1000回のハグ
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転職したからと言ってそれで終わりではない。
むしろ漸くスタートライン立ったばかりというのが正しいか。

長いこと焦がれていたチェイサーへと転職を果たし、
レベルアップと新たに攻城戦で使えるスキル取得という新たな目標を掲げ狩りに繰り出していた
呂揮だったが、目の前のレイドリックの殲滅を終えた後で申し訳なさそうな顔で振り返った。

「澪マス、いつまでも付き合わなくてもいいんですよ。転職しましたし一人で頑張れますから」
「いいんだよ。月光剣持ち替えとは言えまだSPつらいでしょう?特に最近の城2の湧きはものすごいって聞くし」
「でもいつまでもいつまでも甘える訳には…」
「甘えていると思うなら俺と公平狩りできるまで頑張って成長しなさいね」
「うっ」
そう言って微笑まれるともう呂揮には返す言葉がない。

『ボウリングバッシュ!!』
『ソウルチェンジ!!』
『生命力変換!!』

「ほら、4時方向から来てるよ――――やれるね?」
「はいっ!!」
呂揮が転職してから回数こそ減ったものの、非公平で澪は呂揮の後ろをついてきては手助けをしてくれていた。
シーフの時からこの展開は一緒だったが変わったことも色々ある。
今まで使えなかったスキルを使いこなせるようになったこと。澪に壁をしてもらわなくても
自分の力で倒せるMOBが増えてきたこと。それと―――――。

「んっ」
「はい、これは上手に殲滅できたご褒美」

周囲のMOBを片付け、僅かな静寂が来たと思うと突然抱き寄せられ唇を啄ばまれる。
拒みこそしなかったものの唇が離れると同時、呂揮は慌てて赤くした顔で周囲を見渡した。

「あのっ狩場でそういうことは…」
「ご褒美のキスは嫌?じゃあやっぱりこっちかな」
「尻揉むのはもっとだめですっ!」

同盟ギルドのマスター・澪と恋人同士になったこと。
澪は狩場でも、合同ギルド狩りでも、攻城戦会議の時でもさも当たり前のようにこういった恋人のスキンシップを求めてくる。
「でも。言うほど嫌でもないでしょう?」
澪の両手で揉まれていた尻を隠すように少しだけ離れた呂揮はやはり何も言い返せない。
澪に唇で、指で触られる事を恥ずかしいと思ったことはあれど嫌だと思ったことは一度もなかったからだ。
「やっぱり狩場だと横沸きしたりとか他の人たちが狩りに来てたりとかしたりして…そのっ…」
「―――たまに思うよ。そんな建前理性全部捨てて呂揮を奪いたいって…ね」
「……!!…」
「『ちゃんと前の力を取り戻すまでは』とは言われたけど。俺はいつまで待てば呂揮と身体もつながれるのかな」
澪の言いたいことはよく分かる。キスや抱き合う事は数え切れないほどだったがその先、SEXにはまだ至ってないからだ。
「それは…あの…」
「俺から見ればもう充分ローグの時の強さには追いついてると思うんだけどな」
呂揮が離した距離を澪が埋めて身体にそっと腕を絡め、淡い紫色の呂揮の髪の毛にキスを落とす。
「俺とSEXするのは嫌?」
「嫌だなんてそんな…!…あッ」
壁に軽く押し付けられて逃げ場を奪われてしまうと左耳を甘噛みされ呂揮が小さくだがあえぎ声を漏らしてしまう。

初めて会った時から大好きだった人。
その人が今自分の恋人で、こんなにこんなに近くにいてくれる。
その大好きな人が自分の事を欲してくれている。
嫌だなんて思う訳がない。

「あっふぁんッ」
黒のインナーの中に手を差し入れ直接肌をまさぐる事で呂揮の口からはっきりと漏れる嬌声。
人差し指でつつかれしこった乳首はそのまま指の腹でくにくにと弄ばれた。

「あっ…お願い…ゆるして下さい…ドキドキして俺どうにかなっちゃいそうです……ふぁ…んっ」
切れ切れの声で訴えても乳首から指が離れるどころか摘み上げられ意に反して漏れてしまう甘い声。
「いいよ。どうにかなっても」
「あ…ぁ…!」

グォォォォォォッッ

狩場だから、誰かが来るかもしれないから。心の準備が出来てないから。
ありとあらゆる感情を捨てて目の前のぬくもりに身を任せようとするより前に響いたのは、
建物を揺るがすのではないかというほどの咆哮。
数十メートル先ではあったが明らかに2人をターゲットにしたキメラのものだった。

「やれやれ場所が悪かったか。せっかくいいところだったのに…」
「あっ俺やります倒しますっ!!」

緩められた澪の腕をすり抜け、こちらに向かって突進してくるキメラへと呂揮は弓を構えた。

* * *

「今日は随分早めに切り上げたね。矢は充分足りてたでしょう?」
その後はMOBがものすごい勢いで湧き、休む暇もなく狩りを続けて1時間。
プロンテラの清算広場でせっせと収集品を分別している呂揮に向かって澪は持っていた予備の矢筒を見せた。
「今日彩マスがビーフシチュー作るっていってたんで手伝うついでに教えてもらおうと思って。
 はい澪マス、これ今日出た収集品の半分です」
そう言って呂揮は狩場でドロップした収集品の半分を澪に渡す。
本当ならば非公平のお礼としてレア品含め全部受け取ってもらいたい所なのだが、
きっちり半分にしないと澪は絶対に受け取ってくれないのだ。
ハイシーフの時はその半分ですらも受け取ってもらえなかったので、進歩といえば進歩なのかもしれない。

「ありがとう。あぁ、そういえば彩の所は当番制だものね」
「はい、俺も最近は単独で任せられるようになったんでどんどんレパートリー増やしていかないと」
「いいなぁ、俺も呂揮の手料理食べてみたいな」
「もちろんです!澪マスにいつか食べてほしいのもあって今頑張ってるんですから。その時は食べてくださいね」
「ありがとう。でも呂揮、誤解を受ける言い方してるって気づいてる?」
「え?……あっ!!」
『食べてくださいね』がとらえようによっては抱いて欲しいと言う強請りにも聞こえる事に気づいて呂揮の顔が真っ赤になる。
「えっと、それじゃあ俺行きます。お疲れ様でした!」
赤い顔をこれ以上見られるのが恥ずかしくて呂揮は背中を向けて立ち上がった。

