ごめんなさいもうしないから。だから。
『呂揮くん琉風くん莉良くんって今一緒かな』
『はい、今GD3Fです』
Gチャットでの桜子の問いかけに返事をしたのは呂揮。
『そっか、そろそろ出かけるから戻ってきてくれるかな。揃ったらみんなで一緒にフェイヨン行こう』
『わかりました』
「集合だってさ。琉風ポタよろしく」
「わかった。フェイヨンって、ひょっとして同盟の合同会議?」
ポケットからブルージェムストーンを取り出しながら聞いてくる琉風に向って小さく呂揮がうなずいた。
「そ。会議っていうけど要するに今週の攻城戦の打ち合わせだね」
「なんか緊張するな…」
「緊張って。これからやる同盟の合同会議が?」
「そういう経験全然なかったから」
「そういえば琉風って同盟合同会議もそうだし攻城戦も初参加だっけ」
「うん」
「大丈夫だよ。会議はとりあえずうんうんって首縦に振って分かってるフリしていれば
いいだけだし、攻城戦はうわーって周りに揉まれてるうちに終わってるから」
「呂揮」
何か言いたげにしている琉風に呂揮がまぁ。と切り出す。
「聞くよりまず参加して慣れろ。これ一番重要」
「…分かった」
「おい莉良ー戻って来いってば帰るぞー!」
近づいてきたマリオネットを倒し、近くの崩れかけた壁の向こうへと行こうとする莉良を呼び止める。
「待ってー輝く草刈ってから!イグ実っイグ実っ!」
「せいぜい青ハブだろ?そんな簡単に出るわけないし…」
「とりあえず刈る!コトがイグ実集めてるのー!!」
「狩ったらすぐ戻れよー!」
「おっけー!」
足取りも軽く莉良の姿はあっという間に壁の向こうに消えた。
「みんなさ、理のこと『リィ』って呼ぶけど莉良だけ『コト』って呼ぶよね」
莉良と極力距離が離れないように莉良が消えた壁の方へと
2人で近づきつつ、琉風が前から抱いていたささやかな疑問を口にした。
「琉風だってそうだろ?『ことわり』ってまんま呼んでるの同盟含めたギルドの中ではお前だけだぞ?」
「うん。『リィ』って略称のことなんて知らなかったし、ずっとそういう呼び方だったから」
「リィさん『ことわり』って正式名で呼ばせないんだ。名前の意味が自分に合ってないって言って」
「そうなんだ…」
理と最初に会って名前を聞かされた時、いい名前だと言った琉風に対し『指さしモンで爆笑するところだ』
と返された事を思い出し、その言葉にはこういう背景があったのだと密かに納得する。
「知らない人にも略称教えて『リィ』って呼ばせるんだけどね。琉風は何も言われなかった?」
「うん」
「へーえ」
そう言って呂揮が肘で琉風の腕をつついてくる。
「なっなんだよっ」
「いやなんとなく。莉良もさ、ずっとリィさんのこと『コト』って呼んでたらしいよ。『リィ』
って呼ばせたかったらしいけど小さい時からずっとその呼び方だったからって変える気全然ないみたい」
「『小さい時』ってことは、理と莉良って相当前からの知り合いなんだ」
「あれ、知らなかったっけ、リィさんと莉良は親戚同士だよ。莉良が赤ん坊の時からの付き合いなんだって」
「やっぱりそうだったんだ。親戚ってことは従兄妹とか?」
「いや。親兄弟まではいかないけど従兄妹よりは血が濃い」
「じゃあ叔父姪の関係」
「それが…逆なんだよ」
「え?」
呂揮が急に琉風の方に顔を近づけて声を潜める。
「リィさんの父親が莉良のお兄さん。つまり莉良はリィさんのおばちゃ………うがッ!」
輝く草を狩りに行っていたはずの莉良がいつの間にか戻ってきており
口封じの如くに腕を呂揮の首に巻きつけて力を込めていた。
「琉風ぁ。なんにも聞いてないよね?」
首を絞めたまま莉良が顔を上げると不自然なくらいにこやかな笑みを浮かべている。
「莉良…呂揮が…」
「聞・い・て。ないよねぇ?」
「う、うん。聞いてないよ何も」
呂揮の首を絞め続けながら微笑む莉良に琉風はそうとしか答えられなかった。
「莉良…離せ…マジで…」
「うるさいうるさいっ!禁句だって言ってんのに前の時だって言おうとしてたろ!今日という今日はぁーッッ!!」
「そうじゃなくて…後ろっ…後ろッ!」
「ん?」
「へ?」
琉風と莉良が呂揮の指差す方を向いた時、青白く透けた剣士が、
大量のナイトメアを従えてこちらに突っ込んでくるのが見えた。
『ちょーーーーッッッ!!!!』
『だぁーーーーーーーッッ!!!』
『うわぁぁぁぁッッッ!!!』
「ただーいまっと」
「お帰り史乃くん。PDはどうだった?」
「犬増えただけだけどすんげーことになってたわ。多分これからはPT狩場になるんじゃねーのかー?」
居間の中央に立っていた桜子にそう答えると持っていた荷物入れをソファーの上に放り投げる。
「そう、じゃあ次のギルド狩り候補になりそうかな」
「それもいいかもなー。あーそれよりさ、ギルドチャットでなんか悲鳴聞こえたけどなんかあったかー?」
桜子が無言で下の方を指差したので史乃が素直にその先を見ると、琉風、呂揮、莉良の
3人が桜子の出したサンクチュアリの領域内に座り込んで体力を回復していたところだった。
それを見て史乃がにやっと笑いしゃがみこんで3人を覗き込む。
「さーてーは。お前らGDに新しく来た新参者らにぶちのめされたんだろー」
「…DOPに轢かれたんだよ」
むすーっとした顔を隠そうともせずに呂揮がぼそっと答えると史乃がぷっと噴き出す。
「それは南無ー。GDなんて特に変化が激しかったってーのにそれはまた通常通りというかアレな散り方だなー」
「湧きは確かに激しくなったけどそれなり順調だったんだよ…それなのに!
俺がDOP出た事言おうとしてるのに莉良がいつまでも首絞めてるから!」
「元はといえば呂揮が禁句を言うからでしょーがぁ!」
莉良の方を見て呂揮が叫ぶと莉良の方も呂揮の額に頭突きせんばかりの勢いでつめよって怒鳴る。
「何が禁句だよ本当のこと言ってるだけだろ!お前がリィさんのおばちゃんなのは事実なんだから!」
「あーっ!あーっ!又言った!又言ったーーーーーッッ!!!」
「ちょッ本気で締めん…うぉぁッ……」
呂揮が抵抗する前に手を回して莉良が首を締めて前後に揺さぶる。
「りっ莉良…離してあげなって!ほら、さっきGDでFWに上書きされちゃったろ?三段コピーするから」
それを聞いた莉良が目を輝かせながらぱっと琉風の方を振り返る。
「ほんとにッ!?ねぇ、タダ?タダで?」
「うんいいよ。だから呂揮のこと離してあげなよ」
「だめだ琉風!せめて分配したオリ塊と青ポーションくらいはむしり取れ!
コイツ甘やかすとロクなことにならな………って!だから首締めるなぁぁぁッッ!!!…ぐぇ………」
「いらないっ!莉良何もいらない!だから呂揮の首離してあげなって!」
「はーはーはー………琉風ここに来て2週間ちょい。だっけ?知らない間に随分と仲良くなっちゃってまー」
3人のやりとりをしばらくじーっと観察していた史乃がそう呟いてぽりぽり頬を掻きつつ立ち上がる。
「年齢も近いから話も合うみたいだしね。あの3人でとか、
澪の所のレベル合うメンバーとも出かけたりしてるみたい」
桜子が3人の体力が回復したことを確認して使わなかった残りのブルージェムストーンを仕舞う。
「っつかアレだと単に呂揮と莉良に琉風が振り回されてるだけのように見えなくもないけどなー」
「でも琉風くんはまんざらでもないみたいだよ?今までPT狩りとかもしたことなかったみたいだから
普段行かない所に行ったり、自分を必要としてくれるのも嬉しいみたい」
「なるほどねー。当の甥っ子は傍観かー?」
煙草を吸っている理が腰掛けているリビングの椅子の背に軽く腰をもたれさせて
史乃が肩越しに問いかけると、興味がないと言わんばかりに軽く上を向いてふーっと煙を吐き出す。
「いつもの事すぎて突っ込む気も起きねぇ」
「ぶはははははははっ!確かになー、もう何回目かもわかんねーよな
あのやり取りも…で。全員そろったしそろそろ出発か?らこ」
「彩が来てから出発かな。留守番お願いすることになってる」
「ふーん。その留守番してくれる人っていうのは今どこに行っちゃってるわけ?」
「『トメさん』迎えにフィゲルに行ってる」
「…………………げッ」
『トメ』という名前を聞いた瞬間史乃が心の底からといわんばかりに嫌そうな顔をする。
聞きなれない名前が耳に入って呂揮と莉良の仲裁に入っていた琉風がふと桜子を見上げた。
「らこさん、『トメさん』って誰ですか?」
琉風の問いに桜子が人差し指を顎にあてて少しだけ考える仕草をする。
「トメさんは彩の相棒、かな。ちょっと怪我して今までフィゲルで
治療してたんだけど無事完治してね、彩が今迎えにいってるの」
「相棒ですか…でもギルドメンバーではないんですよね?メンバー表に名前がなかったし」
「気をつけなよぉ琉風。トメさんは嫌いなヒトには容赦ないから」
呂揮の首にはまだ手をかけたまま、にやにや笑って莉良が琉風を見る。
「…え…?」
「あんま脅かすなって莉良、そもそもトメさんは…」
呂揮が言葉を続けようとした瞬間、玄関のドアが勢いよく開かれた。
「たっだいまー!!」
満点の爽やか。というよりもどちらかというと緩い笑みを浮かべた状態の彩がドアを開けて入ってくる。
「おかえり彩、そのだらしない笑みを垂れ流しの状態で街を歩いてたの?」
桜子の容赦ない言葉にもその笑みは崩れることは無い。
「だって愛する『トメさん』とこれからずっと一緒にいられると思うと嬉しくて嬉しくて……」
瞬間。
もの凄い勢いで何かがドア口から部屋の中を通り、史乃と理の方のいる方に向って行く。
理はひょいと身を屈めたが、その『何か』の標的ではなかったらしく、そのまま史乃に体当たりをしてきた。
「どぉぅううあぁぁぁぁぁぁぁぁあああッッッ!!!!」
野太い悲鳴と共に史乃の身体が派手に床にひっくり返る。
「病み上がりの割には随分派手なパフォーマンスだなおい」
突然の『何か』の襲撃にも、倒れた史乃を見ても動じる様子もなく椅子に座り直して理が呟く。
「トメさん、治ったばかりなんだから無茶しちゃだめ!ほらおいで」
史乃を襲ったその『何か』は部屋の中を舞うようにふわりと回って、『トメさん』と呼んで差し出す彩の腕に止まる。
「あの…らこさん。『トメさん』ってひょっとして」
「うん。トメさんは『彼女』のことだよ」
琉風の言葉に桜子が彩の頬に嘴を寄せてクルルッと甘えるように鳴いている淡い紫色のファルコンを指差す。
「このッ…トメぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!」
倒れていた史乃が勢いよく起き上がって怒鳴りつける。
「帰ってきた早々随分な挨拶じゃねぇか、あぁー?っつか、なんでまた戻って来んだ?
