとさせていると、えっとな。と前置きして話し始めた。
「老師…俺を育ててくれた修道院のエライ人っての?その人が俺にいった言葉だ」
「なんか…間違えてても間違いじゃないっていってるみたい」
「矛盾した話だけどな」
涙を拭いながら聞いてきた艶司へ、正解とでも言うように白樺は大きくひとつ頷いた。
「でも間違った道を進んでかないと分かんない事だってあるんだよ。途中で後悔しても最後にはこれで良かったんだって思えるくらいにな」
そう言って白樺は艶司の頭をぐしゃりと撫でるとにっこりと笑ってみせる。最初に会った時からずっと変わらない笑顔で。
「止まってないでガンガン前進め。『今のお前』だったらちゃんと最後は正しいとこに向かっていけるから」
「ぼく…ぼくはっ……」
言葉を探す艶司が感じたのは、覚えのある優しい気配。
『それでいいんだよ。はやく杜若の所へ行ってあげて』
聞こえてきた声なき声が誰なのか分かった瞬間、艶司の目からまたぼろぼろと大粒の涙が溢れる。
「…………かなで……」
「ん?」
「うえええええええええええええええん!!!!」
艶司の声が聞き取れなかったのか白樺が聞き返すと同時、艶司は大声を張り上げて泣き出した。
「おい、ちょ、まっ、艶司ぃぃっ!?」
周囲の視線が一斉に集まり、どうみても『泣かせた男』になってしまった白樺はうろたえるが、
艶司は堰を切ったように泣き続けている。
「うええええありがどぉぉぉだいずぎぃぃぃぃみんなみんなだいずぎだよぉぉぉぉ!!」
「わかった艶司!わかったからもう泣くなって!」
抱きしめてあやしてやる白樺の胴衣にぐしぐし顔をすりつけながら奏に向かって心の中で語りかける。
分かったよ奏。
僕アイツを抱きしめにいくから。
ありがとう。いっぱいいっぱいありがとう。
* * *
「はーーーーーっっ」
泣きじゃくる艶司をなんとかカプラサービスまで送り届けた白樺は、大きく息を吐き再び黒松の家の扉を開けていた。
「ありがとう白樺、それともお疲れ様かな?」
「あー…はは…」
事情を知ってか知らずか、迎えた黒松に白樺は頭をかきながら笑って誤魔化した。
「そうだ、さっき本がどうとか言っていたね」
「マスターのとこにこういう本あるって聞いたんだけど」
白樺から差し出されたメモを見た黒松は目を丸くする。
「あると思うが…白樺が読むのかい?」
「楠が資料作成に使いたいって」
言いながら本棚から数冊の本を取り出す黒松を目で追う。
「それを聞いて安心したよ。お前が読むなんて言ったらどうしようかと思ってね」
「なんだよマスター、俺だって本くらい読むことだって…」
あるぞと続ける前に白樺の目の前に差し出されたのはなんとも分厚い本。
「これがその本だよ。内容はデワタにあるクラカト火山が植物に与える影響と地質に
ついての事が詳しく書かれているんだが…読んでみるかい?」
「やめとく」
さわりを聞いただけで即答する白樺に小さく笑いながら黒松は再び窓際の椅子に腰掛けた。
「マスターに言われたのと同じ事さっき艶司にも言われた」
「艶司が?」
「考え方っていうかそういうとこ完全に親子だよな」
「……………」
『艶司とまるで親子みたい』
こういった事を誰かに言われると、いつもだったら『そうかい?最近よく言われるんだよ』と
嬉しそうに返してくるのに黒松はぼんやりと窓の外を眺めたままだ。
そこで白樺は出かける前に感じた妙な違和感を思い出す。
「なぁマスター。艶司となんかあった?」
否定も肯定もされず小さく首を傾げられただけで、話を続けていいものかと悩みながらも白樺は話を続けた。
「なんか艶司の様子もおかしかったし、今もマスターの感じがいつもと違ってるって言うか…んー駄目だ上手く言えねえ」
「白樺はそういう観察力が本当に優れているね」
「やっぱり…どうしたんだよ喧嘩でもしたのか?」
黒松が言った答えは白樺の想像を上回るものだった。
「そうだなぁ…白樺と楠の間に子どもが出来て、その子どもが大きくなってからじゃないと分からない話かもしれないね」
「こ!!!!!!!ども!?いやっ欲しいとはって思ってるけど!なんていうか授かるモンだからすぐどうこうとかそういうんじゃなくて!!!」