「あの…食べて、下さい」
「うん。全部全部…食べてあげるからね」

澪の返事を聞くや否や呂揮はそのままホームに向かって走っていった。
かなり走ってから漸く歩調を緩め、向かい風で顔のほてりを和らげながら呂揮は
とりあえず高ぶった感情を抑えようと最近覚えた料理のレシピを意図的に頭に思い描く。
「………あ、そういえば澪マスって何が好きなんだろう」
紅茶が好きなことは知ってはいたものの、食べ物で何が好きなのか改めて聞いたことがなかった。
「次会った時にでも聞いてみようかな。もし俺が作ったことないのだったら彩マスに教えてもらって練習して…」
そう考えるとなんだか呂揮はどんどん楽しくなってくる。
キスするのも、抱き合うのも好きだけど、好きな人に何か作ってあげようと
色々考えるだけでなんだか幸せな気持ちになってくる。
「とりあえず今日はビーフシチューを作れるように頑張るか!」

「よぉ、呂揮」

名前を呼ばれ立ち止まった呂揮から表情が消える。
自分の影に大きなそれが重なるのを声もなく見つめていた。


「んっ…!!…んんーッッ…んぁッ…はっ離せよッ!」
人通りの少ない裏通りに連れて行かれた呂揮は口を塞ぐ手から首を振って逃れると
丁度正面に居るアサシンクロスを睨みつける。
後ろからはチャンピオンががっちりと呂揮を羽交い絞めにして動きを封じていた。

「なに、転生した呂揮をオイワイしてやろうと思ってなぁ?」
「必要ないっ!お前らとはもうなんの関係もないんだ!!」
「大有りだろ。お前が変なモン連れてきたお陰で前のギルドは崩壊。苦楽を共にした
 ギルドメンバーにあの仕打ちと、今の言動はあんまりじゃねえの?」
「よく言うよ…お前らのことをギルドメンバーだなんて思ったこと一度もないッ!」
「まぁそうだろうな。俺らもお前をギルドメンバーだなんて思ったことなかったしなぁ?」

呂揮に顔を近づけ下卑た笑みを浮かべて言う。

「マスターに足開いて腰振るのがオシゴトの性奴隷だったもんなぁお前」
「…!!!」
「マスターがお前独占しまくっからほとんどオコボレに預かれなかったけどよ、
 ギルドにいた奴ら…全員って言ってもいいな。お前の事犯しまくってやりたいって思ってたんだぜ?」
「やっ…やだやだッ…!!んむぅッ…!!!」
服を脱がされそうになり抵抗しようとした呂揮は地面に押さえつられ、
ナイフで切り裂いた黒のインナーの布片を口の中に押し込み声を奪ってしまう。
「ギルドなくなっちまってヘコヘコする人間もいなくなっちまったしな――――満足するまで付き合えよ」
「…んんッンーーーッッ!!!」
下半身に伸びてきた手を絶対嫌だというかのように呂揮は盛んに首を振った。

ドガッ。

「ぐわぁあああッッ!!」
呂揮の上に覆いかぶさっていたアサシンクロスがコメカミを蹴飛ばされ奥に
無造作に積み上げられているガラクタの中に突っ込んでいく。

「ウチのギルメンに何シてんだ・あ?」

アサシンクロスを蹴飛ばした足で大きく踏み込み、普段でも低い声のトーンを
さらに下げた理が引き抜いた短剣の切っ先を両腕を押さえつけていたチャンピオンの鼻先につきつける。
あっさり呂揮を離して後方に下がったチャンピオンがガラクタの中からアサシンクロスを引っ張り起こした。
「いきなりなんだてめぇはッ!!」
「おい待て」
助け起こされると同時理にくってかかろうとしたアサシンクロスをチャンピオンが止め何か耳打ちする。
聞き終えたアサシンクロスが忌々しく舌打ちすると傍に出たワープポータルに素早く乗り、
それを出したチャンピオンと共に消えていった。

「リィさん…どうして…」
乱された服を直しながら起き上がった呂揮が2人の消えた場所を睨み付けている理に向かって尋ねる。
「紅楼砦所持のギルメンからタレこみあったんだよ。『一緒に居た人間がギルドメンバーじゃないしなんだか様子が変だった』ってな」
「すみません………」
「っつか・ライセンスもエンブレムも生きてて何で助け呼ばねぇ」
「リィさんお願いです、他の皆にはこの事は言わないで下さい」
自分を抱きしめるようにして言う呂揮のその手が震えていることに目を細めながら理は腰に短剣を収めた。
「あいつら・呂揮が前いたギルドのヤツらだな」
「はい、階級的には2人ともサブマスターの位置にいました」
「サブマスター・か」
理がそう繰り返した時、丁度噴水があるプロンテラ中央の辺りに出た所だった。
そこで理の後ろを黙ってついてきていた呂揮が立ち止まる。
「リィさん、俺少し露店見てから帰ります。服…破かれちゃったんで」
やや沈黙した後で理は分かった。と返す。
「その代わり・人気のない場所には近づくな」
「はい、大丈夫です」
見送った理の姿が見えなくなると呂揮はそのまますぐ側にあったベンチに座り蹲る。

襲われた事が怖かった訳ではない。
ただ言われた事を否定できなかったのが悔しかったのだ。
全部全部本当の事だから。
忘れかけていた中で思い知らされた。自分が今までしてきた事を嫌というほどに。

「…………っ…」
膝に顔を埋めて呂揮はそのまま声も出さずに泣いた。

* * *

『美味そうにしゃぶりやがって』
さっさと終わらせたいだけ。

『夢中で腰振って好きモンが』
早くイかせれば早く自由になれるから。

『本当はこうされんのが好きなんだろう』
違う、好きじゃない。

『どうせ誰のモノでも喜んでしゃぶって足開いて腰振るんだろう。この淫売性奴隷が』
違う、違う!!


「呂揮、おい呂揮」
「!!!」
はっと目を開き、すぐ側にあった彩の顔を見て呂揮は強張らせていた全身の力を抜いて大きく息を吐く。
今のは夢だったのだと心の底から安堵しながら。
「夜中に起こしてごめんな?すげーうなされてたから」
「ちょっと嫌な夢見てたみたいで…すみません」

前のギルドに居た時の、マスターだった男に毎日のように犯されていた過去の記憶が生々しく蘇るような夢。
彩が起こしてくれなければ今も悪夢の中に居続けていた所だろう。

「ちょっと待ってな」
呂揮の頭をひと撫でして一度部屋から出ると、しばらくして小さなトレイに湯気のたったマグカップを持って戻ってくる。
「ほら飲め。落ち着くから」
「ありがとうございます」
自分の分もついでに淹れてきた彩はそのまま呂揮のとなりに腰掛けふぅーっとマグカップから上がる湯気に息を吹きかける。
隣から感じる彩の気配と、お茶の香りは悪夢で不安になっていた呂揮の気持ちを和らげた。