もう隠居しろ!一生フィゲルから出てくんじゃねーってのーッッ!!!」
空気で。それとも言葉が分かるのだろうか。
ファルコン―――『トメ』はぎろりと、明らかに敵意むき出しの鋭い視線で
史乃を睨みつけるとピィィィィと翼を大きく広げて威嚇している。
「ほらトメさん落ち着けってばもーあぁほらほらっ!トメさんが療養中に新しいメンバー増えたんだぞ?」
床に座り込んだままの琉風に近づくと彩がトメがとまっている方の腕を差し出す。
「は…はじめまして…琉風です」
何か見定めでもするかのようにじーっと見つめるトメにどう言ったらいいのか分からずとりあえず普通に挨拶をしてみる。
それからあ、と言って自分からトメの方に顔を近づけた。
「…近くで見るとすごく綺麗ですね。毛ヅヤもいいし、瞳もすごく澄んでて…」
琉風が指先でトメの頬の毛をくすぐってやるとトメがクルッと気持ちよさそうに鳴く。
「そうだろそう思うだろ!琉風なら分かってくれるっ……て……………」
そこまで言って彩の言葉が途切れた。そしてトメが琉風の頬に
嘴を軽く擦り付けるのを見た瞬間完全に硬直して動かなくなった。
「あ…………トメさんが落ちた…」
「落ちた?どこに?」
トメにクチバシを頬に擦り寄せられたままの状態で琉風が見当違いなことを言って呂揮の方を見る。
「…そうじゃなくて。トメさんって彩マス以外に絶対触られせないんだよ。クチバシを
頬に擦りつけるのだって彩マス以外にしてるところなんて見たことなかったのに…」
「なっ…なんだってぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」
呂揮の言葉に半ば呆然とその光景を眺めていた彩が愕然とした表情で叫ぶ。
「なっ…何故だ…どんなに目の前に人が通ろうと構うことなくキスの雨を降らせてきたトメさんが…
よりにもよって俺の目の前で他の男にキスするだなんてっ……俺に飽きたのか?
琉風に惚れたのか!?答えてくれトメさぁぁぁぁぁんッッ!!!」
「言葉だけならうわ痛ぇ。で終わんのに・言ってる対象のせいで爆笑話にしか聞こえねぇな」
「うぅぅぅうっさいリィ!お前に俺のこの切ない気持ちが分かるかぁぁぁぁッッ!!!」
「あの……えーと…」
周りの展開についていけずに戸惑っている琉風の肩を呂揮がぽん、と叩く。
「琉風、お前が悪いわけじゃないけど察してやって。トメさんが彩マス以外に興味を示したなんて初めてなんだ…」
「よくわかんないけど…そんなにショックだったのかな彩マス…」
「トメさんにとって彩マス以外の人間はカボチャかニンジンくらいの認識だったからな」
相変わらず椅子に座ったままで煙草を吸っている理が遠巻きに答える。
「史乃のことだけすごい嫌ってるみたいだけど」
「あぁ・史乃だけはカボチャじゃなくて宿敵だな。あんな風に追い回される
くらいならカボチャニンジンって思われてる方がまだマシだな」
「でもなんであんなに史乃って嫌われてるんだろう。何かトメさんの嫌がることでもしたのかな」
「琉風くん。女心は複雑なんだよ、色々と」
桜子の言葉の意味を分かりかね琉風はただ不思議そうに首を傾げた。
「琉風」
「ん?」
理が人差し指をくいと折り曲げ『来い』という仕草をする。
「…なんだよ…ん…っ!?」
近づいてきた琉風の頭を両手でがしっと掴むと唇を重ねてきた。
「な…ことわッ…!」
「ぎゃーぎゃー騒ぐな。他の奴等に気づかれてえのか?」
唇が重ねられた時間はほんの僅か。それでも差し入れられた確かな舌の感触に琉風は顔を真っ赤にするが、
当の理はぺろりと自分の唇を舐めながら琉風の反応を楽しげに眺めている。
「何するんだよみんな集まってる所で…!」
「動物にすらキスさせる無防備なお前が悪い」
小声で怒鳴る琉風に対して答える理の口調に悪びれた様子などというものは全く見られない。
「キスって…何いってんだよクチバシが顔にちょっと当たっただけだろ」
「んじゃオレのもそうだろ。唇がちょっと当たっただけだ」
「このっ……馬鹿っ!」
勢いよくそっぽを向いて離れていく琉風の背中を見ながらまた何事もなかったかのようにゆったりと煙草を吸い続ける。
「相手が天然だと大変だね。いろいろと」
煙草を咥えたまま理が視線だけを上にやるといつの間にか理の隣に桜子が立っていた。
「トメさんが史乃をあんだけあからさまに嫌ってる理由未だにわかんねぇんだぞ?犯罪級だな。彩マスの天然っぷりは」
「私は史乃くんとリィくん二人に対して言ったんだよ。トメさんにキスされてる
ところ見て妬いたって素直に言えばさすがの琉風くんでも分かると思うけどな」
「……………なんのコト言ってんだかさっぱりわかんねぇな」
「うん、じゃあそういうことにしておいてあげる。ありがとうは?」
「はいはい。アリガトウゴザイマス」
「じゃあ彩、そろそろ私達行ってくるから留守番よろしく」
ブルージェムストーンを取り出した桜子がトメの鳩胸に顔を寄せている彩の肩にぽんと軽く手を触れる。
「おうっ行ってこい!俺はその間離れ離れになっていたトメさんと心の隙間を埋めて埋めて埋めまくる!」
「トメさん、病み上がりで申し訳ないけど彩のことお願い」
「らこ…お願いする相手を間違えてないか?」
半分呆れたような顔で言う彩に対して桜子が大真面目な顔でさらに続ける。
「彩、私達が帰ってくるまでは知らない人は家に入れちゃだめだよ。ドア開けたりも
窓開けたりもしちゃだめ。リンゴ出されても食べちゃだめだからね」
「俺は白雪姫かよ!!!!!」
「彩と一緒にされるなんて、白雪姫が可哀想だと思わないの?」
「そんな言われようされてる俺は可哀想じゃねえのかよおおおお!!!!」
「じゃあみんなそろそろ行こうか」
「そしてまた俺を完全無視かぁ!!!」
彩の言葉がまるで聞こえてないかのようにブルージェムストーンを床に落とした。
『ワープポータル』
「はい、みんな乗って」
「それじゃあ彩マス行ってきます」
「白雪姫いってきまぁ〜す」
呂揮と莉良がそれぞれ立ち上る青白い光の中へ入っていき、理も彩に向って軽く手を上げながら同様に光の中へ消えていく。
琉風だけが彩のことが気になるのかちらちらと何度も後ろを振り返っていると、
史乃が琉風の肩をぽんぽんというよりもバシバシと叩く。
「気にすんな琉風。彩マスぎゃーぎゃー言ってっけど実はすっげー嬉しいんだぞ?なんつたってどMだから」
「…どえむ?」
「ちょっ史乃てめえええええええッ琉風にてきとーなこと教えてんじゃねええええええッ!!!」
「え…あ…!?」
「おらおらあとつかえてんだから入った入ったー」
何か言う前に史乃が琉風をワープポータルの中に押し込んでしまう。
「じゃーなー。彩マス、トメのことしっかり躾けておけよー」
そう言ってべぇっとトメに向って舌を出して見せ史乃が消えたあと最後に桜子が入ろうとして振り返る。
「しつこいようだけど。トメさん彩をお願い」
「うるせえ早くいけええええええええええええッ!!!!」
彩の叫んだとほぼ同時に桜子がワープポータルの光の柱に入り、すぅっと消えた。
「見たろ見たろトメさん!いっつもあんなんなんだぞ!トメさんだけは俺を愛してくれぇぇぇぇッ!!!」
ぎゅっと抱きついてくる彩にトメはクルルっと鳴いて擦りついた。
* * *
「36時間と23分ぶりだね呂揮」
そう言うなり人目をはばかることなく抱きつく澪に呂揮が慌てる。
「ちょっ澪マス!いきなりなんですか離してくださいっ!」
「呂揮、何も照れることはない。もっと嬉しそうに頬を赤らめるとか
抱きしめ返してくれるとかしても全然OKってかむしろやりなさい」
「しませんから!あーもうだからどさくさにまぎれて尻触るのやめて下さいってば!!!」
「…………既に恒例行事になってるのに一向に慣れないね呂揮は。
いつまでも初心を忘れないのはいいことだけど。あぁ、こんにちは莉良」
「澪マスこんちはー」
呂揮を抱きすくめた状態で、そばを通り過ぎる莉良の頭をよしよしと撫でる。
「こんにちは澪、真昼間から元気だね。特に下半身辺りが」
「こんにちはらこ。男の下半身は年中無休なんだよ」
さらりとそんな会話を桜子と交わしつつも澪は全く呂揮から離れようとしない。
「…………だからッ!!なんで他の人には普通に挨拶してるのに俺の時だけ
こういうことするんですかっ!!それに他にも色々いるのに…!」
「まぁ理由は色々あるけど…」
そこでようやく澪が呂揮を抱きしめている腕の力を緩めた。
「まず第一に相手が莉良やらこだと俺が犯罪者になる可能性がある。あとは…リィ、史乃、ちょっとこっち来て」
澪が二人に向って手招きする。
「んだよ」
「なんだー?」
「リィこっち、史乃は反対側ね」
素直に側に寄ってきた理と史乃をそれぞれ自分の左右に立たせた。
むぎゅっ。
澪が突然両手で2人それぞれの臀部を揉む。
「………へ?」
突然の澪の行動に琉風は思わず間の抜けた声を上げていた。
「……………………」
理と史乃は自分が置かれているその現状に動じるどころか冷めたような視線を澪に注ぎ、
まるで鏡を見ているかの如く左右対称な動きで自分の臀部を揉んでいる澪の長い袖を掴むとぐいっと引っ張って離させた。
