いいんですよ。
後編
「あははははははははっ!!」
楠は声に出して笑いながら冒険者からは『精算広場』と呼ばれる場所の地べたにぺたんと座り込んだ。
「私MVPボス殴ったの初めてよ!」
「な?案外いけるもんだろー。そんでもって、MVPおめー」
つい先程までの闘いを思い出しているのか興奮気味に話す楠の側にしゃがみ込んだ史乃は、
オシリスが残していった古い紫色の箱を差し出した。
「え?でもこれって…」
「いーっていーって。初MVPの記念」
「ありがとう、それじゃあ…」
少しだけ困った表情を見せていた楠だったがやがて差し出された箱を受け取る。
そしてそれを手にしたかと思うと箱の蓋を躊躇いもなくぱかっと開いた。
「おぉーっ!潔くいったなー………で。何いいもん出たー?」
史乃が感嘆の声を上げながら覗き込むと、楠は箱の中からそーっとゼロピーを取り出して見せた。
「ぶっ……ぶはははははははははははッッ!!ベタベタのお約束展開きやがったー!!」
「売れば数100kもしたものが一瞬で数ゼニーになっちゃった!!あはははははははははっ!!」
大声で笑ったあと心地よさそうにふぅ。とひとつ息を吐いて楠はにっこりと史乃に微笑みかけた。
「あー、こんなに大声で笑ったの久しぶり…本当に楽しかったわ、誘ってくれてありがとう。貴方優しい人ね」
「あー?カートに詰め込んでMVPボスに向かって放り出すのが優しいのかー?」
武器をカートの中に突っ込みながら自分を指して見せる史乃に楠は小さく首を振る。
「貴方は私の気持ちを分かると言ってくれた。人の痛みや苦しみを分かってくれた気持ちの優しい人よ」
それから両手を差し出し史乃の手をきゅっと包み込む。
「…本当はね、彩に貴方っていう恋人がいるって分かった時嫉妬したわ。でもちょっとの間だけど
史乃と一緒に居たら彩が貴方を選んだ理由が分かった気がする……幸せになってほしい。今は本当に心からそう思えるの」
「…サンキュ。あんたも今のヤツと幸せになー?」
「……えぇ……」
それを聞いた楠から笑顔が消え、そのまま黙り込んでしまった。
最初に会った時と同じ思いつめた表情をしている楠に史乃が問いかけようとした瞬間、
疾風のように突っ込んできた『何か』によって遮られた。
迷う事なく史乃に向かって突っ込んできた『何か』―――トメによって。
ピィィィィーーーーーッッ!!!
「どうわぁああああああああーーーーーーーーッッ!!!」
トメの体当たりは見事に史乃の頭部に直撃し、その身体は石畳の上にずざーっと勢いよく倒れる。
「しっ…史乃っ!!大丈夫!?」
「こんのぉー…」
楠に助け起こされ、頭を押さえながらトメを睨みつけた史乃の肩は痛みなのか怒りのせいなのかわなわなと震えていた。
「こンのクソトメがー!!朝っぱらからケンカ売ってんのかてめーッ!!!」
怒鳴りつけてくる史乃の頭上にとまり、トメは翼を広げて低い声で鳴き続けている。
「だーもー爪いてーから離れろ!!まさかお前この状況見て何か勘違いとかしてんじゃねーだろーな。
ただ狩りに行って気持ちの分かる者同士交流深めてただけで浮気とかじゃねーっつーの!!!」
「待って」
突然のトメの来襲に半ば唖然として見ていた楠だったが、やがて発した静かなその一言は
一人と一羽の間に流れていた険悪な空気を鎮める。
それから史乃の頭に爪を立てているトメをじっと見つめた後言った言葉はほぼ確信に近いものだった。
「トメさん怒ってる訳じゃないわ。貴方に何か伝えたいのよ」
「あー?ヒステリックに鳴き喚いてたこれのどこが怒ってないってー?」
「だって鳴き声が全然違うもの、怒っていたらもっと鋭く高い声で鳴くから…………もしかして彩に何かあったんじゃない?」
楠がそう言うとトメは急に鳴くのをやめ史乃から離れていくと、上空をゆっくりと移動し始める。
「誘導してくれるみたいだわ。追いかけましょう」
「…分かった」
史乃は低い声でそう返し、楠と共に飛んでいくトメを追いかけた。
* * *
トメがあんなに鳴いて離れる事を嫌がっていたのに外に出してしまった事を今更ながらに彩は悔いた。
今の事態に考えが行き着かなかった訳ではない。
ただ信じたかったのだ。かつて恋人だった彼女が選んだ相手の事を。
自分が気づかない内に苦しめ泣かせてしまった楠を幸せにしてくれると思っていた男の事を――――。
「やめろよっ…くーの婚約者だろ…なんでこんなこと…!!」
ベッドの上に押し倒された彩は上にのしかかり服を脱がせていくガンスリンガーを必死に説得しようとしていた。
振り向きざまに口元に何か薬品を含ませていたであろう布を押し当てられてから身体の自由がきかない。
床に投げられた弓を手に取るどころかズボンを脱がせてくる手を振り払うことすらままならず、
史乃以外の男にこんな形で肌を晒すのが嫌でも彩には小さく首を振ることくらいしか出来なかった。
「ちょっと寂しそうにしてたからひっかけてやっただけだよ、あの手の女はつけこみやすいからな。
殴りなのはちょっと計算外だったけど今なら支援にさせるのもそう難しいことじゃねえし」
「くーを…………好きなんじゃないのか…?」
それを聞いたガンスリンガーがいかにも馬鹿にしたように、はっと鼻で笑って見せた。
「誰があんなカタブツ女夢中になるかよ。結婚してからじゃないとヤらせねーとか今時流行らねーっての。どんだけ化石女だよ」
楠を幸せにしてくれると思っていたはずの人間から零れる心無い物言いに彩は涙が出そうになる。それを堪えようと必死に歯を食いしばった。
