マイ・ファースト・レイディ

 

『カバちん何してんのー?』
『ねえねえカバちゃん一緒に狩り行こうよ〜』
『今日はやけに大人しいね。どうしたのかなカバ子さん』

『だぁぁああああッカバカバカバカバうっせぇーーーーーッッ!!!』

「白樺、今のPT誤爆よ」
「ん?あ、お…おうっ」

んっんー。と軽く咳払いしてから白樺と呼ばれたチャンピオンは改めてギルドチャットに合わせて叫び直しているようだった。
最も今はタキシード姿になっているので知り合いでも無い限り彼がチャンピオンだと言う事は分からないだろう。
その隣でPT誤爆の旨を伝えた楠は身につけたウエディングドレスの裾を整えていた。


この2人、20分程前に結婚したばかりの夫婦である。


「よし、なんとかギルドの奴等ごまかした!」
ギルドチャットから再びPTチャットに切り替えふんぞり返った白樺は大きくため息をつく。
「たっくよ、あいつら俺が普段色んな場所びゅーびゅー飛び回ってるくせに今日は全然動かないのが
 不思議で仕様が無いんだろうな。どこにいんのどこにいんのってうっせーうっせー」
「ごめんね白樺、結婚式挙げた事はしばらく周りに秘密にしたいなんて言ったから」
しゅんと俯いた楠に身につけたベールの上から白樺がぽむぽむと頭を撫でてやる。
「せっかくウェディングドレス着てんだからそんなシけた顔すんなよ。楠の言った事、俺は反対しなかったろ?」
「………えぇ」
「まぁギルドの面子には結婚は時期見て後々報告ってことになると一目瞭然のこの格好じゃ
 今は外出歩けないな。あとどのくらいかかるっけ?」
「40分くらいかしら」
「そっか、ならそれまでまだ大聖堂にいた方がいいな………なぁ、これ解けたらどこ行きたい?」
「この間はノーグロードで熱い思いしたから次は涼み目的で氷の洞窟行くって話じゃなかった?」
「狩りの話じゃねえよ!ほら…新婚旅行っつーかそういう感じのだな……」
「ジャワイ!!」
目を泳がせながら後半ごにょごにょとどもった白樺に身を乗り出して楠が答える。
「ジャワイか…そういえば俺も酒場しか行った事なかったな。じゃあ戻ったら行くか」
「うん!」
「そーだそーだ、お前はそうやって笑ってた方が…」

嬉しそうに微笑んだ楠に笑い返した白樺の笑顔がびきりと不自然に固まる。
「白樺?どうかしたの?」

「ねえかばちゃん…どゆこと、これ」

背後から聞こえた声で楠が振り向くと、そこには口元をヒクつかせているホワイトスミスの姿があった。
「さ…山茶花っ…!」
ホワイトスミスが襟元につけているエンブレムは白樺の持つものと同じだと気づくと楠も息を飲む。
白樺に山茶花と呼ばれたホワイトスミスは顔こそ笑顔になっていたがその身からにじみ出るものは怒り以外の何者でもない。
「ねぇ白樺。私の見間違いじゃなきゃそれタキシードよね?結婚した時に着る
 タキシードよね??なーんで白樺がそんなの着てるのかなぁ?」
「いや、えーと…」
この状況で言い逃れ出来るはずもなく目を泳がせている白樺に山茶花が近づいてくる。
相変わらずにこにこと笑顔だったがその笑顔は逆に恐怖をかきたたせるものがあった。
「結婚式する時には私たちメンバー呼んでねって言った時あんたうんって言ったわよね。
 今日結婚するだなんて全然聞いてなかったんだけど。ねえ私の気のせい?」
「山茶花待て、これは色々訳が…」
「うるっさい言い訳なんざ聞きたくなーいッッ!!!!」
「おわぁああああああッッ!!!」
その場にいた人間が全員視線を注ぐくらいの大声で山茶花が怒鳴ると女性の力とは
思えない勢いで白樺の身体を担ぎ上げ、ドーム型のカートの中にそのまま押し込んでしまう。
「てめっ何すっおぉおおおお!!!」
「五月蝿い」
這い出ようとした白樺に向かって大量の回復財やら収集品やらを落としてカートの中へ沈め、
静かに言い放った山茶花の言葉はまるで絶対零度の如くだ。
白樺を乗せたというより埋めたカート引きながら山茶花が唖然としている楠を見る。
「一緒に来て」
「え…あ…ちょっと…!?」
返事を待たずに山茶花は楠の手を取り走り出した。

