白い砂、黒い砂。



攻城戦で多少変わることがあるものの、ここ数ヶ月の色即是空のギルド告知は
【○○日後、日帰りブラジリス海水浴ツアー!!日程空けとけ!】
の固定になっていた。○○の部分の数字は日が経つごとに少なくなっていき、そして今日の告知は、

【明日は日帰りブラジリス海水浴ツアーだ!いえあぁぁあ!!】

狩りなどではなく、純粋な『遊び』ということもあり明日の天気、持って行く物、向こうに着いたら何をするか―――。
その日のギルドチャットで話す内容も自然と明日の話になっていた。

「外すごい暑そう。ここは結構涼しいのに」

その日のプロンテラは石畳の照り返しもあってかなり暑いらしく、外で露店を出している商人らが噴水の水で
頭から水を被ったり水で湿らせたタオルを顔に当てたりしているのを、全開にしたホームの居間の窓から桜子は見ていた。

「ここの間取りのせいだろ、居間と台所に大き目の窓あるから風通しいいし。ほら出来たぞ」
桜子の隣に立ち作ってきたアイスティーのグラスの1つを渡し、彩は手元に残ったもう一つをぐびぐびと煽った。
「ありがとう。それにしても彩、今日の告知は何時にも増して正直だね」
一気に飲み終えぷはーっと一息ついた後、きょとんとした顔で桜子を見た。

「なんだよらこお前だって楽しみだろ?楽しいことは楽しいって素直に思いの丈を告知にぶつけるのも悪くないと思うぞ!」
「悪くはないけど楽しみすぎて去年夜中の2時に起きちゃったっていう彩のようには流石に」
「らこお前人が忘れかけてた過去をっ…」
「そのまま眠れなかった時間を費やして作った5層になったゼリーをお陰で食べられた訳だけど。今年も期待していい?」
「デザートは前日に全部準備して今年はちゃんと寝る!」
「そして夜中に目が覚めてデザート第2段に取り掛かるんだね」
「うぅ〜ッ…」

からん。とアイスティーの入ったグラスの氷をストローでつついてじーっと見つめる桜子から彩は目を逸らすが否定はしてこない。
なんとかそこから彩が話題を変えようと会話を探している時に、幸いにも史乃がギルドチャットで話しかけてきた。

『彩マスー今ツキとの精算終わったー買い物行くんだろー?行くならカプラ近いからカートん中今から空っぽにしちまうぞー』
『あ、うん!頼む史乃助かる!!』
『んー、なんか助かるが別な意味に聞こえたんだけど俺の気のせいかー?』
『全然全然気のせいだぞ!おーいこれから明日の買い物行くんだけど行けるのいるかー?』
『行きたい行きたい!!あと10分で狂気切れるから待ってー!!』
『ちゃんと待っててやるからきっちり狩ってこい莉良。他はー?』
『四季菜さんと今狩り中なんで終了後に合流します』
『参加不可・氷片収集中』
『呂揮了解ー。リィは頼んでた氷片目標数集まりそうか?きつそうだったら応援に行くぞ』
『お気持ちダケで?』
『んじゃ問題なさっぽだな、何か買って欲しいのとかあるか?』
『モロク肉屋のスペアリブ』
『OK、史乃に交渉してもらって美味しそうなの買ってきてやるよ』
『彩マス、買い物ってアルベルタでもしますか?俺今船着場にいるんですけど』
『モロクで肉買ってから行くつもりだからそこで待ってて琉風』
『分かりました』
『彩マス…もう行ける…………』
『どした莉良?さっきあと10分言ってたろ、まだ2分くらいしか経ってないぞ』
『今西カプラ前…囲まれてセーブポイント戻されたよぉー!!』
『じゃあ莉良くんそこまで待ってて、今ヒールしに行くから』

ギルドチャットでそう伝え桜子は飲み終えたアイスティーのグラスを彩のものと一緒に手早く洗う。

「それじゃ莉良くん待ってるし行こっか」
「おうっ。うっわー外に一歩出ただけであっちーッ!」

ホームのドアを開け、外に出た彩が照りつける日差しの光に顔の辺りを手で覆いながら目を細める。

「ここ最近急に暑くなったよね。こういう日に海に入ったら気持ちいいんだろうな」
「うっわーなんかそれ想像しただけですげーワクワクしてきた!莉良拾ってとっとと買い物行くぞらこ!速度くれ速度!」