「だめだ…もうくーを傷つけるな…あんなに…あんなに泣いてたのにッ…!」
「そーだなぁすっげえ傷つくだろうなぁ。元恋人と婚約者の俺がヤっちまったとか知ったら
ショックで立ち直れないどころかもう絶望して自殺でもすんじゃねーの?」
「!!!」
目を見開く彩の肌を撫で回し、にんまりとガンスリンガーは笑う。
「なーに…傷つけたくなけりゃ今から俺にされる事を全部黙ってりゃいい。そうすれば全て丸く収まるんだよ」
「やだ…やだ…こんなの…やだ…やだっ…」
小さくそう繰り返しながら首を振る彩の膝裏にガンスリンガーの手がかかる。
「やだじゃねえよ、おらもっと足開け!」
「やだぁッやだやだやだぁぁぁッッ!!史乃っ史乃っ!史乃ぉーーーーーーッッ!!」
* * *
トメが誘導していく場所に史乃は眉を潜める。
向かおうとしている先は『裏町』と呼ばれている決して治安が良いとは言えない場所だからだ。
「なー。こっから先は俺が一人で行っからあんたは戻…」
「大丈夫。何かあったとしてもその責任は自分で負うわ」
楠の返答からするにこの先にある場所に関しての事は概ね理解しているようだ。
そして言葉は勿論口調からも『戻れって言われても絶対ついて行くから』という確固な意志を悟り、
息も乱さずぴたりとあとをついて走ってくる楠に史乃はそれ以上何も言う事はなかった。
「彩…」
嫌な予感を隠し切れずに史乃は彩の名を小さく呼び、まだ一度も返答のないwisを送り続けながらトメの後を追った。
「金髪にアクアマリンの瞳のスナイパー?知らねーな」
入った宿の従業員は史乃の問いにさも面倒くさそうに新聞を広げながらぶっきらぼうに答えた。
移動を続けていたトメがこの宿の上を回り始めたのでこの場所に彩が居る事はほぼ間違いない。
時間が惜しいと『交渉』に持ちかけるためゼニーを出そうとした時だ。
どごぉおんっっ!!
けたたましい音を立ててロビーの机が陥没する。
手にしていた新聞を落としてガタガタ震えている従業員の鼻先に楠は机を殴ったグランドクロスをつきつけた。
「知らないわけないでしょう。今すぐ教えなさい、次は顔面狙うわよ!」
大胆かつ手っ取り早い楠の行動に史乃はひゅーっと口笛を吹く。
「あんたなかなかやるなー。こっちのが効果覿面ってやつかー?」
史乃までもが斧を取り出したのを見て顔を真っ青どころか真っ白にした従業員から、
彩がこの宿に居るという事、そしてその部屋の鍵を手に入れるまでそれから数秒もかからなかった。
ばたん!!
言われた通りの部屋のドアを開き、『まさか』と『やっぱり』が交錯する光景を目にした史乃は
ざわりと身体の中で強い感情が湧きあがるのを感じた。
「くくくく……楠っ!?」
ほとんど裸に近い状態の彩に覆いかぶさっているガンスリンガーが楠の姿を見るや否やぱっと彩から離れてベッドの隅へと後ずさる。
「…しの………」
史乃は身を起こし手を差し伸べている彩の元へ駆け寄り、身体をシーツで包み込むようにして
抱きしめてやると完全に気が緩んでしまったのだろう。彩は浮かべていた涙をぼろぼろと零し泣き始めた。
「史乃…史乃っ…史乃…史乃ぉ…」
「遅くなって悪ぃ。もー大丈夫だからなー」
何度も名前を呼び震える身体をしっかりと抱き直した史乃が頬に口付けてやると、
彩は何度も頷きながらその胸に顔を埋めてすりついた。
抱きしめられる事で落ち着いたのか震えの収まってきた彩にもう一度今度は額に口付け、
それからいつの間にか部屋の角まで逃げていたガンスリンガーに視線を移す。
まさに蛇に睨まれた蛙のそれで、ビクゥっと身をすくませたのを見て自分が今どういう
視線を送っているのかを自覚しながら史乃は口元だけで笑ってみせた。
「よー、お前がムいて押し倒してたこの人俺のギルドマスターで恋人なんだわー……っつか。何彩泣かせてんだよてめえ」
「ひぃぃッ!!」
最後のドスの効いた史乃の声に恐怖が声になったのかガンスリンガーが情けない悲鳴を上げる。
「どういうことなの。説明して」
目の前に立ち問いかけてくる楠に、それこそまくし立てるようにガンスリンガーは喋り始めた。
「楠…聞いてくれよあのWSじゃ話にならねえ、俺は悪くないんだ。コイツが俺の事誘ってきたんだよ!」
そう言って彩を指差してきたので、史乃の胸にすっぽりおさまっていた彩は顔を上げ驚いたようにガンスリンガーを見た。
「楠にフラれた腹いせに婚約者の俺と関係持って仕返ししちまおうって魂胆で俺をこの部屋に
連れ込んできたんだ。勝手にアイツから服脱いで抱きついてきて…お前らが来たとたんに被害者ぶりやがったんだ!」
―――――――何言ってんだ?お前。
よくもこんな平然と嘘がつけるものだと逆に史乃は感心してしまう。
史乃にとって彩を疑う方がむしろあり得ない事だった。
ギルドマスター・ギルドメンバーとしての長い絆と、まだ短くはあるが確かに繋がっている恋人としての絆。
それらの事を知りもせず口からでまかせを言うガンスリンガーの顔面を今すぐ殴って黙らせてやりたかった。
「史乃…違う…違う……」
ただそのために自分の腕の中で何度も違うと繰り返してすがる愛しい存在を振り払ってまで行くことなんてとても出来ない。
「心配すんなって、分かってっからー」
不安そうに見上げる彩にそう囁いて頬擦りしてやった史乃の願いを代わりに叶えた者がいた。
「騙されるなよ楠!愛してるのはお前だけなんだ!俺は悪くない、あいつが……………………うごあぁっ!!」
鈍い打撃音で続きの言葉は途切れ、奇妙な悲鳴を上げながらガンスリンガーは床に倒れこむ。
