パカパカパカ、タッタッタッと馬の蹄と人間の駆けてくる足音が聞こえる。

一本のシダレザクラの枝の下を通りかかった時、 は異様な空気を感じて手綱を引き絞って、馬をとめさせた。

「どうしました?」

昆侖は女主人の静止した手が自分の方に伸びるのに気づいた。

「しっ!黙って。何かいるわ」

彼女は下馬し、ピンク色の花びらがちらちら散る幹の根元に近づいて行った。

「あ・・あぁ・・。」

「光明大将軍!なぜここに?」

彼女は驚きの余り、心臓が口から飛び出そうになった。

「傾城・・あ、ああ・・ここにいたのか」

火山灰の大地には真紅の花鎧を身にまとった、冷たい脂汗にまみれ、額からだらだらと血を流す大将軍が九の字に倒れていた。

彼はシダレザクラの大木から落下したらしく、意識が朦朧としていた。

「傾城・・ここにいては危ない。すぐに逃げろ」

大将軍は薄れる意識の中でうわごとのように呟いた。

「逃げる?なぜ?」

そう が言い終わるか言い終わらないかのうちに、冷たい刃物の感触が彼女の首に触れた。

「この女は傾城ではない。光明大将軍」

闇のかなたから響く声の主は黒のベールを全身にまとった刺客だった。

彼はうんうん幻覚にうなされている大将軍に冷たく言い放った。

「女、おとなしくそこに転がっている将軍の黄金の兜をよこせ」

彼女はおそるおそる眼球を横に動かし、幻覚にうなされる大将軍の横で輝く金色の兜を眺めやった。

様に何をしている?」

すぐ後ろで殺気立った声と剣が抜かれる音がした。

「それ以上、 様に触れてみろ。お前を叩き切る!」

そこには昆侖が慣れない手で黒長石の剣をはっしと握り、いつでも飛びかかれるように身構えていた。







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