『こちら山茶花。白樺が結婚したみたいなの、皆で心をこめてお祝いしましょう…っつーわけで
 皆本気対人装備でPVPに集合しろーーーーーッッッ!!!!』

「何が祝いだふざけんなよこのぉおおおおおお!!!!!」

ギルドに入っていない楠に聞こえたのは白樺のオープン発言のみでGチャットで山茶花の言った言葉は勿論聞こえない。
ただ訳も分からずプロンテラ中央にある宿へと向かう山茶花に手を引かれていくしかなかった。

* * *

「白樺の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ぁッ!!お祝いに古木の枝折りまくってやろうと思ってちまちま
 買い込んでたのになんでもう結婚しちゃってるのよぉ!!スパイラルピアースッ!!」
「どあぁああああああッッ!!!」
「俺なんてなぁ!結婚式祝いにって血に染まった古木の枝をお前のためだけに露店にも
 売らずに大事に大事に溜め込んでたんだぞ?1本1本心をこめて折ってやろうと思ってたのに
 何も言わずに結婚してんじゃねーよ!!アシッドデモンストレショーンッッ!!!」
「ぎゃぁああああああああああああッッ!!!」
「あたしが代買でロザリー買いに大聖堂行って分かったようなもののっ…結婚式には呼ぶとか
 言っておきながらこの大嘘つきッッ!!くらえ!!!ご祝儀カートターミネーショおおおおん!!!!」
「そんなご祝儀いらねぇえええええええええッッ!!!」
「あーあーもう皆容赦ないんだから。これじゃ流石に白樺が可哀想だろ?まぁこれでも着ろ」
ロードナイト、クリエイター、そしてホワイトスミスの山茶花から連続して攻撃を受けた白樺は、
助け起こされたハイプリーストに何かを羽織らされた。
「何シルクローブ着せてんだよ…ってまさかお前!」
「かかったな!そのまさかだッ!!!これでバージンロードを真っ白に染めてやろうと思っていた
 俺の野望を打ち砕きやがって!結婚済みとはどういうことだぁッ!!!!マグヌスエクソシズム!!!」
「っだぁあああああああああああッッ!!!」
イビルドルイドカードの挿さったシルクローブにより強制不死属性になった白樺は、真っ白な十字架による攻撃的な浄化を受けた。

PVPに連れてこられたと思えばそこで待っていたのは武器を手にした白樺のギルドメンバー達で、
詰め込まれたカートから白樺が顔を出したと思うと強制的ギルドから除名し、そして袋叩きとも言える総攻撃を始めたのだ。
「あ…あのっあの…」
「あーあーこりゃまた派手にやってるね〜。ほらほらお嫁さん前出ないの、巻き添えくらうと危ないから」
身につけることが出来て嬉しいと思ったウエディングドレス姿もろくに動くことも出来ない事が今ははがゆくて仕様が無い。
ぎこちない動きながらも白樺の所に行こうとすれば今のように側にいるジプシーに止められてしまうのだ。

「お願いやめさせて、白樺は悪くないわ!」
楠の言葉はジプシーが軽く手を左右に振ることであっさり却下されてしまう。
「だめだめ。結婚式する時はちゃんと皆を招待するって約束してたクセに黙って結婚しちゃうんだもの。悪いのはあいつなんだから」
「違うの!!白樺はギルドメンバーのあなた達を結婚式に呼びたがっていたわ!!!でも
 私が2人だけの結婚式がしたいって白樺に我侭言ったの!だから…!!!」
「悪いけどそうは思えないな」
「!!」
「私はあなたがそんな我侭な女には見えない、それとは何か違う理由があるように見えるの」
真っ直ぐに見据えて違う?とたずねて来るジプシーから楠は思わず視線を逸らしてしまう。
違うとは言えなかった。