楠の振るった一撃がガンスリンガーの顔面を抉ったのだ。痛みにのたうち回るガンスリンガーを険しい表情で見据え、それから静かに口を開いた。
「謝って」
「痛ぇ…へ……?」
楠の言った意味が分からなかったのか瞬きを繰り返すガンスリンガーに楠はよく聞こえるようにはっきりとした口調で話す。
「彩に謝って。今すぐ」
「何言ってんだよ楠…俺はあいつに騙されて…うがッ!!」
話している途中でさらに楠に一撃を加えられ、殴られた顔を手で押さえながら見上げるガンスリンガーは見るも情けない姿だ。
「嘘つかないでよ彩はこんな卑怯な方法使って人を貶めるような事絶対にしない!!!優しくて
自分そっちのけで人の心配ばっかりして…勝手な事ばかり言った私の事何一つ責めないで……………!」
途中から楠の声は震え途切れる。浮かんできた涙を軽く指で払い、落ち着かせるためか
小さく深呼吸した後僅かに潤んだ瞳でガンスリンガーを睨みつけた。
「……分かってたわよ。貴方が影で『遊んでた』ことも、結婚だって私を愛してるんじゃなくて
ただ支援タイプにしてSPが欲しいだけだったってことも」
「…!!」
楠を完全に騙せていたと思い込んでいたのだろう。楠の並べられた真実にガンスリンガーは目を泳がせる。
「でもね、全部分かってても結婚するつもりだったのよ私。自己嫌悪のどん底だった
私に優しくしてくれた貴方のお陰で救われたのは本当だったもの……何より貴方の事を信じたかったから!!」
悲鳴のように叫んだあと、楠は手にした武器を静かに握りなおし自嘲じみた笑いを浮かべた。
「……その結果がこれよ。私が最も幸せになって欲しいと願った大切な人を最も最低な形で傷つけたわ。
私自身ももちろん許せないし、あんたも絶対に許せない!!」
「く…楠待てよ、俺が悪かった。悪かったから…!」
『ワープポータル!!』
ガンスリンガーのいう事に一切耳を貸さずに楠はワープポータルの詠唱を唱える。
立ち上ったワープポータルの青白い光の側に立つせいもあってかガンスリンガーへと落とされる楠の視線は氷のように冷たい。
「お別れね、さようなら。そして2度と私の、そして彼らの前に姿を見せないで!!」
「くすのっ………おあぁぁぁぁぁッ!?」
握った武器で力いっぱい殴った後片足を軸にして回転し、追撃でガンスリンガーに回し蹴りを叩き込む。
相当痛かったのだろう、涙目になっているガンスリンガーの姿はワープポータルの中へと消えていった。
「…ふぅ。あースっとした!」
光の柱が消えるのを見届けた楠は大きく一つ息を吐き、武器を下ろして振り返る。
自分のやりたかった事を全てやってくれた楠に史乃もまた爽快感が湧き片手で彩を包んだまま
GJと親指を立てて見せ、楠も同じように返した。
それからつかつかと史乃に抱きしめられたままの彩の側へと近づいてくる。
「彩もちゃんと謝ってよ」
「…ごめんくー俺…」
「私じゃなくて、史乃によ」
「え?」
状況のつかめない彩に楠はすぅっと息を吸い込みそれから大声で怒鳴った。
「あんた馬鹿じゃないのッ!?」
これには彩はもちろん史乃も驚き、2人でひしっと寄り添い抱き合う形になるが楠の声は止まるどころか更に大きくなる。
「本当に彩は昔から自分の事に対してだけはとてつもなく鈍感なんだから!!なんでこんな所に1人で来たりしたのよ!!」
「ごめんそれはえっと楠の事で話があるからって言われてそれでこの事は黙ってろって…だから…」
「だ・か・ら?ここは連れ込み宿よ分かってる?呼ばれたからこんな所にホイホイ来たって?
黙ってろって言われたから黙ってたって?本当馬鹿じゃないのそんなの全部嘘に決まってるでしょう!!
場所からして今から色々いかがわしい事しますからよろしくお願いしますねって主張してるような
ものじゃない気づきなさいよッ!!!それにね、あの人が嘘ばっかり言ってる時も否定の仕方が弱弱しいのよ!
そこは彩が怒って殴り飛ばしたって許される所よっていうか殴り飛ばしなさいよ!!!」
「ごめんなさいっ!!」
「だからッ!!!私じゃなくて史乃に謝りなさいってさっきから言ってるでしょう!!!!彩を見つけるまで彼がどれだけ心配してたと思ってるのよッ!!!!!」
「はいっ!心配かけてごめん史乃!」
「えーと……ど…どーいたしまして?」
意味不明ながらも返答を確認した彩は史乃から視線を外し、今度は楠を見る。
散々怒鳴り散らして落ち着いたら少し恥ずかしくなってしまったのだろうか、その頬は僅かに赤らんでいた。
「……………………何よ、文句でもあるの?」
「ない。くーが言った事は間違ってないだろ」
「だったら、どうして笑ってるのよ」
「くーがちゃんと俺の目を見て話してくれたから」
「!」
彩の言葉で目を逸らしかけるが、それはほんの僅かですぐに視線を戻し真っ直ぐに彩を見つめた。
「それから…私もごめんなさい。もっと早くあの人の本心を認めて別れていれば彩がこんな目に遭わずに済んでたわ」
「くー…」
「昨日の昼間、私が戻ってきた時トメさんものすごく怒ってた。あの子があんな風に
怒るのはいつも彩に何かあった時だもの…………嫌な事、されてたんでしょう?」
「くーに比べたらどうってことない。ごめんな」
「だから私に謝るんじゃなくて…………っ………」
彩の手が伸び楠の頬に触れる。その瞬間ビクッと身体を震わせるが楠は彩からは逃げない。
瞳を潤ませ、唇をかみ締めながら彩の次の言葉を待っている。
今まで逃げ続け、耳を傾けようとしなかった彩の言葉を。
「くーが沢山苦しんでたのに別れるって言われるまで俺全然気がつかなくて」
