「こんなことだろうと思っていた」
に支えられて、王宮の金箔塗りの屋根の一つに飛び上がった昆侖は
そこで湾曲した剣を持って待ち構えた刺客に鉢合わせした。
刺客の姿を認めるや否や、
は「ああっ!」とうめいて昆侖の背に隠れてしまった。
「お前達二人を逃がすわけにはいかない」
次の瞬間、刺客の剣が目にも留まらぬ速さで振り下ろされ、
昆侖は
の腕の中に倒れこんだ。
切られた腹を両手で押さえながら、昆侖はにんまりと笑った。
「初めて出会った時、雪国の者なら殺しはしないと言ったな?」
は昆侖の血まみれの両手を気が遠くなりそうな様子で眺めていた。
「お前を殺さなければ俺が殺される」
刺客はぶるぶると震えながら言った。
「公爵の命令か?」
「そうだ」
の問いかけにに刺客はさらに剣を振り上げ、昆侖ただ一人を剣でつきまくった。
彼は
を剣の刺客の届かないところに追いやると、必死で逃げ惑った。
やがて、決死の攻防が続き、昆侖が一瞬の隙をついて、刺客の剣をつかんで
放り投げ、馬乗りになって首を締め上げたところで勝負がついた。
「わかった、やめろ!離してくれたら逃がしてやる!」
「本当だな?」
「嘘よ!」
ぎりぎりと刺客の首を空高く締め上げながら、昆侖は尋ねた。
彼はしばらく思案した後、乱暴に締め上げていた手を突き放した。
「俺をまだ疑うか?」
取り落とした剣を掴み、再び昆侖に切りかかろうとした刺客の目には
恐れと狼狽の色があった。
「いや」
反射的に宙返りし、彼の刃をよけた昆侖は言った。
「その性質・・確かに雪国の者に違いない」
刺客は完全に剣を下ろすと降伏した。
そして、数メートル離れたところで成り行きを見守っていた
と、激しい戦闘で息を切らしている昆侖を引っ掴んで
星のちりばめられた夜空高く舞い上がった。
「現場に黒衣と白衣の歯切れが落ちていました」
どのぐらい時間がたっただろう。
王宮の公爵の寝室に武官が駆け込んできて囚人たちが脱走したという
報告がなされていた。
「鬼狼と
は一緒に逃げたのか?」
「はい・・残念ながら」
「裏切り者め!」
公爵は血走った目で二枚の歯切れを掴むと、腹立ち紛れに燃え盛る暖炉めがけて
投げつけた。
たちまち衣に暗緑色の火がちろちろと燃え移った。
「人など皆同じだ・・私は誰も信じられぬ」
「あの三人を見つけ次第、始末してしまえ!」
最後に荒い口調で武官に命令すると、足音高く公爵は立ち去った。
ところかわって、鬼狼と別れ、森の奥深くに隠された別荘へと駆け込んだ昆侖と
の姿があった。
その所有者の主は裏の小川で悲鳴が上がるのを聞きつけ、酒を楽しむのをやめて飛んできた。
「嫌・・何者なの?」
そこでは美しい一人の女がたおやかに身をくねらせて、身体を清めているところだった。そのすらりとした姿は糸杉のようでふさふさとした黒髪が
裸の胸を隠していた。
「私の元奴隷と水先案内人だ」
主は二人の正体が分かったので説明してやった。
「いつまで見てるつもり?」
は一糸まとわぬ女に、見惚れている鈍感な護衛の頭を叩き、正気に戻らせてやった。