信じてあげるから
その時色即是空のギルドチャットはとても静かだった。
『本日攻城戦です』
『19時フェイヨン道具屋前集合、遅れないように』
この告知だけが流れていた中、その沈黙を一番最初に破ったのは史乃。
『らこーらこー。確か狩り中だったよな、今って話せっかー?』
『丁度休憩に入った所だから大丈夫だよ』
『集合前に一度ホーム戻るつったんだけどよー。四季奈と今日の攻城戦で使うアイテムの分配
ギリギリまでかかりそーでホームに戻ってる時間ねーわー』
『うん分かった。史乃くんの他に直接集合場所に行く人っているのかな』
『今呂揮とPVルーム・多分時間までココだな』
『リィくん直接集合場所と。じゃあ呂揮くんもそうだね、残りの2人はどうなんだろう』
『俺はホームですけど集合場所のフェイヨンにメモとってるんで移動は問題ないです』
『琉風くんはメモありと。莉良くんは?一度戻るって話しだったけど』
『あーうそーちょっと枝やばい枝やばい!今日人面桃樹のドロップがおかしなことになってるよ!!古木の枝で焚き火が出来そうだよー!!』
『……となると、莉良くんも直接集合場所かな?それなら私もホーム戻らないで時間まで狩り続けようかな』
『うん、今日すごくドロップ運いいし気持ち的にはギリギリまでねばりたいんだけど装備ホームに
置いたまんまだしな…あ。そう言えば琉風今ホームだって言ったよね?』
『うん、今日の攻城戦の準備してる途中』
『じゃああたしの部屋から短剣取ってきて!』
『短剣?』
『今日の攻城戦で使う特化短剣机の上に置きっぱなんだ。琉風が持ってきてくれたらギリギリまで狩りして直で集合場所に行ける!』
『いいよ、持ってきてあげる』
『やったぁありがとー!!きゃっほーまた枝げっとぉおおおお!!!』
ギルドチャットに響く嬉しそうな莉良の声を聞きつつ琉風は整理を終えた荷物袋の紐をしっかりと結んだ。
「よし…と。あとは莉良の短剣か」
まとめた荷物をリビングのソファの上に置くと、莉良の部屋に向かおうとして、女性エリアに入るのには
サブマスターである桜子の許可を得なければならないことを思い出して足を止める。
「らこさんきっと休憩終わって狩りに戻っちゃったよな…一応彩マスに断っておいた方がいいか」
琉風がホームに戻った時には既に彩はいて出かけた兆しも無かったことから彩の自室からまず探し始め、
最後に足を踏み入れた浴室でシャワーの水音のする扉に向かって話しかける。
「彩マス、莉良の短剣取りに女性エリア入りたいんですけど」
だが琉風の言葉はシャワーの音でかき消されてしまっているのか彩の返事はない。
「彩マスあの…………」
一向に返事がないので申し訳ないとは思いつつも浴室のドアを開けて再度話しかけようとした時、
シャワーカーテンの隙間から覗いた彩の背中を見た瞬間琉風は言葉を飲み込んだ。
少し離れた場所からでもはっきりと分かる、右肩から斜めに走る大きな傷跡。
琉風が声をかけることも忘れてその傷跡を凝視していると人の気配に気づいたのか彩が振り返り、シャワーカーテンを開けて身を乗り出した。
「どした。風呂使うんならもう少しで出るぞ?」
「えっと…あの…」
見てはいけないものを見てしまったような気持ちに苛まれ、かけるはずの言葉も忘れて琉風がどもっていると、
はぁ。と濡れ髪をかき上げながら彩がため息をついた。
「あのな琉風。通りすがりの人に裸見せ付けられたとかならまだしも、見知った人間の裸見たくらいでそんなどもるなよ…
ってか琉風がそんなに動揺してると俺がまるで裸見せ付けてる変態みたいに思えてきちゃったりとかするからなんかしゃべれ!」
いつもと変わらない彩の口調で琉風はやっと言葉を発した。
「莉良の部屋にある短剣取りに女性エリアに入りたいんです。らこさんの許可を貰うべきなんでしょうけど
狩り中に話しかけて邪魔しちゃいけないと思って。彩マスの方に報告に来ました」
「おぅっわかった、そういう事情なら仕方ないもんな。らこには後から俺が説明しておくから入っていいぞ」
「はい、ありがとうございます」
「琉風は偉いなぁきちんと報告して。きちんと伝えられる環境にも関わらずに堂々と事後報告で入ってるからとか
言っちゃう某ハイプリーストの桜子とかいう奴に見習って欲しいよなぁ本当に!」
某ハイプリーストと言いつつ桜子のことをしっかり名指しで呼ぶ彩に、琉風は困ったように笑うしかなかった。
「短剣取ったらそのまま今日の攻城戦の集合場所に行きます」
「あーそっか、そういえば初めての攻城戦だもんな。初陣がんばってこいよ!」
「はい!入浴中にごめんなさい」
「気にすんなって」
イイコイイコと濡れた指先で琉風の髪の毛を軽く撫でると嬉しそうな照れたような複雑な表情をしながら会釈をし、浴室をあとにした。
「机の上の短剣…これかな?」
莉良の部屋に入った琉風が奥の窓際の机の上に置いてある短剣を見つけて手に取った。
「……………」
握った短剣をじっと見つめながら琉風は彩の背中の傷を思い出す。
彩は同盟先である澪との合同ギルド狩りに参加こそすれ同盟会議などと言った攻城戦に
関わる一切の行事に参加しているのを見たことがなかった。
攻城戦に関しては自由参加であることは予め聞いていたので彩が参加しないということは不自然なことではない。
それでも何か違和感に似たものを琉風は感じていた。
1人だけ攻城戦に参加をしない彩。
背中に残る大きな傷跡。
「彩マスが攻城戦に参加しないのってあの傷のせいなのかな」
『琉風、あたしの短剣見つかった?』
『えっあっうん見つけたよ!』
ギルドチャットで話しかけられる莉良の声で我に返り、返事をしつつ莉良の部屋をあとにする。
『モンクが家出た』
このPT会話を聞いていたのはホームから少し離れた場所で露店を立てていたホワイトスミス。
『そっか。それじゃああのホームにいるのは色即是空のマスター1人だけってことだね』
悠長に話す様子にすぐ隣にしゃがんで話しかけたローグがそのホワイトスミスの腕を肘でつつく。
『ってかお前本当に大丈夫なのか?前にアイツ1人に4人がかりで攻撃して勝てなかったんだぞ?』
『大丈夫だよ』
『…ならいいけどよ、俺一応新参のお前の監視って形でいるだけだからこれからの戦闘には一切手出ししないからな』
『分かってるよ。君に手伝ってもらう期待も戦力になる期待も最初からしてないから』
露店をたたみ、カートの中から斧を取り出すホワイトスミスに向かってローグは忌々しそうに舌打ちをする。
そんなことなど気にもとめずに出した斧を肩に担ぎ、緩く編んだ蒼髪を背中に払った。
「さてと、行こうかな」
あくまでのんびりとした口調と足取りでホームに歩いていくホワイトスミスのあとを、マジで大丈夫なのかよコイツ。
などとぶつぶつ独り言を呟きローグがその後ろからついていった。
* * *