顔を真っ赤にして動揺している白樺をよそに黒松は窓の外へと視線をやった。
「艶司はね、今日好きな人に気持ちを打ち明けに行ったんだよ」
「…………………………………好きな人?ってか今!?」
「そう、今。好きだと気づくのに随分時間がかかったようだけどやっと打ち明ける気持ちになったようだよ」
「そうか、それであいつ…」
急に帰ると言ったと思えば大声で泣き出したり。
ころころ変わる艶司の態度の理由はこれだったかと漸く白樺は納得する。
「前からこうなる事は分かっていたしこの事はとても嬉しく思っているんだよ。ただいざそうなるとなかなか寂しいものだね」
そう言った黒松の表情が本当に寂しそうで、白樺は返す言葉が見つからない。
「艶司はこのままもうここに戻ってこないんじゃないかと――――」
「いやそれは絶対ない」
ただ、その言葉に対してだけはほぼ反射的に白樺は即答していた。
「これは絶対分かる。艶司は新しい家族を迎えにいっただけだ」
驚いたような顔で見ている黒松から視線を逸らすように白樺は顔を下に落としてしまう。
「俺…さ。物心つく前から修道院育ちで親っていうのを知らないままだったけど
ここのギルド入ってマスターに会って…その、父さんができたみたいで本当はすごく嬉しかったんだ」
照れ隠しのように白樺は下をむいたままのしゃべっているため黒松の表情は分からない。
「マスターはよく俺達の事を家族だって言ってくれるけど俺達だってそう思ってるよ。
艶司だってそうだ、マスターのことほんとすげー大好きなんだよ。その艶司が
他に好きな人が出来たからってマスターから離れていくとか正直ありえないって」
「……………」
「どうせ少ししたらその好きな相手って奴引っ張ってマスターのとこ戻ってくるに決まって……………」
何の反応も返してこない事に心配になってきた白樺がやっとそこで視線を上げた。
すると視界に入ってきたのは片手で顔を覆っている黒松の姿で、その頬からは涙が伝っている。
「おぉぉおおおマスター!?」
「ははは…優しい子供たちに恵まれすぎて…もう参ってしまうよ」
「もしかして俺やらかした!?ごめんマスターほんとにごめん!」
困ったように黒松のそばへ駆け寄り、肩を撫でていた白樺へ楠からのwisが届く。
『白樺?まだお父さんの所にいるならもう一冊かりてきて欲しい本があるんだけど…』
『やばい今日の俺地雷の踏み方半端ない』
『急にどうしたの?』
『なぁ楠、今からマスターの家来れるか?』
『ごめんなさい資料の作成がまだ終わらないの。もうちょっとで』
『頼む!今すぐマスターのまで来てくれ!!それで資料の作成が遅れるなら俺で
出来ることなら何でも手伝う!!頼む楠頼むマジで頼むやばいんだってマジでーーーー!!!』
『わ…わかったわ行く!今すぐ行くわ!行くから落ち着いて!』
* * *
「これは艶司様、ようこそおいで下さいました」
扉を開けた執事はドア口に立っている艶司の姿を見て笑顔で迎えてくれた。
「こんばんは。えーと、あの、えっと」
中々本題に入れずにいる艶司だったが執事はすぐに察したらしい。
「杜若様なら本日屋敷においでです」
「じゃあ…………………あっ!」
執事の背後にある柱時計を見て艶司は青くなった。
勇んで来たものの普通に考えてみれば深夜のいい時間帯だ。
「ごめんなさい遅くに来たりして!出直します!」
慌てて扉を閉めようとした艶司を隙なく、尚且つやんわりと止める。
「かまいません。杜若様から貴方がいらした場合は時間に関係なくお通しするように言われておりますので」
「ふぇっ?」
「どうぞこちらへ」
「は、はい………」
促されるまま艶司は屋敷の中へと入っていった。
* * *
「こちらでございます」
執事が止まったのは艶司が以前通された部屋とは全く違う場所のドアの前だった。
この時間であれば寝室か。
「………!」
『シーツもさわり心地よくてね~』などという言葉を思い出し妙に意識してしまった艶司をよそに、執事はドアをノックした。
「杜若様、艶司様がお見えです」
部屋の向こうからはなんの返事はない。