話しながら莉良の待つ西のカプラサービスへと小走りに向かっていった。

* * *

「彩マス、メロン買ってーあとパイナップルも!」
「さっきさくらんぼ買ったんだからどっちか!」
「う〜…じゃあパイナップル!」
「分かった、おばちゃんパイナップル1個!」
「はいよ。1番大きいの持っていきなさい」

アルベルタにある市場の店の1つである果物屋の前で、悩んだ末に莉良が選択したパイナップルを
彩は店番をしている優しそうな初老の女性から受け取り史乃のカートに詰め込んでいく。
「果物買ったし、あとは野菜と飲み物かな」
「あー裏側の店にあっからそろそろそっち行っかー」
桜子が隣の店から購入してきた品物を受け取り同様にカートに詰め、割れないよう
端に置いている酒瓶を撫でる史乃の表情は誰が見ても幸せそうだ。
「肉とー新鮮な野菜とー、とれたての魚介肴にして酒とかサイッコーだなー。うっはーマジで楽しみになってきたわー」
「あたし今年新しい水着買ったからそっちも楽しみだ〜♪」
「あーしまった、俺まだ用意してねーや。海パン何処しまったかなー」
莉良の言葉で用意出来ていないものを思い出し、記憶を辿っている史乃を見て琉風が思い出したように叫ぶ。
「あぁっ!」
「どしたのぉ?琉風」
莉良が小首をかしげて琉風を見上げると、それをものすごく困った顔で見返した。

「俺…海パン持ってない」
「んじゃー琉風は裸だぁ」
「そんなのやだよ莉良!」
「じゃあこれつけなよ、琉風にあげる♪」
「えぇっ!?」

莉良がポケットに忍ばせていたらしいアロエの葉を琉風の鼻先でぴらぴらと揺らす。

「琉風のってこんなちっせーので隠せるくらいのサイズだったのかー」
「史乃までからかうなってば!!」
「そうだぞ!通りすがりの人に琉風が裸族と勘違いされたらどーすんだっ!」
「ぷっ…裸族ときたかー。流石にその発想はなかったわー彩マス」
「えっと…どうしよう…!」

しばらく様子を覗っていた桜子が見かねて、というよりも一通りやり取りを見て
満足したという感じでおどおどしている琉風に助け舟を出した。

「琉風くん、私リヒタルゼンのポタ持ってるから今から買いに行ってきたら?
 あそこにあるお店で莉良くんの水着も買ったから男性物も置いてるはずだよ」
「でもこっちの買い物がまだ…」
「琉風くん裸族がいいの?」
「良くないです…」
「呂揮くんが生体工学研究所で四季菜くんとの狩り丁度終わった所らしいから
 そのままリヒタルゼン残って貰って一緒に行ってきなよ」
「はい、すぐ戻ってきます!」

「琉風くんの裸族、ちょっと残念だったかな」
「通りすがりの人がいまくる市場のド真ん中で裸族残念とか言うなッ!聞かれたらどうすんだぁ!!」

桜子の出されたワープポータルに琉風が入っていったあと、そうこぼした桜子を彩が大声で嗜めれば
すぐ側のメロンを購入した果物屋の初老の女性がくすくすと笑っている。

「ほら見ろ聞かれただろ!!」
「どっちかっていうと彩の声で裸族トークだってばれちゃったんだと思うんだけど」
「裸族トークとか言うんじゃねえぇぇぇぇぇぇッッ!!!」