「ご馳走様でした、美味しかったです」
「どうだ呂揮、眠れそうか?」
「はい、お茶飲んで落ち着きましたから」
「そかそか、なら…」

呂揮をベッドに寝かせて布団をかけてやると彩はその脇に座って呂揮の額をなでてやった。

「ほら寝ろ」
「え、あのっ」
「いいから寝ろって。うなされそうになったら起こしてやるから」
「…はい…」
いい歳をして添い寝をしてもらうのはいささか照れくさくあったが、額に当たる彩の手の感触と温もりは心地よい安心感を誘う。
少しも経たないうちに呂揮は寝息を立て始めていた。

「あれ、リィ何してんだ?」
呂揮に飲ませるお茶の準備をした時には居なかった理の姿を見つけて目を丸くする。
「睡眠薬服用中」
「睡眠薬って…お前どうみても夜中に一杯ひっかけてるだけだろそれ!酒飲んだって後で
 目冴えてくんだから眠れないってんなら酒じゃなくてお茶飲めお茶っ。さっき呂揮に淹れた残りまだあるから」
持ってきた空のマグカップを洗っている彩の口から呂揮の名前が出てくると理が僅かに眉を寄せた。
「呂揮まだ起きてんのか」
「起きてるっていうか眠れないっていうか。なんかうなされてたからお茶飲ませて今寝たとこ」
「…………」
「ん?どしたリィ」
『ちょいコッチ』と、人差し指をちょいちょいと動かして見せる理に誘われるまま彩はすぐ隣に椅子を引き寄せ耳を傾けた。

* * *

「おーい呂揮ー早く起きて飯食っちまえー。合同ギルド狩り行くぞー」
部屋に入ってきた史乃の声で呂揮は漸く目を覚まし、同時に澪のギルドと合同で狩りに行く予定だったことを思い出す。
「俺…今日はやめとく。ちょっと身体の調子悪くて…」
「んー?風邪とかかー?」」
「ん…そんなにひどい訳じゃないから寝てれば大丈夫だと思う」
「そっかー、んじゃ澪マスにはそー伝えておくからゆっくり寝てろー」
「うん」
咄嗟についた嘘をどう受け止めたかは分からなかったが、史乃はそれ以上追求することを
せずに布団の上からぽむぽむと呂揮の肩を叩いて部屋を後にする。
昨日の事もあり、正直今はどういう顔で澪に会ったらいいのか分からなかった。

「呂揮ー呂揮ー」
バタバタと騒々しかったホーム内も皆出かけていったのかいつしか静寂が訪れる。
ベッドの中で寝返りを繰り返していた呂揮の部屋に今度は彩が顔を出した。
「彩マス?合同ギルド狩りは…」
「俺も今日はお休み!それより呂揮飯喰っちゃえよ」
「え?」
「あと史乃が美味そうなりんご買ってきてくれたからそれ使ってパイも焼いたんだ。呂揮の好きな紅茶も淹れたから一緒に食おう」
犯されそうになりそうが夢にうなされようが、食欲はそれには全く影響されていないようで、
開けたドアの向こうから香るパイが焼けたであろうほのかなバターの香りに空腹感は増す。
「えっと…」
「身体、別になんともないんだろ?」
「……………はい…」
一応具合が悪いということにしている手前素直に食べると言うのもはばかられたが、
彩の言葉でとりつくろう必要もなくなった呂揮は素直に頷きベッドから起き上がった。

「どうして俺が仮病だって分かったんですか?」
呂揮のためにとっておいたのであろうサンドイッチと野菜スープに
焼きたてサクサクのアップルパイもあっという間に食べ終え、紅茶のおかわりを注いでくれる彩を見上げる。
「昨日帰ってきてからお前の様子なんか変だったし…前ギルドの奴らに絡まれてたんだって?リィから聞いたぞ」
自分の分の紅茶も注いで彩は呂揮の隣に腰掛ける。

『そんなの気のせいですよ。昨日だって別に何もありません、リィさん勘違いしてたんですよ』

まっすぐにこちらを見つめる彩のアクアマリンの瞳を前に、呂揮は嘘をつきとおせる自信はなかった。
「…そう言えば俺リィさんに言わないでって口止めしたけどリィさん返事してくれなかったんだっけ」
自嘲気味に笑った呂揮の頭をごくごく弱くだが彩が拳で叩く。
「呂揮の事が心配だったからだろ。紅楼のとこの人が教えてくれなくてリィが
 助けてくれなかったらどうなってたと思ってるんだよ」

「――――――性奴隷って、あいつらに言われました」

それを言った呂揮に対して彩からの言葉はない。ただ彩の表情を見るのが怖くてずっと手元のマグカップを見つめていた。
「俺言い返せませんでした。だって…本当の事だから」
マグカップを持つ手が震えそうになり強く握ることで呂揮はそれを誤魔化す。
「このギルドに入って忘れかけてたけど俺前のギルドでは…好きでもない男相手に
 毎日のようにSEXさせられてきたんです。マスターだけじゃない、たまに…だけど
 他のメンバーの相手もさせられました。俺が嫌がる所…見て楽しんでっ…!」

「ろーきっ」

優しい声色で名前を呼ばれ、ふわっと身体が温もりに包まれた。
「う…ぅ…ッ…」
彩に抱きしめられているのだと分かると堪えていた涙を溢れさせてしまう。
「そんなことしてた俺のこと皆が軽蔑するんじゃないかって…怖くて助けなんて呼べなかったんです。
 あいつらにあんなことされるよりもずっとずっとそれが怖かった…」
「それで軽蔑するような奴なんてうちのギルドにいない。みんな呂揮の事大好きなんだから」
きっぱりと断言した彩だったが呂揮の不安は取り除ききれないようで、彩の腕の中で首を振っている。
「…今は嫌じゃなくてもいつかは疎ましく思うんじゃないかって……怖いんです。
 皆が…澪マスが…そんな事してた俺の事嫌いになるんじゃないかって…
 嫌われるの…やだ…やだっ………俺あの人に嫌われたくない…!」
ギルドメンバーに、そして何より大好きな人に嫌われるかもしれないという恐怖を
吐露し泣きじゃくる呂揮を安心させるように彩はぎゅーっと一層強く抱きしめてやった。

