「全く、ルシウスを魔法省の事件で監獄にぶち込んでやったから、

あの高慢ちきな奥方が少しおとなしくなるかと思ったら、全然ダメね。ピンピンして口のほうは嫌味百倍・・それにねぇ・・」

フレッド&ジョージが開いたウィーズリー・ウィザード店に着くまで

フェリシティー伯母のマルフォイ家の悪事に対する演説は延々と続いた。

ハリー達は が伯母の演説に相槌を打ち、身を入れて聞いているのを

眺めながら、双子の店へと足を速めた。




夕方、滞在先のウィーズリー家に戻った は女の子たちの部屋で

枕に頭をのせてウィーズリー・ウィザード店を出た後の出来事を反芻していた。



双子たちが開業した店にいた時、 達は窓の外をドラコ・マルフォイが

きょろきょろ辺りを見回しながら通り過ぎるのを見かけた。


おつきのお母様がいないことに、また、人目をやけに気にしている

ドラコを不審に思った 達はこっそりと店を抜け出し、彼の後をつけたのだ。



彼の行き先はボージン・アンド・バークスだった。


ロンの伸び耳のおかげで三人は店内の会話を盗み聞きすることが出来たが、

ドラコの姿は黒いくるみ材のキャビネットに隠れて見えなかった。

ドラコの表情が見えない上で、会話を盗み聞きするのはとても難しかったが、

達は、店主が酷く怯えた表情であること、そしてドラコが何か危険な闇の物を

修理に持ち込んだこと、取り置きしたがっていたということを掴むことが出来た。



残念ながらドラコが短時間で訪問を切り上げて店から出て行ってしまったので、

彼らは詳しい内容を掴むことが出来なかった。


は思考を現実に戻し、ベッドで杖に光を灯すとフェリシティー伯母が貸してくれた

古い革刷りの東洋癒術についての

本を開いて目を通し始めた。

は頭が良く、本を渡しさえすれば、むさぼるようにそれを読んで皆覚えてしまう。

そういう才能を休暇中に見越した伯母は「一度読んでみるといいわ」と言って

これを与えたのだった。


彼女が学ぼうとしている癒術は、東洋癒術と西洋癒術の二分野に分かれており、伯母や聖マンゴ病院のシン先生は

東洋癒術の専門癒者だということを知ったのも休暇中のことだった。


また、フェリシティー伯母はこの休暇の間に、生きた動物、植物薬材の調合、見分け方などを用いて彼女に

新鮮な東洋癒術についての実習をしてくれた。


「トリカブトの解毒剤として使われる薬草は?」

「べゾアール石」

「それとカンゾウ(甘草)・・根と茎を採取して、乾燥させて使うの。解毒のほか鎮痛作用もあるのよ」

「べゾアール石でも解毒できるけど、これは貴重な石よ。ない時はカンゾウを使うといいわ。」


「カラマツタケとハナハッカ(オレガノ)の共通の作用は?」

「制汗作用です」

「ゲンノショウコは食中り、下痢、慢性の胃腸病、便秘に効くの。陰干しにして粉末にし、湯で服すか、煎じて細末にして丸薬

として服すことも可能よ」



フェリシティー伯母がスパイ任務の間をぬって教えてくれる実習は

無味乾燥なセブルス・スネイプの魔法薬学の実習と比べてとても面白かった。


彼女は、この休暇で今まであまり興味が持てなかった魔法薬学が大好きになりかけていた。


それほどこの伯母の実習は魅力的だったのだ。


そのおかげでいつも大嫌いだった魔法薬学の宿題も、今年はすんなりと片付いていた。



「まだ起きてたの?」

が熱心に東洋癒術の本を読んでいると、隣のスプリングのベッドがきしみ、ハーマイオニーが起き上がった。


「ええ。ハーマイオニー、私、癒者になろうと思ってこれを読んでるの」

は「起こしてゴメンナサイ」と一言言ってから、ゆっくりと息を吸い込んで言った。

「えっ?だって、あなた―この間まで、歌手になりたいって言ってたじゃない?」

彼女の唐突な発言にハーマイオニーはいささか驚いたようだった。

「あれは特にやりたいことがなくて、いきなり進路選択をつきつけられて、それに

伯母様から誘われたから何となく言ってしまっただけなの。今思えば、たんなる

憧れみたいなものだったわ。でも、今度は本気。

目標が出来たの。癒者になって、吸血鬼とか人狼の体質で苦しんでいる人達のために

効く、今ある薬よりもっといいものを作ってあげたいの。

魔法界はとても閉鎖的なところで、彼らに関して理解のある人間は少ないでしょう?