「前に…」
視線を逸らしたまま楠がぽそりと口を開く。
「白樺とは別の人と…結婚を約束していたの。結婚式の日取りも決めて友達も沢山招待したのに
 その結婚式が急に白紙になって…その事を友達に伝える時とてもみじめで仕方なかった」
楠は震える手で隣に立ったジプシーの袖を無意識の内に掴んでいた。
「彼が…白樺がそんなことするような人じゃないって事は分かってるの。でも、前と同じ事
 繰り替えすんじゃないかっていう不安が頭から離れてくれなくて…そうならないって
 どんなに 言い聞かせてもその時のこと思い出して…怖くてっ…!」
涙ぐむ楠を落ち着かせるようにジプシーはそっと肩を抱いてやる。
「ねえ、白樺も一度結婚失敗してるって話聞いた?」
「…………お嫁さんになる人が高級装備盗んで逃げた…こと?」
「あーやっぱちゃんと話してたか、あの後すぐにその泥棒嫁とっつかまえて装備も戻ってきたけど…
 でもその時から結婚は勿論恋愛自体を完全に拒絶するようになったんだ。冗談めかして俺は独り身が似合う男
 なんだよとか言ってたけど本当は結婚約束した…愛してた人に裏切られて相当堪えてたんだと思う」
初めて白樺からその話を聞かされた時、楠は泣いた。
最後の最後まで信じたかったのに裏切られた哀しさが、信じ続けようとした事で自分どころか
周囲の人まで傷つけてしまったつらさが痛いほどよく分かったから。

『泣くなって、もう終わった事だからいいんだよ。それより楠がそんな風に泣いてる方が俺はきつい』

そう言って白樺は優しく楠の頭を撫でてくれた。
楠の中で抱えてきた悲しみや苦しみを同じ立場で分かってくれた大切な人。

「あの一件があってからもう結婚なんざ絶対しねーなんて言ってたのにさ」
それからジプシーが楠を見る。
「その白樺が貴女に恋をした。頑なに恋愛を拒んで居たあいつの心を貴女が動かしたのよ。また結婚したいって思うくらいに」
「…!」
楠が妙に赤くなった顔をベールで隠すように覆う。
「あいつらもね、隠れて結婚したのも事情があって決めた事なんだろうって事もきっと分かってるから
 本当は怒ってなんていないよ。何より嬉しいし祝福してるんだ」
それから困ったようにぽりぽりと頬を掻く。
「でもなんていうか…ウチのメンツって直球のくせにどっか不器用なんだよねえ。ああいった
 スキル連打でごまかして本当の気持ちを隠しちゃうんだ。しみったれないように
 あとくされなくって言えば聞こえはいいんだけどね」
それからジプシーは楠と向かい合うようにして楠の手を取った。
「大丈夫よ」
おそるおそる楠が視線を上げると、柔らかに微笑んでいるジプシーと目が合う。
「白樺と貴女なら絶対に大丈夫、だから目の前にある幸せを怖がらないで受け入れて。私達にも祝福させてよ」
「…っ…」
涙を浮かべる楠に反して深くなるジプシーの笑みはまるで励ましているようだった。
「心からあなた達に言いたいの。おめでとうって」
楠の瞳から涙が溢れ落ちた瞬間ウエディングドレス姿からいつもの蒼いハイプリーストの法衣の姿に戻る。
「あ、解けた。ってことは…」
ジプシーが後ろを向くと、その先では袋叩きにされていた白樺がチャンピオン姿に戻り爆裂波動を吹き上げた所だった。