「な、俺と澪とらこって同じトコ生まれの幼馴染だって話したよな」

嗚咽が止み落ち着いてきたのを見計らって切り出してきた彩に、胸に埋めていた顔に呂揮は不思議そうな表情を浮かべる。
「…?……はい…聞きましたけど…」
「澪ってさ、ガキの頃から本ばっか読んでてさ、歩くときまで本読んで小川の
 石橋ふみはずして川落ちたとか王道パターンやらかした事あんだぞマジで」
「へ?」
「あと父親の書斎で読んでた本の意味が良くわかんないのは本の気持ちを理解してないからだとか
 訳わかんない事言って本棚の中で眠ってるうちに落ちて倒れた本棚の下敷きになってさ、
 そのまんまで朝まで気づかないで寝続けたとか、モンスター研究の一環だとか
 やっぱり訳わかんないこと言って焼いたゼロピー食って腹壊したりとか」
「………………………………」
再び彩の胸に顔を押し付けた呂揮の肩は震えているものの、泣いている訳ではないらしい。
「呂揮、別にいいぞ声出して笑っても」
「っ…く…あはっ…あははははははッ」
彩の許しが出たと思うと呂揮は泣いていたのも忘れて声を出して笑い出した。
「おっかしーよな、そんな事ばっかやらかしてた奴が今は転生して砦所持のギルドマスターだぞ?
 そんでもって―――――呂揮っていう大切な恋人も出来た」
「…あ………」
それを聞いて強張りかけた呂揮の身体を安心させるように彩はぎゅっと抱きしめてやる。
「澪は…俺の親友は呂揮の過去を軽蔑して嫌うような奴じゃない、本当に本当に呂揮の事が大事で大好きなんだ」
自信に満ちたその言葉は呂揮を安心させるには十分すぎるほどだった。

「………はい、はいっ…」
また涙を浮かべながらも頷いた呂揮の頭をよしよしと彩が撫で、一度ぎゅっと抱きしめてやる。

「そうだ呂揮。今からりんごのスコーン作るか」
「りんごのスコーン…ですか?」
「うん。メープルシロップたっぷりかけたの澪好きなんだ、意外だろ」
「…!……作りたいです、俺にも教えてください!」
「おうっいーぞ。史乃が買ってくれたりんごまだ余ってるからこれ使って…呂揮、バターとミルク出してくれるか?あと卵も!」
「はいっ!」
そう言って彩が食材の入っている木箱を漁り始め、浮かべた涙をごしごしと拭った呂揮は冷蔵庫を開けた。

* * *

上手く焼けた中でも特に形のいいものを選んで包んだりんごのスコーンを
手に呂揮が明亭の前に立ったのはすっかり夜もふけた深夜。
「……!」
正面の門に進もうとした所で慌てて砦の壁に身を隠す。
門の上に朱罹が座っているのが見えたからだ。
会えば最後、ここに来た理由を話さざるを得なくなるだろう。
りんごのスコーンを澪に渡しに来た事ももちろん理由だが、それだけの理由で
こんな深夜にわざわざ来たなど朱罹が納得するとは思えないし、同盟メンバーとはいえ
『ここに来た本当の理由』を話すのは少々はばかられた。
「どうしよう…あ」
砦を見上げると一室の窓が開いており、そこから明りが漏れている。確かあの部屋は――――。
しばし考えた後、呂揮は砦の壁の僅かな窪みを使って塀の上に登り、そこから窓が開いている部屋の中へと飛び移る。
視界に入ってきたのは沢山の本が収めてある大きな本棚に書類の束がつみあがる机。そして見覚えのある茶器にソファー。
間違いなく澪の部屋だ。
机の上に書類が広げられている状態で作業中のようだったが澪本人の姿は見えない。
「いないのかな………」
辺りを見回し机に近づいた瞬間、背後に人の気配を感じ呂揮は慌てて振り向いた。

* * *

『カートターミネーション!!』

ドーム型のカートをぶん回し、倒れたチャンピオンの前にしゃがみこんで史乃が笑い飛ばす。
「あっはっはー。元傭兵ギルド所属って聞いてたけど意外にあっけなかったかー?」
足元で倒れるアサシンクロスの他にも複数の人間が地面に伏し、その誰もがぴくりとも動かない。
理が既に意識のないアサシンクロスをそれらの上に重ねるように投げ飛ばしてタバコを咥えながら史乃に近づいてきた。
「呂揮に張り付いてた奴剥がして来た・多分アレが最後だな」
『アレ』と言って自ら投げたアサシンクロスを顎でしゃくると史乃はおつおつーと言って労いを込め
理の煙草に『美味さが段違いに変わる』と噂されるチェペットがドロップするマッチで火を点けてやる。
「しっかしまー…執念ってーかしつけーっつーか。呂揮のこと今度は大人数で
 捕まえようとするとかなー。彩マスの指示通りに呂揮の周辺警戒してたら大量に釣れることまーまー」
カートの中にあるミスティックフローズンでマッチの残り火を消しながら呆れ半分の史乃の声に理の口の端が僅かに上がる。
「前ギルドで相当なオアズケでもくらってたんじゃねえの?」
その言葉と共に理に視線を投げられた史乃は色んな意味を含めた苦笑を浮かべた。
「…アオズケねー。俺だったらこんな風に集団で犯しちゃいますーな展開いくっつーならオアズケの方選ぶわー」
「よーし殲滅完了だ。リィ・史乃お疲れ!」
空を飛ぶトメの鳴き声に彩が右手を上げて戦闘終了の合図をすると史乃は握っていた斧をカートに仕舞う。
「ほいほいおつありー。んで、呂揮は明亭についたのかー?」
「うん。朱罹が『澪の部屋に入ってく』呂揮の姿見たってwisきてた」
「そーかそーか。とゆーことは今夜辺りめでたくベッドイン確実かー?」
「うん、そうだな」
ここでいつもなら『こらぁっ!ベッドインとか具体的に生生しいこと言うなぁ!!』という彩の切り替えしが
即効来る筈が、思いがけない返答がかえってきて史乃は熱でも出たかと半分本気で心配になり彩の顔を覗き込んだ。
「どしたー?彩マスなんかすげー難しい顔してんなー」
史乃が驚いたようにそう言うのも無理はなく、眉間に皺を寄せ険しい顔をしている彩を見るのは珍しい事だった。
「呂揮、昨日の夜すごいうなされてたんだ。色即是空に来る前の夢を…見てたんだと思う」
「んー…今日の朝具合悪いっつって変だなーとは思ったけどやっぱ関係ありありだったかー」
「前にしてきた事を軽蔑されていつか俺たちに…澪に嫌われるんじゃないかって
 不安がって泣いてた。呂揮は望んでやってた訳じゃないのに」
「彩マス――――」
「やっと自分の目標に向かっていけるようになって沢山笑ってくれるようになったのに、
 澪の話する時照れくさそうだけどすごく幸せそうに話してくれたのに。
 そんな呂揮を過去に引きずり戻すような真似…俺は許せない」
無意識なのだろうか。彩の左手が肩に――――背中へと走る古傷に触れていた。
それを見た史乃が一瞬切なそうな顔を浮かべるが、すぐに笑って彩の背中に優しく手を回す。
「大丈夫だって。もう絶対………そんな事させねーからさ」
史乃がそっと彩の背中を撫でながらやんわりと両手で包んでやり、
その反対側から理が彩の身体に軽く腕を回して肩を叩いてやる。
彩は2人を交互に見て、それぞれの腕を手に取りやっといつもの笑顔で微笑んだ。
「うん。ありがとな2人とも」

ピィィィィィィーーーーーッッッ!!!