ぽろ、と楠の頬を伝う涙。それからとめどなく溢れる涙を彩が拭ってやりそれからきゅっ…と抱きしめる。
「今だってお前の方がずっとずっと悲しくてつらくて泣きたいはずなのに。ごめんくー、ごめんな…」
「あやまらないで…あやまらないでよ……私が…私がっ………ッ……!」
それから言葉を無くし、嗚咽を漏らして楠は彩に抱きしめられたまま泣きじゃくった。
元彼女を抱きしめる現恋人。
史乃としてはこの光景に非常に複雑な気持ちを抱くべき所だったのかもしれない。
それに反して何故か優しい気持ちがこみ上げていく。
「ほーら、泣くなってー」
気がつくと史乃は抱き合う2人ごと包むように腕を回し背中をそっと叩いてやっていた。
* * *
「本当に飛行船でいいのか?俺の所のメンバーに頼めばポタとか出せるんだぞ」
「いいの、のんびり空を見たいから。わざわざありがとう」
イズルードの飛行船乗り場に見送りに来た史乃と彩に礼を言い楠は彩の前に立つ。
それからどちらともなく手を差し伸べ抱き合った。
「……何も言わないで一方的に離れていってごめんなさい。でも彩の事大好き『だった』の。これは本当よ」
「俺もくーのこと大好き『だった』」
彩の肩にとまっていたトメはクゥ…と鳴きながら2人に身を寄せている。
常日頃から恋敵といわんばかりに猛攻撃を受けている史乃としては、トメが抱き合う2人を
優しく見守るかにみえるその姿に俺とのこの差はなんだー?とむしろこちらの方に複雑な念を抱いていた。
「それと、あんな事で怒るのはあれで最後にして…ねっ!」
少し身を離した楠が彩の腹部を拳でつき、力が緩かったせいなのか擽ったそうに彩が腹部を押さえて頷いた。
「もうしないから大丈夫!」
「ならいいわ。それから―――今の彼と幸せにね」
「うん。ありがとなくー」
「楠はこれからどーすんだ?」
史乃の問いに彩から離れた楠は人差し指を顎に当ててうーんとややしばらく考える。
「そうね、結婚式は無しになった事を知り合いに一通り伝えて…それが終わってから考えるわ。
まぁ少なくとも恋愛はしばらくお休みするのは確実ね」
「そーかー?そんな事言って意外とこの直後に会ったヤツとそのまま結婚なんてのもあるかもしれねーぞ」
飛行船への階段を昇り始めた楠は史乃の言葉にぺろっと舌を出した。
「ないわよ。恋愛はしばらくおなかいっぱ………きゃっ!」
後ろ向きで歩いていたのが災いしたのか楠が階段に足を取られよろめき転びそうになった所を、
同じく飛行船に乗るのであろうチャンピオンに支えられた。
「ごめんなさい、ありがとう」
チャンピオンに礼を言い大丈夫かと心配そうに見ている彩と史乃に照れくさそうに笑って見せた後、大きく手を振った。
「彩、史乃。またねっ!!」
「おうっ!またな!!」
「次会った時は別のMVP取りに行こーぜ!」
その数ヵ月後、史乃が何気なく言った言葉が現実になるなど誰が想像しただろうか。
直後に会った人物―――先程転びそうになった所を助け起こしたチャンピオンと楠が結婚するなどと。
「くー。次会う時もあんな風に笑ってたらいいな」
「だなー」
ピィィィィッッ!!!
小さくなっていく飛行船を見上げながら彩と史乃でそんな会話を交わしていると、彩の肩で
静かにしていたトメが突然飛び上がり史乃の脳天を嘴でつついてきた。
「てめーこのクソトメ!!」
史乃に向かってピィィッ!と短く鳴く仕草はまるであかんべーとでもしているようだ。それからそのままスイッと晴れ渡った青空を飛び去っていってしまう。
「あっトメさん何処行くんだよ戻って…わっ…史乃?」
トメを追いかけようとした所を後ろから突然史乃に抱きしめられ、彩は困惑気味に巻きつく
腕に手を添えるが史乃は離さないといわんばかりにさらに抱きしめる力を強めてくる。
「多分アイツなりの譲渡じゃねーの?嘴攻撃はいらねーけどなー………で、良い子タイム終了ー」
「譲渡?良い子タイム?」
何の意味か分からずおそらく頭上に『?』マークを飛ばしているであろう彩にも『よく分からせる』
ため服の裾から手を入れて胸を撫で、耳に吐息を吹きかける。
「……んっ…ぅ…」
それだけの行為で息を詰まらせた彩の身体をゆったりと撫で回しながら囁いた。
「SEXしよ彩。今すぐ」
「……!!!……史乃っ…通りすがりの人に聞こえっ…」
「うんって言って彩。それ以外の返事は全却下だからなー」
「あ…ぁ…」
耳元で紡がれる声にぞわりと何かが彩の中を駆け巡り頬を赤らめるが胸元―――乳首辺りを
重点的にさわさわと這わせ続ける史乃の手を咎めようとはしない。
「一方的な愛情押し付けてー訳じゃねーとか言ったはいーけどよ、やっぱ俺以外のヤツが
彩にこーゆーことすんのは誰だろーとぜってーやだ」
「ん…俺もっ…史乃じゃなきゃやだ…」
丁度胸の辺りにある史乃の手に自分の手をそっと重ね、通りすがりの人が居ない事を確認しているのかキョロキョロと左右を見る。
「史乃、ちょっとでいいから腕緩めて…キスしたい」
それを聞き抱きしめていた史乃が腕の力を弱め、彩は後ろを向き間近になっていた史乃に顔を寄せ唇を啄ばんだ。
「SEXしよ史乃、俺SEXの記憶は全部史乃がいい」
拒ませるつもりもなかったがあっさり承諾されるのは想定外だったらしく、
複雑な表情を入り混じらせながら史乃は彩を再び強く抱きしめる。
「うわー天然煽りマジやべー本気でやべー…」
「なんでそこで天然発言になるんだよ!」
大声で怒鳴りつつも抱きしめる腕に身を任せぴとっと身体を密着させてくる彩を