「ふふふ、面白いねえあんたたち。楽しませてもらったからこれおまけにあげるよ」
初老の女性がそう言って差し出したのは先程莉良が迷った末に諦めたメロンだった。
「わぁっメロンだ!おばちゃんありがとう!」
莉良はそれを受け取り嬉しそうに両手で抱きしめる。
「これは裸族の勝利だね。あとで琉風くんにもお礼言わないと」
「どうでもいいから裸族から離れろぉ!!」
ループする彩と桜子のやり取りを果物屋の女性をはじめ、周辺の店の人間が面白いものでも
見物するかのように傍観していた事を彩だけが気づいていない。
そしてその後の買い物には「面白かったから」と彩からすれば意味不明な理由で
ついてくるおまけの品々にただ首をかしげるばかりだった。

* * *

「おぉぉーっすっげえいい天気だな!!」
船から降りブラジリスの白い砂浜に足を踏み入れて第一声を発した彩はその先に広がる海を見渡す。
「俺ちょっと回り見て来るからみんなそれまで待ってろよー!」
彩は海へと走っていき、残ったメンバーで史乃のカートの中に重量ギリギリまで詰め込んだ荷物を下ろし始める。

「なぁ。琉風って泳げるの?」
一緒に敷物をひいている呂揮に問われ琉風が頷く。
「うん。修道院にいた頃に近くの海で結構泳いでたから」
「海パン持ってなかったのに?」
「えっと…」
「もしかして裸で?」
「う……うん」
「琉風ってやっぱ裸族だったんだ」
「あの時はそういうの自分で買える自由なお金がなかったんだってば…!」

ぱさんと目の前に莉良の服が放り投げられ琉風は反射的に声を潜める。
服の下に水着を着込んで完全に準備万端状態の莉良には幸い聞こえていなかったようで、
からかい材料になりかねない会話を聞かれていなくて良かったとほっとする琉風の心情知ってか知らずか、
下のパンツを脱ごうとした所できょろきょろと海岸を見渡した。

「彩マスまだ見回りしてるのかなぁ」
「念のためアクティブMOBがいないかどうかトメさんに海上見てもらってるみたい。確認取れるまで海に入らないでだって」
「ふーんそっかぁ。あれ?史乃もいない」

カートから道具を下ろしていた史乃がいつの間にかいなくなっていた。

「んー大丈夫かな…あっ史乃」
海上を飛んでいるトメが警戒する様子も無いことから砂浜にいるメンバーに
合図を出そうと海に背を向けると丁度前方に史乃が立っていた。
「こっちの変なヒドラって全然攻撃してこねーんだな」
「うん、海の方もトメさんに見てもらったけど危害を加えるようなのはいないみたいだ。もう泳いでもいいぞ…って、史乃?」

そのまま身体と身体が触れ合うくらい史乃が側に近づいてきて彩は腕にさりげなく触れながら史乃の顔を見た。

「なー、キスしていー?」
「うぉあぁぁああああああ!?」
「あーあーそのままそっち行ったら服濡れるってー」

叫んで後ろに下がろうとした彩の腕を掴んで自分の胸の中に引き戻すと彩は顔を赤くして目を泳がせている。

「なっ…なんだよ突然…!」
「いやなんとなーく。やー?」
「嫌っていうかっ通りすがりの人に見られるかもしれないし…!」
「じゃー見てなかったらいーんだろ」
「あっ…と…見てなかったら………いいけど…でも……!」
「彩」

『集中力向上!!』

近づいてくる史乃の唇が触れる瞬間彩がスキルを発動させる。
それによって姿を見せたのは2人の前で様子を覗っていたであろう莉良だった。
「…………………………エヘェ」
「エヘェ、じゃない莉良何してんだ!」
「史乃と彩マスがちゅーしようとしてるとこ見てたのぉ」
「馬鹿正直に白状するんじゃねえええええッ!!!」

『ディテクティング!!』

トメが戻り、彩の頭上でくるりと回って小さな風を起こせば
3人から少し離れた誰もいなかった場所から今度は呂揮が姿を現した。

「呂揮!お前もだぁッ!!」
「あ…やっぱり見つかっちゃったか残念。彩マスの可愛い所が見れるチャンスだったのに…」
「うっさい可愛いとか言うなぁ!!」

まー実際いつでもどこでも何しても可愛いんだけどなーというノロケ言葉はひとまず史乃の胸の中に仕舞う。
さらにからかおうとでもしたのか口を開きかけた莉良の頭を史乃は自らの大きな手でぐしゃぐしゃと撫でた。
「おらー彩マスから遊泳許可出たからリィ達にも伝えてこーい。早く泳ぎてーんだろ?莉良」
「うん、いってくるー!!!」