「どうあぁぁぁあああああああああああッッ!!!!」
ズトン!!という鈍い音とともにトメが強烈な体当たりをかけ、それをまともに食らった史乃がずざーっと横倒しになる。
「わっ…!トメさん違う違う!もう敵の殲滅は完了してるってば!」
彩がトメをなだめるとこれみよがしに肩にとまったトメがクルルッと甘えた鳴き声を
発して彩の頬に擦りつき、それを見た史乃の中で何かがぶちんと切れる。
「…こんのぉクソトメッ!!!今明らかに俺狙ってきやがっただろー!!しかも
 リィと2人でハグしてたのになんで俺だけ体当たりなんだ、あぁ!?」
「おーおー・女の嫉妬は怖ぇなぁ?史乃南無」
彩の方はもうすっかりトメの方に関心が行ってしまっており、美味そうに煙草の紫煙と共に
吐かれる理からの哀れみに史乃は乾いた笑いを返すしかない。
「あははーなむありー?………でもぜってーあきらめるつもりなんてねーし……っつーか
 うらやましーったらねーよなー。今頃呂揮の奴澪マスんとこで上になり下に
 なりーのくんずほぐれつすんぐりもっくりやってんだぜー?」
「ちょっ史乃おぉぉぉぉおおおおまえええ!!!くんずほぐれつだのすんぐりもっくりだの
 偶然深夜のお散歩中の通りすがりの人が聞いて変に思ったらどうすんだあぁぁぁぁッッ!!!」
「あっはっはー…やっぱあんたはそうじゃないとなー」
「何笑ってんだちゃんと反省しろーッ!!!」

後半部分はしっかり聞こえたのか地面に座り込んでいる史乃をまたぐ形で胸倉を
掴んで怒鳴る彩はすっかりいつもの調子に戻っており、それを見る史乃の表情はどこか嬉しそうだった。

* * *

「あっ…」
後ろから突然抱きしめられ呂揮は振りほどこうと身構えるが、ふわりと頬を擽る長い髪を感じた瞬間力を抜きその身を委ねた。
「駄目だろう?強襲かけるのにそんな堂々と入ってきたら」
そう言いながらも澪が呂揮を拘束するその腕は優しい。
「俺は強襲かけにきた訳じゃないです」
「じゃあ、正門からじゃなく窓から俺の部屋にはいってきた理由は?」
「あっ」
澪が側の椅子に腰を下ろすと呂揮はそのまま膝の上に乗るような形になり、
おずおずしながらもりんごのスコーンと小さなガラスの瓶にメープルシロップを添えた包みを差し出す。
「澪マス好きだって聞いて。俺が作ったんです」
「うん、ありがとう。これを渡すためにわざわざ来てくれたの?」
「それからあの…澪マスと話がしたくて」
「…そう。仮病を使ってまで今日の合同ギルド狩りを休む事で俺に会わないようにしてた呂揮が話したいことって何なのかな」
やっぱり知られていたかと思いと嘘をついていた後ろめたさで目をそらしそうになるが、澪の瞳をしっかりと見つめ返し呂揮は口を開いた。

「彩マスから聞きました。小さい時本読んで歩いてたら橋渡り損ねて池に落ちた話」

それを聞いた澪が目をまんまるにして驚いたような顔をする。
おそらくそんな話の切り出し方をされるとは予想だにしていなかったのだろう。
「それだけじゃないです、本棚の中で眠った話とか、焼いたゼロピー食べた事とか。他にも色々教えてもらいました澪マスの事」
「やれやれ…そんな事まで教えちゃったのか」
口元に手を覆ってため息をつく澪から伺う困ったような表情に、今までにない親近感を覚え呂揮は自分から澪の胸へと身を預けていた。
「俺は嬉しかったです、貴方の事を知ることができたから。貴方を身近に感じられて…もっともっと好きになれたから」
それから澪の頬に手を沿え、顔を近づけてその唇にキスを施す。
呂揮から澪への初めてのキスを。

「澪マスの事もっともっと知りたいです。大好きな貴方の事をもっと…だから…」
「だから?」
「前のギルドでマスターに性欲の捌け口にされてきた俺ですけど…それでも…俺を抱いて…くれますか?」
「抱きたいよ、呂揮が欲しい」
考えることもためらうこともなくそう言った澪にかぁっと身体は熱くなり、同時に嬉しくもなる。
「だから…呂揮も欲しがって?」
優しく促され、呂揮もまた心の中でひっそりと望んでいた想いを打ち明けた。
「抱いて下さい…貴方が…欲しいっ……」
溢れる感情に任せるまま澪にすがりつく。
呂揮の背中に澪の腕が回りきゅ…と抱きしめ返されると、拒まれなかったことに安堵し猫のようにその身を摺り寄せた。
「いいよ…今夜呂揮を俺だけのものにしてあげる」
「…ッ…」
耳元で囁かれただけで声を出しそうになった呂揮の身体を澪は軽々と抱き上げた。
抱き上げられ、連れてこられたのは隣部屋の寝室。
澪の部屋には何度も入ったことはあるが、寝室に入るのは今夜が初めてだった。
普段執務をしている部屋と同じようにシンプルながらも整頓されており、
やや大きめベッドに下ろされるとついた手からは心地よいシーツの感触が伝わってくる。

「…んっ…」
唇にキスを落とされ、ためらいがちにだが手のひらをそっと澪の胸に添えて呂揮は目を閉じ受け入れた。
何度か唇を啄ばまれた後深く唇を重ねられる。
「んっ…ん…ぅ…ふぁ…」
差し入れられた舌を同じように舌で受けて絡める――――筈だった。
「あふ…ふ…んぁ…ンぅっ…はァっ…」
立っていたらきっと腰が砕けていたかもしれない。
絡める筈の舌は存分に絡め取られ甘噛みされ、咥内をたっぷりとねぶられてから
唾液の糸を引かせ唇を離された呂揮の頬は紅潮し、息は荒くなっていた。

「キスだけでイきそうな顔だね」
「だって…澪マスのキスが…そのっ…」
すごくて。と言おうとした呂揮の唇に澪の人差し指がそっと添えられる。
「澪。って呼んでごらん」
「えっあっ…あのっ…」
「俺は今呂揮のマスターじゃなくて恋人なんだから」
「み…お…澪…」
「いい子、もっと呼んで」
「澪……澪…み…お……ぁ…あンッ…んッ…」
指の腹で乳首を撫ぜられて思わず漏れてしまった嬌声を慌てて殺そうとするが、すぐに澪に気づかれてしまう。
「気持ちよくしてあげるから我慢しないで可愛く鳴いていなさい?」
「は…はい…」