この場で押し倒してやりたくなった衝動をなんとか堪え、史乃はこの付近にある宿屋の記憶を巡らせた。
* * *
「ん…んぅっ…!」
町外れにある宿の部屋に入るなり史乃は彩に噛み付くような口付けを施した。
裾をたくしあげ、荒々しく彩の胸をまさぐり舌を絡め取る。
キスの間に手際よく脱がされていった彩の服はするりと腕を抜けて床に滑り落ちていった。
「なー、楠が言ってた『嫌な事』ってもしかして昨日『尻揉め』って言った事と関係あんのかー?」
晒された首筋に唇を滑らせながら臀部に手を伸ばす史乃にごくごく小さくではあったが彩は頷いた。
「……飛行船で追いかけてった後、くーのいない間に尻揉まれたり胸…とか触られてっ…ん…ふぁ…んぅっんっ」
彩が答えている間に足の間に史乃は自らの片足を割り込ませて腿の部分で中心を刺激し、
添えられていただけの手は臀部をぐにぐにと揉みはじめる。
突然の激しいキスと身体のあちこちを激しく愛撫されて彩は膝の力が抜けそうになってしまうが
割り込ませられた史乃の太腿で中心が圧迫され彩の悦は更に煽られた。
「史乃…ぁ…ふ…ぅんッ」
もう立てない、と彩が言う前に史乃は彩の身体を抱き上げ奥にあるベッドへと連れて行く。
「あ…!…ん…んッ…」
ベッドに倒され再び口付けを受け、舌を甘噛みされながら史乃の赤毛に指を絡ませ彩自らもキスを求め首に腕を回していく。
ベルトに手をかけてくる史乃が脱がせ易いようにを腰を浮かせるとあっというまにそれは脱がされベッドの外へと放り投げられてしまった。
「あンッ!!」
全裸にされた早々いきなり秘部に史乃の指が這い彩が短い悲鳴を上げる。指の腹で
そのまま擦るとすぐにそこはくちゅくちゅと粘着質な音を立て始めた。
「もーぬるぬるしてる…昨日あんだけいっぱいしたのになー?」
「う…ぁ…?…し…のぉ…あッあンッッ」
これは彩自身が一番驚いていた。いつもならキスから始まり、全身を指と舌で余すところ無く
愛撫を施されてから漸く触れられるその秘部は性急な行為に関わらず蜜を溢れさせ史乃の指にぬるぬると絡み付いているのだ。
「なー…ココにアイツの突っ込まれたのかー?」
秘部を指先で擦られ続けながら囁かれた言葉に彩は激しく首を振った。
「…てない…されてないっ……あ…あ…あぁンッ!」
秘部に史乃の顔が近づき舌で軽く撫ぜられたかと思うと、口全体で秘部を覆い舐め回し始めた。
「あく…ぅンっあッあ…あんっあぁッ!」
ちゅるちゅると啜りながら舌先で秘部をこじ開けるように舐めてやると昨日の名残りを残すそこはすぐに解れ始めた。
史乃の舌を従順に受け入れるソコは彩の言った通り他の男の雄を受け入れた様子は見られない。
そもそも彩が嘘をつくような人間でもない事は史乃もよくわかっている。
ただこうして彩はあのガンスリンガーとは未遂だったのだと安心すると同時、まだ『俺だけのもの』
だったと考えた事に確かな独占欲を認め自嘲する。
それでもその独占欲が浅ましく変化していくのを史乃は止めることが出来ないでいた。
誰だろーと許せねー。
彩にこうして触れるのは―――――。
「んあッあんッッ!!」
丁寧に舐め濡らした秘部に当てられた史乃の指はぐちゃりと音を立てて彩の中へと見えなくなっていく。
体質的なものなのか女のようにあとからあとから蜜を溢れさせている彩の秘部は飲み込んだ
史乃の2本の指をひくんひくんと断続的に締め付けた。
「ほらやらしー音。聞こえる?」
くちょくちょくちょくちょくちゅっ。
ゆっくりと抜き差しを繰り返したのは最初の内だけで、その動きはすぐに大胆になっていく。
入れたままぐるぐると指を回されたり指を曲げて内壁を指の腹で撫でられたりするたび立つ
粘着質な音は史乃を、そして彩自身の欲情を煽っていく。
「史乃…ゆび…うぅっあぁンッ」
昨夜史乃が愛した身体は従順に与えられる悦に溺れこれからもっともっと気持ちい波が
押し寄せて来る事を思いながら彩が腰を揺らしていると、それに反して史乃の指は引き抜かれてしまう。
もっと欲しくて強請るように彩が濡れた瞳で見上げると、いつもと違う様子で笑っている史乃の瞳と交わった。
「いつ使おー使おーって思ってたけど、使うなら今かなーって」
「…何…?」
「コレ」
「あンッ!」
彩の秘部に当たったもの。見なくても史乃の指ではない事はすぐに分かる。
当てられたそれは蜜のぬるつきを利用して徐々に彩の秘部を押し広げ始めていた。
「…あ…入ってくる…あ…あァッ…何…史乃これっ…」
「んー。バイブ」
「えッ…?…あッあァァァァンッッ!!!」
その単語を聞いて彩の顔が紅潮する前に秘部に押し当てられていたもの―――史乃が手にした
バイブは彩の秘部の奥の奥まで埋め込まされていた。
「俺じゃないヤツに触らせたおしおき。ってか」
「な…あ…ひ…あんッッ!」
中に入ったバイブを動かすたびに打ち震える彩の肢体を眺めながらその足を大きく左右に開かせていく。
「俺が単に彩がバイブでヨガるとこみてーだけなんだけどなー」
足を開かせられることで彩からも秘部に埋め込まれている黒いモノ―――バイブが目に入る。
「………ッ…!!」
初めてということもあり『そういうもの』を受け入れてしまっている自分が恥ずかしいのか彩は顔どころか耳まで真っ赤にして目を閉じてしまった。
「あーやー、目ー開けろってー」
「う…ぁ………あっあッあんっあッは……んぁあああッッ!」
名前を呼ばれおそるおそる目を開ければ、舌先で乳首をくにくにと転がしている史乃と目が合う。
それと同時、入れられたバイブがぐりぐりと奥を刺激し彩は一気に追い上げられ精を吐き出してしまっていた。