海で泳ぐことを優先したのか莉良は行こうとして、それから一度立ち止まりにやにや笑いながら彩を見る。

「ねね、彩マス。ちゅーはしないのぉ?」
「うっさいはやく伝えてこいぃぃぃいいいッッ!!」
「はぁーい!!」

きゃははっと笑いながら莉良は呂揮と共に砂浜で準備を始めた桜子らのいる場所へと走っていった。

「っとにあいつらときたら!史乃の恋人になったって言ってからあぁいうことばっか……んッ………」

最後まで言い終わらないうちに史乃の唇が彩の唇で塞いでいた。
彩の身体に回り、時折臀部に触れる史乃の手にぴくんぴくんと彩の腰が揺れる。

「んっ…ん……史乃っ…しのぉ…」
「んー…キスシただけだろー?」
「…だけって…尻触ってっ…ぁんッ…あンッ…」
触れていただけの史乃の手はいつしか彩の臀部をぐにぐにと揉みはじめ、離れた唇から切なそうな声を漏らしている。
「そんなヨさそーな声出してっとこのままヤ………………」
臀部を鷲づかみにして揉みしだき、逸らした彩の首筋に顔を埋めた史乃の声が中途半端に途切れる。
「…………………………わーったトメ、わーったって。自重すっから嘴のするっどいトコでつつくのやめろってー」
「うわートメさん!!ちゃんとトメさんの飯用意してあるから史乃は食うなっ食っちゃだめだ!!」
彩の肩にとまっていたトメが鳴きもせずにひたすら史乃の頭を嘴でグサッグサッという音が鳴りそうな勢いでつついていたトメを止める。
「コイツがつついたのは別に腹減ったとかそういう意味じゃねーと思うんだけどなー」
「とにかくトメさんに何か食べさせよ。ほら、史乃行こう」
「んー…」

史乃にとってはよさげな雰囲気の所を強制的に中断させられ相変わらずな所で
疎いマスターにあと少しだったのにという気持ちもなきにしろあらずだ。
それでも史乃の手を取り指を絡め、照れくさそうにしながらも手をつないで嬉しそうに笑う
マスターでありそして今は恋人でもある彩に、こういうのも悪くねーかと
心の中で呟き史乃はその手に引かれるまま砂浜を歩いていった。



「いいよなぁここ、ヒドラはいるけどアクティブじゃないし。今日はのびのびと泳げそうだ」
「もしかして今までは違う場所だったの?」
脱いだ服を荷物袋にしまいながら呂揮にそう尋ねれば同じように服をしまった荷物袋を琉風の隣に置き、
そうだよと上目遣いに答えた呂揮はその時のことを思い出しているようだった。

「コモドとかココモビーチとか。ココモビーチってオットーとかアクティブのMOBがいるからまずは
 遊ぶために周辺の『掃除』からだったね。泳いでる間も武器所持しながらだったし」
「そうだったんだ」
「適度に刺激があってそれはそれで面白かったけどね」

「琉風ーこっちきてこっちきて魚がいっぱいいるよー!!」
既に水着姿になった莉良が少し離れた岩の上から手を振っている。
「どこ?莉良」
「ほらほらあの辺」
莉良の居る岩場まで登ってきて琉風が莉良の指差す場所を見下ろすが、海草こそ生えているものの魚の姿は見えない。
「魚いるの?見えないけど」
「もっとよく覗いてみなよ」
莉良がくすくす笑いながらあとから来た呂揮と一緒に背後に回ったことに琉風は気づかず、さらに身を乗り出して海の中を覗き込んでいる。
「え…やっぱり見えな…………わぁぁぁッ!!」
2人に同時に背中を突き飛ばされ、前のめりになっていた琉風はその場で堪えることもできずに海の中に落ちていった。

ザバーンッ

「きゃははははッひっかかったひっかかったー!!」
「琉風いくらなんでもあっさりひっかかりすぎだろ…!」

ぷはっと海面から顔を出し、騙されたことを知ると岩場で笑っている莉良と呂揮の2人を軽く睨み上げた。

『残影!!』

スキルを使って岩場に戻ってきた琉風は、まさか反撃がくるとは思わず完全に油断状態だった2人の身体を抱え、そのまま海へと身を躍らせた。

「わぁぁーッ!!」
「キャーッッ!!」

ザバーーーーーンッッ!!