「あの、寝てるならまた今度でも………」
「構いません、どうぞ中へ。もしかしたら多少手荒な手法を用いませんと起きない場合もございますが」
「!?」
「それでは失礼致します。何かございましたら遠慮なく申しつけ下さい」
さらりと遠まわしに『声かけても起きないようならぶっ叩き起こせ』と言った執事は、艶司にお辞儀をするとその場を離れていった。
執事の姿が完全に見えなくなると、艶司は多少大きめな音を立ててドアをノックした。
「寝てるの?」
「うん寝てる~」
「ちょっ…全然寝てないじゃないかっ!」
部屋向こうから聞こえる声は今起きたというより、最初から眠ってはいなかったようだ。
「あ、開けるからねっ」
「―――――どうぞ、入っておいで」
いつもの間延びした声ではなく、低くどこか誘うような声。
身体が火照る感覚を覚えながら艶司はドアを開けた。
中に入りドアを閉めてしまうと部屋は当然のように暗くなる。
僅かにひらいたカーテンから月明かりが差し込み、杜若のいるであろうベッドの位置がかろうじて分かる程度だ。
「話があってきたんだけど」
「こんな夜中に、わざわざ寝室におしかけてでもしたいお話ってなぁに?」
「……………」
艶司は何も答えずに身につけているマントに手をかけた。
それから部屋に響くのは衣擦れの音。
「ね~艶司なにしてるの~?杜若ちょおきになるんだけど~」
問いにはやはり何も答えず、やがて艶司はしずしずと杜若のいるベッドに近づいた。
「わぁ~お」
やがて月明かりに照らされた全裸の艶司を見つけるとベッドから起き上がり杜若は感嘆の声を上げる。
「ひゃん…!」
杜若の両腕が伸び、腰に巻きついたと思うと艶司はあっという間にベッドに引きずり込まれてしまった。
『とっておき、教えてあげる。彼に気持ちを打ち明けるときは必ず裸でね、服なんて無粋なもの身に着けちゃ駄目よ』
ここに来る前御形に言われた『とっておき』を実践してみたが、その結果がこれである。
(もぉぉぉ御形姉のばかぁぁぁぁぁやっぱりコイツをただちょーし乗せただけだよぉぉぉ!)
心の中で叫びながら巻きつく腕をなんとか引き離そうともがく。
「ちょっ…待って、待ってってば」
「待たない。次は絶対離さないって言ったよね」
「ひゃ、あぁんっ」
胸に顔を埋めるように強く抱きしめられ、それだけで艶司の口から甘い声が漏れてしまう。
「ぼ…僕いやっていってないっ!ただちょっと待ってっていってるのっ!
このあとでやらしーこといっぱいしてもいいからまず僕のお話をちゃんときいてっっっ!」
差し出された舌があと数センチで乳首に届く、という所で杜若はぴたりと動きを止め艶司を見上げた。
「……………………………………………はぁ~い」
長い沈黙のあと、杜若は抱きしめていた腕を離し仰向けに寝転ぶ。
「そのままだよ、手とか出したり動いたらだめだからね」
あっさりと引いた杜若にほっとした気持ちと、どこか残念な気持ちを入り混じらせ艶司は杜若の上に馬乗りに跨った。
無防備に両腕を投げ出す杜若もまた裸で、普段鎧に覆われて見る事のなかった素肌が露になっている。
「ね~艶司ぃ。まだおさわりしちゃだめ?ぺろぺろちゅっちゅとかがつがつぐちゃぐちゃとかいろいろやりたいんだけど」
今まで聞いては腹を立てていた言葉も今の艶司にとっては性を煽るに近い。
その胸に身を預けたい衝動をなんとか堪えて人差し指を杜若の前に持っていった。
「いいけどその前に誓ってよ」
「なにを?」
「僕だけを見る事、僕以外を好きにならないこと、僕だけをずっと好きで居続ける事、
それから僕を嫌いにならないって………今すぐここで誓って!!!」
これが艶司の考えに考え抜いた『愛の告白』であると言ったら一体どれだけの人間がそうだねと納得するだろうか。
だが、最も伝えたい本人はにっこりと満面の笑みなど浮かべている。
「うんいいよ~ぜ~んぶ誓っちゃう~」
「あぁぁぁあもぉぉぉおおっ!!!!」
だが、艶司の中では決死の覚悟で挑んだ『愛の告白』を雑談の延長上のような
返し方をされたことにより、艶司は悲しみよりも怒りの方が先に来てしまった。
ぼふぅっ!
