がスラグホーンの授業を受講中の頃、ロンドンのワラキア公爵の屋敷に一人の男が走りこんできて玄関の扉を叩いた。

その日は激しい雨が降りしきる午後で、彼の肩は傘から入り込んできた雨で濡れており、おまけに今にも疲労困憊で倒れそうだった。


フェリシティーは玄関のライオン形のノッカーが叩かれたのに気づいて、階段の踊り場まで出て行った。

階下のホールを覗き込むと、一人の男が傘たてにこうもり傘を差し込んでいるのが見えた。


彼女は訪問者が誰か分かると、クリーム色の絹の部屋着をしっかりとかきあわせて階段を降りていった。



「こんにちは、フェリシティー。午睡の時間にお邪魔して申し訳ない」

「あら?リーマスじゃない!酷く外套が濡れてるわ!さぁ、お入りなさいな。

まず、服を暖炉で乾かして――」


フェリシティーは彼の肩からとび色の外套を受け取ると、暖炉の側へ持っていった。

それから彼女はファイア・ウィスキーとカットグラスを用意すると、奥のダイニングルームから戻ってきた。



ルーピンはアドリアン・ブルーの目に感謝の色を浮かべて、彼女が差し出すファイア・ウィスキーを

一気に飲み干した。


「あの忌々しい殺人鬼を――ついに突き止めたんだ」

彼はもう一杯とグラスを突き出して言った。

彼のとび色の髪の毛がほんのりと湿っていた。

それが話すたびに右に左に揺れた。

「めくらめっぽうにに車を飛ばしてきてね。幹線道路は渋滞で、さすがに私でも

イライラしたよ」

彼はいつもの冷静な彼らしくなく、酷く興奮していた。

「いったい何のことを言ってるの?」

フェリシティーは彼にテーブルの上にあったコーンブレッドを勧めながら言った。


「分からないかな?あなたの血の繋がらない弟―――ヤン牧師だ――彼を殺した犯人を見つけたんだ」

「本当に?魔法警察がやっきになって捜しているのに見つからない犯人をあなたが――」

「そうだ――あの事件について新証言、つまり、目撃者が現れたんだ」

ルーピンは厳かに言うと、コーンブレッドをかじった。


「目撃者は新聞配達の少年だ。ルドルフ・マレチェク。オーストリア人でヤン牧師の教会にいつも新聞を届けていた。

事件のあった日もそうだ。彼は新聞を届けた帰り道、銃声と「べラトリックス、お前が!」

という牧師の悲鳴を聞いたそうだ。彼は怖くなり、薮のなかに隠れて、しばらくしてから出てきてみると牧師は胸から血を流して死んでおり、側には

誰もいなかった。彼はひどいショックのあまり、その場から逃げ出し、次の日から仕事を休職してしまった。

魔法警察は周辺の住民に聞き込みをしたらしいが、彼の存在には気がつかなかったらしいな。

彼の家族にも彼にも捜査が及ばなかったそうだ。私は色々事件について調べていて偶然そのことを思いつき、少年を探し出して

聞いたんだ。すると怯えながらも彼はその時の様子を話してくれたよ」



「じゃ、弟は――弟は――あの女――べラトリックス・ブラックに殺されたというの!?」

フェリシティーは怒りでぶるぶると震えながら、カットグラスを握り締めた。

「現時点での有力な情報ではそのようだ。残念なことに、また、あの女が関わっていたとはね」

ルーピンはくやしそうに呟くと、クイッと手首を傾けてグラスの中身を飲み干した。

「あいつがヴォルデモートの手中になかったら――この世のはてまで追いかけて殺してやるのに!」

フェリシティーは地団太を踏んでくやしがった。

「殺意は分かるが、今、下手に動いてはダメだ」

ルーピンは殺人的激怒にかられている彼女に向かって言った。

「君自身がヴォルデモートやその部下に狙われていることを忘れてはいけない。

君が勝手に動いて、敵の陣地に乗り込もうとするなら、不死鳥の騎士団は君の命の保障は出来ない。

べラトリックス・ブラックは手ごわい相手だ。バックにはナルシッサ・マルフォイが

いるし、この女が密接にヴォルデモートと連絡を取り合っている。現在、二人はマルフォイ家の屋敷にいるらしいが

乗り込んで事を荒立てるようなことをしてはは断じてダメだ!」


「分かってるわ。あの女と魔法省で決闘した時、一筋縄でいく相手じゃないと感じたもの」

フェリシティーはうなだれて言った。

「だけど、 やミナの為に必ず復讐してやることを忘れないわ」

「それは我々も同じだよ。時期を待とう」


ルーピンはなぐさめるように言った。














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