信じさせてあげるよ

 

『人を馬鹿にして!!』

まだ完全に癒えない鼻の頭を抑えたままハイウィザードはギルドチャットで金切り声を上げていた。
使えると思って雇ったホワイトスミスに裏切られたことを始めとし、アルベルタに集めた空即是色のメンバーの
監視役としてつけていたギルドメンバーは自分の知らぬ間に倒されてしまっていた事に加え、ゲフェンの宿屋からも
叩き出されてしまい今はフェイヨンカプラから少々離れた東屋の中でやり場のない怒りをもてあましている状態だった。

『ホワイトスミスが裏切りさえしなければ全て上手くいってたのに!
 しかもあの教授…一度ならず二度も僕の顔を殴ってっ!絶対に絶対に許さないんだからッ!!』
『まぁまぁ落ち着け?砦は捨てさせられたんだから』

すぐ側にいたプリーストがそう言って肩を叩いて宥めると、怒鳴ったこともあって
落ち着いてきたのだろうかハイウィザードの声が少しだけ穏やかになる。

『全部上手くはいかなかったけど、大切な大切な友達が取ったっていう
 砦は捨てさせることが出来たし今日の所はまぁこれでいいか…』
『いや。明亭はまだどこも落としてない』

明亭に行かせていたチェイサーの報告をハイウィザードは信用していなかった。

『まっさかぁ、ただアナウンスを聞き逃しただけでしょ?』
『いや、明亭のギルドフラッグはずっと空即是色から変わってない…どこのギルドも落としてないんだ……』
『何それどういうこと?僕がアイツに砦捨てろって言ってから1時間以上は経ってるんだよ?
 それなのにまだ誰も落としてないっていうの?』
『今明亭のエンペルームに入った所なんだが…ロードナイトが防衛してる』
『空即是色の奴?』
『いや別のギルドだ……嘘だろ?…まさかたった1人で今まで…………うわぁ!』

『ヘブンズドライブ!!』
『クローズコンファイン!!』

ハイウィザードに状況を報告していたチェイサーが澪による範囲魔法のヘブンズドライブで
強制的にチェイスウォークを解除させられ、すかさず呂揮がその動きを封じる。

「マスターに伝えておけ。今はお前如きに構っている暇はないと」

お前と話すのも正直時間の無駄だとでも言いたそうな表情で死神の名簿をすれ違いざまに
動けなくなったチェイサーの背中に叩きつけ、前によろめいた所を呂揮が鳩尾に一発蹴りを入れた。
「防衛ありがとう杜若」
澪は背後で消えていくチェイサーを見もせずにエンペリウム傍らにいる杜若に近づいた。
「彩が大変な目に遭ってたってのに協力もしないでいた奴になんでそこでお礼?」
「俺達の大切な人が取ってくれた砦を誰の手にも渡らないようにしてくれたからだよ」
「だって俺奏さん大好きだもん、さも俺達が一番大好きなんです~みたいに彩と澪とらこで3人占めしないで欲しいよね~」
その言葉に少しだけ苦笑しながら杜若の鎧の上から肩を叩いた。
「………口先だけの礼じゃお前も不満だろう。あとで経費でも請求してくれ」
「もしかして経費ってさ。名声白スリムって言えば外部に絶対流通しない
 四季奈ちゃんの手作りポーションとかもらえちゃったりしたのかな?」
「そうだな…四季奈は同盟含めたメンバー以外に自分の品を回さないからね。
 でも杜若がそれを望むなら俺が四季奈に事情を説明して流してもらうけど」
「そっか~残念、料理は使ったけど回復剤系の消費はゼロだったんだよね」
「…ゼロ?これだけ長い時間1人で防衛してゼロな訳はないだろう」
「うん、でもゼロ。可愛い可愛いリトルプリンセスが俺のことずっと支援してくれてたから~」
「!?」
「じゃあねー」
ひらひらと手を振り杜若の姿はその場から見えなくなってしまった。

「澪マス、リトルプリンセスって誰のことですか?」

呂揮の問いかけに顎に手を当てて考え込んでいる様子の澪がややしばらくしてから答えた。
「あぁ、奏のことを言ってるんだ」
「奏さん…ですか?」
「奏は俺や彩、桜子よりも年上だったけど病気がちだったせいで年の割りに小柄で顔も幼く見える上
 女顔でね。それで杜若がよくリトルプリンセスって呼んでからかってたんだよ」
「じゃあ奏さんが杜若の支援を?」
「そんな訳ある筈ないだろう呂揮、奏はもうここにはいないんだから。きっと奏の取ってくれた
 このエンペリウムを本人に見立てて言っただけだよ」
「そう…ですよね。やっぱり」
「これが終わったら相当の礼でもするよ」
どこか自分に言い聞かせるような口調で話したあとメンバーに指示を出す澪をどこか腑に落ちない様子で
見ていたが、呂揮はそれ以上は何も言うことはしなかった。