澪の手が呂揮の服にかかると脱がせやすいように身体を浮かしてやり、呂揮も澪の服に手をかけて脱がせていく。
時折伽羅色の髪の毛に指をさしいれ梳いてあげると気持ちよさそうに目を細めてくれるのが嬉しくて何度も繰り返した。

「あ…ぁ…」
窓から差し込む月明かりのせいか部屋は思いの他明るく羞恥を覚えたが、それでも肌を這い始めた澪の手を受け入れその身を任せた。
「ふぁ…ぁ…あんッ」
手の後を唇が追い両乳首に口付けてやると、反応が大きかった右側の乳首を今度は舌で撫ぜられた。
「右の方が好き?」
「は…ぃ…」
素直に頷いた呂揮に褒美のつもりなのか額にキスを落とすと右側の乳首を舌でこねくり出した。
「あぁッふぁっふあぁんッ」
尖った舌でしこった乳首を転がされ、口に含まれたかと思えば強く吸い上げられる。
唾液でぬるつくそこを指の腹で悪戯されてはまた吸われ、呂揮は短い嬌声を繰り返した。
「はぁ…ふぁ…あッ…」
真っ赤にしこるまで舌と指で丁寧に愛撫された後、澪が身体を起こしたので呂揮もベッドに沈めていた身を起こそうとする。
それに気づいた澪が呂揮の身体をベッドにそっと倒した。
「急にどうしたの?」
「その…澪の………」
語尾が小さくなったが呂揮の視線の先を見てあぁ、と澪が納得する。
「気持ちよくしてくれようとしたの?ココで」
澪の指先が呂揮の唇を撫ぜると恥ずかしそうにしながらもこくんと頷いた。
「貴方に気持ちよくなって欲しいから…」
澪の髪に絡めた指で頬を撫でると薄く澪が微笑む。
「ありがとう。でもそれは今度ね」
「今度って………あぁんッ」
疑問を持つと同時に足の間に感じた甘い悦。
「今日は呂揮を気持ちよくしてあげる」
「…あんッ…!」
雄の先端を指でつつかれ反射的に呂揮は足を閉じてしまう。
「ほら、もっと足を開いて」
「あ…ぁ…」
膝を撫でられ少しずつ足を開いていくと、胸への愛撫だけで立ち上がってしまった雄を澪へと晒した。
そこへ注がれる視線が恥ずかしくて手で隠してしまいたかったが、また咎められてしまいそうでシーツを強く握ることで耐える。
「いい子だ。気持ちよくしてあげようね」
今度は唇にご褒美のキスを施し、髪をかき上げた澪は呂揮の足の間へ顔を近づけていく。
「あ…あぁっふ…ぁ…ンッ」
雄に感じるぬるりとした感触。
澪に雄を舐められているのだと分かると顔どころか体中が一気に熱くなるのを感じる。
今までこんな風に舐められた事などなかったからだ。
「あっふあんッふあぁッあぁぁンッ」
ましてや大好きな人にそれをされているのだと考えただけでどうにかなってしまいそうで、
こらえきれずに握り締めたシーツを引っ張り鳴き始めた。
乳首の時よりもずっと執拗にたっぷりと這い回る澪の舌。
ちゅぷちゅぷと音を立てて吸われたり先端を嘗め回されながら咥内で扱かれたりと
されているうちに呂揮はあっさりと高みへと追い詰められていく。
「おねが…くち…はなしてくださっ…イク…でちゃうぅッあぁぁぁおねがいはなしてでちゃうぅぅっ!」
呂揮が絶頂を訴えると、離すどころかますます激しくむしゃぶり吸われ、涙を流しながらふるふると首を振る。
「あぁぁっそんなにつよくすっちゃッ…イクぅイっちゃう本当に出ちゃうのぉっ」
「出しなさい。飲んであげるから」
「そんなっ…ふぁぁぁッッ」
咥えたまましゃべるその振動がさらに絶頂を煽り、必死に耐えようとする呂揮を更に追い詰めていく。
「あぁッイクっイクぅっあぁぁああ澪ぉぉぉぉッッアァァ………!!!」
弱々しく首を振り続けたところでどうすることもできず、がっしりと腰を抱える腕からも雄に絡まる
舌からも逃げられず、根元まできつく吸い上げられた所でとうとう我慢できずに呂揮は澪の咥内へと精を放っていた。
「あァ…ァ…ッ…!」
舐められるのも初めてで、イったのも初めてで。
今まで強いられてきたSEXはただ相手を満足させるための一方的なもので気持ちいいと
思った事なんて一度もなかった呂揮にとって味わったことのない戸惑う程の甘く心地好い悦だった。
「ふぁ…あ…ンっ…」
「呂揮」
達したばかりのはずなのに熱は引かず、小刻みに身体を震わせていると顔を上げた澪が名前を優しく呼び頬をそっと撫でた。
「あ…ご…ごめんなさい…ごめんなさいっ…」
謝りながら呂揮は澪の口の端に残った自ら吐き出した精を舐め取ってあげると不思議そうに首をかしげた。
「どうして謝るの?」
「だって俺だけが気持ちよくなって…」
「そう、気持ちよかったんだ…じゃあ次はもっともっと気持ちよくしてあげる」
「…?………澪っ…」
呂揮が何なのかと首をかしげていると、澪の指が当たった場所に思わずその手を止めようとした。
「待って…澪がそんなことっ…!」
「ちゃんとしてあげる。痛くないように、気持ちよくしかならないようにね」
呂揮の手をそっとどけさせ、再び指が当てられたのは呂揮の秘部。
自分で指を入れて慣らすのが当たり前だった呂揮にとって澪がそうしてくれようとしている事に困惑する。
そして今で十分気持ちいいのにこれ以上どう気持ちよくなるというのだろうかという
隠れた期待を抱いている間に、指はゆっくりと呂揮の秘部に埋められていった。
少しでも苦痛を感じないようにと無意識に力を抜こうとする過去の性行為で自然と
慣らされてしまった自らの身体が憎らしかったが呂揮が感じたのは決して苦痛ではなかった。
指が動くたびにじわじわと湧き上がっていく快感。
「あッあぁッふぁっあんっ」
1本の指で何度も抜き差しを繰り返した後2本に増やされじわじわ秘部を広げられていく。
増える指もあくまで優しく、奥を探られるのも気持ちよくて。