バイブをくわえ込み触れもしないで精を吐き出した淫らな姿がよく見えるように、史乃は足をさらに広げさせ喘いでいる彩を見下ろした。
「あーあースイッチ入れてねーのにイっちまったかー。これ振動弱いのから強いのから色々変えられんだけどさー」
「あ…あぅっ…」
どんな風に動くのだろうか、動かされたら自分はどうなってしまうのだろうか。
そんな事を考えると未だ入れられたままの動かないバイブを妙に意識し締め付けてしまう。
かちりっ。
「あンッあっあぁぁぁぁーーーーッッ!!」
埋め込んだバイブにスイッチを入れ、ぐりっと奥に押し付けると彩は身体を震わせまたすぐに達してしまう。
目の前で過剰に乱れる彩の姿を眺めながら史乃はまたスイッチを切りゆるゆると抜き差しを始めた。
強い振動ですぐにイってしまったせいか彩の意識は完全に秘部に入れられたままの
バイブに集中してしまい、緩い抜き差しだけにも反応してぴくんぴくんと身体を震わせている。
「またイっちまったなー…これさー、さっきみてーに強い振動入れたままいっぱい出し入れしたら彩どうなっちまうんだろーな」
「え…あッ…ぁ…」
「奥のイイトコ当たるようにコレ、グッチャグチャ掻き回していー?」
「あ…あッ…」
ウンともイヤとも答えられずに視線を逸らした彩の顎を捉え、決して強引ではないが
正面を向かされ楽しげな顔をした史乃に視線を合わせられる。
「彩さっきよりもすげー濡れてる。もしかして期待したー?」
「あっあぁっ史乃っしのぉっ」
緩い動きはまた少しずつはやくなり、先端が奥をつつくように動くと自然と彩の腰は揺れ始めていた。
「イッパイしてやるからなー」
「ひっあっ…んくぅッあっアァァァーーーーーッッ!!!」
かちっとスイッチを入れられる音が聞こえると同時に振動したバイブが彩の最奥に
押し当てられる。今度は押し当てられるだけではなく激しく抜き差しを繰り返し彩は悲鳴に近い声を張り上げていた。
「あぁッしのおぉっそこっそこはぁッあぁんッイク…イっちゃ…アァァァ………………!!!!!」
強すぎる快感から無意識に逃げようとした彩の腰を捕らえ、引き寄せてぐりっと強く
バイブを押し付けると最後は声にもならず口を大きく開かせ激しい絶頂を味わわされる。
吐き出された精は彩の腹や胸にまで飛び散っても史乃はバイブを抜こうとはしなかった。
「前も後ろもヌレヌレグチョグチョだな彩。すげーやらしー…初めてのバイブそんなに気持ちいーのか?」
「うあっあんっあぁっあんッ」
口調はいつも通りなのに零す言葉は余りに卑猥で秘部を抜き差しするバイブを動かす
手は激しさを増す。吐き出した精と蜜にまみれさせながらバイブをくわえ込む彩の秘部をれろれろと嘗め回していた。
「昨日だっていっぱいイかせてやったろー?なのにすげーイキまくり」
史乃の舌が上に移動し彩の雄の先端を軽く舐めた後一気に根元まで口にくわえ込んだ。
「あぁっあっあぁぁんッもぉ変になるっ…あッ……アァァァァーーーーッッ!!!!」
咥内に含んだままキツく吸われ、バイブ攻めも相まって史乃の口に精を放っていた。
「なっちまえばいーだろ…」
雄を放されたのはその言葉をしゃべっている間のほんの僅かでまた口に含まれてしまい史乃の舌はねっとりと彩の雄に絡みついた。
空いている手は彩の胸に伸び、唾液でぬるついた乳首を指で捏ねたり時折摘み上げたりと両の乳首をかわるがわるに悪戯される。
胸を弄られている間も秘部に抜き差しを繰り返していたバイブはやがて最奥に強く押し付けられた状態で止められた。
かちっ。
「アァァァァァーーーーーーッッッ!!!!!」
小さなスイッチ音が彩の耳に届いたかと思うとバイブの振動が一層強くなる。
強い振動のままで奥―――気持ちのいい場所に押し付けられ彩の腰が前後に小さく揺れた。
「あぁんっ史乃っしのっしのぉぉっあンッあぁンっあンッッ!!!」
もう意味なす言葉を発することも出来ずにただ史乃の名前を呼ぶ彩の腰を抱き、
しゃぶっていた雄を離してバイブを咥え込んでいる彩の秘部に顔を近づけた。
「やらしくてすげーイィ眺め…彩のココがヒクヒクしてんのよく分かる。イキそーなのか?」
「あっしのぉッイクっイクっイクぅぅぅッッ!!!!」
「イけよ彩、アンタがやらしー声出してココからいっぱい出すとこ見せて」
「史乃ぉっアッもぉ…あンッあんッア…ァ………………………!!!!」
人差し指で軽く先端をつついてやるとそれが追い上げとなったのか、彩はガクッガクッと腰を断続的に大きく揺らし勢い良く精を放つ。
最後の一滴まで吐き出す様をじっくり眺めた後、ようやくバイブのスイッチを切って史乃は身を起こす。
「イク時ヒクヒクさせてるとことかまじ絶景だなー彩」
「あぅっあ…あ…あぅ…んッ…あんッ!」
ぼろぼろと悦の涙を零して泣き喘いでいる彩の頬に口付けバイブを引き抜くと、
それにさえ何度も達した身体は過剰なまでに敏感でぷるっと彩は腰をくねらせた。
「…………のに…」
「んー?」
ぽそっと彩が何か呟いたので史乃が彩の唇に耳を近づけると、恥ずかしそうに少しだけ
沈黙した後まるで内緒話でもするかのように両手を史乃の耳に添えて話し始めた。
「…あんなの入れられて恥ずかしいって思ったのに…なのに気持ちよくて…近くで史乃が
俺がイク所見てるって思ったらすごい興奮してとまらなくてっ……んっ…」
耳を擽る可愛い恋人の可愛い言葉。自ら与える行為で興奮した愛しい人に対し欲情しない男がいるだろうか。
史乃は湧きあがる感情のまま彩に熱っぽい口付けを施し続きの言葉を奪う。