「ね?見てこの可愛くない反応。しかも2人とも硬い尻してるから触り応えないったら」
「えっと…じゃあ琉風!」
「え?えぇぇぇぇぇぇ!?」
呂揮が琉風の背中を押して澪の目の前に突き出す。
「俺と体系似てるし触ったことは無いけどリィさんや史乃みたいに硬くは無いはず!」
「呂揮何言って…!…わぁっ!」
澪が無言で鼻同士が触れるかと思うくらい琉風に顔を近づけてきたので呂揮に背中を押されながらも慌てて後ろに下がろうとする。
しばらく琉風を見ていた澪が手を伸ばして優しく頭を撫でる。
「あ…」
琉風は呂揮と同様の目に遭うのかと慌てたが澪の行動にほっとして安堵の息を漏らす。
「琉風にはしないよ」
「なんでですか…?」
「理由は簡単。それを見て妬いちゃう人が『2人ほど』出てくるかもしれないから……ね?呂揮」
「……………」
「…?…」
複雑そうな表情で見上げる呂揮に澪はただ笑いかけ、琉風はその2人を不思議そうに交互に見る。
「琉風、ほらみんな行っちゃったよ?」
「え、あっはいっ!」
澪の言葉に慌てて先に行ってしまっている理や史乃達の背中を追いかけた。
* * *
「……………」
何を言ってるのかさっぱり分からない。
理解しようと努力はするものの聞いたことも無い単語や言葉が飛び交うので何を意味しているのかやはり全然分からない。
耳を傾ければ傾けるほどますます混乱していくばかりだ。
『らこさんすみません…俺全然意味わかんないんですけど…』
ギルド同盟会議が始まって30分後。ついにギルドチャットを使って琉風は消え入りそうな小さな声で訴えた。
『仕方が無いよ。専門用語多いし初めてならなおさらだね。琉風くん
初参加だってことは予め澪にも伝えてあるから当日の攻城戦にはちゃんと
琉風くんにも分かるように指示出してくれるよ。私達もフォローするし』
『な?琉風。だから言ったろ。うんうんって頷いて分かってるフリしてればいいって』
隣に座っていた呂揮が琉風の腕を指でつついて笑うと、むーっと口をへの字に結ぶ。
『呂揮はそう言うけど、分かってないのに分かってるフリなんて出来ないよ』
『なんつーか・どっこ行ってもイイ子ちゃんなんだな琉風は』
『うるさ…』
『こんにちは』
理の言葉に言い返そうとした瞬間、聞き覚えの有る、そして聞くだけで背筋がぞっとするようなwisが届く。
『僕のこと、覚えてるかな?』
『忘れるわけ…ないだろ…!』
会話をwisに切り替えてその相手に返事をした。
理を自分のギルドに引き込む目的で肉体的関係のあった琉風を拉致して仲間に強姦させ、
街中で古木の枝を使った大規模テロまで起こしたハイウィザード。
どこか人を見下す、絡みつくようなその声を聞いているだけで自分が
強いられたことを思い出してしまい、思わず心臓辺りの服をぎゅっと掴む。
『理のいるギルドに入ったんだってね。どうせギルドに入るなら僕の所に来れば良かったのに。
君の事…いや、君の身体?すごく気に入ったメンバーもいるしさぁ』
『入るわけないだろ…今のギルドに入ってなかったとしても、お前の所なんて絶対入らない…!』
『あれ、そうなの?これから気持ちが変わって入りたくなったりとかしちゃうかもしれないじゃない』
『なるわけないだろ!』
『ふーん……今ね。君のギルドの家にお邪魔してるんだけどさ』
『なッ…!』
『君の所のマスター、確か名前彩だっけ。1人だけでさぞ退屈だったんだろうね。すごく楽しそうに色んな話してくれるんだ』
『彩マスに何するつもりだよ!』
『別にまだ何もしてはいないよ?………その後のことは琉風のこれからの返答にもよるけどね』
『……………!』
『ね、僕のギルドに入りたくなってきたでしょう?』
『……入る…入るから彩マスに何もしないで…!』
『琉風が話の分かる子で良かった。じゃあすぐに今のギルドを抜けて、
それから1人でアルベルタのカプラ前まで来てくれるかい?』
『分かった』
『もちろんこのことは誰にも言ってはだめだよ。もし周辺で不穏な動きがあったり、
君のマスターが少しでもおかしな態度を見せたらすぐに殺しちゃうからね』
『言わない!絶対誰にも言わない!……だから…だから彩マスのこと……』
『だったらすぐに言う通りにしてよ。君が僕のギルドに入ったら歓迎会をしようね。
まだ琉風と「交流」してない人もまだまだいるし…たくさんたくさんみんなと遊んであげて。
琉風のアソコが咥えすぎて擦り切れちゃうくらい………』
くすくす笑う声を最後にwisが途切れた。
がたん!
「琉風、どうかした?」
急に立ち上がった琉風に気づき澪が声をかける。
「あのっ」
黙って出て来いとは言われたものの、出て行くための理由がすぐに思いつかずに口ごもってしまった。
「琉風?」
隣にいる呂揮が不思議そうに琉風を見上げている。
『「琉風」様がギルドを脱退しました。』
琉風は腕につけていたエンブレムを引きちぎってその場に投げ捨てると、扉を開けて走り去っていく。
『リィ、琉風追っかけて足止めして。勿論怪我はさせるなよ』
脱退メッセージがギルドに伝わったと同時にギルドチャットですぐさま聞こえてきたのは彩の声。
「澪マス、ちょい問題児連れ戻してくる」
「はい、いってらっしゃい」
理の突然の言葉にも澪は詳しい事情を聞きもせずにひらひらと片手を振って見送る仕草をする。
「らこ、明亭前」
「うん」
桜子が理のすぐ側にワープポータルを出現させるとその中に飛び込んでいった。
『それで彩。そっちはどういう状況になってるの?』
こっちは大丈夫だからと澪に会議の続きを促し、桜子がギルドチャットで
口を開くとメンバー全員がギルドチャットに切り替える。
『どーせあのハイウィザードあたり絡んでんだろー?』
『うんそう。そのハイウィザードがさ、今家に来てるんだよ』
史乃に対して彩が返答した直後、一瞬チャットが沈黙する、口に出さなくとも
「うっわぁこの人やりやがっちゃったよ…」
的な空気で充満する。
『………彩マスさー……澪マスからそいつ要注意人物だって前から言われてたろー?』
『そうはいうけどな史乃!お邪魔でしょうか?って聞かれたから、トメさんとの逢瀬中では
あったけど!別にお邪魔っていうほどでもなかったし、邪魔ですって言ったらなんか可哀想な気がしたし、
お邪魔じゃないですよって答えちゃうだろ?』
彩がそう言い返すと、さらに追い討ちをかけるような理、莉良、史乃、呂揮の言葉が次から次へと降り注ぐ。
『どんだけスキだらけだよ。留守番も任せられねぇな』
『ねぇねぇ彩マス、それなんて白雪姫?』
『自ら人質になっちゃうとかどじっ子レベルじゃないと思うぞー?』
『あれほどらこさんに言われたのに…彩マスの耳ってそれすら聞き流しちゃうほど風通しがいいんですか?』
『でも。想定の範囲内ではあったよね』
最後の桜子の言葉に『ん。』と言って同時にすべてのメンバーが頷く。
『なんだよなんだよみんなしてーーーーーーーッッ!!!』
『多分マスターを人質にとったから言うこと聞けとかそういう感じのことを琉風くんに言ったってところかな』
『らこ…俺の叫びを完全スルーして冷静に分析なんてすんなよ…
てか冷たいぞお前ら!マスターが仮にも危険っぽいような気がしないでもない状態に
陥ってるんだからちょっとくらい心配するもんじゃないか?』
『しねぇ』
『されると思ったの?』
『しませんね』
『しないよぉ』
『それはないないー』
彩を抜く全員がほぼ同時に答えたためにギルドチャットの会話が被る。
『おおおおお前らぁぁぁぁ!!ちょっと大分かなり相当そろいにそろって薄情だなおいいぃぃぃぃぃぃぃぃッッ!!!』
『心配する要素なんて『全然ない』じゃない』
『まぁ、そうだけど』
桜子の言葉にあっさりと彩がそう答える。
『…そうだけど!なんていうかこう…愛が足りない…!』
『どうでもいいけどリィ1人で大丈夫かー?チュンリムって
竹林のせいで死角多いし琉風テレポもポタも持ってるから使われたらやばくねーか?』
『それはないよ史乃…リィさんだよ?』
『あー「追跡者」だしなー。追いつかれるのも時間の問題かー…』
『っつかとっくに射程内入ってるけどな』
『それなら捕まえろよ!何遊んでるんだ!』
『別に?逃げられると思い込んでる琉風を弄んでなんかねぇぞ?』
彩の言葉にどこか笑いを含んだ口調で理が答えると呂揮が察したのか小さなため息をつく。
『要するに逃げられると思って必死になってる琉風を追い掛け回して遊んでるんですねリィさん…』
『それはそうとリィ、琉風のこと傷つけるなよ』
『分かってる』
「傷つけなきゃ・何シてもいいってことだろ?」
心配げに言う彩にそう答えるが、途中からギルドメンバーには聞こえない
通常会話で呟いたため最後の言葉はギルドには届かなかった。
腰の短剣を引き抜き、手に触れた細めの竹を走り際に斜めに切り取る。
『琉風、お前まだ分かってないだろ』
距離がそれなり離れているせいか理は通常会話ではなくwisで琉風に話しかける。
『…何がだよ…』
自分の後ろを追いかけてくる理の方をちらりと見ながら琉風もまたwisで返す。
扉を開けて出たあと、堂々と正面の門から出れば見つかると考え、砦の窓から飛び降りたまでは良かったが、