「てめーら!!集団で袋叩きにしやがって覚悟できてんだろーな!!!」
「ギャー!!白樺のメイクアップが解けたー!!!」
何度目かのアシッドデモンストレーションを投げようとしたクリエイターが白樺の爆裂状態を見て慌てて後方に退いていく。
「うっせー何がメイクアップだ!!阿修羅食らいたいのはどいつからだッ!!!」
「凍結!!凍結で足止め!!」
ばしっと手のひらで拳を打つ白樺に渾身の阿修羅が来ると誰もが予感し
ロードナイトが指示するがハイウィザードはぶんぶんと首を振る。
「さっきデッドリー着せられてたから凍結は無理!!」
「うーんじゃあとりあえずなんか火みたいな感じの魔法!!即効で!!!」
「それならおっけー!!魔法力増幅!!メテオストーム!!!」
「てめっ何が火みたいな感じだそういう可愛らしいレベルじゃねーだろがーーッ!!!!!」
高速詠唱でハイウィザードの杖の先に魔力がこもり、それは叫んでいる白樺の真上で巨大な隕石となる。
逃げるまもなくその隕石が白樺へと落ちる瞬間、駆け寄ってきた楠が抱きついた。

ズドーンッッ

「ぎあぁぁああ!!!なんてっこった!!!嫁さんが突っ込んでったー!!!」
「止めろ魔法やめー!!」
「無理です発動した魔法は急には止めれませーーーーんッ!!!」
クリエイターが目の前の惨事に頭を抱え、ハイプリーストが止めろと言うも魔法を放った
ハイウィザードは杖を握り締め困ったように首を横に振る。
隕石はその後も容赦なく降り注ぎ、やっと収まった時には黒ずむ地面に白樺と楠はもつれるように倒れていた。
「…………ってぇ………おいッ楠大丈夫か!!」
「あはは…結構効いたわ…私魔法耐性ほとんどないから」
「…ッ…てめーら!!楠に何かあったら承知しねえぞッ!!」

「そうだよお嫁さんに何かあったらどうするのさ!!白樺はともかく!!!」
「ごめんなさいお嫁さん!!白樺は別にいいけど!!!」
「お嫁さん大丈夫!?白樺はどうなろうと全然構わねえけどな!!」
「お嫁さんごめんね痛かったでしょう?白樺は別に痛くてもいいけどさ!」
「今ヒールするからお嫁さん!あぁ白樺にはやらんぞそこをどけ!」

「お前ら一々一々丁寧に俺を除外してんじゃねえよ!!!!」
山茶花をはじめ、ハイウィザード、クリエイター、ロードナイト、ハイプリーストの楠『だけ』を
労わる言葉に白樺は起き上がり拳を振りかざした。
「………おい、楠」
首にぶら下がるように抱きついている楠にその勢いは止まってしまう。
「そんなべったりくっついてたらその…反撃できねえだろっ」
かといって振りほどく事はせずにうっすら頬を赤らめながら言うと、ふるふると小さく首を振って楠は離れない。
「白樺、私すごく幸せよ。貴方と結婚できて本当によかった」
「!!!!!!!!!」
それを聞いた白樺がぼんっと顔を赤くするが、目を泳がせながらも楠を抱きしめ返し大声で叫んだ。
「見てろよっ!!50年後もお前に同じ事いわせてやるからなッ!!!」

あぁああああらぶらぶ見せ付けてるぅうううう、のろけやがってー!!もげろ!!!
そして爆発してしまえーーーーー!!!というメンバーの絶叫に近い叫び声にこつん、という杖を付く音が混ざる。