『全員すぐ配置について。残り時間誰であろうとエンペリウムに触れさせるな』



「………………………ってことで本当にロードナイトが1人で防衛してたんだ、空即是色の奴らももう戻ってきて防衛始めちまってる」
プリーストからヒールを受けつつ倒され戻ってきたチェイサーからの報告にハイウィザードはふるふると怒りに肩を震わせた。
「もう…頭にくるッ!絶対絶対許さないんだから!次こそ…今度こそは…!」

「あ~いたいた」

暢気な声を発しながら近づいてきたのは杜若。
不機嫌そうな顔を隠しもせずにハイウィザードは杜若をその場から見下ろす。

「誰さ君…僕今すっごく機嫌が悪いから話しかけないでくれる?」
「そっかそっか、機嫌が悪いか~」

杜若はペコペコから降り、むすっとしたままのハイウィザードはもちろん明らかに敵意丸出しの
他のメンバーにさえ臆する様子も無く東屋に近づき、右手の篭手を外して拳を作るとハイウィザードの脳天めがけて振り下ろした。

ごんっっっ。

「いっ…………たぁーーーーーーーーーーーーいッッ!!!」

にぶい音と共に杜若の拳がまともにハイウィザードの頭上に直撃し、最初自分の身に何が起こったのか
分からず周りにいたメンバー共々唖然としていたが、じんじんと染み渡ってきた頭の痛みに情けない声を発して
ハイウィザードはその場所を両手で押さえながらうずくまった。

「いったぁいっ………もぉいきなり何するんだよ!!」
まだじんじんと痛む頭を押さえたまま涙目で杜若を睨みつける。
「え?何ってげんこつ。悪い事した子にふさわしいお仕置きでしょ~?それとも王道のお尻ぺんぺんとかが良かった?」
「何がお仕置きだよふざけるなっ!」
「えっとね?人質とって云々とかやり口が陰湿ってかチキンっていうか情けないっていうかね~そういうの
 やめたほうがいいんじゃない?あぁ、情報吐かせるために琉風ちゃんに…まぁ言い訳じみてるけど、うん。本気でね、
 本気でするつもりはなかったんだよ?でもえっちなことしようとした俺も大差ないかなあ。あぁちょっと股間触っちゃったから
えっちなことしたことになっちゃうのかな?まぁその辺は多めに見てよあははははははははははは~」
突然自分を殴りつけ、緩いしゃべりで笑い飛ばす目の前の男にハイウィザードの怒りは頂点に達する。
「五月蝿いッ!!!何エラッソーに説教垂れてるんだよ!」
片手で頭を撫でつつ立ち上がって杖の先を杜若の方に向けた。
眼前に突きつけられた杖の先を見ても握った槍を構える訳でもなく杜若は突っ立ったままだった。

『魔法力増幅!!』
『ストームガスト!!』

頭上に凍てつく風が吹き荒れそれはあっという間に杜若の身体を覆う。
メンバー外であり魔法範囲内にいる杜若は間違いなく直撃している筈なのにダメージを受けた様子も無く平然と立ち続けていた。
髪の毛についた小さな氷片を時折払う仕草は大魔法を受けているというよりもちょっとした小雪に見舞われたと言う例えがいっそ相応しい。
魔法が消えてしまうと杜若は少しだけ腰を屈めてハイウィザードに視線をあわせ微笑を浮かべる。
「やめた方がいいよ?SPの無駄遣いだから」
「ダメージが全然通らないなんて…属性鎧つけてたってそんなのある訳が…」
先程の怒りを引き摺ったままならばその笑顔は間違いなくハイウィザードの癇に触っただろう。
しかし本気で放った魔法に軽症どころか全くの無傷でいる男にハイウィザードが感じるのは苛立ちではなく脅威だった。

「う~んとそうだなぁ。ちょっと恥ずかしいけど~装備公開しちゃおっかなっ♪」
「!?……なっ…なに………こ…………れ……………」

杜若の現在の装備を見たであろうハイウィザードの顔がどんどん真っ白になっていく。
警戒態勢に入っていた他のメンバーも同じように杜若の装備を見たのだろうか驚きの表情を浮かべたまま
黙り込み、すっかり戦意を喪失した様子だ。

「も~そんなに黙って見つめられたらかきつばたはずかしぃ~ん♪」

そんな杜若の言葉すら聞こえていないのか沈黙し続ける周囲を軽く左右に首を振りしばらく状況を窺った後、
はぁ~あと大げさに一つため息をついてみせる。

「色々聞いてくるのにいちいち説明するの面倒くさいからって装備公開したらしたで大抵こうやって黙り込んじゃうんだよなぁ。
 その反応超さみしいよ……もうすごく悲しいからこのまま立ち去っちゃうんだからっ」
涙を拭くような仕草をして杜若は柱に繋いでおいたペコペコに跨ってから、
あぁ。と思い出した様子でハイウィザードに向かって話しかける。
「言い忘れてた。君のその往生際が悪いっていうかものすごいあきらめの悪いところ
 俺は嫌いじゃないよ?方向は明らかに間違ってるけどね~」
「………ッ……だから五月蝿いって言ってるだろ!!!」
「あはははははははは~んじゃまたね~」
ハイウィザードがその場からぶん投げた杖が当たる前に杜若は蝶の羽を握って消えてしまい、
ぽすんと空しい音を立てて杖が草の上に転がる。
「あぁもうどいつもこいつもッ……絶対絶対絶対絶対許さないんだからーーーーーーッッ!!!!!」
攻城戦アナウンスをかき消すくらいハイウィザードは大声で喚き散らした。