「琉風くんこっちだよ」
フェイヨンに入ると道具屋から少し離れた場所で桜子がきょろきょろしている琉風に向かって軽く手を振る。
「ごめんなさい、もっと余裕もって来るつもりだったんですけど色々準備してたらギリギリになっちゃいました」
「まだ5分前だし大丈夫だよ。でね、来てすぐで悪いんだけどもしフェイヨンセーブじゃなかったらセーブしてきてもらえるかな」
「今ジュノーセーブなんですぐいってきます。莉良、これ短剣」
「琉風のおかげで枝たくさんとれたよ、ありがとぉ~♪」
「おーい琉風ー回復剤なんだけど四季奈の白スリムー…」
史乃が言いかけた時は莉良に短剣を手渡していたはずの琉風の姿は既にない。
「あーセーブしに行っちまったかー」
「違うよ史乃くん、あっち」
桜子が指をさしたのは琉風が向かうはずであるカプラサービスとは全くの別方向。
「んー?あれって最近チュンリム狙いで来てるギルドでなんつたって…って琉風?」
フェイヨンの砦をこれから攻めるであろうギルドの人だかりに飲まれ、みるみる離れていく琉風の姿がかろうじて見える。
「見事に人の波に溺れてんなぁー………助けねーのー?」
「攻城戦が始まる前の雰囲気を琉風くんに体験してもらうべきだと思って」
「…ってゆーのを建前にして実は場の空気に慣れてない琉風の初々しー姿見て楽しんでんだろーらこ」
「うん、ちょっとだけ。あとは幸せの提供かな」
「幸せ提供?」
「四季奈くんのね」
気がつくといつの間にか桜子のすぐ隣で肩に手を置き、震えながら親指を立てている四季奈の姿があった。
「らこちゃんぐっじょぶ…!人の波に逆らえずおたおたしながら飲み込まれてく琉風君…超かわいすぎる……!!!!」
「四季奈…お前本っ当好きだよなー」
史乃の言葉は呆れというよりも感心に近かった。
「ふぅ……」
カプラサービスへ行こうとした矢先、移動中のギルドと接触しそうになり、すり抜けようとした所を
また次のギルドの集団にぶつかりそうになり気がつくと琉風はカプラサービスどころか町のはずれ近い所まで来てしまっていた。
「攻城戦の時のフェイヨンって来たことなかったから知らなかったけどすごい人なんだな…早くセーブしないと」
「は…ぁッ……」
戻ろうとした時、ふと聞き慣れた声に足を止める。
「これ…呂揮の声」
「……く…ぅ…んッ…」
着いた集合場所に呂揮の姿がなかった事を思い出し、何かに耐えているかに聞こえるその声にどこか
具合でも悪くしたのだろうかと声のする方へと歩いていった。
「…………!!」
東屋のある所に呂揮らしき姿を見つけ、近づきつつ話しかけようとした琉風は目の前に展開される光景に足をすくませた。
近づくことで見えたもう一つの人影。
「欲しいの?」
そう問いかける相手の白い喉に歯を立てている澪の姿に琉風は足を地面に縫い付けられたかのようにそのまま動けなくなってしまった。
東屋の柱の一つに寄りかかるような形で甘く噛み付かれた喉を逸らし、澪の伽羅色の髪の毛を指に絡ませているのは間違いなく呂揮だった。
「んっ…欲しい…きて…澪ぉ…」
『澪マス』ではなく『澪』と呼ぶ呂揮の声は普段聞いている時では考えられないくらい高くて艶めいた響きを帯びている。
ズボンから引き抜かれた片足は澪の腕によって抱えられ、澪の指はその足の間へと見えなくなっていった。
「んあぁっくっんっ…」
「でもちゃんと慣らさないとね。いきなり入れたら呂揮がつらいよ?」
「つらくてもいい…きてっ…おねが…ぃ…」
「可愛い子…でもまだあげないよ。呂揮につらい思いをさせたくてこういうことをしてる訳じゃないんだから」
「俺もっ澪に気持ち良くなってほし…んあぁぁッ」
足の間に伸びている手が動くたびに呂揮は澪にすがりつき抱えられた足をひくんひくんと揺らしている。
「うん、一緒に気持ちよくなろうね?」
「あ…ぁ…ふあぁぁああ…ッ」
「なにヒトのSEXガン見シてんだよ」
「…………んッ……………!!!」
突然耳元で聞こえた声に振り返る前に口を塞がれ、琉風に振りほどく暇も与えずに2人がいる反対方向に引きずり込まれる。
「んっ…んぅぅ……………っ………」
大声を出せば2人に気づかれる。そして自分の口を塞ぐ人物が誰なのかを理解したと同時琉風は暴れるのをやめて大人しくなった。
「他人のSEXがそんなに珍しかったのか?」
暴れることをやめた琉風の口から手を離しながら理がからかい口調で抗議の目線で見上げる琉風の顔をその上から覗き込む。
「そんなんじゃない、ただ呂揮の声が聞こえてなんだか具合が悪そうだったから近づいてみただけで…」
反対側にいる澪と呂揮のことを気にしてか極力小声で話す。
「で・SEXシてる所に遭遇シてガン見か」
「だからそんなんじゃないって…」
「へーぇ」
「ッ!?」
理がいきなり琉風の足の間に手を伸ばし、服越しから中心をぐにぐにと揉みしだき始めた。
「ことわ…んぅ…!」
「大声出すな・ココに居るのバレるぞ」
口を塞がれ声を出すのは抑えられたものの、足の間にある理の手をどかそうと両手で掴むがまるでびくともしなかった。
「んっん…!」
「やっぱ勃ってんじゃねえか・スケベな男」
「やめ…やぁ………!」
自分以外の、しかも見知った2人の性行為を間近で見てしまいその上それを理に見られてしまったこと
だけでも恥ずかしいのに、その上更にそれを見て感じてしまったことを暴かれてしまい、もう全て無かった事にして
琉風はその場から逃げ出してしまいたかった。
そんな琉風の望みなど誰が叶えてやるものかと言わんばかりに理は琉風の抵抗を軽くいなして
強引にズボンのファスナーを下ろし、そのまま足の付け根ほどまでずり下ろす。
柱に手をかけさせ足を肩くらいまで開かせた状態で服をたくしあげ臀部をむき出しにさせた。
「やだ…んくっ…」
下半身に直接感じるひんやりとした空気の感触と、直に性器に触れられ抵抗の意とは違う声が漏れそうになり口を引き結ぶ。
「噛んでろ」
琉風の服の裾を口元に持ってきて理が言う。
「やだ…やだよ理…こんなのやだッ…」
「ここまで来たらヌいちまった方が早えだろ・それとも勃起シた興奮状態のままで攻城戦参加する気か?」
「そんな…やッ…」
「うだうだ言ってねえで噛め・スケベ声向こうに聞かせたいってんならスキにシろ」
「……んッ……!!!」
秘部を指の腹でくにくにいじられ慌てたように首を振って琉風は自分の服の裾を噛んだ。
「あぁぁッあんッあうぅうッ…み…ぉ…あ…あアァァァッ…!」
向かい側から呂揮の声がはっきりと聞こえてくる。
「呂揮の声で感じたのか?ケツ穴ヒクヒクさせやがって」
「…!!!」
「エッロいオトコ」
「あぁぁッあッあっくぅんっ…ひ…ァ…アァァァァ……!!!」
「んぅぅぅぅッッ……………………!!!」
呂揮の高い声が上がると同時理の指が秘部に埋め込まれ琉風は服を噛んだ口から殺し切れない声を漏らす。