琉風がワープポータルを出そうとした瞬間に理が追いかけてきて即座に逃げた。
それからぴたりと一定の距離を保ったまま追われ続けてワープポータルはもちろん
詠唱のないテレポートすら使うスキすらない状態だった。
このまま東に向かっていけば街に出る。そうすれば人ごみに紛れて理を撒く事ができるだろうとひたすらに走り続けた。
『お前は『ここ』に逃げたんじゃねぇ。オレがお前をここまで誘導したんだよ』
「な………あっ!」
返事をする前に何かに足を取られて琉風の身体が大きくぐらつく。
その間に理が一気に間合いを詰めて近づくと持っていた竹を琉風が
体制を整える前に服に突き刺し、仰向けの状態で地面に縫い付けてしまう。
「テレポート使おうなんて考えんなよ。発動前に鳩尾に一発叩き込んで意識飛ばせるからな」
琉風のポケットから奪ったブルージェムストーンを側にある池の中へと放り込みながら理が先手を打つ。
この場から逃げ仰せなければならないのは勿論だがここで意識を失ってしまったらどうすることも出来ない。
「……っ……」
琉風が悔しそうに理を睨みつけながら自分の足を結んで輪になっている草から引き抜いた。
「今のご時世にえっらい旧式な罠だろ。こうやって引っかかる奴がいるから馬鹿にできねぇよなぁ……おら・動くな」
「うぁ…っ!」
地面に服ごと突き刺さってしまった竹を引き抜こうとした琉風の手を理が足を踏んで制する。
「離せ…離せよッ!!」
「お前がギルド勝手に抜けてこれから何処に行こうとしてるのか言えば離してやる」
「……………」
それを聞いた琉風は何も言わずに勢いよく横を向く。
「まぁだんまり決め込むのも・誰の所へ行こうとしてるのも概ね予想はつくけどな」
「あんたには…関係ない…!」
「アイツに『彩マスを人質に取ってる・危害を加えられたくなかったらコッチの言うこと聞け』とか言われた……ってとこか?」
「…………!!」
「図星か。お前本当ウソつけねぇ奴だな」
「待っ…やっ…!こんなことしてる場合じゃ…!」
琉風の上にのしかかり、ぐにぐにと足の間を揉むように動く理の手を止めようとするが、
唯一自由な片手をつかまれ、そのまま地面に押さえ込まれてしまう。
「や…だァ…離しっ…ぁ…っ!」
器用に片手だけで琉風のズボンを緩めるとその中に手を突っ込んで雄を引き出した。
「やめッ…やだぁぁぁ!」
雄だけを、恥ずべき部分だけをむき出しにして晒され、裸にされる時とは
違う羞恥に隠そうとする琉風の片足を理が掴んで持ち上げる。
「お前ギルド抜けたからわかんねぇんだろうけど彩マスオレに言ったんだよ。
『怪我させないように足止めしろって』。だから怪我させなきゃこういう足止めでも別に構わねってことだよな?」
地面に押さえつけられた手はびくともせず、外気に晒されている
自分の雄に近づく理の唇を首を振って見ていることしかできない。
「いやだっやっ…待ってお願いッ…離してお願い離してッ!」
「服汚れたら困るだろ?今日はちゃんと全部飲んでやるよ…」
「んっくっ…んッ…………!!!」
自分の雄が理の口腔内に飲み込まれていく感触に必死になって声をかみ殺す。
ぴちゃ、ちゅ、ちゅぷっ。ちゅ……。
「や…だ…ぃ…ぅんっ……!」
声を殺そうとすれば雄を嘗め回す理の舌の音が妙に大きく感じられて、何とか
髪を振り乱して振り払おうとするが、抱えられた足も押さえつけられた手も一向に自由にならない。
「んぁッやっ…!…もうやだっことわっ…りぃ…!…ふぁっんっやぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
それどころか舌の動きが激しくなればなるほど、力が入らなくなってしまう。
「あ…ッんぁっ…やめ…て…理っ…もうやめて…離してっ…っ…行かせ…てッ…」
震える声で哀願する琉風に理が一度口を離して嫌な予感を掻き立たせるような顔で笑う。
「はやく『イかせろ』って?ヤダヤダ言って結局はオネダリか」
「ちがっそうじゃ……………!!!やだっやだやだやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」
ズボンの片足を引き抜き下半身をむき出しにされながらも必死になって身体を捩じらせる。
「離せよっ離せってば!!!彩マス…あッ…うあぁぁ…………ッッ!!!」
慣らしもせずにいきなり指を秘部に突き込まれるとその痛みに身をすくませ反射的に大人しくしてしまう。
ぴちゃ…ちゅ…。
指を抜かないまま入り口を舐め、そこから雄へと滑らせ先端を
舐めるのを何度も繰り返すと、それに呼応して琉風の腰が揺れる。
「ふあぁっあっやっ…あぁッ…」
抵抗して暴れていた琉風が徐々に大人しくなっていき、頬を赤らめて首を横に振り
拒む仕草をしながらも、身体は理の舌を完全に受け入れてしまっていた。
「んぅ…く…んッ…ぁ…」
彩が危険な目に遭っているかもしれない中、振り払って逃げ出すこともできない
自分自身の力不足に情けなさと、もどかしさを感じながらも与えられる快感に溺れかけた時だ。
『ちょっと遅いね。何してるの?』
「!!!」
びくッとまるで甘い夢から覚めたように琉風は届いたwisに反射的に身を硬くする。
その様子に理がすぐ気がついて視線だけを琉風にやるが舌の動きは止まらない。
『行く…行くから…待って……ぁ…んッ…』
『ふーん……なるほどね。相手は理?』
琉風の声色でどんな状況かを悟ったのだろう。声のトーンが少しばかり低くなっている。
『おねが…ちゃんと行くから…彩マスにッ………』
『琉風は話の分かる子だって思ってたのに残念だなぁ。彼の腕、2度と弓が引けないように
なるまで焼いちゃったりとかしたら言う事聞いてくれる?』
『そんなことしないで!ちゃんと行くからそんなこと…あぁぁッ!』
wisをしていることを理に言うこともできずにただ首を振ってやめて欲しいと訴えるが、
理はそんなことなどお構いなしというかの如くに慣れてきた秘部にさらに指を増やし、
聞かれたくない声をwisで相手に漏らしてしまう。
『…早く来いって言ってるのに『そんなこと』してる琉風が悪いんだよ?ちょっと怒ってるから
手加減できるか自信ないけど…一応人質なんだし死なない程度にはしておいてあげる』
『お願い彩マスを傷つけないで!言う通りにするから待って……!』
「『最中』にwisなんて随分余裕だな」
「やっあっはぁッんあぁぁぁッッ」
増やされた指をぐりっと奥にねじ込まれ身体をよじらせる。
「おねがっやめて…彩マス…あ…ぁッ…」
「お前」
ふと指の動きを止めると、刺すような視線で琉風の方を見た。
「行けばどういう目に遭うか想像つかねぇのか?お前をレイプした連中が、
何シてくるかもわかんねぇくらい馬鹿なのかてめぇは」
「……分かってる………」
自分の手を掴む理の手に唯一自由な指でそっと触れる。
「分かってる…けど……俺のせいで…誰かが傷ついたりするのは嫌だ!絶対嫌だッ!!!」
「…………」
それを聞いた瞬間琉風は肌で感じ取ることが出来るくらい場の空気が変わったのを感じた。
「ことわ…り…」
「オレ以外とはシたくねぇっつったのは嘘か?」
「……!!」
それを聞いた瞬間理から目をそらして口を引き結んだ。
「答えろ」
「…………………」
琉風は何も言わずに横を向いたまま黙っている。
「そこもだんまりか」
「あッ……………やだッやだッやだぁぁぁぁぁッッ!!!」
慣らされたそこは痛みなどなく、ただただ気持ちよさしかない。
「やだッ気持ちよくしないで…やだ…もうしちゃやだよッ……
俺が行かないと…っ彩マス……おねが…行かせて…離せよっ…離しッ…!」
「行かせねぇし・離さねぇ」
「…うくッぅん……あ…ああああうぅぅぅぅ…………ッッ!!!!」
雄を咥え込まれ激しく舌を絡ませられると、ぽろぽろと涙を零しながら
理の口腔内に耐え切れずに精を放ってしまう。
「彩マス…彩マスっ………」
「本当馬鹿だな・お前」
顔をやっと自由になった手の甲で覆い、彩の名前を呼びながら震えて泣く琉風を静かに見下ろし理が呟いた。
* * *
「それでトンドル使って後ろからさー…って。どうかした?」
表情が明らかに険しくなっているハイウィザードの顔を見て彩がきょとんとした表情で見る。
「うん、僕の所のギルドのことでちょっとね」
「…………俺人質にして琉風おびき出そうとしたのにいつまでたっても来ませんムカツクー。とか?」
それを聞いたハイウィザードがいささか呆れたような表情でため息をつく。
「あーあ、あれほど言っちゃダメって言ったのに。琉風って全然約束守れないんだね」
「守れないっていうか…俺が守らせなかった?あんただろ、リィ引き抜こうとして
さんざん付きまとった上に町でテロ騒ぎ起こして拉致したのも、琉風いじめて追い回してたのも。
そんな奴に大事なギルドメンバーをやったりするわけないだろ」
「意地悪だね…そこまで知っててどうして僕を招き入れたりしたの?」
確信をつく彩の台詞にも動じた様子はなく悠々と出されたお茶を口に含んでいる。
「ずーっとあんたには『挨拶』したいって思ってたんだ。同盟ギルドマスターの澪が大百科事典で