* * *

「んっ…………うわあぁッ!!」
頬に当たる感触がすごく気持ちがよくて、彩はそのぬくもりに何度か頬ずりをしながら目を開いた。
そして目覚めて視界に入ったホワイトスミスの服を見て飛び起きる。

「お、起きたかー?」
「あ……」

自分が今居る場所がホームのリビングのソファーの上で、自分の側に居た人物が安心できる相手・史乃だと
確認すると目覚める前と同じようにまた自分の身体にかけられていた毛布にくるまり史乃の腿に頭を乗せて横になる。
しかし、思考力がどんどん活発になり状況を理解してくると、また毛布をはがして起き上がった。

「………史乃ッ!!!」
「んー別に寝てていんだぞー?適度な硬さで心地いーって評判いいらしーし。俺の太腿」
「うん確かにすごく気持ちよかった…ってそうじゃなくてッ!史乃怪我は!?一羽にっ…」
「一戦交える前に逃げられちまったから怪我なんてしてねー」
「トメさんは!?あいつに羽つぶされたんだ…!!」
「琉風が見つけてヒールで回復させたから大事には至ってねーよ。彩マスの
 状況が状況だったしフィゲルのハンターギルドに引き取ってもらったってよー
 同盟含めて他のメンバーも今回の件で誰1人怪我とかしてねーから」
「そ…っか……………」

心の底から安堵の息を漏らす彩を見て、戦闘を回避させた桜子に密かに史乃は感謝した。
あの時桜子が止めなければ間違いなく交戦は必至、今の自分と同じように空即是色の傭兵を
していたという一羽を相手にするとなると史乃も無傷では到底すまなかっただろう。
ほっとしていたのも束の間、攻城戦アナウンスが聞こえてくると彩の身体に毛布を巻こうとした史乃に詰め寄った。

「そうだ…攻城戦…攻城戦は!?」
「俺たちが砦空にしてる間杜若が1人で防衛してたらしーぞ?だから明亭はどこのギルドにも取られてねー。
 今はもう澪マス達が戻って防衛に入ってるから心配すんなー?」
「待てよ…防衛に入ってるならなんで史乃がここに居るんだよ…」
「俺今日は行かねー」
「行かねーじゃないだろ行って来い!!俺はもう大丈夫だから明亭に………!」

それを聞いた史乃が険しい表情で手にしていた毛布を落とし、彩の手を掴んで互いの顔の間に持ってくる。
掴まれた彩の手は小刻みに震えていた。

「こんなに震えてんのに…大丈夫なわけねーだろッ!!!!!」

今まで聞いたことのない史乃の怒鳴り声にびくっと大きく身体を震わせそれきり彩が黙り込んでしまう。
「………悪ぃ、怒鳴って」
俯きながら震える彩の手を握ったまま静かにソファーの上に持っていき、その上にさらに自分の手をそっと重ねる。
「…5回に1回…いや、10回に1回でもいいから頼ってくれよ、助けてっていってくれよ…
 マスターだからって全部1人でしょいこんで苦しむなよ頼むから……!」






「………………首、締めるんだ」

痛いくらいの沈黙の後、ぽつりと話し出した声でじっと彩の震える手を見つめていた史乃は顔を上げる。
今にも泣きそうな表情で彩は手だけではなく肩まで震わせていた。
「俺が気絶するまで首を締めるんだ。手錠掛けられて部屋に1日中閉じ込められたこともあった……嫌だって
 言ってるのにやめてくれないんだ。俺のことを好きになって俺だけを見てって…」
恐らく一羽の間に起きた過去の話をしているのだろう。
史乃が黙ったまま頷いてその先の話を促す。
「それから少し経った後の攻城戦でいきなり背中斬りつけられた。俺が一羽の想いに応えられなかったから
 憎まれたんだって思ってたのに今でも愛してるって……でも…でもだめなんだ…あいつの望む通りに出来ないんだ!
 友達も、ギルドメンバーも大好きで大切で!!」
そこまで言った所で彩の目から涙が零れる。史乃は指でその涙を拭ってやってから彩の身体をそっと抱きしめた。
「空即是色のみんなも、ギルドメンバーも。トメさんもっ…みんなみんな大好きなんだ………一人だけ好きになって
 一人だけを見るなんて俺はできないっ……できない……ッ…………!」

「別に、出来なくてもいーんじゃね?」

とんとん。と彩の背中を何度か叩き優しく撫でて史乃がそう呟く。
「彩マスは彩マスのまんまでいてほしーけどな俺は」
「俺の…まんま?」
「あぁ、まんまはダメかー。ちょーっとだけ今より頼って欲しいしなー?」
それを聞いた彩が泣き笑いの顔になる。
「本当だよなー…琉風にはもっと頼れとか言っておいてさ」
「そーだぞ彩マス。ちっとは甘えろってー」
「そう…だよな……」
「もう…大丈夫だからー…」
「うん…うん………っ………」
ソファーに広がった毛布を拾い上げ史乃の胸に顔を押し付けて泣く彩をくるんでやる。
金色の髪に顎を軽く乗せて毛布越しからしっかりと抱き直してやると、彩は史乃の肩に額をすりつけ嫌がりもせずにその腕に収まった。