首を振って琉風が後ろを見ても秘部に埋め込ませている指を理は抜こうともしない。
「腰振れ・早く終わって欲しいんならな」
「んぐっふぅ…んッッ…!!!」
そのまま根元まで指を入れ琉風の弱い部分を探り出すとがくがくと琉風の膝が震え柱にすがりつくようにして身体を必死に支える。
「あッあぁッ澪ぉっひぁッあぁそこぉッあッく…んッあぁッアァァァァァァァアアアッッ!!!」
より強く感じる箇所を攻められたのか呂揮の声がいっそうはっきりと聞こえてくる。
「ん…ぁ…はァァッ…んッッ…!」
それと同時理の指が奥に入った状態で回され琉風は思わず噛んでいた服を離して短い悲鳴が漏らし、慌ててしっかりと噛み直す。
そんな必死な様子の琉風を目だけで笑い、目の前に突き出された琉風の臀部を舌で舐め上げ時折歯を立てると小刻みに腰が震えた。
「んあぁぁッあァッあッあッはうぅッはうぅぅんッ…み…お…澪っ澪ぉぉっ」
向かい側で上がった琉風の悲鳴が聞こえていないのか分からないのか呂揮の嬌声は途切れることなく聞こえてくる。
「イ…く…あぁッ澪ぉっもぉだめイっちゃうッ…あぁっそこぉ…そ…んなっ…ぁ…んあぁぁぁああああッッ!!!」
呂揮が絶頂を訴えるとさらに上がる高い悲鳴と同時、恥ずかしいほど聞き慣れてしまったぐちゃぐちゃという湿った音。
声とその音だけで琉風は分かってしまった。
柱の向こうで今呂揮がどんな風にされているかを。
「あぁっあんッあッあッあんッッ!そこぉ…イィッ…あぁぁっみ…ぉ…はあぁあぁぁんッッッ!!!!」
きっと秘部に入れられた雄の先端で、奥の奥にある一番気持ちのいい場所を頭が
痺れそうになるくらい徹底的にぐりぐり突き上げられているのだろう。
「んくぅッんぅぅぅぅぅぅッッ……!!!!」
理の指の動きも早くなる。明らかに琉風を追い上げるために。
「んぅっんぅっんんんぅぅッ…………!!!」
自分の秘部からもくちゅくちゅと言う音が琉風の耳に入ると、自分自身に対する羞恥と、この音が向こうにも
聞こえているかもしれないという恥ずかしさとで、嫌だと声に出して叫びたかったが服を噛んでいるためそれを伝えることも出来ない。
理の方を向いて視線で訴えてみても、秘部の指をさらに増やされ雄を扱かれ。
堪えがたい悦楽を与えられるだけだった。
「んっんっんぅっんぅっんんんん………ッッ!!!」
琉風はその間激しく首を振り続けるがそれがどういう意味なのか自分でも分からなくなってしまっていた。
『いやだやめて』なのか『いやだやめないで』なのか。
「イクッあぁッ澪イっちゃうッあッアァッアァァァ…………………ッッッ!!!!!!」
「んぅッあッことわりッあ…ぁ…あくッぅッくぅぅぅン……………!」
恐らく達したのだろう呂揮の声が一層大きくなりそして途切れる。
同様に追い上げられた琉風もとうとう呂揮の声に煽られ服から口を離して抑えきれずに震えた声を発して
精を吐き出すと、足元に生えた草にぱたぱたとそれが降りかかっていく。
達してしまうと立ってもいられなくなりがくりと膝を折る琉風の身体を、立ち上がった理が抱きしめて支える。
「はぁっはぁっはぁ…んっんぅぅぅ……っ……」
達して声を漏らし続ける琉風の口を自らの口で塞ぎながら秘部に入れていた指をゆっくりと引き抜いていく。
「んくっあっ…んっ…ぅ…」
雄を扱く手を緩やかにしながら琉風が全ての精を吐き出すのを確認すると、理は再びしゃがみこんで
先端に残った琉風の精を口に軽く含んで啜り取る。
「ふぁ…ぁんっ…んっ…」
綺麗に精を舐めとった後、馴れた手つきでズボンを元通りに戻してやり立ち上がった。
「行けよ・いつまでもココいたら覗き見シてたのバレっぞ?」
「違…だから別に覗いてた訳じゃ…」
「他人のSEXで煽られながらイったクセにまだそんな白々しいウソ吐くのか・イヤイヤ首振りながら
下半身感じまくりとかむっつりスケベの典型見本だな」
そう言ってちらりと理が視線を落とした先は琉風の草の上に吐き出された精の雫。
「……………ッ!!!」
顔を真っ赤にしてぐしゃりとその痕跡を踏む琉風に向かって理は小馬鹿にしたように口元に笑みを浮かべている。
「おらさっさと行け・史乃呼んでんぞ?」
『琉風ー、お前どこまでセーブしに行ってんだー?』
気づけばかなり前からパーティ会話で史乃に話しかけられていたらしい。
『ごめん史乃!すぐ戻るから…!』
向こう側にいる呂揮と澪の2人に見えないように琉風はその場から離れていくが、理の方はそこから動かずに
そのまま柱によりかかり、琉風によって踏み潰された精の跡を見下ろしながら煙草に火を点けてすぐ向こうにいる澪にwisを飛ばした。
『マスター殿・お済みですか?』
『んー、あともうちょっとだけ余韻がほしい所だけど流石に無理か………それにしても仕掛けてこなかったな【あいつら】』
『澪マスも分かってたのか』
『まぁね。俺が【あいつら】につけられてるって分かってたからリィもここに来てくれたんだろう?』
『絶好の強襲機会は寝てる時・風呂の時・そしてSEXの時だからな。攻城戦前に
マスターであるアンタに何かあったらどうしようもねえだろ』
『出来た傭兵を持ててつくづく俺は幸せ者だね』
『言っとくけど褒めても何も出ねえぞ・呂揮も強襲に備えて武器仕込んでたようだしそれほど気ぃ張る必要も
ねえと思って途中から琉風イジって遊んでたけどな』
『みたいだね。自分もまた見られているって気づかないでいたずらされて可哀想に。声も俺の所までしっかり聞こえてきてたし』
『偵察だかなんだか知らねえけどよっぽど溜まってたんじゃねえの?呂揮と琉風のことそれこそガン見シてたからな』
『俺達の状況によっては何かしらの行動を起こすつもりでいたのか、最初からその気はなかったのか…』
『向こうは2人・コッチは琉風もカウントすれば4人だからな。流石に部が悪いって思ったんじゃねえの?』
『やれやれ、青姦くらいのびのびしたいものだね~』
『それは無理なんじゃね?アンタは【アイツら】…あの糞Hiwizのギルドにケンカ売っちまったんだから』
『ケンカを売ったこと自体に後悔はないんだけど。でも…今日だけは大人しくして欲しいなぁとは思ってるんだよね』
『今日だから・じゃね?』
『そうだね。でももし今日だとしたらこれっぽっちの手加減も出来なさそうだ』
『だったら使えよオレを。これから2時間・オレはあんたの道具なんだ』
『ありがとうリィ、遠慮なく使わせてもらうよ。お前は最高の性能を持った道具だからね…そして、俺にとって大切な仲間だよ』
『………………だからオレは・アンタが大好きで大嫌いなんだよ』
* * *
「か………琉風!」
「えっはいっ!」
耳元で名前を呼ばれて返事をするが、声をかけたのが呂揮と分かって反射的に顔を下に向けてしまう。
「澪マスから指示出たよ?」
「えっと…」
「俺と一緒にエンペルーム手前。10分前には配置につくようにって」
「うん…分かった」
俯いたままで答える琉風に少しだけ困ったような顔で呂揮がため息をつく。
「砦入ってからずっとぼーっとしてるけど大丈夫か?」
先程まで澪の名を呼び、鳴きながら性に溺れていたなどとは思えない様子で呂揮はごく普通に琉風に話しかけている。
琉風の方は2人の行為を故意でなかったにしろ見てしまった上にそれに煽られながら理の指で達してしまった罪悪感にかられていた。
「今はいいけど攻城戦まで引きずるなよ」
「………呂揮、あのさ」
ぎゅ。と握りこぶしを作り、顔を上げて今度は真っ直ぐに呂揮を見上げる。
「ん?」
「頼みたいことがあるんだけど」
「なんだよ改まって」
「呂揮じゃなきゃだめなんだ」
「俺じゃなきゃ駄目なこと?」
「俺のこと思い切りぶちのめして欲しいんだ」
「……………………………………………」
「…呂揮?」
すぐ側で話した手前聞こえてないということはないのだろうがそれでも心配になって名前を呼ぶが、
困った様子で額に頭を当てている所を見るとちゃんと耳には入っていたらしい。
「琉風………Mの道にでも目覚めた?」
「違っそうじゃなくて!」
「だってぼーっとしてたと思ったらいきなりぶちのめしてくれとか。一体どうした何があったとか思っちゃうだろ?」
「えっと呂揮にそうしてもらわないと駄目っていうか、このままだと攻城戦きっとまともに出来ないから。だから…!」
「………」
言葉を濁す言い方で話す琉風に呂揮はただ黙ってギルドチャットに合わせる。
『澪マス、すみませんけど一時的でいいんで俺に加入権限つけてもらえますか?』
『いいよ、これでいい?』
『はい、ありがとうございます』
「琉風ギルド抜けて。同じギルド同士だったら攻撃できないから」
「…うん」
了承したと取れる呂揮の言葉に『すぐに戻ります』と当たり障りのない理由で琉風が
ギルドを一度脱退し、呂揮に抜けた旨を話そうとした時だ。
『ティオアプチャギ!!』
「わッ…!!」
呂揮がいきなり琉風の懐に入り込んで蹴りを叩き込もうとしてきたので無抵抗でいようとしたつもりが
反射的に両手でそれをブロックしてしまう。
「あっあのごめんっ…!」
『フルストリップ!!』
ぶちのめして欲しいと頼んでおきながら攻撃を受け止めてしまったことを謝ろうとした矢先、
何かに弾き飛ばされたかのように琉風が装備していたものが剥がされてしまう。
それから目で追う暇もないほど素早い動きで呂揮に後ろを取られていた。
『バックスタブ!!』
どた。
反射的とは言え一度は攻撃を受け止めてしまったもののそこから先はもし動くことが許されたとしても
反撃することなど出来なかったろう。琉風はその一撃で地面に突っ伏してしまった。
「弓攻撃だと半減する上クローンコピー前提のレベルしか取ってないけど脱がせた相手ならそれなりかな。スタブ」
手にした弓を仕舞い仰向けに倒れている琉風の顔を呂揮は覗き込む。
「で。どう?気は済んだ?」
「…………もう大丈夫」
「そっか……………お互い様だし別に気にすることなかったのに」
「え?」
「ん、攻城戦頑張ろうって言ったの」
「うん!」
呂揮の伸ばした手を琉風は素直に取り立ち上がりギルド要請を再び受ける。
『蹴りからのコンボ・ちゃんと決めれるようになってんじゃねえか呂揮』
『リィさんにギリギリまでPVで特訓してもらったお陰です!あ。ちょっと一つだけ確認したいことあるんですけど
いいですか?アサシンクロス相手の場合なんですけど』
『あ?』
「ちょっとリィさんと打ち合わせしてくる」
「うん」
理のいる方へ向かっていく呂揮の背中を見送りながら呂揮から受けた攻撃をヒールで癒し始めた。
『全員に指示はいきわたったね?10分前には各自配置につくように。あぁあと俺とらこ、今日は上段趣味装備で行くからよろしく』
そう言って澪が装備したのは天使のヘアバンド。
「そう言えば彩マスも今日天使のヘアバンドつけてたような…」
自分がホームに居た時、彩がつけていた頭装備のことを思い出し、それが無意識に口に出ていたらしい。
「今日はちょっとだけ特別な日だからだよ」
「わっ」
その口に出た声が小さいながらも聞こえたのだろう。琉風の目の前にはいつの間にか澪同様天使のヘアバンドを装備した桜子が立っていた。
「この天使のヘアバンドはね、私と澪とそれから彩。私たち3人の大切な人が大好きだった装備なんだ」
「そうだったんですか。同じ冒険者の方ですか?」
「うん。奏っていうの」
「かなで……そういえば空即是色のメンバー表にその名前の方いましたね。今はいらっしゃらないみたいですけど」
「そうだね、かなり遠くにいるからきっと来れないと思う」
「え?」
桜子は黙って天井を指差した。
「?」
天井に何かあるのかとつられて琉風が見上げるがエンペリウムルームの薄暗い
天井が見えるだけで何か目を引くようなものは見当たらない。
「奏は遠い遠い、いずれは私達も行くであろう空の向こうにいるから」
「…ごめんなさい。無神経なこと聞いて」
そこで琉風はようやく奏という人物が故人であることに気づき頭を下げる。
「気にしなくていいよ、琉風くんには話してなかったしね。攻城戦までまだちょっと時間はあるし昔話でもしようか」
桜子が足元の段差部分に腰掛けるとその隣を軽く叩いて琉風に座るように促し、その隣に素直に腰掛けた。
「私と彩と澪、腐れ縁っていうか簡単に言うと幼馴染なんだ。まだ本当に小さい時、私達が兄さんみたい
に慕ってた人がいたんだけどそれが『奏』、生まれた時から身体がそんなに丈夫じゃなくて伏せがちだったけど
何でも知ってて優しくて。3人で取り合いするくらい大好きだったよ」
大好きと言った所で琉風はめったに表情を表に出さない桜子の顔がやんわりとほころぶのを見た。
「私たちが3人で冒険者として首都へ出て…結構経った頃かな、奏がもう長くないって分かったの。
会いに行ったら『3人みたいに冒険者になって色んなことしたかった』って言ったからその場でじゃあ叶えてあげようってことになって」
「えぇっ!?」
「今の琉風くんの反応。聞いてた周辺の人たちとおんなじ」
くすくすと笑いながら桜子が話を続ける。
「長くないってことは分かった、その身体で冒険者なんて無茶だ。ごく当たり前の話だよね。でも私達は
大好きな兄さんである奏の夢を叶えたかったんだ。今まであんな風に自分の望みを話してくれたことなんて
なかったから。話してくれたことがすごく嬉しかったから」
「…………」
「私と同じ聖職者になりたかったみたいでみんなで守りながらアコライト転職見守って。あの時の奏は
本当にすごく嬉しそうだった。プリーストの転職も付き合ったんだよ。でも試験場ってプリーストだけしか行けないでしょう?
彩なんて『職権乱用だ!!通りすがりの人にも気軽に手伝えるようにするべきだ!!』とかすっごい怒ってた」
「彩マスその時から通りすがりの人って言ってたんですね…」
「うんそう。その頃って丁度澪が攻城戦始めた時でね。奏も見てみたいって言ったから周囲をメンバーで
がっちり壁して守りながら突撃したよ。殴りステータスじゃないのにエンペリウムまで殴ってた」
そこまで言って桜子の言葉が途切れる。幸せそうな、悲しそうな。そんな複雑に表情が入り混じった顔をしながら再度口を開いた。
「そして、奏が入れた最後の一撃でエンペリウムが砕けた。初めてが砦を取ったのは『色即是空の奏』だったんだ」
「もしかしてここが…」
「そう、それがこの明亭。奏は…それから何日かしてから私達では追いかけられない遠い空の向こうにいっちゃった。それが今日なの」
「明亭を防衛し続けているのはそれが理由だったんですね」
「うん。大好きな人がとった砦だから守りたいの。これからもずっと」
「…手伝わせてください。俺奏さんのこと何も知らないけど、らこさん奏さんの話してる時とっても
幸せそうな顔してました。彩マスや澪マス、らこさんの大切な人が取ってくれた砦を俺も一緒に守らせて下さい」
「ありがとう琉風くん。その代わりと言ってはあれかもしれないけど。位置セーブしにいって帰ってくるまでに
何をしてたのかは内緒にしておいてあげるよ」
「えぇぇぇえッ!?」
顔を真っ赤にしてうろたえる琉風を尻目に桜子はすっと立ち上がる。
「そろそろ時間だね。配置につこうか」
「は…はい………」
すっかりいつもの口調と表情に戻った桜子に相変わらず顔を紅くしたままで琉風は小さくそう答えることしか
出来ず尋ねるタイミングを完全に逃してしまった。
『彩マスが攻城戦に参加しないのは何か理由があるんですか?』と。
桜子の話から聞くに『奏』という人物が澪や桜子をはじめ彩にとっても大切な存在だということが理解できた。
彩の性格から考えるに攻城戦に参加しない方が逆に違和感を覚える。
(やっぱりあの背中の傷と何か関係があるんだろうか、それとも…)
「琉風、行こう」
「うん」
呂揮に促され、ぱん。と自分の両手で頬を打つ。
(今は攻城戦に集中しよう)
気持ちを切り替え呂揮と共に配置場所へと向かっていった。
『時間だ。みんな今日も頼むよ』
黄金色に輝くエンペリウムが出現するのを確認し、ギルドチャットで澪がそう話した直後。
『おっひさしぶりぃぃぃぃぃまいすいーとだあぁぁぁぁりぃいいいいん♪♪♪♪』
全てを遮断するかのごとく強烈なwisが澪に届いた。
『…………』
『あっちょっと待って待って!今受信拒否しようとしてるでしょ!そうでしょ!』
『お前の話が拒否しないで聞く価値があると?』
『あぁんもうそのツンデレっぷり最高だぁりん♪』
『で?本当に受信拒否されたくなかったらとっとと要件を言いなさい』
『今日っしょ?奏さんがいった日』
『…あぁ』
『なーのーにーなんなのー?キミの砦。攻城戦始まったってのに入り口とかガラッガラで閑古鳥もいーとこ』
『平和なのはいいことだと思うけど』
『でもこの日くらいは賑やかな方がいんじゃないの?奏さん大人しそうな人だったけど
活気ある攻城戦の雰囲気っていいねって言ってたじゃん』
『………何が言いたいんだ?』
『要するにー。暇防衛退屈っしょ、刺激あげるよ?』
『いいよ…おいで?』
『澪マスー何かあった?』
急に全く反応がなくなった澪を不思議に思ったのか四季奈がギルドチャットで確認してくる。
『あぁ、たった今宣戦布告が来たよ』
『うっそマジで?誰から誰から?』
いっそ楽しそうな口調で聞いてくる朱罹に大して澪は静かに答えた。
『杜若だ』
『杜若』という名前を聞いた途端にギルドチャットが一瞬静まり返る。
『久しぶりのお得意様だ、丁重におもてなししなさい』
続けて言った澪の言葉が合図かのようにギルドチャットがざわめきだした。
『はきゃぁああああああ!!マジで?マジで杜若君くるの!?うわー超久しぶりじゃない!?SSっSS撮らなきゃ撮らなきゃッ!!』
『四季奈喜びすぎー…ってか防衛ライン今より厚くした方がいんじゃねーの?杜若相手じゃそれなりレベルとかじゃ正直意味ねーんじゃねー?』
『史乃ぉ、それならあたしが先手で脱がすよ?基本かきピー女にはあんまし手出さないし!』
『それだけじゃ面白くないよ莉良くん。クローズコンファインで足止めしてローグ系のみんなで強制集団公開ストリップしてもらうとか』
『相変わらずいいネタだすなーらこ。澪マス自ら出向いてもらって緊急招集で全員召還のあと集団でボッコボコとかでも面白いんじゃね?』
『それはいい考えだ朱罹。取得はしたものの俺一度も緊急招集使ったことなかったし』
『はきゃーっはきゃーっはきゃーっ!!!集団で!公開!!ストリップ!!!ちょっとやってやって本気でやってそれ見たい見たい!!!』
『そんなことのために緊急招集使うのはやめて下さい澪マス!貴方がそれ使ったら砦内の配置が
全部一箇所に固まっちゃうじゃないですかッ!四季奈さんも落ち着いて下さい砦の中今走り回っちゃだめですからね!』
「はー…杜若が来る時はいつもこうなんだから…」
「ねえ呂揮、杜若って誰のこと?」
本気の言動に聞こえなくも無い澪と半ば暴走状態に近い四季奈をたしなめたあと深くため息をついて
うなだれる呂揮の横顔を隣で見ていた琉風が尋ねる。
「あぁ…琉風は知らないよね。杜若っていうのはたまにここ攻めに来るロードナイトのこと。いつもふざけた装備で来るからすぐ分かるよ」
「ふざけた装備って…」
「前回は戦闘しながらアフロかつら5種類を30秒おきくらいに付け替えで、その前は
『ただいま装備公開チュッ♪』とか言いながらひまわり頭につけてたな。で、装備閲覧したら脱力の装飾用ひまわりだったし」
「『脱力の』ってつくのはセイレン=ウィンザーC挿しか。確かStr-5の精錬値によってStr+1だったよね。
あれ、でも確か装飾用ひまわりって精錬できないんじゃなかったっけ」
「そ。だから完全ネタ装備」
「………………」
「でも油断はしない方がいいよ。ものすごい強いから」
「あーれあれあれー、ひょっとして俺の噂とかしちゃってる?」
ふいに聞こえた声に呂揮と琉風がほぼ同時に踵を返して侵入者を見据える。
呂揮の緊張した表情は変わらなかったが琉風はその侵入者にぽかんと口を開けた状態で釘付けになってしまった。
近づいてきたのはペコペコに乗り、バルーンハットに老人の仮面をつけたロードナイト。
「呂揮…えっと…あれ…」
個性的と言えなくもないその姿に唖然とした様子で琉風は侵入者を指差した。
「そう。あれが『杜若』だよ」
特化弓を構えて答えた呂揮の口調は緊張を帯びている。ペコペコに乗って突き進んでくる前に立ちその先を素早く塞いだ。
「おや、第一陣は呂揮ちゃんと…最近入ったって言う噂の新人ちゃんか。ねえ通してー?俺澪に用があるんだ」
「通さない」
呂揮は厳しい表情を変えないまま短く言うと一気に間合いを詰めた。
『フルストリップ!!』
「…!!」
先程琉風に仕掛けた時と同じように蹴りから装備を剥がそうとしたようだが上手く決まらず、悔しそうに杜若を見上げる。
「そう来るって分かってるんだからコートしないで来ないわけないでしょー、そんでもって。邪魔するなら遠慮なく掃っちゃうよ?」
「呂揮っ!」
呂揮に向かって槍を振り上げたのを見て爆裂波動状態に入った琉風が背後に回り杜若に向かって拳を振り下ろす。
『阿修羅覇王拳!!』
どん!と大きな音を立てて確実に叩き込まれたはずだったが、杜若には致命的なダメージにもなっていなかったらしい。
老人の仮面とバルーンハットをはずし、羽のベレーを装備し直した時に見せた端正な顔に含まれた笑みは余裕に満ち溢れていた。
「まだまだ荒削りだけどいい阿修羅だねえ」
でも。と言って手にした槍を握り直して琉風の方を見下ろす杜若の瞳は身動きできなくなりそうなほど鋭く射抜くような視線だった。
「俺を鎮めるにはちょっと大分かなり相当。威力が足りないかなあ?」
「あああぁぁぁッ!!!」
杜若が槍をひゅん。と一振りするとその衝撃で琉風は吹き飛ばされそのまま姿が見えなくなってしまう。
『…琉風?琉風っ!?』
『ごめん呂揮…セーブポイント戻されちゃった…』
『怪我は!?』
『すぐヒールしたから大丈夫。それより呂揮…』
「ほーら余所見しちゃだめだって、呂揮ちゃん」
ギルドチャットで琉風の安否を確かめている呂揮に今度は杜若の矛先が向いた。
「そんなに新人ちゃんのことが心配なら直接会いに行っておいで?すぐに会えるように手伝ってあげる♪」
「…ッ…!!」
『クローズコンファイン!!』
一気に間合いを詰め振り下ろそうとした槍は呂揮までは届かなかった。
「うっわぁ………………」
杜若が心底面白くなさそうな声を出し、クローズコンファインで自分の自由を奪った張本人、理を見下ろした。
「リィ、お前超きらーい」
「あぁオレもキライだ・意見があってナニヨリだな?」
「お前ってあの手この手その手で絶対通してくんないんだもん」
クローズコンファインで動けなくなってしまった状態で乗っているペコペコに完全に身を
預けるような体制になり進路を塞ぐように立ちはだかる理と視線を合わせる。
「キライなら潰せよ・お前のそのエモノはお飾りか?」
「思いっきりリジェクトソード使って臨戦態勢じゃん…お前めっちゃ諸刃装備だから攻撃すんのやなんだって~。ね~お願い通して~?」
理はそれに対してただ目を細めて見せるだけだった。
「あぁもう可愛くない可愛くないっ。さっきの新人ちゃんのやられっぷりとか呂揮ちゃんの反応っぷりとか超可愛かったのに…」
「てめえを過小評価なんざしねえぞ・握ったその槍でオレをどうすれば串刺しに出来るか考えてる
お前にスる余裕も油断もねぇんだよ。悪いがてめぇのコート切れるまでこのままな?」
「悪いなんて少しも思ってないくせにぃ…挑発も全然乗らないしさ。本っ当お前つまんない」
「退屈してるようだね、杜若」
「…………澪マス!?」
あり得ない人物の声に驚いて呂揮が声のする方を振り向くとエンペリウムルームにいるはずの澪が杜若のいる方へと近づいてきていた。
「澪マスなんでここに来るんですか!!」
「いや退屈だったから」
「開始5分で退屈にならないで下さいよ!」
「じゃあ闘ってる呂揮のお尻の鑑賞しにとかならいい?」
「なおのこと駄目です!もう何言ってるんですかッ!!」
「うっわぁ~ここが公共の場っていうのかどうか分かんないけど、とりあえず人前で堂々といちゃこらして大胆なんだからもぉ~」
「五月蝿いっ!!!………ってちょ…澪マスっ……!」
相変わらずその場から動けぬまま親指を下に向けてBooBoo言っている杜若に対して顔を真っ赤にして
怒鳴りつける呂揮に、やめるどころか澪が抱きしめ髪の毛に頬を押し付けてくると困ったような表情で退かそうとする。
「これでいちゃこら?甘い甘い杜若。2人っきりの時はもっとこんな風に…」
「うわああぁぁぁぁぁこんな所で実践しないで下さいってばッ!!!」
「ね?俺はもっと人前でもべたべたいちゃいちゃしたいんだけどこんな感じで呂揮がさせてくれないの。2人だけの時じゃなきゃ嫌ですって」
「だからどうしてそういうことを此処で言うんですか貴方はッ!!!」
「……なぁリィ。なんかこう、あの2人見てると爆破したくなってこない?ドーンとかってさ」
「杜若・オレがどんだけココのギルドの傭兵やってると思ってんだ?そんなコトでいちいち反応シてたら身ぃもたねえぞ?」
コートが切れるまで逃がさないと言っていた筈の理が突然杜若にかけていたクローズコンファインを解除し
後方に下がってしまう。呂揮を抱きしめていた澪が一度その髪の毛に口付けた後杜若の前に進み出る。
「んー。今日はいきなり大将お出ましなの?」
「最初は待とうと思ってたんだけど攻め手が全然来なくてね、本当に退屈なんだよ」
死神の名簿を取り出した澪は杜若を見上げ妖しく笑う。
「おいで杜若。刺激をくれるんだろう?」
「いいねえ。そうこないと」
同じように妖艶に笑い返した杜若がペコペコから降りひゅん。と槍を軽く回して構え直し、そのまま澪めがけて飛び掛った。
バシッ…!
杜若の槍を手にしたガードで受け止めながら振りかざした死神の名簿は杜若のこめかみ部分に直撃する。
攻撃力と耐久力を兼ね備えたロードナイトからすればその一撃は撫でられた程度の些細なもののはずが、
何か重たい一撃でも食らったかのように杜若が膝を折った。
それを確認した澪が素早く大百科事典に持ち替え今度はそれを後頭部に叩きつける。
「…………また~?」
残念そうな楽しそうな。そんな感情が入り混じった口調で杜若の身体が崩れ落ち、そのまますぅっと消えてしまった。
「流石は『明亭の死神』。アノ人が死神の名簿で殴って瀕死にならなかった人間見たことねぇな」
排除完了と言って大百科事典で肩をぽんぽん叩いている澪の姿を遠めで眺めつつ周辺を警戒していた理が
呟くのを呂揮がどこか納得できないと言いたげに眉を寄せる。
「でもあれって瀕死の発動かなり低確率なんです……よね?」
「澪マスが持つことで在り得ない補正でもかかるんじゃねぇの?」
「正直悔しいです。琉風のフォローも出来なかったし、せっかくリィさんに特訓まで
してもらったのに杜若には完全に押さえ込まれてしまったし」
「何が起きるか分からない・自分の思う通りにならないのが攻城戦だろ?」
「次来たら…今度こそ足止めし続けてやる」
「そういう風にあきらめの悪いヤツこそ化けるもんだよ」
「…はい…!」
『で、琉風。怪我の方は大丈夫なのかな』
セーブポイントに戻された琉風に向かってギルドチャットを通した澪の言葉への返事はすぐに戻ってきた。
『大丈夫です澪マス、ヒールで完全に回復しました。今から俺も今すぐに戻ります!』
『それなんだけどね、杜若が攻めたことでいくつかのギルドが明亭に移動を始めたらしい。
出戻りの琉風を排除にかかるだろうから緊急招集発動まで待機してて』
『わかりました』
『あっ!ねえ澪マス!緊急招集するならあたしも一度戻っていい?フェイヨンセーブするの忘れちゃった!』
『こーら莉良。ちゃんとセーブはしておきなさいっていつも言ってるだろう?』
『ごめんなさーい』
『早く行ってきなさい、準備が出来たら呼び出すよ。他のメンバーも緊急招集発動後すぐに配置につける準備を』
「あれ…トメさん?」
セーブポイント着地地点で琉風が緊急招集を待っていると、その頭上で彩のファルコン、トメが飛んでいるのを見つける。
トメは琉風の姿を見つけるとどこかおぼつかない動きで降りてきて差し伸べた琉風の腕に止まった。
「トメさんだけ?彩マスは………」
トメの頬を指で撫でようとした時にその羽の不自然に気づく。
モンスターに攻撃を受けたというよりも明らかに人為的なもので握りつぶされたように羽の形が痛々しく変形していた。
「トメさん…どうしてこんな…」
どうしようもない嫌な予感が過ぎ彩へとwisを飛ばす。
『彩マス聞こえますか?』
しばらく反応を窺ってみたが返答の気配が全く無い。
『彩マス、彩マス?返事してください!何かあったんですか!?』
何度呼びかけても答えのないwisを一度切り、今度はギルドチャットに切り替えた。
『澪マス俺、琉風ですけど…!』
『ん、琉風?莉良がフェイヨンセーブ終わったら呼び出すからもう少し待って』
『今俺の側にトメさんがいるんです。ケガしてて…彩マスに今wisしたんですけど返事が全然ないんです!』
『………分かった、琉風はトメさんにヒールを。俺が指示を出すまで琉風はそのまま待機しててくれ』
『はい』
『莉良は今何処に居る?』
『セーブ先のプロンテラに西門前』
『莉良も待機だ。指示があるまでそこに居てくれ』
『分かった』
「彩マス…」
澪の指示を聞き逃さないようにギルドチャットに耳を傾けつつ、力なく片方の羽を垂らしているトメに
手をかざしてヒールを施しながら祈るような口調で彩の名前を口にした。
他メンバーへの指示を一通り終えた後、澪もまたwisを飛ばしていた。
『ごきげんようHiwiz殿』
『ん~この声は、空即是色のマスターの教授様かな?いち攻城戦ギルドのマスターでしかない僕にわざわざwisするなんて何の用かなぁ~』
『彩をどうした』
『彩…?…あぁ、前に僕のことぶっとばしたあのムカつくスナイパーのことね。知らないなぁ』
『3度目は言わない。彩をどうした』
『ねえ…僕が絡んでるって思うんならさ、もう少し口のききかた気をつけたほうがいいんじゃない?僕結構気が短いからさぁ』
『望みを聞こう。出した条件は全て飲む』
『そう、じゃあまず砦捨てて』
『分かった』
『随分あっさりいうね~大切な人が取った大事な砦なんでしょう?』
『だからこそ捨てれるんだ。お前にはきっと分からないだろうけどね』
『分かりたくもないっていうか超最悪。友達1人助けるために砦捨てちゃうんだ。ずーっと防衛し続けてきた
歴史をこんな形であっさり閉ざすんだ。そんなことギルドメンバーが納得するの?最っ低なマスターだね。
こんなマスターの下にいるメンバーかっわいそー』
『望みはそれだけか?』
『少しも動揺もしないでムカつくねあんた。悪いけどそれだけじゃないから、あんたのメンバーごと
アルベルタのカプラ前まで移動してよ。全員移動を確認出来たらまた指示出すから。
妙なことしないでね?砦捨てれるくらい大切なオトモダチをボロボロにされたくなんてないでしょう?』
『あぁ』
『絶対あんたを屈辱にまみれさせて地面にはいつくばらせてやるから』
そのままぶつりとwisを切られてしまう。
『明亭内にいるメンバーは全員エンペリウムルームに来てくれ。砦を捨てる』
『了解』
『はーい』
『ほいほい』
『おっけー』
『分かりました』
返ってくるのは了承の言葉ばかりで突然砦を捨てると言う澪の言葉に疑問をぶつける人間は1人もいない。
澪が言葉を発したあと、メンバーが移動を開始したのかしばし沈黙したギルドチャットに莉良の震えた声が響いた。
『澪マス…彩マスが…』
『彩?』
『誰かに抱き上げられて連れて行かれてる。気を失ってるみたい』
『1人だけか?』
『うぅん2人。1人はローグで、彩マス抱いてるもう一人は…ちょうど人の影になっててここからじゃ見えない』
『向かってる場所は?』
『カプラサービス』
『……転送使う気か』
『あたし止める!!!』
『待て莉良。そこから動くな』
『でも!転送使われたらどこに行ったか分からなくなっちゃうよ!?』
『莉良もう一度言う。これは命令だ、そこから動くな』
『命令でも聞けない!澪マス何も言わないけど、彩マス人質にしてその交換条件に明亭を出されたんでしょ?あたしが今止めれば…!』
『もし莉良が俺の命令を無視してその2人に接触したらこの場で色即是空のメンバーを
全員除名、同盟解除の上相当の制裁を受けてもらう』
『澪マス!』
『同盟と言えど勝手な行動を取る人間がいてはメンバーの士気に関わる、守れないというなら
他のメンバーに責任を取ってもらうまでだ。それでも構わないと言うなら背きなさい』
『……………』
『莉良はそのままアルベルタに来るんだ。来ない場合は…言わなくても分かるね?』
* * *
アルベルタのカプラサービスから少し離れた所で莉良は俯いた状態でぽつんと立っていた。
桜子の出したアルベルタのワープポータルに一番先に乗った澪が真っ先に莉良の姿を見つけ、
側に駆け寄り腰を屈めて莉良と視線を合わせる。
「あたし命令通りに動かなかった、あいつらに接触しないで真っ直ぐここに来たよ。
だからコトたちを除名しないで、同盟も解除しないで。みんなに…何もしないで」
俯いたままで小声で話す莉良に小さく頷くことで澪がその言葉に応える。
「してないし、しないよ。きついこと言って悪かった」
「ううん、澪マスは悪くない。あたし1人じゃ逃げることは出来ても彩マス助けて2人同時相手なんて
出来なかったもん。あれくらい言われなかったらあたし絶対命令無視してたし…澪マスがあたしのこと
心配してああ言ってくれたのもちゃんと分かってる」
「莉良」
そこで莉良は顔を上げたがその目にはいっぱいの涙を浮かべていた。
「あたしが…あたしがもっと強ければ良かった…!澪マスが『不届き者に制裁を加えてきなさい』
って安心して指示出せるくらいあたしが強ければよかった!!!」
「勝てないって分かっていても本当はすぐにでも飛び出して彩を守りたかったろう………つらい思いをさせたね」
血が滲むまで強く握り締めていた莉良の拳を澪がゆっくり解いてやると莉良の目から溢れた涙が頬を伝っていく。
「行きたかった…助けに行きたかったよ…勝てなくても敵わなくても助けに行きたかった…!」
すっとどこからともなく伸びた手が莉良の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「コトぉ…」
自分の頭を撫でる理を莉良が見上げる。
「よく堪えたな」
「うぅ…ひっ…ふぇぇぇぇッ…」
ぼろぼろと涙を零し続け、理の胸にすがりつくと莉良はしゃくりを上げて泣きじゃくりはじめた。
『俺たちこれからどうすんだ澪マス?』
『ひとまずアルベルタに全員行くこと。次の指示はあとから追って出すとのことだ』
泣いている莉良の頭を軽くひと撫でしたあと尋ねる史乃に澪が坦々と答える。
『なるほどねー……でもまさかこのまま泣き寝入りってことねーよな?』
口調は穏やかなものの澪を見る真剣な史乃の視線に澪はやんわりと微笑んで見せた。
『リィ・呂揮、周辺の状況を報告。俺達がおりこうさんで約束を守っているかどうか
監視している人間がどこかにいるはずだ。1人残らず探し出せ』
『了解』
『分かりました』
澪の言葉に理の背中にごく自然な動きで呂揮が回る。
『10時方向道具屋壁付近に2人・職業スナイパー、ナイト。件のハイウィザードと同一エンブレム』
『7時方向商人ギルド前・職業忍者、12時方向カプラ横のベンチにプリースト1人。両方ともエンブレム同じです』
『……12時方向建物屋根の上・職業アサシンエンブレム同じ』
理、呂揮が報告したあと泣いていたはずの莉良が両手で涙を拭いながら続けて
報告すると2人に続けざまにぐしゃぐしゃと頭を撫でられていた。
『そうか。分かった』
それらを聞いた澪がかけていたミニグラスをかけ直しながらゆっくりと瞬きをする。
『潰せ』
目を開いて静かに言ったと同時3人が一斉に散り、それから立て続けに聞こえてくるのは短い悲鳴。
道具屋付近にいたスナイパーとナイトは続けさまに背後を取った理の短剣になぎ払われ、
商人ギルド前にいた忍者は呂揮のフルストリップが決まり裸同然の状態で弓の餌食になった。
屋根にいたアサシンは莉良の蹴りから入った短剣攻撃で呆気なく地面に落下する。
その様子を見ていたカプラ前のベンチに居たハイプリーストが険しい顔をして
誰かに耳打ちをしようとした瞬間、澪がその前にすっと立つ。
「俺が言うのもあれだけど、つき従う人間はよく考えて選んだ方がいいよ?」
相手に言い返す隙も与えず手にした死神の名簿で後頭部に一撃喰らわせると、
ハイプリーストは悲鳴一つ上げずにベンチの上に横倒れになった。
『さて、俺のギルドに関わる人間に手を出すなっていう警告を徹底的に無視されたちゃったことだし。警告どおり本気で潰すとしましょうか』
『なぁ、そう言えば琉風まだ来てなくねー?』
くいくいと襟巻きを引っ張る史乃の言葉で澪がパーティの状況を確認すると、琉風がフェイヨンから動いていないのが分かる。
『琉風にはここに来るように指示を出していた筈だけど…琉風、アルベルタに移動だよ?琉風?』
澪の呼びかけに琉風の答えはなかった。
→ツヅキマス。→
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