「あ、父さん!」
「おとーさま!!」
「親父!」
「パパ!!」
「父上!!!」

各々違う呼び名だが全員が『父』と呼ぶその物言いに楠が何事かと振り返ると、
ジェントルステッキをつき、シルクハットと片眼鏡をつけた初老のウィザードがにこにこしながら歩いてきた。
「こらこらお前達。ギルド外ではちゃんとマスターと呼ぶ約束だろう?知らない人が聞いたらあらぬ誤解を招いてしまうだろうに」
ギルドマスターを父と慕っての事だったのだと理解すると、そのギルドマスターは白樺にエンブレムを差し出した。
「一件落着か?」
「マスター…」
「素敵な嫁さんじゃないか白樺、幸せにしてやりなさい―――そして今度こそお前も幸せになれ。いいな」
エンブレムを受け取り白樺は照れたようにうつむきながらも小さくだがはい、と言って頷いた。
「よし、そうとなったらお前達。今すぐ離婚してきなさい」
「はァ!?」
祝福された後のマスターの物言いが信じられず大声で聞き返してくる白樺に落ち着けというように手のひらを向けてくる。
「勘違いするな、私は一度離婚してまた結婚式をやり直せと言ってるんだ」
「何だびっくりした…って結婚!?離婚してまた結婚しろってのか!?」
「白樺の事を思って言ってるんだぞ。やり直さなかったらこの子らはいつまでもいつまでもいつまで〜も根に持つぞ、いいのか?」
マスターの後ろで武器を手に不気味なほどにんまり笑っているメンバーにもしそうしなかった
時の行く末が想像に難しくなく白樺は口元をひくつかせるが、それでもまだ素直に了承することは出来なかった。
「マスターごめん、あのな…」
「私、いいよ」
楠の意志をくんで断ろうとした白樺の代わりに答えたのは楠だった。
「一度離婚して結婚式やり直そう。私も皆におめでとうって言って欲しい」
「…おう、分かった」
白樺の言葉を聞くとマスターは手を上げ、それを合図に他メンバーがあわただしく動き始めた。
「よぉし、そうと決まれば結婚のための離婚準備だ!ウンバラポタ持ってるか?」
「持ってないからとってくる!」
クリエイターの言葉にハイプリーストが首を振ったと思うと速攻で見えなくなった。
「私は結婚式に必要なもの買い揃えてくるね!カートブースト!!」
「えーと私は…結婚式の事を知り合いにwisだ!あ、ねえねえマスター。改めての
 結婚式っていつにしたらいい?それに合わせて友達とか呼ぶけど」
早速wisをしようとしたロードナイトが日程不明だったことに気づきマスターに問いかける。
「1時間後だ。その間に知り合いという知り合いを大聖堂にかき集めなさい」
「ちょっマスターそれいくらなんでも早ぇよ!!wisたんまたんま!!!」
勝手に日取りを決められ慌てて止めようとした白樺を『お前は一体何を言ってるんだ』とでも言いたそうにマスターは見た。
「これでも遅いくらいだ。まさか結婚したというのに離婚させて尚且つ日を改めるとでも
 いうのか?そんな事をさせて嫁さんが可哀想だと思わないのか?ん?
 あぁそれと白樺、離婚費用結婚費用は全てお前がもつんだよ」
「マジかよ!!」
「当然だろう。それが男というものだ」
「あの…白樺、私も半分払うよ?」
流石に可愛そうに思ったのか白樺の胴衣を引っ張り楠が提案すると首を振ってそれを拒む。
「いーや俺が払う!男の甲斐性だ!!」
「ウンバラポタとってきたぞ!!はいお嫁さん乗って!!離婚デビルチの言葉はもうハイハイハイハイって
 適当に返事してればいいから!おらついでだからお前らも一緒にのっちまえー!」
ハイプリーストの出したポタにその場にいた全員が乗り込み、騒がしかったPVPは一瞬にして静寂を取り戻した。

* * *

その後ものすごい勢いでニブルヘイムでの離婚手続きを済ませ、新たに用意された
ウエディングドレスを胸に抱え楠は知人リストと睨めっこしながら挙式に参列する人が
どんどん増えていく大聖堂の片隅でwisを送っていた。