「……………」
それからどれだけの攻城戦アナウンスが流れただろうか。史乃の腕の中で大人しくしていた彩が突然もぞもぞと動き出す。
「彩マス?」
史乃が腕を緩めて彩の顔をのぞくと、彩は少しだけ史乃から離れてごしごしと涙の痕を拭い、よし。と言って史乃の顔を見上げて言った。

「史乃、俺大丈夫だ」
「…?」
「俺もう大丈夫だから今からでも攻城戦行って来い」
「だから俺は今日は行かねーって…」

またその話を持ってくるかと史乃はやや困った様子で頭を掻く。
例え今日の攻城戦が彩にとって大切な人の特別な日であると分かっていても今は彩の側を離れようという気にはなれなかった。
「行って来いって。俺も行くから」
「…は?」
聞こえてはいたがそれが彩の口から出たというのが信じられなくて思わず史乃が聞き返すが、
今度はゆっくりとそしてはっきりとした口調で彩は言う。
「俺も攻城戦に行く」
「行くってあんた…」
斬りつけられたショックで攻城戦に出ることが出来なくなった彩が再びその場所に赴こうとしている。
あまりに急な展開で困惑しているのが分かったのだろう。そんな史乃の手をとりしっかりと握った。
「あ」
思わずそう口に出るくらい、握られた彩の手からは先程までの震えは少しも感じられない。

「な?もう震えてないだろ…今なら戻れそうな気がするんだ」
「本当だー…さっきまで子猫みてーにがくがく震えてたのになー?」
「子猫は余計だ!!」
「あははーそのいじって下さいオーラかもし出すよーな切り替えし…すっかりいつもの彩マスだなー」
「……………さっきの、嬉しかった」
彩の声が急に小さくなったので史乃がその声を少しでも拾いやすくするために顔を近づけた。
「んー?」
「俺のまんまでいいって言葉、すごく嬉しかった」
「…………」
「ありがとな。史乃」
子供のように無邪気な顔で笑う彩の頬を撫で、史乃がさらに顔を近づけてこつりと自分の額を彩の額に
くつけてきたのでそれを受け止めつつも不思議そうに間近にある史乃の顔を見つめる。
「どした。史乃」
「んーとさ…………ケダモノにはなんねーけど我慢すんのはやめることにするわ」
「ん?」
「俺さー、相当すっげー前からだけど」
「うん、なんだ?」




「あんたに惚れてた」




「………………………………………………………………………は?」
「えっとーもっと具体的に言うー?ギルドマスターとして惚れこんでるとかそういうんじゃなくて
 恋愛感情含んだ惚れてるな。キスしてーとか恋人にしてーとかそういう意味だからー。OK?」
「………どっ……ぅわああああぁぁぁぁぁあああああああああああああ!?」
勢い良く史乃から離れソファーの隅っこまで後ずさった彩は顔どころか耳まで真っ赤になっている。
そんな彩の態度にあーあーやっぱりーと呟き史乃は小さなため息を一つついた。
「超激しいリアクションを見ると全然気づいてなかったかー…ある程度予想はしてたけどちょっとショックー?」
「ほ…ほれっ…惚れてたってお前…!!!」
「あー訂正訂正ー。惚れてたじゃなくて惚れてる。現在進行形?もー好きで好きでたまんねーんだよ。
 あんたが俺の恋人になったらいいなーってずっと思ってたんだぞー?」
「だからって突然惚れてるとか唐突過ぎもいいとこだろおがぁッ!!」
「仕方ねーだろ、惚れちまったもんは惚れちまったんだから………彩マスの背中の傷のことを知っても諦められなかったんだから」
背中の傷という言葉であれだけ怒鳴り声を上げていた彩が嘘のように静かになる。
「澪マスからあんたが一羽に斬りつけられたこと聞いて、そんなあんたに俺の気持ち打ち明けるなんざ
 ただあんたを追い詰めるだけみてーで出来なかった。でもだからといってあんたを好きでいるのは止められなかった」
黙ったままの彩の方ににじり寄り、短く切った彩の金髪に指を絡めながら頬をそっと撫でる。
ぴくりと身体を震わせたものの彩はそれ以上逃げようとはしなかった。
「独占してやりたいって気持ちは勿論ある。でもアイツ…一羽みてーに一方的に気持ち押し付けて
 傷つけてー訳じゃねー…あんたのこと大切にしてーんだ」
にじり寄った史乃の胸板が彩の薄い胸に当たり、腰に史乃の腕がゆるゆる巻きついても彩は顔を紅くしながらもじっとしている。
「俺だけを好きにならなくてもいい。沢山いる彩マスの大好きなヒトの中で一番に俺のこと好きになってくれればいいとは思ってるけどなー?」
「史乃…俺………んっ…」