「あふ…史乃っ…んぅ…すき…」
目を閉じてそれを受け、彩は唇と唇の間に僅かに空いた隙間からそう囁けば、一度離して潤んだアクアマリンの瞳を見る。
彩はそれからよろよろとしながらも起き上がって首にすがりつき、史乃の頬や瞼にキスを落とす。
「…史乃…好き…好き…すきっ…」
好きと繰り返し抱きついてくる彩に対し一層愛しさは増す。
腕を回し、彩の身体をきつく抱きしめ返すと気持ちよさそうにすりつき全身を預けてきた。
「彩…すっげ愛してる」
「ん…俺もすっげ愛してる」
史乃の唇を啄ばみながら彩の片手はするすると下におりていく。
「だから今度は…俺が史乃の…」
「…………してくれんの?そのかあいーお口で」
彩が行った手の場所に史乃は正直驚いたが、同時に嬉しくもなり彩の唇に指を這わせると、
こくんと頷きながら彩が舌を出してその指を舐める。
指先を撫ぜるこの舌がどんな風に快楽を与えてくれるのか史乃は期待に身をひっそりうずかせ
雄辺りに当てている手の方へと顔を近づける彩を見守った。
「うわ…でかっ」
史乃のジーンズの前を寛げ、雄を取り出した彩が独り言のようにそんな声を漏らす。
彩をバイブで悪戯した際、史乃の名前を叫びながら何度もイク所を見たせいもあり、史乃の雄は既に硬く張り詰めている。
SEXの回数はそれなりにはなるがこうして彩にしてもらうのは初めてのことで、
そういえばあんま見せた事なかったなーと史乃は考える。まーハラいっぱい喰わせてはやってたけどー?などと付け加えながら。
「お褒めの言葉光栄でーす」
それこそ穴が開く勢いでまじまじと見つめられ、おどけた返事をしつつも視線でも興奮するって本当だなどと内心は期待にうずいていた。
「ちゃんと咥えられっかな…」
ためしに、とういうようにちろちろっと舌で舐めたあと、ゆっくりと史乃の雄を口に含んでいった。
「んむ…ぅ…ん……」
痛みを与えないように唇で歯を覆い、舌で丹念に舐め上げる。
先端部分を強めに吸うとじゅるるっと思いのほか大きな音が立ってしまい慌てて口を離してしまうが、
恥ずかしそうにながらも両手を雄に添えて愛撫を再開した。
『一応知識としてはあるけど実際するのは初めて』といった慣れない動きではあったが、
なにやら一生懸命やっている姿はひどく健気でいて扇情的に史乃には見えた。
それが惚れに惚れぬいた相手となれば尚更に。
「史乃…気持ちいい?」
両手で扱いたまま彩が見上げ、小首をかしげながら問いかけてくる。先端に唇を押し当てたまま
しゃべる振動があまりに心地よくて史乃はすぐに言葉が出てこなかった。
「…………ん…すげー気持ちいい」
髪の毛に指を絡めながら戻ってきた史乃の返事が嬉しかったのかほわっと笑みを含ませる彩の顔。
「あーもー…だから可愛すぎだっつーの」
「あッ」
続きをしようと頭を下げかけた彩の身体を仰向けに倒し、足を開かせて身体を割りいれてくる
史乃に戸惑った視線を送るが、史乃は構わずぐいぐいと身体を進めていく。
「待って史乃…続きッ…まだイかせてな…あんっ!」
ぐりっと秘部に押し当てられた雄の熱さと硬さに彩の口から漏れる短い嬌声。
「もー待てねー。今すぐナカ突っ込みてー…」
「あ…あッアァァァァッッ!!」
そのまま史乃が中ほどまで入れた所で彩は精を吐き出しており、彩の身体に散った濁った雫を見た史乃は好色げに笑う。
「彩、俺のまだ全部入ってねーぞー。あんたも実は欲しくてたまらなかったのかー?」
「史乃の…アレっ…口に全部入りきらないくらいすごく大きくてっ…それが俺の中にって考えたら……あんッ」
「考えたら欲しくなっちまったかー?ってかコレ、あんたが舐めてデカくしたんだろー?」
「…あッ…あンッッそこッ…アァァァッッ!」
「そこってココのことかー?さっきバイブでいっぱいぐりぐり押し付けたトコー…」
そのまま根元までじゅぷっと一気に貫き、雄の先端をバイブでたっぷりと攻め上げた部分に押し付けてやる。
何度もイかされ余韻を引き摺る身体は従順で、蜜を溢れさせたのか彩の内壁はさらにぬるつき史乃の雄に絡んで心地よい悦を与えていた。
「なー彩…今からあんたのココに…やらしーこといっぱいしてメチャクチャにしていー?」
「うん…して…史乃っ…滅茶苦茶にしてっ…俺のこといっぱいッ…んはあぁッあンっあぁぁぁぁッッ!!!」
迷いもせずにそう言いさらに奥へと誘うようにくいくいと動かす彩の腰に
合わせて最奥を雄で圧迫してやるとあられもなく彩の口から漏れる悦を帯びた悲鳴。
バイブで悪戯した時よりもずっとずっと感じて乱れる様に史乃は僅かに困った顔をした。
「そんな簡単にウンウン言うなってー…マジでケダモノになって彩のことそれこそメチャクチャにしちまうぞー?」
口先だけの理性は彩の言葉でいとも簡単に崩壊する。
「なって…ケダモノになって俺のこと…………きて…史乃が…欲しぃ…」
「…彩」
「あ…ぁ…アァァァァァーーーッッ!!!」
囁くように名を呼んだと思うと奥をいつもよりずっとずっと強く突かれ今までにないくらいの悲鳴を彩は上げる。
「ひぅ…あッあァァァ……ァ…………………!!!」
内側から押しつぶされてしまうような突き上げに彩は精を吐き出してしまうが、達しても史乃の動きは
止まらずぐちゃぐちゃに内部を雄でかき回され絶頂感が止まらず最後には声を出すことも出来ずに身体を歓喜に打ち震わせた。
「あっあンッあうぅぅんッ…あんッ」
長い長い絶頂感をたっぷりと味わわされた後呼吸を整える間もなく彩の片足を高く持ち上げてくる。
「すげー彩もうビンビン」