『そういう事だから、急な話でごめんね』
『ううぅん全然いいよ!これ皆にも伝えていいんでしょ?』
『ええ、出来たらって付け加えておいて』
『何いってんの?楠の結婚式だよ!狩場にいようがどこにいようが引っ張って行ってあげるから!』
『ありがとう』
『…楠…良かった…良かったよぉ…』
『馬鹿ね、泣かないでよ』
『だってあんなことあって…あたし本当に嬉しいよ…!』
『それじゃあ大聖堂で待ってるわ、他にもwisしなきゃならないから一旦切るね』
『うん、絶対絶対皆で行くからね!』

「えっと次は…」
wisを切り、知人リストに再び目をやった楠はふと動きを止める。
しばらく迷うようにリストをばさばさと持ち上げたり下ろしたりしていたが、意を決したのかwisをつなげた。

『……………彩?』
『ん?おぉっくーか、久しぶりだな!ちょーっ待て待て莉良そっちモンハウだって突っ込むな!!』
『狩り中だった?今話しても大丈夫?』
『おぉっ!大丈夫だぞ!』
『あのね、私実は…結婚する事になったの』
『結婚!!まじか!!!』
『それで彩に是非式に来てほしいんだけど…その、色々事情があって式が今から30分後なのよ』
『30分後ぉ!?』
『無理だったらいいの!本当急だし…』
『何言ってんだ!たとえ通りすがりの人が立ち塞ごうと行くぞ!!なぁ、史乃も連れてっていいか?
 よくわかんないけどくーの事戦友だとか言ってなんか気にかけてんだ』
『勿論よ。結婚相手のギルドマスターさんが知り合いという知り合いに声かけて大勢呼んで来いって言ってたから』
『そういうことならまかせとけ!同盟メンバーも連れてみんなで行くからな!!』
『それじゃあ大聖堂で待ってるわね』
『くー』
『何?』
『結婚おめでとう』

見なくても分かった。wisをしてくる彩はきっと笑顔でそう言ってる。

『ありがとう』

それを思った楠も自然と笑顔になりwisを切った。
「楠?何ニヤニヤしてんだよ」
「大切な人におめでとうって言ってもらえて嬉しくなっちゃって」
楠の表情と『大切な人』の言動で何かを感じ取ったのか隣に座っていた白樺はどこか面白くなさそうな顔をする。
「誰だその大切な人って」
「前に付き合ってた人よ」
「そうかそう…って元彼ぇっ!?」
「誤解しないでよ。もう完全にお別れしてるしもうその人にはパートナーもいるんだから」
「お、おう…」
「やましいことが無いからこうして正直に言ってるんじゃない。私はもう白樺以外の人と結婚したいなんて思わないわ」
こつんと肩によりかかればもうそれで十分だったのか頭をぽりぽり掻きながら
それ白樺がそれ以上の追求をしてくることは無かった。
「それにしてもすごい人ね」
楠がwisをしている間にも参列者であろう人は更に増え、大聖堂内はかなりの密度になっている。
「俺の友達にギルドメンバー、楠の友達、臨時で知り合ったのも引っ張ってきたし俺の所の
 マスターがまだまだ呼んでるからもっと増えるだろうな」
「………」
視界がぼやけてきたと思った時には白樺の着ている胴衣で楠の涙は拭われていた。
「お前なぁ、今からそんなに泣いてたら式始まるころには目ぇ溶けるぞ?」
「だって…とても幸せなんだもの。嬉しいの」
「ばーか。これからもどんどん幸せになってくっての」
「うん、そうね…」
そう言って楠の頭をわしわしと撫でてくる。
子供扱いされてるみたいだと思いつつも白樺にこうされる事が楠は好きだった、そして何度も励まされた。
これからもきっとそうなのだろう。
じっと見上げてくる楠に気づいたのか『どうした?』という風に白樺が首を傾げてくる。

「白樺」
「なんだよ」
「愛してる」
「……………………おぉぉぉぉっぉおお俺も…その…なんだ…あ…愛してるぞ!」

顔どころか耳まで真っ赤にしながらも望む言葉を言ってくれた白樺の腕に自分の腕を絡め、
どんどん人数の増えていく聖堂内を見つめながら楠は幸せそうに微笑んだ。








 

 

 

 

 

 

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