こんな風に大切に扱われたことなどなかった。
必死になって嘗めていただけ。いつも苦痛を感じないように自分で慣らし、少しでも早く終わるように腰を振っていただけ。
こんな風に優しく快楽を施される事など今まで一度もなかった。
大好きな人に抱かれる事が、優しくされることが嬉しくて嬉しくて、快楽とは違う涙が呂揮の目からこぼれ落ちていく。
「泣かないで呂揮。ほら、もっと気持ちよくしてあげるから」
「ふあぁっあっみおッあぁッあぁぁぁぁぁッッ!」
呂揮の涙を舌で優しく舐め取りながらも秘部に入れられた3本の指はいつしか激しい動きに変わっていた。
指の付け根まで入れられた指がぐちゃぐちゃとかき回されても気持ちよくてたまらない。
澪がそれをしているのだと考えただけで呂揮は欲情し、興奮してしまっていた。
「……あぁッあぁぁぁッふぁっアァァァァ……!!!」
指先で秘部の奥を探られながら軽く雄を握られると、それだけで呂揮は達し勢いよく精を吐き出してしまう。
「あ…アァ…ふあッ…あァ…ン…」
2度も続けてイかせられ、羞恥している余裕もなくなったのか息を乱してその肢体を
晒していた呂揮の足は澪の両手でさらに大きく開かせされた。
「あッ…澪…んゥ…」
キスを受けながら十二分に慣らされた秘部へ、引き抜かれた指の代わりに当たった熱いモノにぴくんと身体を跳ねさせる。
「今から呂揮に本当のSEXを教えてあげる」
唇が離れ囁かれた言葉に自然にごくりと喉が鳴ってしまう。今までこんな風に相手を待ち望んだことなんてあっただろうか。
「欲しい…欲しいっ…ちょうだい…澪のぉ…」
自分でも驚くくらい鼻にかかった甘ったるい声を出しており、その声に
誘われるまま澪は十分にほぐされた呂揮の秘部を自らの雄を圧迫してやる。
「あぁっあぁッちょうだい…ソレ…あンっ欲しいよぉッ」
「可愛い子。全部あげるよ…」
当てられたそれがもっともっと奥まで欲しくて、腰を揺らしあられもなく強請ると焦らされる事なくそれは呂揮を貫いた。
「あ…あァァァーーーーッ!!!」
じん、と身体の芯に響くような悦。


――――― キモチイィ。


「入ったよ。全部呂揮の中に」
「あ…うれ…しぃ…」
「いい子。でも…嬉しいのはまだこれからだよ」
「え…あっふあッあぁぁッッ…あぁんッッ!」
澪がゆっくりと動いて呂揮の内壁を擦り、雄の先端が奥の奥を突くとびくりと過剰に身体を跳ねさせる。
「そこぉっあんっそこはゆるしてぇッあぁぁぁぁゆるしてぇぇぇッッ」
今までに感じたことのない強い快感に無意識に逃げようとすると呂揮の反応を
分かっていながら同じ場所をぐいぐいと突き、雄の先端から、目尻からも涙を零して鳴きよがった。
「呂揮はここが嫌なの?こうしたら気持ちいいと思ったんだけど…ほらここ」
「あぁぁっあァァッアァァァァッッ」
確認するように尋ねながら容赦なく気持ちよくなる場所を突かれ続け、
呂揮は硬く立ち上がった雄の先端からだらだらと先走りを溢れさせる。
「そこは…おかしくなっちゃう…おかしくなっちゃうよぉっゆるしてぇっ」
「いいよ、おかしくなりなさい。おかしくなって―――俺だけのものになってしまえばいい」
「あ…アァ…」
許しを請う呂揮に口付けを落とした澪の妖艶なその表情と自分を独占しようとする言葉に、一瞬何もかも忘れて見惚れていた。
「あ…ふぁ……あぁンッ…あぁっあぁぁぁぁぁぁーーーーーッッ!!!」

我に返ると同時、澪を受け入れる秘部から激しい悦を受け止めさせられていた。
ゆるして。と哀願したその部分を雄で何度も何度も突かれ堪えきれない嬌声を上げて呂揮は鳴きよがる。
呂揮の雄に澪の指が巻きついたのに気づくと、身体を揺さぶられ続けながらおねがい、おねがいと盛んに首を振った。
「あぁっそっちはゆるしておねがいゆるしてぇっあぁんっあぁぁぁぁッッ」
「駄目。ほら、もっともっと気持ちよくなりなさい」
泣いて許しを請うても聞いてはもらえず、奥を激しく突かれながら呂揮の雄に巻きついた澪の指がにちゃにちゃと上下に扱かれた。
「やァァァァっあぁんっしらないっこんな気持ちいいの俺しらないっあぁぁっあんっんあぁぁぁっっ」
弱弱しくも首を振り続けながら快楽の涙を零し、腰をくねらせる呂揮の動きに
合わせて澪が身体を進めて挿入を深くしてやると、先走りの量は更に増えて澪の指を濡らしていく。
「あぁんソレ気持ちいいよぉッおかしくなっちゃうっきもちよすぎて俺おかしくなっちゃよぉッふぁっあっあっ…アァァァァァァァーーーーーッッ!!!」
獣じみた悲鳴を上げ呂揮は激しくイきながら自分を悦ばせる愛しい男の雄をきゅうきゅうと締め付けた。
「アァ……み…ぉ…澪ぉ…澪っ澪ぉぉッ」
何度も澪の名を呼ぶ呂揮の中で、色々なものが零れ落ちていく。
今まで頭を過ぎらせていた過去に強いられてきた性行為、それに対する澪への隠れた後ろめたさや羞恥。
「呂揮」
その中で呂揮の心を占めるのは目の前で名前を呼んでくれる澪の事だけ。
澪を気持ちよくしてあげること、澪と気持ちよくなる事しかもう考えられなくなっていた。

「やぁぁっ…澪ぉっ澪も気持ちよくなってっ…あぁッ澪もぉッ澪といっぱい気持ちよくなりたいっ澪と一緒にイキたいよぉっあぁぁッ」
甘く求めるその声が、奥を突くたび無意識に締め付けるそれが澪を高めている事を呂揮は知らない。
「あぁッ澪っ澪っ澪ぉぉッふぁんッあぁぁぁッッ」
内壁を押し広げ大きくなっていく澪の雄が気持ちよくて、呂揮自らもその動きに合わせて腰を振り始めた。
「すごく気持ちいいよ呂揮の中。次は一緒にイってあげるから…ね?」
「ふぁッ…ン…」
熱を帯びた声色で囁かれるだけで嬉しくて嬉しくて、でも与えられる快楽に
溺れきった身体をもう自分ではもうどうすることも出来なくて、唯一どうにかしてくれるであろう目の前の存在を抱きしめる。
「澪っ澪ぉっあんっふあぁんっ」
「愛してるよ呂揮、愛してる…」
身体と心とを満たしていく大好きで大切な存在にすがりつきながら呂揮も澪の耳元で繰り返す。
「す…きっ…大好き…大好き…澪っ澪ぉ…大好き…大好き…あぁッ澪ぉぉッ」