「あ…ァ…」
言われて思わず自分の足の間を見ると、ついさっき達した筈なのにもう雄が頭をもたげているのが見えた。
「あッあッ俺…もっとっ…気持ちよくなりたい…史乃と一緒にっ…いっぱい気持ちよくなりたい…んぅっ」
彩が喘ぎ混じりに腰を揺らして強請る声は甘く、誘う身体は艶かしく。
史乃の欲は煽りに煽られる。
「あー…マジたまんね…」
「んぅっんっんっ…あふっんーーーーーッッ!!」
感情に任せるまま史乃が腰を揺さぶると一つに繋がった部分からじゅぷじゅぷといやらしい音を立てて彩の蜜があふれ出していく。
彩自身にもよく見えるように史乃が彩の片足をさらに高く持ち上げ、史乃を受け入れる
秘部を見た事で興奮したのだろうか、立ち上がった雄の先端からも雫を垂らし秘部の蜜と混ざり合ってシーツをぐっしょりと濡らしていった。
「あッイ…くぅ……史乃っ史乃っあぁぁ史乃ぉぉぉぉッッ!!」
立ち上がった雄を指で扱かれ精を飛び散らせても史乃はそこから手を離さない。
秘部からあふれ出た蜜をたっぷりと彩の雄に絡ませぬるぬると扱けば何度も
昇り詰めている筈の彩のそれはもっと欲しい。と史乃に訴える。
「まだまだ…ケダモノの愛、いっぱい受け取って?」
「うん…来て…きて……しのぉ…もっと…し…の…」
迷わず頷く彩の唇に口付けた史乃の行為は、紅く色づく彩の秘部を苛む雄の激しさとは打って変わってどこか慈しむように優しかった。
* * *
「……ん………」
頬を擽る涼しさに彩はうっすらと目を開ける。
開いた窓から入る風だと理解し、それからころりと身体を反転させると彩に膝枕をしていた史乃を見上げた。
「起きたかー。おはよー彩」
「おはよっていうのかこういう場合…ってか今何時だ?」
まだ少し眠いのか手の甲で目を擦っている彩の頭を撫でつつ史乃は部屋の時計を探した。
「昼の1時半過ぎだな。あーあとなー?」
「ん?」
「今ここで色々ヤった事はまー置いといて、らこにだけは今回の一件話しておいたぞー。
さすがにアイツにゃー隠しても無駄っぽそーだからなー」
「そだな…ありがと史乃」
「それとらこからの伝言『お夕飯ものすごく期待してるから』だってよー」
「ん…………夕飯………?………あ……おあぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」
大声を出してがばっと起き上がり、それから彩は脱力してまた史乃の太腿に頭を乗せ倒れこんだ。
「やばい…俺今日朝食当番だったのに今昼の1時半とか!遅れましたとかそんなレベルの問題じゃねえぞこれ!」
「いやーこれは流石に買出しすっぽかした俺も悪かったわー。せめてらこくらいには事前に状況説明しとくんだったなー」
買出し当番の史乃、朝食当番の彩が何の連絡もなしに2人で姿をくらませ、そして様々な経過が
あったにしろお互い感情に任せるまま日の高い内から求め合い全て終わった今だからこそ湧き上がってくる『やってしまった』感。
桜子はそれらを大体察し、恐らくは夕飯で手を打とうと云う意味でのこの伝言だったのだろう。
「…………よしっ、寝っころがっててもはじまらないな」
足に反動をつけて起き上がり、彩は両手でぎゅっと握り拳を作って見せた。
「今日は朝食当番すっぽかしたお詫びに夕飯は全員の好きなもの1品ずつ作るぞ!!1時半だから…買い物仕込み含めても全員分間に合うな」
「んじゃー俺も同罪って事で手伝うなー。まずは買出しかー?」
「おっ助かる史乃頼む!多分すげー買い物量になると思うから荷物入れる用にカート
空っぽにしといてくれるか?えーと服服…俺の服どこだ俺の服っ史乃どこに脱ぎ飛ばしたんだよ!」
「………っつーかあんた元気だなー」
意識を飛ばすまで抱き潰した筈の彩がそんな事等無かったかのようにけだるげな気配1つ見せずに
活発に動き始めたのを半ば感心してみていると、ベッドの下に落ちていた服を拾い上げた彩は不思議そうな顔で史乃を見た。
「何言ってんだよ当然だろ。史乃からいっぱい元気貰ったんだから!」
「へ?」
今度は史乃が不思議そうな顔をすると彩が史乃の側に寄り添いきゅっと抱きついてくる。
「史乃とキスしたりこうやってるとすごく幸せな気持ちになるんだ。嫌な事されたりとかしても…俺がこうやって元気なのって史乃のお陰なんだぞ?」
それこそ純真無垢な顔でにこっと笑う彩に反し史乃の中に走るおよそ清純とは言えない心。
「バイブ入れたりとかそーゆー恥ずかしい事いっぱいされてもかー?」
「何度も言ってるだろ、史乃ならいいって…してるのは史乃だから……………気持ちよかった」
恥ずかしそうにしながらもすり…と頬に擦り寄ってくる彩に対しどんどん大きくなる邪なそれを
止めようとはしないというよりもむしろ止めようがないと言ったほうが正しいか。
史乃は心の中で抗う事を諦め彩の身体をころんとベッドに押し倒していた。
「…ちょっ…史乃、買い物は?」
彩に覆いかぶさる史乃の吐息は熱い。
「あーとーでー…」
「でも早く行かないと市場の野菜売切れちゃうだろ…んぅッ…あッ」
首筋を這う史乃の唇で言葉は途切れ、乳首を軽く指の腹で弄ってやればすぐに硬くしこらせる。
「俺の専用ルート使えば多少遅くなっても買えるから大丈夫だってー…ってか、あんたがかわいーのがいけないんだからなー?」
「あ…史乃…あ…ぁ…あンっ…」
彩の手から掴んでいた服がぱさりと落ち、その手は拒まず史乃の背中に回る。
すがりつく腕の心地よさに酔いしれながら史乃は散々余すことなく愛した恋人を再び貪り始めた。
「すっげ愛してる」