続けようとした彩の言葉が途切れる。
史乃の唇で。

「んっ…んぅ…ん……」

舌を絡めるわけでもない、貪りあう訳でもない、ただ唇を優しく重ねるだけのキス。
史乃の腕は彩の腰に緩く巻きついているだけで逃げようと思えば決して難しくはない。
それでも彩は史乃の腕を、唇を拒もうとはしなかった。

「惚れてんだよあんたに。自分でももうどうしようもねーんだ…」
「…ぁ…んッ……」

唇を離しても彩は相変わらずじっとしたままで、史乃が抱き直す腕の動きに小さく喘ぎながら僅かに腰を震わせるだけ。
「さっき俺の腕ん中にすっぽり収まって大人しくしてたのでかんなーり自惚れたから」
「史乃ッ…」
「耐えて耐えてやっとちょっぴり進展したんだぞー?ちょっとやそっとで俺が諦めるわけねーって…………」
「ん…ぅっ…あ…ふぁ……んッ………」
再びキスをされてもやはり彩はその場から動かない。口腔内に史乃の舌が進入してきても、服の裾から手を入れられ直で胸をまさぐられても。

「逃げねーんだな」
「んぁッ…はぁ…ぁ…はぁッ………」

硬くしこった乳首を人差し指と中指で摘みあげるようにして離すと同時に唇で
彩の口の端から伝う唾液を吸い、小さく喘いでいる彩の髪の毛をかきあげ今度は額に口付ける。
「んぁっ…ん…」
服の中に差し入れていた手を引き抜く時微かに肌に触れる指にすら反応してしまう様子を見て史乃は少しだけ困ったような表情を浮かべていた。
「今日助けてくれたお礼代わりとかかー?まー今はそれでもいいけどー」
「俺……攻城戦の準備してくる!!」
史乃が彩から離れていったあと、そう言うや否や彩は自分の部屋に駆け込んでいった。

「ケダモノにはなんねーとか言ってるそばからすんげーやばかったー…感度ヨすぎだろあの人…」

ドアを閉め、そのままずるずると座り込みキスを与えられた唇を両手で塞いでうずくまる彩にはそんな史乃の言葉など当然ながら聞こえていない。

「なんだよいきなり惚れてるって………っつかあんなことされてなんで逃げないんだよ俺……
 別に礼代わりとかそんなんじゃ…あーもーっ………訳わかんねぇ………!」


* * *


チュンリムに入った瞬間明らかに空気が今まで感じていたものとは違うことを史乃は肌で感じていた。
史乃は直接的に関わることはなかったが今日は澪と彩、そして桜子にとって大切な人物『奏』の命日に
当たる攻城戦で、前半砦を捨てるという事態にも見舞われた。
しかしそれらは何れもあくまでギルド内のことであって外部からすれば空即是色が砦を捨てて落とせる砦が増えた。その程度の話のはずである。

それ以外で違う事といえば、彩がいること。

既に全快したトメを肩に従え明亭に向かっていく彩の後ろを史乃はついて歩いていたが、すれ違う他ギルドの
人間が彩のことを視線で追い、時たまその姿を指差しながら何かを囁き合っているのが分かる。
彩の方はと言えばついさっきまで自分の腕の中で小さく震えて泣いていたことなど感じさせない様子で
明亭の前に立ち、肩に乗っているトメの頬を指先で撫でた。
「戻ってきたばっかなのに本当ごめんなトメさん。また俺と一緒に…頑張ってくれるか?」
クルッと鳴いて彩の手に頬ずりする様は『いいよ一緒に頑張ろう』とでも言っているようだ。
トメが彩の肩を離れて空を舞い、腰におさめていた矢筒から矢を抜き取る彩の表情に淀みはない。
今まで史乃が一度も見たことの無かった攻城戦の彩の顔だった。

「行こう史乃」
「あいよー」

2人が明亭に入ると、ほぼ同じタイミングで1つのギルドが進入を開始した。
既に突入していたギルドもあり、彩と史乃の存在に気づいた瞬間進軍を停止しこちらの方に向かってくる。
進入してきたギルドもそのまま見逃そうというつもりはないらしく、矛先は間違いなく2人に向けられていた。