呂揮と莉良の悲鳴が聞こえ、それから派手な水音と水しぶき。
「おぉ、琉風のヤツなかなかやるな!てぇいッ!!」
遅れて来た彩が続いて岩場を蹴り海へと飛び込んでいった。
「コト亀捕まえたー!」
水面から顔を出した莉良が砂浜から回ってきた理の頭に飛びついた。
「何が亀だ・降りろっつの」
「亀は人をのっけて泳ぐもんなの!いざあたしを背中にのっけて竜宮城にGO!」
そのままのしかかられ顔半分沈みかけるが理の目は笑いを含んでいる。
「んじゃお連れしましょうか?窒息スんなよ・浦島莉良」
「ほぇ?…ぎゃぼぉー!!」
2人の身体が沈み、しばらくしてから莉良だけが顔を出し空気を求めて荒い呼吸を繰り返す。
「ぷはっ!…コトみたいにそんな深くまで潜れないよぉ!」
ややしばらく経ってからやっと顔を出した理が莉良の手に数個の貝を渡した。
「入城オコトワリだな。おら・コレ史乃に渡して来い」
「ねえコト!ウニもとって!ウニもー!」
叫びながら貝を抱えて莉良は砂浜に向かってぱちゃぱちゃと泳いで行き理の姿はまた海底に消えた。

「なぁ琉風、あそこまで競争しよう」
呂揮が琉風に近づいて少し離れた所から見える岩を指差す。
「うん、いいよ」
「勝った方、今日持ってきてる彩マスお手製デザートで1個だけしかないマンゴームースもらいね」
「分かった!」
「俺もやるー!俺も一緒に泳ぐ競争するー!!」

琉風と呂揮が並んでいた2人に派手な水しぶきを上げながら彩が後ろから抱き付いてきた。

「彩マス泳ぐの速すぎでやる前から勝負決まっちゃってるじゃないですか!」
「んじゃハンデありで!それならいいだろ?もし負けたら…今日から1週間、職位『ブラジリス亀太郎ちゃん』に変更な」
「だからやめて下さいってば攻城戦会議前にそういう罰ゲームみたいな職位に変えるの!!」
「ハンデは10秒、おら号令かけるぞー!! Ready………Go!!」

号令早すぎですー!!えー!?と海辺から呂揮と琉風が叫ぶ声が聞こえてくる中、史乃はカートをごそごそと漁っていた。

「史乃くんは泳がないの?」
「海は逃げやしねーよ、どーせ日が沈む頃までいるんだし。それに今から準備しねーと
 昼に間に合わねーしな。アッチの方も一通り暴れたら腹空かせて戻ってくるだろーし」
言いながら史乃はカートから肉の塊を手にすれば、桜子もまた昨日のうちに仕込んでおいた野菜を取り出す。
「モロクでせっかくいい肉手に入れたんだ。こーいうのはじっくり焼いてナンボだろー」
「そしてそれを食べては飲むと」
「そーそー。それ毎年楽しみにしてんだぞー俺は」
理が収集してきた氷片でよく冷やされた酒も一緒に出して史乃が心底嬉しそうに微笑んだ。
「私も白ワイン飲もうかな。あ、莉良くんがリィくんの戦利品持ってきたみたい」
「リィの奴半漁人みてーにどこまでも潜って貝だのなんだの獲ってくっから海の幸には
 本当困らねーんだよなー…んじゃとっとと火の準備して一緒に焼いてやっかー」

* * *

「琉風くんどうかした?」
昼食も済み、史乃も含めた面々が再び海に出ていった昼下がり、ハンモックで1人本を読んでいた
桜子が鼻を指で摘みながら歩いてきた琉風の姿を目に留め半身を起こした。

「高波に巻き込まれて海水たくさん飲んじゃったんです。口直しに何か飲もうと思って」
「オレンジジュース、史乃くんのカートの右端のボックスに入ってるよ」
「はい、ありがとうございます」
「それにしても琉風くん。随分職位がかわいくなったね」
「……………………………はい」

オレンジジュースを口に含みながら恥ずかしそうに下を向いた琉風のギルド職位は『ブラジリス亀次郎ちゃん』になっていた。

「となると、亀太郎ちゃんは呂揮くんか」
「そうです、泳ぎの勝負してたんですけどハンデつきでも彩マスすごい速くて何回やっても勝てないんです。
 1回でもって粘ったんですけど結局勝てなくて職位変えられちゃいました」
「でも琉風くん、楽しそうな顔してる」
「はい、すごく楽しいです!」
「そっか、良かった」
「らこさんは本読んでたんですか?」

ジュースを飲み終え、琉風は読書を続けている桜子に近づいた。

「うん。いつもこの時間はこうやって持ってきた本読んでるの。今日はここでね」
「これってハンモックですね」
「丁度木陰になってるから涼しくて気持ちいいよ。もう一つあるから琉風くんも使ってみる?」
「はい、こういうのって初めてかも」

桜子のとなりにあるハンモックによじ登りころりと寝転がると、心地よかったのか琉風の顔から笑みが漏れる。

「本当だ、風が涼しくてすごく気持ちいいです」
「海で泳ぐのももちろん大好きだけどこういう風にゆったりすごすのも悪くないって思ってるんだ私」
「そう…です……ね………………」
「……………琉風くん?」

声が途切れがちになったので桜子が隣を見るとそこにはハンモックの上で寝息を立てている琉風。
あまりの寝入りの良さに目をぱちくりさせ、それからくすっと笑うとハンモックから降りてバスタオルを琉風の身体にかけてやった。

「あ、リィくん」

ふと立っていた場所に出来た不自然な影に桜子が後ろを見ると理が濡れた短い髪をかき上げていた。
「おら・趣味と実益の成果」
「この貝、パエリヤとかパスタに入れて食べたら美味しいねきっと」
受け取った大量の貝を袋に入れてカートに仕舞っている桜子の横に理が腰を下ろし、差し出された煙草を受け取る。
「ていっぱい泳いでメシ食って昼寝とかガキかよ」
ハンモックの上ですやすやと眠っている琉風を見て煙草の煙を吐きながら理が鼻で笑う。
「私達は毎年恒例だけど琉風くんは初めてだから楽しくてはしゃぎすぎちゃったんだよ。
 まだしばらく居るし寝かせてあげてもいいかなと思って」
足についた砂を軽くはらって桜子が立ち上がる。

「本も読み終わったし、私も泳いでくるね」
「あぁ・行って来い」
「そうだリィくん」
「あ?」
「最低30分くらいは誰もそっちに寄越さないから『安心して』」
意味ありげな桜子の言葉にタバコを咥えたまま理が口の端を上げる。
「20分で十分だ」
「そっか、分かった」

腰に巻いたパレオを結び直し、桜子は海へ向かって行った。
理は煙を大きく吐き出し短くなった煙草を砂の中に埋めると調理用に持ってきていた油を取り自分の左手にたっぷりと垂らす。
それから立ち上がってハンモックの上で眠り続けている琉風に近づいた。
理が側に来ても寝息が乱れない所を見ると完全に寝入っているらしい。
桜子がかけていったバスタオルをはがしても起きる気配は無い。
「んっ…」
パンツの中に油にまみれた手を忍ばせて軽く雄を撫ぜると僅かに身じろぎしたがまだ目を覚まさない。
さらに指を進めて手につけた油を秘部にたっぷりと塗りたくり指を1本進入させた。
「ん…んッ…ん…………」
断続的に琉風の身体が動き切なそうに眉を寄せている様を見た理は、深く口付け秘部に入れた指を動かし始めた。
最初から起こすつもりなのか指の動かし方は乱暴で、呼吸も困難なほどに深く琉風に口付ける。
「んっんぅんぅぅぅぅッッ…!?」
眠りから強制的に覚醒させられ、目の前にあった間近にある顔に驚き肩に手をかけ押しのけようとする。