杜若の頭にある枕を引き抜き笑っているその顔面を力いっぱい殴りつけた。
「いや~ん艶司の愛がいた~い」
「またそうやってふざけるっ!僕は真面目に言ってるのに!」
「真面目に言ってもいいけどさ」
「!?」
枕の隙間から覗く杜若の瞳を見た艶司の背筋にゾクリしたものが駆け抜ける。「言ったらもう絶対逃がさないよ?」
身体が震えるのは決して恐怖からではない。期待だ。
「に、逃げるつもりだったらこんなカッコでココになんて来ないもん」
「そっか、じゃあ真面目に答えちゃおっかな」
枕をどけると相変わらず艶司に触れないまま杜若は口を開いた。
「艶司に初めて会った時…艶司が澪たちにおいたをしてげんこつしたあの時ね。
そこで根拠のない運命的な何か?みたいなの感じちゃってさ」
「変なトコで運命的なもの感じないでよ…」
「でもやっぱ運命だったでしょ?実はあの時がはじめてじゃなくて、ずっと小さい時にこの屋敷で会ってたんだから」
「…!…じゃあやっぱり僕がここで会った男の子って…」
「うん。俺」
「ちょっと!しれっとしてうんとか言わないでよ!なんであの時しらばっくれてたのさ!」
「だってホントに思い出したの最近だもん。艶司だってこの屋敷くるまで忘れてたんだからおあいこー」
「うぐっ………でっでも!何で急に思い出したのさ」
「ん~もう俺には艶司しかいないって思ったからかな」
「…僕しかいないって、どういう意味?ちゃんと言って。教えてよ」
言葉の一つ一つが心地いい。早く聞きたくて艶司はその先を急かした。
「最初はよくわかんないけど艶司が気になるな~気になるな~って思ってただけなんだけどさ、今から思えばあれって恋だったんだね」
「…………恋」
「恋。そう気づいたらもう全部納得できちゃった。俺は艶司と新しい恋をするんだって。
もう艶司以外となんて絶対無理。やだって言っても離さないよ、俺の全部を虜にした
艶司が悪いんだから。俺の恋人になって、俺のお嫁さんになる以外に艶司の選択肢は
もうないからね。だからもうあきらめて?そんでもって~………」
そこで一度話を切り、杜若の腹部に添えられている艶司の手に杜若の手が重ねられる。
「愛してるよ、艶司」
「……っ…」
何より望んでいた言葉は艶司の中にじんわりと染み渡っていき、喜びとなっていく。
「なっ…なにさそれ!言ってることめちゃくちゃだし」
言葉だけ毒づいてみた所で頬を朱に染めていては何の意味もなさない。
「今に始まったことじゃないじゃな~い。で、それらを聞いた艶司のご感想はいかがかしら~?」
「僕だって…僕だって愛してるよ!こんなに好きにさせてばかばかばかぁぁぁぁお前なんかだいっきらいぃぃぃぃぃぃ!!!」
がばぁっと艶司が覆いかぶさって叫べば杜若は嬉しそうに艶司の髪の毛に唇で触れてくる。
「もぉ~結局どっち~?ベッドで泣かせたいけど意味がちがう~」
それから髪の毛を何度も指で梳かれ、時折頬に触れてくるが艶司は咎めない。
「もっと触ってもいいよね」
「うん」
「キスしてもいい?」
「……うん……わっ!?………ン、ぅっ…」
返事をした次の瞬間突然の息苦しさが艶司を襲い、何が起こっているのかすぐに理解できなかった。
杜若の両腕が艶司の背中に伸びて抱きすくめられると、深く唇を重ねられた。
「ん…んっ…ん…は…ンゥ…んっ」
呼吸すらまともに出来ないような激しいキス。
艶司の小さな舌はあっという間に絡みとられ、口腔内を舌で愛撫されていた。
「ン、ンっンぁぁっ…ンンン…ッ…!」
重ねられる唇も、口腔内をいたずらする舌も、抱きしめる腕も全部全部気持ちいい。
キスの合間に杜若の足が艶司の足の間に割り入り太腿部分で雄の部分を緩く圧迫する。
「ン、んぁ、うぅンっンンっっ…!」
『もう勃ってる』とでも言われているように何度も何度も太腿を押し当てられ、艶司は唇の間から甘い声を零し続けた。
「んぁ、あぁん…ン…」
離れた舌と舌の間で引かれる唾液の糸を見ながら、艶司は身体の内でどうしようもない程疼く欲があるのを感じていた。
それを鎮めることが出来るのは目の前の男しかいないということも。
「もう、絶対に離さないからね」
ごくりと音が聞こえるくらい喉を鳴らし、誘われるまま杜若の胸に指を滑らせる。
「……うん」
掠れた声でそう強請ると杜若は薄く微笑んだ。
* * *
想像以上に長すぎてここにきてまさかの2つわけ。
ツヅキマス。
無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!