「うっわぁ挟みうちかよー…」
「史乃、伏せて」
「………?」

彩の突然の指示に疑問を抱きつつも史乃は素直に身を屈める。

『アローシャワー!!』

両側から来た集団の中に向かって彩が矢を放つと、ばたばたと1人残らず床に伏せていった。

「あー…………えーと…何が起こったんだ?」

屈んでいた史乃が立ち上がり、両側に倒れてしまっている人の塊を交互に見ながら呆気にとられていた。
相手とて対人装備を兼ね備えているだろう。手にした彩の弓がなんらかの特化だったとしてもアローシャワー1発で沈むとは思えない。
「弓に挿してるカードの状態異常効果がかかってんだと思う。白蓮玉の呪いとブリーズの出血と
 メタルラの沈黙とサベージベベのスタン。そんでもって矢がスリープアローだから…」
「いやいやいやいやちょっと待てー?」
淡々と説明する彩の肩を史乃がぽふぽふと叩く。
「それって全部低確率だよなー?そんな自信満々に全部かかってるとか澪マスが死神の名簿で殴った時の
 トンデモ補正じゃあるまいし………………ってもしかしてー?」
「そ、そのもしかして。俺が撃つと『確実』になんの」
「まじかよー……彩マスにもこんな反則的な補正あったんだなー…どーりであんたのことじろじろ見てた奴が多い訳だー」
「史乃がギルド加入した時俺もう攻城戦出てなかったから知らないのも無理ないか。元はと言えば
『明亭の死神』っていうのは澪とらこ、それと俺の3人のことを指して呼ばれてたっぽいぞ」
「そういえばらこが状態異常ローブつけた時の発動確立もありえないってか確実だったようなー…」

『ファルコンアサルト!!』

会話の途中で立ち直りが早かったのか耐性があったのか。倒れている集団の中でただ1人起き上がった
パラディンに向け彩の出した合図でトメが攻撃を加える。

「おぉー」

隙も無駄もないその艶やかな動きに史乃は無意識に感嘆の声を上げていた。
彩は戻ってきたトメにねぎらいの意味を込めてか一度頬ずりをし、倒れている集団がいるさらに先を指差す。
「ひとまず合流優先だ、このままエンペルームまで一気に行くぞっ!!」
「了解、マスター」
ぴょんぴょんと軽快に倒れている集団を飛び越えていく彩の後ろを、ぐえぇぇえぐおぉおお覚えてやがれえぇえと呻く
倒れている人間の上にカートをごろごろ転がしつつ史乃が追った。



エンペリウムルームに入ってすぐに待ち構えていたのは4体のソードガーディアン。
自分が守る砦の同盟ギルドであることを認識したガーディアンは彩と史乃の2人に
刃を向けることなく入り口周辺を歩き回り侵入者を待ち続けている。

「おやガーディアン殿、いかがなされました?侵入者はどんどん排除して頂かないと………」
人の4倍はゆうにあろうかと思われるガーディアンの足の影から、菫色の髪を2つに分けて結わえたソウルリンカーが顔を出した。
「違う違う、俺だってー紫罹」
「史乃様!」
史乃がソウルリンカーに向かって名前を呼びながら軽く右手を上げると驚いた様子で側に駆け寄ってくる。
「史乃様どうされました?今日はずっと彩様のお側にいると伺っておりましたが…」
「俺が一緒に行こうって言ったんだ」
「!!!!!!」
丁度史乃の後ろに隠れる形で立っていた彩の顔を見た紫罹の口があんぐりと四角く開く。
「あ…あ…あ………」
口を開いたまま彩を凝視し金魚のように何度か口をぱくぱくさせ、それから大声で叫んだ。
「ああぁぁぁああああ彩様ッ!お怪我はッ!!横になられなくて大丈夫なのですかッ!?」
「全然大丈夫だよ。それよりもごめん、今日は俺がヘマやっちゃったせいで皆に大変な思いさせちゃったな」
紫罹はふるふると首を横に振って微笑んだ。
「彩様がご無事で何よりです」
「ありがとう紫罹。澪はエンペ前?」
「はい、こちらでございます」

『ノピティギ!!』

紫罹がノピティギで高く飛び上がりエンペリウムのへ続く通路の丁度中央辺りまで飛び、彩に向かって恭しくおじぎをする。
「紫罹、急に持ち場を離れてどうした?」
紫罹の動向はエンペリウムのすぐ側にいた澪にも分かったらしい。
「澪様、無断で持ち場を離れたことをお許し下さい。もう1人のエンペラーがいらしたのできちんとお出迎えさせて頂こうかと思いまして」
「エンペラー?」
「はい、私にとってはお2人とも大切な主でございますから。澪様も、彩様も」

「紫罹は相変わらず言うことが極端だなぁ」

おじぎをする紫罹の横を通り彩が澪の目の前に立つ。最初は驚いた様子で彩を見ていたがやがてその表情は笑みの形へと変えていく。
「まさか『ここ』まで来るとは思わなかった。もう起きて大丈夫なのか?彩」
「うん、全然大丈夫。だから…さ、今からでも俺防衛入ってもいいか?」
「いいもなにも、ここにいる全員彩を拒む理由なんてないはずだけど」

どた。

「うおあぁぁぁぁぁぁああああッ!!!なんか四季奈がぶっ倒れたー!!」
すぐ近くにいた四季奈が突然倒れたので彩が慌てて四季奈を抱き起こす。
「まっ…マスター同士の夢の対話…あたし死ぬなら今がいい…♪」
「死ぬとか縁起でもないこと言ってんじゃねー!おいこら起きろ四季奈!起きろ起きろ起きろぉおおおっ!!!」
「うん、確かに起きてもらわないと困るなかな」
くったりとしている四季奈を揺さぶる彩の隣に澪が屈みながら言うと、イグドラシルの葉でぺちぺちと四季奈の頬を軽く叩いた。
「3ギルド程共闘組んでこっち向かってるとのことだ。呂揮の話だとカートの恨みとか訳分からない事を叫んで妙に殺気立ってるらしい」
「もしかして俺がこっち来る時に足止めしたギルドの奴らかな?カートの恨みってのが良くわからないけど…」
首を傾げている彩の背後でぺろりと舌を出した史乃の顔をくすりと笑いながらふらつく四季奈を支えて立ち上がる。
「まぁそういう訳なんで2人とも早速だけど頼むよ、彩はいつもの場所を。覚えてるだろう?」
「あぁ、ちゃんと覚えてる」
「史乃は最初の指示通りで。あと復帰したならギルドはこっちに入りなさい」
「はいよー、ってな訳なんで一時脱退なー?」
史乃がつけていたエンブレムを彩に渡してギルドを脱退する。