お前をどついてんのに正規のマスターである俺が何もしないのって不公平だーって思ってたし」
大百科事典と聞いて過去に澪にそれで顔面を殴られたことでも思い出したのだろうか、
あからさまに不機嫌そうな顔をしてカップを置く。
「随分な自信だね。僕が何の考えもなしに真正面から来ると思う?」
「考えってさ、お前含めて『5人』この部屋にいること?」
「……………!!」
ハイウィザードの指がびくっと動いた拍子にかちゃんと音を立てて
カップが倒れ、飲みかけのお茶がテーブルに広がっていく。
驚愕に見開かれたハイウィザードの瞳を見てなーんだと言って彩はぽりぽりと後頭部を掻いている。
「やっぱりそうなんだ。悪いけどそれ、勝算って言わないよ?」
ハイウィザードが口を開くよりも彩が行動を起こすほうが速かった。
『集中力向上!!』
ソファーに立てかけてあった自分の弓を手に取り素早く部屋の隅まで飛び込みスキルを発動させると、
彩のすぐ目の前に今まで隠れていたであろうハイプリーストが姿を現した。
『ニュー…』
『ダブルストレイフィング!!』
相手がニューマで妨害する前に攻撃を放つ。
至近距離での衝撃は強く、ハイプリーストの身体は家の窓を破り外にまで吹き飛ばされていった。
それとほぼ同時、仲間がやられたのを見て隠れていたであろう
残りの3人が、クローキング状態を解除して彩の方に向ってくる。
それを確認すると彩はすぐ側にトラップを置いて素早く後ろに下がった。
『チャージアロー!!』
立て続けに放ってその3人をノックバックさせた所は、丁度彩が設置したスキッドトラップの真上だった。
間の抜けたような声を上げ、破られた窓からまるで何かに引っ張られるかの勢いでその3人も家の外へ飛ばされていってしまう。
「さよならー。もう二度とこないで…ね!」
『ね!』の部分で魔法を詠唱しようとしたハイウィザードの目前に矢を突きつける。
詠唱が途切れ、至近距離の矢を前にしてすっかり青白くなっているハイウィザードの顔を見ながら、
この状況におよそ似つかわしくない無邪気な表情で彩が笑いかける。
「俺が隠れてる4人のことがなんで分かったのか不思議なんだろ」
「お前以外のメンバー全員フェイヨンで同盟のギルドメンバーだって周辺にいなかったはずなのに…!」
「そうだよ。だから予めここにお前らが来ることも、勿論人数だって最初から把握してたわけじゃない」
「だったら…どうして」
「ほら、俺のギルドのローグ系によくトンドルとか使っていたずらされるって
さっき話してたろ?そのせいでアイテムとか装備とか使わなくてもどこにいるか大体分かるようになっちゃったんだよな」
弦を引いたままの彩の肩にトメが止まって顔を寄せてくる。
「あ、ごめんね。4人俺やっちゃったからこいつは譲ってあげるよ」
嘴に口付けて微笑みを絶やさないままハイウィザードに視線を注ぐ。
「トメさん。こいつが琉風のこといじめてる張本人だよ。これっぽっちの手加減もしなくていいから」
クルッと短く鳴いて返事をすると翼を広げてふわりとトメが彩の肩から離れた。
「琉風をこれ以上いじめるな。分かった?」
「待っ…」
最後まで発言することを彩は許さなかった。
『ファルコンアサルト!!』
大きな地震でも起きたのではというほどの衝撃音とともにハイウィザードの身体がドアをぶち破り外へ吹き飛んでいく。
「………あ。らこ」
破れたドアを超えて彩が外に出ると、吹き飛ばされたはずのハイウィザードの姿はなく、代わりに桜子が立っていた。
桜子のすぐ側にはワープポータルの青白い光。
「『たまたま』ワープポータル出したら何人か突っ込んできて乗っちゃったんだけど。別にいいよね?」
「うん、全然OK」
確信犯的笑みを浮かべて言ってくる桜子に同様に彩が微笑み返す。
「彩もそうだけど…トメさんもすごい張り切っちゃったね」
割れた窓と吹き飛んだドアを交互に見て言う桜子の言葉に自分の頬に
すり付くトメの顔を覗き込む彩の表情は少しばかり不満気だ。
「なんか威力に愛の重さを感じるなぁ………なぁトメさん、俺のことずっと一番好きでいてくれよ、
俺以上に琉風のこと好きになったらやだからな?」
「本当に不憫でならないな」
「ん?」
「天然さんには関係ない話」
「なんだよそれ…俺が天然みたいな言い方だなそれ」
「ドア今日中に直してもらえるかな」
「おいらこスルーかぁ!!」
「どうでもいいけど、すぐ琉風くんにwisした方がいいと思うよ」
「ん?琉風?」
「今とっても合理的な方法でリィくんが琉風くんのこと足止めしてるはずだから。
はやくしないと会話にならないかも。特に琉風くんの方が」
「合理的…?なんだよそれ」
「私の推測したことだから実際は少し違うかもしれないけど。そもそも言っていいのかなこういうの」
「………言えよらこ。琉風に何かあったのか?」
心配する彩をよそに桜子の口から出た言葉は予想外なものだった。
「彩が怪我させないように足止めしろなんていうからじゃあ
怪我させなければいいんだって、リィくん琉風くんのこと押し倒して股間にし」
「のおぉわあああぁぁぁぁッッ!!!もう言うなしゃべるなこれ以上口を開くなぁあぁあああああッッ!!!
通りすがりの人に俺が破廉恥な言葉を女の子に強制的に言わせてる変態みたいに思われたらどーすんだッ!!!」
「人なんて誰も通りすがってないのにそんな大きな声で怒鳴ってたらそれこそ本当に
人が通りすがって彩の言うとおりになると思うんだけど。それに彩が話せって言ったから素直に話しただけだよ?」
「それはそうだが言い方があるだろ言い方が!!」
「ぎゃーぎゃー大騒ぎしそうな言葉をわざとに選んでみたの。期待を裏切らないでくれてありがとう彩」
「いえいえどういたしまして……って!!!そんなの選んでんじゃねぇえええええええッッ!!!」
「うん、分かったから。早くwisした方がいいと思うよ」
「うーっ…分かってるっ!」
『る…琉風……………えっと今話せるか?大丈夫?』
恐る恐るというような口調な彩のwisが届く。
『はっ…ぁ……っ…あっ…彩マス!?』
呼吸を必死に整え、涙を拭いながら彩からのwisに応える。
『彩マスっ…今…』
『結論から言っちゃうとね』
何か言おうとした琉風の言葉を彩がゆっくりとした口調で遮る。
『俺はどっこも怪我もしてないし、ハイウィザードももうぶちのめしちゃってるし。
ついでに言うと琉風のとった行動に対してもんのすごーく怒ってるから』
『あ…』
『これからお説教するから今すぐホームに戻っておいで。わかった?』
『…………わかりました…』
「!!」
wisが切れると、上に覆いかぶさっていた理が突然離れて立ち上がったので慌てて服に
突き刺さった竹を引き抜き脱がされたズボンを穿きながら起き上がる。
「おら」
「え…あっ…」
琉風の方に向って理が何かを投げたのを反射的に受け取った。
「これ…」
手のひらにあるブルージェムストーンを握り締めて理を見上げると、
先程の事など何も無かったかのように煙草を吹かし始めている。
「行けよ。呼ばれたんだろ?」
「理…俺…」
「行け」
煙を吐きながら発した理の言葉は心なしか突き放すような口調。
「……………」
それ以上何も言えなくなり、手にしたブルージェムストーンを使ってホーム前の
ワープポータルを出現させるとその場の空気から逃げるようにチュンリムを離れた。
ホームの前に着いて真っ先に目に入ったのは腕を組んで仁王立ちになっている彩の姿だった。
俯き加減に近くまで行くと、黙って彩の言葉を待つ。
「どうして俺たちに何も言わないで勝手にギルドを抜けたりしたんだ?ウソつかないで、正直に言いなさい」
何でもないと言ってごまかせるような空気ではなく、琉風は正直に話すことにした。
「あのハイウィザードのギルドに入れって言われました。言う通りにしないと彩マスのこと殺すって」
「澪が琉風を俺のギルドに入れたのはそいつらから琉風を守るためなんだぞ?なんで頼らなかった?」
「誰かに言ったらだめだって言われたんです。それに……俺のせいで誰かが傷つくのは嫌だったから…」
「嫌だったから?だからあんなことしたのか?」
こくんと頷く琉風をまっすぐに彩が見る。
「俺が傷つくのが嫌だって思ってるのと同じくらい俺だって琉風が
傷つくのはいやだ。俺だけじゃない、メンバー全員そう思ってる」
「あ…」
そこでやっと気づく。
良かれと思ってやろうとしていたことがいかにメンバーを信用していない、独りよがりな行動だったことが。
もし逆の立場だったら自分はどう思うだろうか。
そう考えると自分の身勝手さに苛立ちさえ覚えて唇をかみ締める。
「琉風のこと頼りに思ってるし信用してる。だから琉風ももっと俺たち頼れ。信じろ」
「…はい」
「『ごめんなさい、もうしません』は?」
「勝手なことしてごめんなさい、もうしません」
「よし許すっ!」
わしわしわしっと頭を撫でていると側に桜子が寄ってきてエンブレムを差し出す。
「らこさん…」
「はい琉風くん『落し物』だよ」
そう言って琉風の袖口にエンブレムをつけてやる。
「みんなを繋ぐ大事なものなんだから、落としたりしたらだめだよ」
「はい………ごめんなさい…ごめんなさい…ごめ…なさ…」