「流石に起きたか」
「あぁッ…あッ…理…何してっ…」
「見て分かんねえのか?SEXスるための準備・だろ」
「ひあぁぁんっ!」

パンツの中に手を入れられたままの手が細かく上下に動き理の身体を押しのけようとしていた琉風の手の力が緩む。
それでも何とか今理が自分に対して行なおうとしている行為をやめさせようと身を起こして首を振るが
秘部に根元まで入れられぐじゅぐじゅと動かされる3本の指は止まる気配すらなかった。
「んくッあ…んぅ…んんッッ…!!!」
「声出せ。波の音で誰にも聞こえやしねえ・そうやって声殺した所で最後までお前が耐えれる訳ねえだろ」
小馬鹿にしたような口調と共に、唇を引き結んだ琉風の秘部は理の指によって激しく内部を掻き混ぜられていた。

ぐちょぐちょぐぷっぐちゃぐちゃぐちゃっ。

「あぁッあんっやはぁぁぁッあッはぁぁッひあぁぁぁぁぁッッ!!!!」
油の滑りでローションでされた時のような卑猥な音と波の音、そして呆気なく解けてしまった琉風の口から漏れる声。
誰かがここに戻ってくるかもしれないのに。誰がどこで見ているのかも分からないのに。
カラダが既に覚えている理の指は琉風のそんな不安をたやすく快楽で塗りつぶしていった。
「んッやァッあッあぁッあはぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
「前・自分でイジれ」
「あ…やぁ…やァァァッ……!」
「ヤれ・オナニーなんざもう慣れたモンだろ」
「やはぁぁあッ!…あぁッやぁぁッ…ことわ…り…おねがッ…いじってッ…」
「…………ドコを」
「…………」

理の耳に唇を寄せて琉風が顔を真っ赤にしながら何かを囁く。
「随分スケベなコト平気で口走るようになったな・口に出しても興奮スるようになったか?」
「ちがッ…やだ脱がせちゃやだぁっ見えちゃ…ヤァァァァッッッ!」
理が秘部の指を引き抜きいやがる琉風に構わずパンツをずり下ろして完全に脱がせてしまう。
脱がせたパンツを地面に投げ、外気に晒され雫を垂らしてそそり立っている琉風の雄をぐちゅぐちゅと扱いた。
「……あぁッ…アあァッあはぁアッアァァァァッッ!!!」
どんなに首を振っても扱く手は止まらず、今度はハンモックの網目から指が秘部に潜りこませ抜き差しする。
「口先ばっかで嫌がって・勃たせてるトコよく見てみろ」
「ひゃあぁッ!あッアァァァァァッッ!!」
奥に入れたまま中を広げるように大きく動く指に、理に抱きついたままで琉風は鳴きながら激しく首を振った。
「さっき言ったスケベな言葉大声で叫んでみたらどうだ?今よりもっとぐちょぐちょになるかもしれねえな」
「やだぁッもぉ恥ずかしい事言わないでッあぁぁぁそこぉっあぁんそこはァッッ」
「ヤダ・とかその恥ずかしい事口走ったヤツが言う台詞かよ。もっともっとソコを滅茶苦茶に掻き混ぜて・だろ?」
「アァァァァッッアァァッアァッアァァァァァーーーーーーーッッ!!!」

ぬちゅぐちょぬちゅっぐぷぐぷぐぷぐぷッ。

淫靡な音と共にびくんっびくんっとハンモックの上で痙攣する琉風の肢体。
放った精液は足の間からハンモックの網を伝い砂の上にぽたぽたと落ちては雫模様を作った。
「お前が指でイジられるだけで満足なんてシねえよな」
秘部から指を抜いて入り口を指先で弄び、精液に濡れた手を琉風の胸に塗りつけながら尋ねる理の手を震えながら掴む。
「……駄目……も……指だけじゃ…ッ…ひゃッ…………!!」
突然理が琉風の身体を抱えハンモックから引き摺り下ろしてきた。
理は体制を崩して下に落ちそうになった琉風をハンモックを支えていた木に背中を押し付け、そのまま両足を抱えた。
足を大きく開かされた状態で抱えられるその格好は琉風の羞恥を煽りに煽り、以前にアルベルタの宿で
抱かれた時もこんな風に恥ずかしいくらいいっぱい足を開かされた状態で奥を雄で突き刺され鳴きよがったことまで思い出してしまう。