史乃様がギルドを脱退しました。
脱退理由:『俺あんたのこと好きだから』


「さっきのコト、無かったことになんてすんなよー?」
「史乃っ…………!!!」
「んじゃいってきまー」
「はい、行っておいで」
斧を手に持ち場へと走り去っていく史乃を手を振って澪が見送りその手を明らかに動揺している彩に向かって差し伸べる。
「ほら彩もパーティ要請受け取って」
「ん?…あぁ…えっと…もしかして…」

持ち場に向かいながらもらったパーティのチャットを利用して彩がその続きを発言する。

『………もしかしてこっちのギルドって俺1人だけか?』
『パーティには入れたんだから連絡には差し支えないだろう』
『ちょっと待て澪そういう問題かぁッ!!』
『あぁそれと、状況に応じて緊急招集を発動することがあるかもしれない。その時はすまないが再配置が完了するまで1人で堪えてくれ』
『………てっめ!そのために史乃抜けさせたのか!!』
『お前だけが取り残される素敵仕様だ。良かったな彩』
『良くねえええぇぇぇぇぇえええッッ!!!!』
『あぁっもう最高っ!攻城戦の真っ只中にこの2人のマスターのこのやり取りが見れる日がくるなんて超萌えるっ…あたし死ぬなら今がいい!!』
『こら四季奈っ!!だから縁起でもないこと言うなッ!!!』
『あぁ、エンペ前が混戦しだした…緊急招集かけるぞ』
『嘘だ嘘だ嘘だっ!3ギルドともまだエンペルームになんて入ってないだろ混戦なんて絶対嘘だろてめー!!!』
『行くぞ。緊急招集!!』
『だからちょっと待てええぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええッッ!!!!』

パーティ会話での彩の叫びはその後5分おきに木霊した。



『エンペリウム消失・防衛完了、みんな今日は本当にありがとう。エンペリウムルームに集合よろしく』
澪の声でおつさまーおつかれーの言葉が飛び交う中、一番最初にエンペリウムルームに駆け込んだのは彩だった。

「防衛おめでとう!おつかれ!そして澪!!!無意味に緊急招集何度も何度も使いやがってこのおおおおおおお!!」
「前半と後半の言葉の激しい温度差はこの際無視しよう。発動するたびに
 パーティ会話にお前の絶叫が響いて実に楽しかったよ、本当にありがとう彩」
「いえいえどういたしまして……ってだからそおじゃねえーッ!!」
「これで今日のことは全部白紙にしてやる」
「うっ……それは…ごめん……」

胸倉を掴んでいた彩の手が離れると澪が腕を回してぽんぽんと彩の背中を叩く。

「……無事に戻ってきてくれて本当に良かった、そしておかえり。彩」
「心配かけてごめん、そんでもってただいま。澪」

照れくさそうにはにかんだ笑いで同じように彩が澪の背中に腕を回して叩く。

「……………で、いつまでそこで眺めているつもりなのかな?精算係の四季奈さん」

本人恐らく柱の影に隠れているつもりなのだろうが半身が完全に見えている状態の四季奈がひょっこりと顔を出す。
「あぁっ!やっぱりバレちゃった?もうっこの絶妙の間柄っていうの!?さり気なく
 ハグなんかしちゃってっ!!!……あたしねっ死ぬなら今がいいぃぃぃぃぃッ!!」
「はいはい、分かったから参加者に経費を渡してきなさい。『経費渡し終わるまでが攻城戦』は四季奈の口癖だろう?」
「はうあっ…それを言われると弱いなぁ…わかりましたよぉ…………
 はいはいはーい!みんな経費配りますよ~2列に整列して並んで下さーい!」

「彩。一羽に傷つけられた時俺が言った言葉覚えてるか?」
「ん?」
カートを引いて四季奈が走り去ってから澪が口にした言葉で床に座ってポーションを飲んでいた彩が目線だけを上にやる。
「『側にいてやることは出来ても彩を本当の意味で癒してやることは出来ない』って。らこも俺も同じ考えだった。
 だから思ってたよ、俺たちじゃない誰かが彩を癒して、とびきり幸せにしてくれたらいいって」
「なんだよ突然改まって」
照れがあるのか顔を背けて一気にポーションを煽る。