* * *

こんこん。

「どうぞ」
「あ、澪マス起きてた!」
「うん、少し前に起きた所」
四季奈がドアを開けて顔を出すと澪が丁度首の襟巻きを直しているところだった。
「いつもの澪マスが起きる時間になっても起きてこないから具合悪くしたんじゃないかと思って」
「大丈夫なんともないよ。それより何かな」
「澪マスまだ呂揮君のレベル上げ付き合ってるんだよね。今日も行く?」
「呂揮次第だけど。何か用事だった?」
「あ、うん。白ポーションの差し入れ。レベル上げるのにかなりきつい狩場通ってるって
 聞いたから前にあげたのもう無くなってるんじゃないかなって。直接渡そうと思ったんだけど
 今日は紫罹ちゃんに付き合ってもらっておすすめ白ハーブポイント巡りすることになってたから」
「あぁ、そうだったね。じゃあ今渡しちゃったら?」
「今って事は呂揮君来てるの?知らなかったいつ来たの…ってはきょおぉぉッ!?」
澪が寝室へと続くドアノブに手をかけたのを見た瞬間四季奈の声が大きくなる。
「そそそそそそっちはしししししし」
「うん、俺の寝室」
激しくどもる四季奈を楽しげに見つつもドアを開き、澪は四季奈に向かって寝室に入るよう手招きする。
恋人同士になった澪と呂揮、そしてその呂揮が今澪の寝室にいるというのだ。
2人の間に何があったか思い当たる四季奈の顔は既に赤く、ベッドに近づく澪の後を四季奈は小走りについていった。
澪が少しだけ布団をずらすとぴょこんと見える薄紫色の髪。
「はきょぇっ……………とっとっとぉぉおお!!!」
悲鳴を上げて後方に退こうとした四季奈はすぐ後ろの棚の香炉を落としそうになり
あわてて抱え若干息を荒くしながら改めて薄紫色の髪を見る。
「そっ…そこにっ…今澪マスのベッドに寝てるのってやっぱりっ…!」
「うん、呂揮だよ」
そう言って頭を撫でてやりながら眠ったままの呂揮に顔を近づける。
「呂揮、四季奈がポーションくれるって言ってるよ」
「…ん……」
布団をさらにずらされることで瞼ごしに入った朝日が眩しかったのか眉をひそめ、
もぞもぞと澪に抱きつきその膝に顔を埋めてしまう。
「くっ……寝ぼけながら澪マスにぎゅーってしてる呂揮君が超かわいすぎるッ!!…走りたい…砦走り回りたいくらい可愛いすぎる…!!」
「おやおや、意外と甘えん坊さんなんだね呂揮は。四季奈が見てるのにいいの?」
「……ふぁ…んーっ……」
頭を撫でられる事で漸く起きたのか、澪の膝に顔を軽く左右に振ってすりつけながら瞳を開く。
視界に入るのは顔を真っ赤にしてどんなに贔屓目に見てもおかしなポーズをとっている四季奈の姿。
呂揮の意識は一気に浮上し勢いよく飛び起きた。
「わっ…!」
「はきょえぁあああああああやっぱりそうだったぁああぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」
呂揮の短い悲鳴をかき消すような大声を出して四季奈は部屋から走り去っていった。
「うん、相変わらず見事な走りだ」
「あ…あ…あのっ…………」
四季奈の出て行ったドアを見ながら呂揮は口をぱくぱくさせる。
澪の部屋で裸で寝ていた自分とそれに何一つ動揺の色を見せていない澪。
四季奈の態度からして『昨日澪とSEXしました』という事を知られてしまった言い訳のしようもない状況だった。
「みっ澪マス…!どうして俺が居る事バラしちゃうんですかっ!」
布団で肌を覆いながらそう叫んだ呂揮の顔は四季奈に負けず劣らず真っ赤に染まっている。
「四季奈が最近キツイ狩場でがんばってる呂揮にポーションを差し入れたかったんだって。
 時間が合わなさそうだったから今渡したらって言ってあげたんだよ」
「だからって今ここでバラさなくてもいいじゃないですかっ!四季奈さん絶対気づいてますよ俺がどうして澪マスの部屋にいるのか…!」
「そうだね、SEXして呂揮とカラダでも繋がったって気づかれちゃっただろうね」
「そこまで具体的にはっきり言わないで下さい!」
「あぁそうだ、呂揮が寝てる間に昨夜もって来てくれたりんごのスコーンご馳走になったよ。すごく美味しかった」
「――――ッッ!!話をそらさないで下さい!今その話もってくるなんて…!」
「遅かれ早かれ分かってしまう事でしょう?それに」
「んぅっ…!」
続く返事の代わりに施されたのは唇へのキス。
ずるい、そうやって話をはぐらかそうとするなんてと言ってやりたいのに、
それより先にカラダが大好きな人からのキスを悦んでしまう。
「やっと心も、身体も繋がれたんだから色んな人に言いたいんだよ。この子が俺の愛しい愛しい恋人ですってね」
「あっ…」
唇を離し、自分がつけた紅い印を指で辿りながら言う澪から、照れがどうしても抜けきれず思わず目を逸らしてしまう。
もっと、もっと。と鳴いて腰を振り最後には自分から欲しがりさえした
昨晩の記憶もまだ新しいせいか、澪の顔をまともに見る事が出来ない。
「ほら、そうやって視線を逸らさない。ここは嬉しいって言って抱きついてキスしてくる所でしょう?」
「あのっ昨日の今日ですしまだちょっと慣れてないっていうかっ…!」
「やれやれ、困った子だ」
「何を………あ…んっ」
覆っていた布団を剥がされ素肌を晒されると、昨晩胸に点けられた紅い痕を軽く吸われて詰まった声を出してしまう。
「身体の方は一晩かけてじっくり教えてあげたから俺の事を覚えてくれたみたいだけど、
 心の方はまだまだ分かってないみたいだね」
「あっあぁッ」
今度は喉に緩く歯を立てられれば、澪の言うとおり身体がそれを覚えているのか従順に反応を返してくる。
「『澪は俺のもの』ってちゃんと言えるようになるまで、呂揮の方から
 恥ずかしがらずにキス出来るようになるまで部屋から出さないよ」
「そんなっ…あ…あ…ふぁ…ん」
内緒でホームを出てきたからもう帰らないと。ベッドから出ないとと思うのに
抱きしめる腕が気持ちよくてすっぽりとそこにおさまってしまう。
「だからきちんと自覚しなさい。俺は呂揮のものだってね?」
「み…澪は…俺の…もの。俺だけの…誰にもあげないっ…」
「そう、いい子」
恥じらいながらもその独占欲を聞くと、澪は満足げに微笑みながら腕を巻きつけてくる呂揮の胸に顔をうずめた。







 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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