うつむいて肩を震わせて泣く琉風の身体を彩がそっと抱きしめると
肩に止まっていたトメがクルルっと鳴いて琉風に擦り寄った。
「怖かったよな、心細かったよな。もう大丈夫、みんないるぞ?」
「…っ…………」
彩の肩に顔を擦り付けたまま、桜子に優しく頭を撫でられながら、
再び聞こえ始めた騒がしいまでのギルドチャットの声に耳を傾けながら。
何度も何度も琉風は頷いた。
* * *
「彩。うちの砦はホテルじゃないんだけど」
「仕方ないだろ、ドアとか元に戻るまで半日かかるって言うんだから。それに手加減とか絶対したくなかったし…」
「ドアや窓の修繕よりも、スキルや魔法を退けるための『防壁』の方が大変なんだから。今度から場所を選びなさい」
澪が読んでいた本から視線だけを声のした方に向け、ソファの上にねそべっている彩と目を合わせる。
「で。ちゃんと部屋を用意したにも関わらず彩はいつまで俺の部屋に入り浸る気なのかな?」
「…なんだよ遠まわしにお前邪魔出てけみたいな言い方はぁ…」
「お前がいると分かってるから『あの子』はここに来ないんだよ。自分よりも
他の人間との関わりを何よりも当然の如くに優先させようとするから。そういう子だって彩も分かってるだろ?」
「分かってる……でもな。実質上不可能だけど!あいつの邪魔はしないで
お前の邪魔だけをしてやりたいっていうこの微妙な心理をわかれよ!」
「珍妙な心理っていうんだよ。そういうのは」
「珍妙とか言うなぁ!」
「それとも彩。見たいの?聞きたいの?」
「…ん?…何を…?」
「あの子がよがってな」
「うわぁぁぁぁぁもう言わなくていい言わなくていい言わなくていいッ!!」
「冗談に決まってるだろ。俺がよくてもあの子が全力で嫌がるだろうし」
「ちぇーっのろけやがってぇ…いいよ俺にはトメさんがいるもん…俺のこと一番に愛してくれてるし…」
「その一番に愛してくれてるトメさんすら会って間もない琉風に懐かれた上に
今はお前を置いてかつての故郷を堪能すべくフェイヨンの竹林に飛んで行ってしまったしな」
「気にしてんのに傷を抉るようなことを言うんじゃねぇぇぇぇぇぇッ!!」
「ハンターギルドがフェイヨンからフィゲルに移動してしまっても自分が育った故郷だからな、
病み上がりの彼女にとっては心身共にいい癒しになるんだろう」
「なんていうかさ…俺今すっごく愛が不足してると思うんだ…」
「……………本当に不憫な…」
「あーなんだよ澪までらこみたいなこと言いやがって」
「お、やっぱここ来てたかー」
ノックと同時にドアが開いて史乃が顔を出す。
「いいタイミングで来てくれた史乃。この物体をどこか別のところにやってほしいんだけど」
澪が『物体』という所で彩の方を指さす。
「そのつもりで来たしなー。彩マス行くぞー」
ソファの前にしゃがんで少しだけ首をかしげて彩の顔を覗き込む。
「わざわざごてーねーに指差して物体とか言うなぁ!物体っていうならっ!動かないぞっ
俺は物体なんだから絶っ対ここから動かないッッ!」
「ヘリクツいってねーで、ほーらいーくーぞー」
ソファのクッションにへばりついたまま顔を半分だけ見せて叫んだ彩の身体を史乃が軽々と抱き上げて肩に担ぎ上げる。
「うわっおい放せ史乃ッ!」
「部屋行ったら下ろしてやるなー。お菓子やるから機嫌直せってー」
「うっさいお菓子で釣るなッ俺はガキかぁぁぁぁあああッッ!!!」
ばたばた暴れる彩の身体を難なく押さえつけてしまう。
「大変だね史乃、それはもう広範囲の意味で」
「あぁーこれはこれで楽しんでるけどなー?」
「なんだよなんだよなに2人で暗号みたいな会話してんだよ!」
史乃に肩に担がれたままで澪と史乃を交互に見る。
「天然モノには関係ない話ー」
「くっそー史乃まで俺のこと天然呼ばわりかよ!離せ離せ離せはーなーせぇぇぇッ!!!!」
「はいはい。彩マス部屋戻ろうなー」
「このやろー離せ史乃ッッ!!!澪との話はまだ終わってない〜っ!!」
「はいはい、また今度ゆっくり聞いてあげるから」
史乃に担がれたままの彩に向かって手を振り見送ると、静かにドアを閉めて鍵をかける。
「さて、そろそろ出てきてもいいよ?ここにはもう誰も来ないから」
一人だけしかいないはずの部屋の中に向って澪が言うと静かに微笑んだ。
* * *
「理」
慣れない砦の中を散々探し回って理の姿を見つけ、そしてどのくらいの時間が経っただろうか。
やっとのことで意を決して琉風がその背中に話しかけた。
石造りのテラスで背中を向けて煙草を吸っていた理はちらりと琉風の方を見るがまたすぐに背中を向けてしまう。
「何だよ」
「ごめん…今日…勝手なことして………あの…約束…破ろうとして…」
語尾がほとんど小さくなり、顔を合わせなくても言うだけで恥ずかしいのか顔を紅くして俯く。
「ヤダつってるお前のモノ嘗め回してケツ穴指突っ込んでイかせたのに謝んのか?」
「それはっ………俺が先に約束破ろうとしたからだし、勝手な行動取ったのも俺だから…」
「なら」
吸っていた煙草を手すりに押し付けて消すとようやく理が琉風の方を振り返る。
「申し訳ないって思ってんなら態度で表してみろ」
「…え?…」
言うなり琉風の腕を引っ張りその身体を抱き寄せる。
「な…なに…っ?」
「ほら、態度で表せ」
「…態度ってどうやって…」
どうしたらいいのか分からないというふうに理を見上げている。
「ったく・そこから説明なのかよ」
「だからどうすればいいんだよ…」
本気で分かっていないであろう琉風の顎をとらえてぐいと上向かせる。
「こういう場合は、お前からココとか咥えたりして奉仕精神発揮するトコじゃねぇの」
「奉仕って…あっ…!」
『ココ』と言った所で琉風の手を取ると自分の股間に当ててきたので、慌てた様子で手を引っ込める。
「まぁ・ヤダっつんなら他のモノでもいいけどな」
「他のって…」
その言葉を聞いて安堵はしたものの理にしてはやけにあっさりと引いてしまったのと
『他のもの』というのが気になるとで逆に不安にさえ思ってしまい理を見上げて表情を窺うが、
いつもの何を考えているか読めない表情で口元に笑みを含ませている。
「譲渡してヤってんだからこれからオレが言う事は拒むなよ?本当に詫びる気持ちがあんならな」
「…分かった」
「来い」
迷う様子もなく廊下を歩いていく理の後ろをためらいつつもついて行った。
「脱げ。下だけでいい」
今晩寝泊りするであろう一室に連れて行くなり琉風をベッドに座らせ理が言い放つ。
「………!………でも…」
そう言ってちらりと隣のベッドを見る。
砦内の部屋割りを聞いたとき、理の同室は呂揮だったことを思い出したからだ。
事実呂揮のものであろう紺色の服がベッドのすぐ側にある椅子にかけられている。
いつ戻ってくるかということを考えると中々行動に出せずにいた。
「呂揮ならココには戻ってこねぇよ」
「どうして…そんなこと分かるんだよ」
ここでは脱げない意思表示するかのように服の前を掴んでベッドの上を後ずさる。
「お前と違ってアイツは空気読める奴だしな。戻ってくるとか
無粋なマネなんかしねぇよ…ってか・解放して貰えねえだろうしな」
「……?」
意味を分かりかねて困惑した表情をしている琉風にそれ以上のことは話さず理はただ笑ってみせただけだった。
「分からなきゃ分からねえでいいんだよ」
琉風のいる方へ近づいてベッドに乗りあがり、ベッドの背に身を預けながら足を組む。
「いいから脱げ・拒むなって言ったはずだぞ」
それを言われると逆らえず、自分のベルトに手をかけると
ドアの方を気にしながらのろのろとズボンを脱ぎ始めた。
脱いだズボンと下着を丁寧にたたんでベッドの隅に置くと、上着の前を手で閉じて隠しながら足を閉じる。
「枕に顔付けて腰突き出せ」
理の意図は未だにわからなかったが、それでも言われた通り素直に枕に顔を当てながら理の方に向かって腰を突き出した。
「……」
理が身を乗り出すと琉風の下半身を覆っている上着を捲り上げ、両手で臀部を揉みはじめる。
「んぁっ…ぅッ…」
指を食い込ませて揉みしだき、ちゅ・ぴちゃ。と臀部に軽く舌を這わせたあとそのまま左右に広げ、
むき出しになった秘部につぅっと舌を滑らせて一度ねっとりと舐め上げる。
「んくぅっんっあッ…」
ぎゅっと枕を抱きしめてそれに耐えていると理が舌先で秘部をつついた。
「ココに・自分で指入れろ」
「!?」
枕から顔を上げて信じられないという表情で自分の秘部に顔を埋めている理の方を振り返ると、
理が臀部から顔を少しだけ横にずらして琉風と視線を交えた。
「もう1回分かりやすく言って欲しいのか?ケツ穴に自分で指突っ込んでオナニーシろっつったんだよ」
「…そんなので許すって…!」
「拒むなって言ったオレの言葉にお前は頷いた。ここに来て未練がましくソレ覆すのか?」
「………それは………」
理路整然と並べられる理の言葉に琉風は何も言い返せない。
枕に額をつけて理から視線を外した後、観念したようにゆっくりと自分の指を秘部へと近づけていく。
「そのまま入れたらキツイだろ・指舐めてから入れるんだよ。こうやって…」
伸びてきた琉風の指をぴちゃぴちゃと舐めしゃぶり、入り口付近も受け入れやすくさせるために唾液をたっぷり含ませ舐め回す。
「んっ…ぁぅあぁッんっ…」
「おら、舐めてやったから入れろ」
「入れる…から…そんな近くで見るなよ…」
秘部からほとんど離れていない、むしろ間近にある理の顔が恥ずかしくて理の唾液で濡れた自分の指を思わず秘部から遠ざけ縮こめてしまう。
「見られんの好きなんじゃねぇの?前の時自分のケツ穴にオレのブチ込まれてんの見て相当興奮シてたろ」
「違うっしてないッあんなの恥ずかしかった…!」
「やだやだ言いながら感じまくってたクセに何言ってんだ」
「言うなよ馬鹿ぁっ!」
「お前にとったらこれ以上の罰なんてねぇだろ?さっさと指突っ込め」
理が琉風の中指を人差し指と親指で捉えると、そのまま指をぐっと秘部の中へと押し込んだ。
「あッあぁぁぁッ!うく…ぁ…ふ…」
「もっとナカ入っだろ?根元まで突っ込んで抜き差しスんだよ」
「やだぁっ恥ずか…しぃッ…理ッ…」
「早くこの状況から解放されたいっつんなら指動かしまくって早くイくんだな・こうやって…」
「ひああぁぁぁッ!!!」
琉風が指を入れている秘部にさらに理の指が突き入れられた。
「やだっ指…待って…やッ…!」
自分の指の生々しい感触と、自分の指と理の指を同時に飲み込んでいるという事実に
どうしようもない羞恥がこみ上げ腰を揺らして無意識に逃げようとした。
「動かせよ。指動かさないままでイけねぇだろ?」
指は逃げる腰を執拗に追って奥へ奥へと捻り込まれ、琉風の羞恥心をさらに煽るかのように
秘部に入っている琉風の指に絡めながらぐじゅぐじゅと音を立ててかき回す。
「あぅッあっあくぅっんッ…あッあっあぅぅッやッあァァァッ…!!!」
目の前にあった枕にすがりつきながら指の動きに合わせて腰を揺らしていることに
気づかないほど秘部をこねくり回す指に翻弄されかけた時、ぴたりと理が指の動きを止めてしまう。
「あ…あッ…あぁっやッ…」
急に取り上げられてしまった快感に見られていると分かっていても止められずに腰を揺らし続ける。
「オレはもう動かさねぇぞ・続きは自分でヤれ」
「うぅんっあッあぁぁッあうぅッくっんッ…!」
腰の動きに合わせて入れた指を抜き差しするとぐちゅぐちゅと湿った音が鳴り耳を塞ぎたくなる。
『理に許してもらうため』と自分に言い聞かせながら指で内側をかき回し続ける。
「やだっやだ……!…も…だめぇ…理ぃッ…!」
「イきそうか?」
空いている手で琉風の臀部を揉みながら親指で双丘を広げ2人分の指を呑み込んでいる秘部をむき出しにさせる。
「やだッそんな…!…見ないで…だめ…も…あぁっあッ我慢できなっ…ぁ…!」
「限界なんだろ?人前でオナニーして感じまくって…そのままイって見せろ」
羞恥を煽るような言い方をされて達すまいと思っても身体はとうに限界だった。
「おら・イけ」
「やっはッやぁぁッんあぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
止まったままの理の指がぐりっと一度強く琉風の最奥を探るとこらえ切れずに欲望を放ってしまう。
「あっうくぅんッぁッや…見ちゃ…ぁ…やっ…だァ……ァッッ……!!」
自ら放ったものがばたばたとシーツに飛び散るのを感じながらぎゅっと枕に顔を押し付けて首を振る。
下半身に注がれる視線を痛いくらいに感じながら。
「随分たっぷり出したな。オナニー見られて興奮シたか…?」
「やっちがッしてな…してない…あぅぅぅッ!」
入れたままの理の指が引き抜かれて琉風の腰がびくんと跳ねる。
「指抜け」
「ぁ…ッ…」
琉風が自分の指を引き抜くと、何か別なものが代わりに秘部にあてがわれるのを感じる。
「なに……ッ…!?…」
今まで経験した事の無い無機質な感触に枕にうずめていた顔を上げて再び後ろを振り返ると、
薄く笑いながら琉風の秘部に何かを挿入させようとしている理と目が合った。
「あぁ、何突っ込まれてんのか気になんのか?」
そう言って秘部をつついていた『何か』を琉風に鼻先にまで持っていく。
「…?…」
見せられたものの理が手にしていたものが何か分からないのか凝視している琉風に理がくっくっと小さく肩を震わせて笑う。
「まぁオレに会うまでオナニーすらシたことないっつんだから知らなくて当然か」
「なっ…なんだよッ…」
馬鹿にされたのが分かったのか自分が四つんばいになって恥ずかしい姿を晒していることを一瞬忘れて理を睨みつける。
「なぁ琉風。コレ・なんかの形に似てると思わねぇ?」
「何かって……っ…………!!」
理が手にする半透明な色をしていた『それ』はいきり立つ雄の形そのものだった。
それで琉風の秘部をつついてたのだ。
「分かったみてぇだな。んじゃ・どういう使い方するのかも…分かったよな」
「や…だ…やだ…」
小さく首を振って嫌だと訴え続ける琉風に構わず『それ』を秘部へと近づける。
「オトナしか遊んじゃいけねぇ玩具だよ。ガキのお前も今日は特別に遊ばせてやっから」
「やだっやだっやだぁぁぁぁッッ!!!入れちゃ…………ッッ!!」
ぐりっとそれが再び秘部に押し当てられ中に入れられそうになったのを見て腰を捩じらせて逃れようとする。
「逃げんなって・オレとサイズ同じくらいだし指で散々慣らしたんだから痛いってことはねえだろ」
「やだやだやだッそんなのやだッ…やだぁッ…!」
今まで受け入れたことの無いものを呑み込ませられようとしていることに
恐怖さえ覚えて腰を掴まれ引き摺られてもなおも抵抗し続けた。
「オレに・許して欲しいんじゃねぇのか?」
「……あ…ッ………」
それを聞いた琉風がぱたっと抵抗をやめて大人しくなる。
「…ホント・馬鹿がつくくらいいい子ちゃんだよ。お前」
「う…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
ぐじゅ、と音を立てて熱を持たない無機質なものが琉風の内壁を擦って奥へ奥へと侵入してくる。
「あッあぁぅッ…や…そこッ……んくぅんッ…!」
雄でしか探られたことの無い最奥を異物で探られると、その現実を否定するかのように
ふるふると枕を抱きしめて琉風が首を振った。
「イイトコ突いてやるから前自分でイジれ」
「あ…ぅんッ…」
許してもらうためだから。ただそれだけだから。
自分にそう言い聞かせながらそろそろと自分の雄に手を伸ばして指に巻きつけると、ゆっくりと上下に扱く。
「先っぽ爪で引っ掻いてみろ」
「うぅっくぅんッ…」
先走りを垂らしている自分の雄の先端をもう片方の手の指で軽く触れ、それから爪で
軽く引っ掻くと身体にじわりと緩やかな快楽が染み込んでいくのが分かる。
「み…な…でぇ…」
無機質な異物に犯されて感じている姿を見られたくないのに、顔を逸らしても、枕に顔をうずめても、
理にその姿を見られていると思うと身体の中心から熱くなって来る。
「みないで…みな…やぁぁぁッあぁぁぁぁぁ――――ッッッ!!!」
異物が一度引き抜かれてその後にぐっとさらに強く奥を突かれてしまう。
「口ばっか動かしてねぇで手ぇ動かせ・手」
「はぁッあぁッあっはぁッはうぅッんッ」
最奥を突く刺激に意識が行ってしまい雄に絡めたまま止まっていた指を動かし始めると、
先端から零れてくる先走りが立てるくちゅくちゅと湿った音と、異物が出し入れされるたびに
秘部から鳴るぐちゅぐちゅぐちゃっと粘着質な音とが重なる。
理が自らの雄を入れた時と同じようにその異物で琉風の感じる一番弱い部分だけを突かれ続けた。
「やだぁぁぁッ見ないでッお願いもう見ないでッ!………やぁぁぁッッッ!!!」
腰を突き出して最も恥ずかしい所を理に晒しているのが恥ずかしくて恥ずかしくて泣きながら訴え続ける。
「許して欲しいなら受け入れろ。コレでイけ」
「あッあッやッみなッあう…あぁぁッあうぅぅッあぁぁぁぁッッッ!!!」
指では届かない、雄でしか届かない部分を異物で犯され続ける。
異物を入れられる事よりもそれで感じる自分が嫌でたまらない。
早く今の状況から逃れたくて腰を振って指を扱き続ける。
決して自ら今の快楽を欲しているわけではないと心の中で言い訳を続けていた。
「本当は気持ちイイんだろ?コレ」
「ちがっちがうッ気持ちよくない…よくないッ…!」
確信をつくような理の言葉に反射的に首を左右に振って否定する。
「だったらなんでお前のケツ穴からぐちゅぐちゅぐちゃぐちゃスケベな音
出まくってんだ?気持ちよくなきゃ出ねぇんじゃねぇの?こんな音」
ぐぷっぐぷっとわざとに音が鳴るような動かし方で玩具を勢いよく抜き差しする。
「あぁッだめもう動かしたらッ…あぁッあぁッあッやだぁッんぁぁぁッ…!」
「動かしたら…イくか…?」
異物を出し入れする動きは止むどころか一層激しくなっていく。
「やッだめッだめぇッもぉッ…イくッ…!…やだよッ…こんなのやだぁッ
あぁッやぁぁぁッおねがい抜いて…もう動かさないでッ!」
下半身に力を入れて達すまいとするが、その行為が異物をさらに締め付け内壁を一層擦らせる形になってしまい、
逆に自分で絶頂へと追い詰めているようなものだった。
「あぁぁぁぁッやだやだッやぁぁぁぁぁぁッ!理のがいいッ理ので気持ちよくなりたいッ
……こんなので気持ちよくなるのやだッ…いやだぁぁぁぁぁッッ!!!」
その言葉を聞いた理の手が一瞬ぴたりと止む。
「このタイミングでソレか」
「ことわ…り…抜いて…おねが…理の……」
涙を流して強請り続ける琉風の頬に身を乗り出して理が顔を近づけ、そっと口付けてやると琉風も同じようにキスをしてくる。
「そうやって・お前は無自覚でオレを堕としていくんだな」
「……?……」
意味が分からない様子で見つめる琉風に、理はただ薄く笑い返しただけだった。
「ソソられたけど・今日は止めねぇぞ」
「……ぁッ…あぁッあッあぁッあうぅぅッあうううぅぅぅぅ……………!!!」
止まったままの玩具がまた動き出すと枕にすがって琉風が身悶え出す。
「あぁっはぁッんあぁぁぁッッ!やだぁもう動かさないで抜いてっ!理がいいっ理ぃッあぁッひぅっやぁぁぁぁッッ!!!」
「『コレ』でイったら抜いてやるって言ったろ」
すっかり止まってしまった琉風の指を払って理が自分の指を巻きつけると
玩具を入れる動きにあわせて琉風の雄をきつく握って扱く。
「あぁぁぁッだめッ『それ』したらッ…!あぁッあぁぁぁぁッ!もうだめッイく…理ッやだぁ理ぃッ…やぁぁぁぁッ!」
「琉風・こっち向け」
「あッうぅ…理ぃッ…んッ…!」
耳元で囁かれ、涙でぬれた顔を声のする方へ向けると、理の唇が琉風の言葉を封じる。
「こと…んぅぅぅゥ…んっ…んんんんッッ…………………!!!!!」
そのまま理の唇を自分の唇で受け止めたまま琉風は絶頂へと昇り詰めた。
「んくっんぅぅッんぁっんふッ…!」
突き出した腰が断続的にびくっびくっと揺れ、琉風の雄から吐き出された雫が
握った理の指の間から滴り落ちてシーツの上に新たな染みを作っていく。
「ひ…あ…ッッ」
唇が離れると、昇りつめた余韻に浸る間もなく仰向けにさせられ、琉風の足が抱えられた。
「あっ待って…まっ…はあぁぅぅぅッ」
琉風の言葉を一切無視して指で、玩具まで突き入れられて
たっぷりと慣らされた秘部に押し当てられる熱いモノ。
まるで待ち焦がれでもしていたかのように琉風の秘部が迎え入れようとひくつくのが分かった。
「お前のココを好きにしていいのはオレだけだ」
すぐには挿入せず、くちゅくちゅと入り口を弄びながら理が言う。
「これ以上何度も同じ事言わせんなよ」
「あっ…あぁぅぅッ……!」
言葉での返事を出せず琉風はただ首を縦に振って見せる。
「今度あんな勝手なマネしてみろ。足おっ広げてオナニーだけじゃ済まさねぇぞ」
「やっやだっやだっやぁぁぁ!」
先程までの羞恥を思い出してしまったのか、恥ずかしさに涙ぐみながら顔を真っ赤にして首を激しく横に振る。
「しないっもうしない…もうしないっ…もうしないッ…だからあんなこともう…!」
琉風の言葉を聞いた後、秘部に押し当て焦らしていたままだった自らの雄を一気に内部に突き入れた。
「あっぅうッあッあぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!理…理っ…ことわっ…りぃ…あっあッあぁぁッ理ぃ…」
無意識に手を伸ばし、指先が理の胸に触れるとそのまま腕を身体に巻きつけてすがりつく。
「…ぁッ……痛くて…すごく…ッ…怖かった…」
理の肩に頭をつけ、顔を見せないままで琉風が小さな声で囁く。
「wisであいつ言ったんだ…『まだ遊んでない人もいるから今日はたくさん遊んであげてねって』…
あんなことまたされるって思ったらすごく怖かった…理…理ッ…あぁッふあぁぁッんっ」
「琉風」
名前を呼んでやりながら今琉風の中を満たしているのが誰のものかを
味わわせるかのようにゆっくりとした抜き差しを繰り返す。
「ごめんなさいっ…もうしない…あんなことしないから…だから…」
理の耳元で聞こえるか聞こえないかの小さな声で囁く。
「キス、して…」
すがるような表情で見上げる琉風の頬を理の手が包み込む。
顔が近づき、触れるようなキスをされると琉風が目を閉じた。
「ん…ぅ…」
煙草の香りの残る理の唇を受け止めてその間から僅かな声を漏らす。
「琉風…」
軽く唇を触れ合わせたままで名前を呼び、今度は深く口付ける。
「んっ…んぅ…ふ…ぁ…ことわ…り…んぅ…」
「琉風……っ…」
「んッ…んぁ…んんッッ…!」
口付けたまま理が身体を揺すり始め琉風が背中にさらに強く縋りつく。
同じように理の腕が琉風の身体を包み込んで抱きしめると、安堵したかのようにその腕に、快楽に身を任せていった。
* * *
『タイリギ!!』
理が廊下を歩いていると前方から酒瓶を片手に走ってきた朱罹が理の目の前に来て止まる。
「なんだリィ、まだ起きてたのかよ」
「その台詞そっくり丸ごと返してやるよ。朝イチで狩り行くとか言ってなかったか?」
「…なんだけどさ。彩マスがお前が寝たらその瞬間俺スネて死ぬとか
訳分かんない理由で解放してくんないの。史乃と一緒に多分朝までコレ」
そういって手にした酒瓶を理の前にかざして見せる。
「謹んでお悔み申し上げます」
「それはそれはご丁寧にありがとうございます」
丁寧な物腰で頭を下げる理におどけた様子で同様に朱罹が頭を下げて礼を言った後、
理が抱えている何かをくるんでいるかと思われるシーツを指差した。
「んでさ、何そのシーツの塊」
「コレか?」
理が抱えているシーツの一部をちょいと指でどけてやると眠っているであろう琉風の顔が覗いた。
「……………」
朱罹が無言でさらにシーツをのけると何も着ていない琉風の肌が露になる。
「えーと。お前ら今までナニしてたのか?」
「あぁ」
隠すこともなくあっさりと理が頷く。
「ふーん、気絶するまで離してやるかよとかそういう感じ?」
「足おっぴろげて腰突き出してもっともっとって言われたんだ・そこまでサれたら丁重にお応えスんのが礼儀ってもんだろ」
「へーぇ…琉風って貞淑そうに見えるけど実は意外と大胆なんだなぁ」
「オレの腕ン中ならな」
「うっわさらっとノロケきたっ」
「ん…」
二人の話し声に琉風が理の腕の中でみじろぎした。
「琉風・起きたか?」
理が名前を呼ぶのにとうっすら目を開いて2・3度瞬きしたものの、また目を閉じてしまう。
「…ふぅ…ん…」
まだ部屋の中だと感違いしているのか頬を撫でてくる理の手に気持ち良さそうに
頬擦りしてそのまま胸に擦りより、目の前の朱罹には全く気がついていない様子だった。
そんな琉風の耳元に朱罹がイタズラを思いついた子供のような顔で口を寄せる。
「寝ぼけてないで起きてよ。足おっぴろげて腰突き出して誘っちゃう超大胆な琉ー風ちゃんっ」
「………ぅ…うわぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
琉風が再度目を開いて朱罹の姿を見、それから理に抱き上げられていると言うことにようやく気づいて降りようとして暴れる。
理が抵抗もせずに琉風を離したので立とうとするも、下半身に上手く力が入らずにそのままぺしゃりと床に座り込んでしまった。
「あ…あれ…」
自分の状況が把握できずにきょとんとしている琉風に朱罹が肩に酒瓶を抱え直して笑う。
「なに、足腰立たなくなっちゃうくらいヤりまくり?うっわぁおっさかーん」
「えとあの…これはっ…!」
シーツで半分顔を隠しながら顔を真っ赤にする。
「隠すことねぇだろ。『理の欲しいあんなのもういらない』とか誘いまくったクセに」
「………………!!!」
顔を全て隠して琉風がその場にうずくまってしまう。
「はいはいはいはいゴチソーサマでーす……そんでもって某彩マスからあと10秒以内に
来なかったら号泣してやるみたいなwisが来ちゃったりとかしちゃったり?」
「某でもなんでもねぇだろそれ」
「うん。とりあえず号泣される前に俺行くわ」
行こうとした朱罹に思い出したようにおい、と理が呼び止める。
「朱罹・お前の部屋バスルームついてるだろ。共同風呂行くの面倒くせぇからお前のところ貸せ」
「鍵開いてるから勝手に使っていいぞ。俺多分戻んないからそのまま第2ラウンド行っちゃっても全然OKだし!」
「い…行かない行かない!」
少しだけシーツの間から顔を覗かせて琉風が叫ぶ。
「遠慮なんかすんなってー!!」
叫ぶ琉風にくっくっと楽しそうに笑ってタイリギで走り去ってしまった。
「いつもだったら何であんなこと平気で言うんだとか叫んでんのに今日は随分大人しいんだな」
屈んで顔を覆うシーツを指でどけてやると琉風は顔を真っ赤にしたまま泣きそうな顔をしている。
「もう『許して』ヤったろ・何時までも負い目感じてんじゃねえよ」
「………ごめん……」
相変わらずしゅんとした様子で琉風が俯いていると理が手を差し伸べる。
「そこで反論しねぇで謝るからイイ子ちゃんだって言うんだよ」
理の手を素直に取り大人しく抱き上げられると、首に腕を回してきゅっとすがりつく。
「………」
理が啄ばむように口付け、頬を撫でてやると安心したのか琉風が少しだけ腕の力を緩めた。
「今度『アイツ』が何か言ってくるようなことがあったら真っ先にまずオレに言え・いいな」
「………うん」
小さいが、はっきりとした琉風の返事を聞くと、琉風の身体をしっかりと抱えなおし、月明かりの差し込む廊下を歩き始めた。