その証拠に彼らの中には才能があっても、定職につけない人達が沢山いるわ。

それに今ある薬はまだまだ不完全で遅れているし、東洋癒術の癒者も少ないわ。

だから、私はこの道で突破口を開こうと思ったの」

そんな彼女に は噛み砕くように説明してやった。


「この間、ルーピン先生だったけ?」



ここでのんびりと話を聞いていたハーマイオニーがぎくりとした。


「あの人は、どうしてだかわからないけど、ずっと私のお見舞いに来てくれてたの。

とても疲れていて今にもぶっ倒れそうになっている時もあったわ。

そして、彼が人狼でその為にホグワーツから退校されたとハリーから聞いた時のことを

伯母さんとの実習の時にふと思い出したの。

その時に思ったの。あの人みたいな人達を薬の力で陽のあたる場所へ

堂々と出させてあげたいなって。」

はぼんやりと物思いにふけるように言った。


「つまり、癒者になりたいのはルーピン先生の為ってわけなのね」

ハーマイオニーは彼女らしい動機だと思って、ふっと笑ってしまった。

「記憶を失って、大変な目にあったのだから、何も考えずにゆっくりと休んでいればいいのに。開口一番、他の人の為に

尽くしたいと言うのはいかにもあなたらしいわね」


は恥ずかしそうに笑った。


「私、初めてあなたに会った時から、特別な子だって思ってたわ」


ハーマイオニーは続けた。


「それは今でも変わらないわ。きっとあなたは素晴らしい癒者になれるわ」

それから、ハーマイオニーは彼女の大人びた表情の大きな目の顔を感心したように眺め、いつか、自分も

何か人の役に立つような仕事がしたいと思ったのだった。



翌日、ロン、ハリー、 、ハーマイオニーの四人は朝食の席で

ピリピリしていた。


Owl試験の結果がふくろう便で着く日なのだ。


「私、魔法薬学と変身術がダ・・ダメだわ!あがっちゃって酷いミスをやったの!!」

冷静さを保とうと黙想しているハリーの横で、 は半狂乱に陥っていた。

「あら、あなたは防衛術と魔法史が優だからいいじゃない!そうにきまってるわ!私は防衛術はきっと

すっちゃかめっちゃかだわ!!ああ〜どうしましょう!」

ハーマイオニーはヒステリックな声で を相手に喋り捲っていた。

「二人とも、見ろよふくろうだ!」

そんな優等生二人の慌てぶりに、イライラが爆発しそうになったロンが、窓際に飛んでいった時、

家への小道をゆっくりと三羽のふくろうが飛んでくるのを発見した。

それからが大変だった。

四人は気が違ったように、自分宛のふくろうを引っつかみ、興奮して

勢いよく封筒を開封し始めた。


の心臓はハリーに告白された時のように早鐘を打ち始めた。


OWLレベル成績


殿


天文学 落第

魔法生物飼育学 良

呪文学 優


闇の魔術に対する防衛術 優

薬草学 優

魔法史 優

魔法薬学 優

変身術 良

占い学 不可

古代ルーン語 良



は万歳三唱したい気持ちになった。



天文学は途中で階段から落ちて受けれなかったが、占い学は今ひとつ調子が出なかったから

合格するはずはなかった。しかし、優が五つ!

あの失敗したと思っていた魔法薬学が大丈夫だった!?

信じられない!ミナ伯母様が生きてらしたらどんなに喜んだことだろう。


彼女は嬉しくなって試験結果が書かれた羊皮紙をぎゅーっと抱きしめた。


ふと周りを見るとロンとハリーは天国にいるような顔をしているが、

ハーマイオニーはうなだれている。



そのあとで四人はいつものようにそれぞれの成績表をトレードした。




ハリーには「優」があったが、ロンには一つもない。そして、ハーマイオニーには完敗だった。



は優が五個、ハーマイオニーは優が九個とはこりゃぶったまげたね!」


ロンがヒューッと口笛を吹き、驚きあきれて天井を仰いで言った。


の視線はロンを通り越して、ハリーをじっと見ていた。

彼の魔法薬学の成績はスネイプ先生のおめがねにかなう「優」ではない。

彼があれほど熱望していた「闇払い」への進路はここで絶たれたのだ。

スネイプ先生は「優」を取った者でないと魔法薬学は教えないとはっきりおっしゃった。

彼女は彼の急に落ち込む顔を眺めて、哀れに思った。




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