「あっ理ッあぁんッあッこのカッコはずかしぃっ…あんっあァァァンッッ!!」
「木で影になってっから見えねえだろ・あんま暴れると見えっかもな…?」
「見られたくないッこんなのぉッあぁッあはぁぁあッ」
「浜辺で素っ裸になって・裸族とかもう否定できねえんじゃねえの?」
「やぁぁッもうそんな事言わないでッあッヤァッアァァァァーーーッッ!!!」

奥深くを理の雄が押し入り少しも耐えられずに琉風は嬌声を上げる。
されたことのない体制からのせいか貫く雄にはいつもと違う摩擦がかかって琉風の内壁を刺激していた。
しかも自分を隠してくれるものは目の前の理の身体を、背後の木だけ。
見通しの良い広い浜辺でこのような行為をしている事がすごく恥ずかしいのに気持ちよくて、
理の背中にすがり付いて出し入れされる雄を締め付けていた。

「あんッあンッあくぅッくぅんッあッあッあッあうぅんッあんッッ!」
ずちゅずちゅずちゅ。と突き上げられるたび琉風は短い悲鳴を上げる。
奥のイイ場所を突かれるだけでも気持ちがいいのに抱えられたままぴったりと密着し理の腹部と自分の
腹部とが肉の壁となって琉風の勃起している雄がぬりゅぬりゅと擦られ。人に見られたらとどこかで
思っているのに今の行為をやめて欲しくないという相反する感情でぐちゃぐちゃになりながら琉風の身体は絶頂へと近づいていた。
「あぁッイクうぅッ理ぃッ俺もぉイっちゃうよぉッアァァァッッ!!」
「イけ・誰が見てるかも分からねえ浜辺でエロ声吐いて存分にな…?」
最後には嬲るための辱めの言葉ですらイクための手段にし、身体を突き刺す理の雄に身を任せてしまう。
「イクッあァァあイクゥッあぁん理ことわりぃッあはぁッあッアァァァ……………!!!」
圧迫してくる理の腹部に精を垂れ流して身体の中に注がれる熱いものを背中に強く抱きついて受け止める。
「はぁ…はぁ…あぁ…あぁんッ…は…うぅ…」
下におろされ、自由になっても琉風は足を開いたまま激しく喘いでいる。理は自分が乱れさせたその身体を
堪能しつつ雄を引き抜き、名残りを残してヒクつく琉風の秘部に指を入れ中に吐き出した精液をかき出しはじめた。
「あ…ァんッ…あ…ことわりぃ…ん…んぅ…んぅぅ…ふぅ…んぅぅぅ…!」
キスをされ、琉風自らも舌を絡ませ達した余韻に酔う。掻き出された理の精液はほとんど間も空けずに
再び達し放ってしまった琉風の精液とで交じり合い砂の上に流れて白い砂を黒く色づけていった。

* * *

「おーし忘れもんはないなー。帰るぞーらこワープポータル!」
服を着た彩が最終確認と砂浜周辺を見渡している。
「まー莉良がこーなるのは予想してたけどなー」
史乃のカートで荷物に紛れて眠っている莉良を、それから理の背中で同様に熟睡している琉風を見た。

「イロイロはしゃぎすぎたんだろ?」

ニヤリと笑い言う理にものすごく納得した表情で史乃が頷く。

「あーOKOKー。はしゃぎすぎた訳ねー?」
「はしゃぎすぎたんだね」
「はしゃぎすぎちゃったんですね」
「そうかはしゃぎすぎたのか!琉風もまだまだ子どもだな〜」

史乃と桜子、そして呂揮が言った言葉と自分が発した言葉と意味が違えていたことを彩は知らない。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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