「だから、史乃にいっぱいいっぱい幸せにしてもらいなさい」
「ぶっ…ぐはっ…………おあぁぁああああああああああああああ!!!」

盛大に咽たあと口を拭いながら顔を真っ赤にする彩を見る澪の顔は『あぁやっぱり』とでも言いたげだ。

「その反応、ものすごく分かりやすすぎ」
「ばっなんでお前がっ…てか!話飛躍しすぎだろうがぁ!俺はただ惚れてるって言われただけで…
 本当にそれだけだぞ!別に他に何もされてないからな!!」
「なるほど。他は何もされてないって強調するのはまぁひとまず置いておいて。やっぱりここに来る前に告白されたか」
「…………こっのぉ………今俺ハメただろ!」
「彩の態度を見てれば大体分かる。分かってないのは頭の上から足の先まで天然素材な彩くらいのものだよ」
「だから俺を天然みたいな言い方すんなぁ!」
「史乃の気持ち、ちゃんと聞いたんだろう?」
「……………あぁ………」
「うんうん、相手が史乃ならお兄さんもあんしーん」
「ちょ…うるせー!たかだか2週間先に生まれた程度で何兄貴ぶってんだよ!」

「ねえ、経費いらないなら私2人分もらっていい?」

両手にゼニーが入っているであろう袋を手にした桜子が2人の間に割って入ってきた。
「嫌だっ!らこに渡すくらいなら通りすがりの人にあげた方がまだましだっ!」
「うん分かった。じゃあ彩の経費はその辺を通りすがった人にあげてくるね」
「いやいや待て待て待てっ!通りすがりの人にあげるなら最初から俺によこせ…ぶっ!」
背中にすがりつく彩にかまわず歩き出そうとした桜子が突然動きを止めたため彩が桜子の後頭部に鼻先をぶつけてしまう。
「なんだよ何いきなり止まるんだよ!」
「………………」
桜子は答えずそのまま無言で口元を手で押さえぺしゃりと座り込んでしまった。
「らこ…どした?」
突然座り込んだ桜子の肩に手を乗せ尋ねるが桜子は答えずただ前方を見つめている。
「……………!!」
その視線を追った彩もまた言葉を失い、側に居た澪も今の状況が信じられずにいた。
エンペリウムのあった場所に立っている天使のヘアバンドをつけたプリースト。

「奏…だ……」

『奏』は座り込んだままの桜子に近づいて屈み、額にそっとキスをした。

『みんなのために沢山がんばったね、桜子大好き』

「私も…奏大好き」
桜子をまるで小さな子供を相手にしているかのようにそっと頭を撫でてやる。
それから桜子の隣に立っていた澪の方を向くと、自分よりも小さい奏に合わせて屈んだ澪の額に同様に口付けた。

『砦を守ってくれて、そして捨ててくれてありがとう。誰よりも優しい澪が大好きだよ』
「俺を優しいって言ってくれる奏が俺も大好きだよ」

澪の言葉にそっと微笑み頬を摩り、それから同じように跪いて桜子の背中を撫でてやっている彩に
向かい合って立ち膝をして2人にしたように額にキスをしてからやさしく腕を回して抱きしめる。

『もう、大丈夫だからね』
「……………うん」
『大好きだよ彩』
「俺も奏が大好きだ」

『彩、澪、桜子…ありがとう』

優しい微笑みを浮かべた奏の姿は徐々に透き通り、やがて光の粒となって消えていってしまった。



「おい、見えたか?」

その光景は少し離れた場所にいた全ての人間にも見えていたらしい。口をぽかんと開いたまま
その場所を凝視して四季奈が手にしたゼニーをじゃらじゃらと落としているのを史乃が自分のカートで
受け止めつつとなりの呂揮に尋ねると、若干興奮気味に呂揮は2度頷いて見せる。

「…見えた。あの人やっぱり奏さんだったんだ」
「やっぱり?」
「彩マス探してた時に俺ちょっと別ギルドに絡まれたんだ。その時支援して助けてくれたのがあの人だったから」
「じゃー俺と似たようなもんかー」
「もしかして史乃も?」
「だって俺のこと彩マスの場所まで誘導してくれてったしー。にしても、やけにリアルな幽霊だったよなーちゃんと触れたし」
「だよね、抱きしめられた時すごく温かかった」
「へーほー。抱きしめられた時?」
「あっ…!」

片手で口を塞いで見るがにんまりと笑って史乃がそれを見ている今となっては状況的に既に遅い。

「はい、墓穴おめー。そこまで言っちゃったんだから最後まできっちり行こうかー?」
「………………………澪の事たくさん愛してくれてありがとうって………」
「そんでもってぎゅーって訳か。あーそりゃもうどっち方面でも愛しまくっちゃってますーってちゃんと言ったかー?」
「そんなこと言うわけないだろ馬鹿っ!そういう史乃はどうなんだよ!」
「んー、俺は究極の恋愛攻略法を教授してもらったー」
「攻略法って…奏さんがそんなこと言ってたの?」

「あぁ、効果はー…そりゃもー絶大?」

桜子の肩を抱いたまま奏が消えたエンペルームのあった場所から視線を動かさない
彩の横顔を見つめ、史乃は自信満々にそう答えた。




 

 

 

 

 

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円~!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル