「ちょっと!どういうつもりなの?ハリー。あんなこというなんて!先生、その女の人のせいで殺されかけたのよ!

 なのにまた嫌なことを思い出させるようなことをいうなんてフェアじゃないわ!!」


は驚きと失望を胸にたぎらせて、彼につかまれていた手を振り解いて言い放った。


「いい気味だ。あいつの陰険な性格じゃ、どんな優しい女だってあとで恨みたくなるさ。

 ところで、なんで君は、いつもあいつの肩ばっかり持つんだ?あいつのことがそんなに好きなのか?」


ハリーはフンと鼻を鳴らし、苦々しく笑うと、今の今まで疑問に思っていたことを彼女にぶちまけた。


パン!と景気の良い音が響いた。

彼の言葉にカッとなったは反射的にパッと手を挙げて、力任せに彼の頬を殴った。

周囲の人達は何が起こったかのかと好奇の目でこちらを見た。


「よくもそんな勝手なことが言えたものね。帰るわ!あなたは勝手にパーティを楽しんでちょうだい!」

ハリーはぼんやりと叩かれたことをさすり、は荒々しい捨て台詞を吐くと、靴音高くパーティ会場を立ち去った。


人ごみに紛れ、何事も見逃さぬタカのような目で一部始終を目撃していた

フェリシティーはやれやれと首を振り、スネイプは、背の高い彼女のドレスの影に隠れてにんまりとほくそえんでいた。









「スネイプ先生に優しくしてあげてね・・あの人はとても寂しがりなのよ。あの人は他の人には心を開かなくても、あなたには心を開くと思うの」

「彼のかたくなな心を開いてあげて。心の闇から抜け出す手助けをしてあげて。あなたが光になってあげるのよ」

ミナ伯母さん、あなたは私ににそう約束させましたよね?

でも、彼に優しくしてまでハリーとの関係を失いたくないんです。

なぜなら、今は彼を愛しているから。

彼が苦しんだり、悲しんだり姿はもう見たくないんです。

彼にはいつでも笑っていてほしい。


今から何年も前のことだ。

ヨークシャー州の激しい長雨と雷鳴がとどろく六月の嵐の夜に、一人の老婆が夫妻の

娘の鑑定に立ち寄っていた。


「悪魔の子だ」

老婆は人差し指を振りたてて赤子を覗き込むなり叫んだ。

「帰ってくれ!!おばあさん、こんな可愛い娘に向かってなんてことを言うんだ!!」

このコテージ(田舎家)の主人、デニスはかんかんに腹を立てて叫んだ。

「いーや、待っとくれ!あんたらに二、三忠告しておきたいことがある」

老婆はデニスの剣幕に負けぬ声で叫んだ。

「帰れ、今すぐ出てってくれ!さもなきゃ、あんたを吹っ飛ばすぞ!!」

デニスは側にあった杖をつかんで脅した。

「わしはあのヴォルデモート、いや、トム・リドル坊ちゃんの鑑定もしたんだ!!

 わしのいうことを聞いといたほうが身のためだで!」


「デニス、落ち着いて!」

義姉のブラド女伯爵とその妹であるエイミーが叫んだ。

「義兄さん、私がこの人を村のはずれまで送っていくわ!さ、おばあさん、ひとまずお帰り下さい!」

「ミナ、エイミー、止めるな!早く出て行ってくれ!このインチキ祈祷師めが!」





「あんたはわしの言うとることを信用してくれるみたいじゃな」

村はずれのコテージの宿で、ミナと老婆は粗末な木のテーブルをはさんで向かい合っていた。

「みたところ、あんたも普通の人間じゃなさそうだ。それに壮絶な人生を送っとる。違うかね?」

「相違ありませんわ。おばあさん」

ミナは承知した。

「あの娘さん、酷な事を言うようじゃが、悪魔の子だ。額のところにゃ、はっきりとその印があったんだ。」

老婆は頷いた。

「わかってますわ。私も若い頃、その印が額にありましたもの」

「それをある白髪の男が聖餅で取ったわけだね。わしにも念視で見えた。だが、お前さんの悪魔の印は

 額から消えたものの、かわりにお前さんを愛する悪魔の男の印として体内に魔力として根付いた。違うかね?」

「お前さんを愛した男の印は、お前さんの妹にも見受けられた。おそらくあの男が妹の血を吸った時につけたのだろう。

 ただ、いくぶんかおまえさんよりは弱いがね」


「とにかく、あの子は危険だ。お前さんがたの光にもなるし、影にもなる。

 あの子を生き延びさせる方法はただ一つ。恐ろしい運命から避ける為にあの子を光として育つようにするのだ。

 そして、あの子の光となって影にひなたに、守ってくれる男を捜すんだ。

 人にはそれぞれ生命エネルギーとして、オーラを発している。トム・リドルは青、ダンブルドアは赤、そしてお前の妹の娘は緑というようにな。

 最も強い赤のオーラを持つ男はきっと彼女を恐ろしい運命から救ってくれる。その男こそ、彼女のパートナーとなるべき男だ。

 トム・リドルは常に青のオーラを発している。邪悪な者は常に青のオーラを発するのさ。

 お宅の娘が青のオーラを発した時、魔法界は終焉を迎えるだろうよ。

 皆、お宅の娘に滅ぼされるのさ。トム・リドルなど目じゃない。

 本当に危険なのは皆、分かってないようだが、トム・リドルよりお宅の娘なのさ。

 リドルの坊ちゃんがそのことに気づかないのは生涯最大の不幸だね。

 まぁ、あの男は昔から隙が多いのが特徴だがね。」


「ヴォルデモートは成長した娘を必ず仲間に引き入れに来るだろう。

 渡してはならんぞ」


「悪魔の娘が光となる時、リドルの坊ちゃんはえらいことになるだろうね。

 はじめて自分の過ちに気づくだろう。娘を始末しておけばよかったってね」




「おばあさん、お話はよくわかったわ。でも、やけにリドルのことを知っているようだけど

 いったいあなたは??」


「わしかい?わしは預言者カッサンドラ・トレローニーの子孫で、ただたんにリドルを見守ってきた占い師さ。

 孤児院で坊ちゃんを鑑定してからずーっとだよ。」







はその頃、誰もいない洗面所でぐったりと横たわっていた。

大理石の洗面台の蛇口はひねられたまま、水があふれ出ていた。

ひどい興奮と失望により、貧血が極限に達し、意識を失ったのだ。


どのぐらい時間がたったのだろう。

彼女は突然、むっくりと起き上がった。

両の目は真紅に染まり、かっと見開いて。

彼女は洗面所の窓ガラスを奇声を上げ、ひゅうっと飛び蹴りにして割ると、城の三階から飛び降りた。


何かがおかしい、体が空を飛んでいるように軽い。それにとても気持ちいい。何だろう。この快感は?

まるで自分が自分じゃなくなったかのようだ。


城の三階から飛び降りるという行為は、常人ならとっくに首の骨を折って死んでいるだろう。

だが、今の彼女は人間の感覚を持っていなかった。

狐か鳥のような動物的感覚に生まれ変わり、すっと緑の絨毯に着地し、禁じられた森に向かって走っていた。





数時間後、ホグズミードの無人のディアヌ・クラウン・レコード店のドアを

魔法でこじ開け、中に忍び込んだはコーヒーを啜りながら、雪の降りしきる通りを行きかう酔っ払いの群れを

じっと見つめていた。

マダム・ロスメルタのところから出てきた客を品定めするように、その赤い両目は

らんらんと輝いていた。


「お兄さん!」

若い裕福そうな男を見かけたはガラス張りの扉を開け、

ひょいっと目にも留まらぬ速さでその男の後ろに忍び寄った。

「うわっ!と、心臓が飛び出るかと思ったよ!脅かすなよ」

「ブラック兄さん!」

「おいおい、嬢さん。俺はお前の兄さんじゃない。俺は?ロイって言うんだ」

「すみません、あまりに兄さんに似ていたものだから」

そういって彼女はちっと舌打ちして店の中へ戻ろうとした。

「なぁ、嬢さん、客が来なくて暇なんだろう?じゃ、コーヒーでもおごってくれないか。凍えて死にそうなんだ」

男は彼女のいきいきと踊るブラウンアイと、グリーンのタフタのドレスが気に入ったようだった。






「俺にも昔、君とそっくりな彼女がいたんだ」

「そうやって、グリーンのドレスを着てさ。よく踊ってくれた」

黒い髪に蒼い目の端正な顔立ちの青年はそういって、彼女の手をそっと握った。

「一年前に振られた。俺が悪いんだ。他の女に浮気したんだ」

「なぁ、君、こんな夜遅くに店番?彼氏はいないの?」

「いないわ」

彼女が拒まないとわかると、その青年は大胆にも彼女の手の甲にキスした。

「もったいないよ。こんなに綺麗なのにさ」

「ねぇ、私のこと好きなの?」

「ああ・・好きになりそうだ」

「じゃ、血を頂いていい?」

「はっ?君、何を言ってるんだ?なんか、おかしいぞ」

「おかしくなんかないわ。これが私たち一族のやり方よ」

彼女は不気味なほど静かな声で言った。

「誰か・・助けてくれ!!頭のおかしい娘がいる!!」

ロイは恐怖にあとずさった。

「待ちなさいよ!あれだけ好きといっておきながらその態度は何様なの?」

は態度が急変した男に怒った。

「助けてくれぇ!!」

「おい、ロイ、こんなとこにいたのか?」

「フレデリック・ロクスリー!助けてくれ!」

「ロイ!」

「おい、ロイ、なにやってんだ?」

セドリックとその友達が飛び込んできて叫んだ。

「あの頭のおかしい娘が血を頂くって変なこと言うんだ!」

ロイは叫んだ。

「や、じゃないか!こんなとこで何やってるんだい?」

セドリック・ディゴリーのいとこは思いがけない場所で彼女と会え、歓喜と疑念の色を浮かべて叫んだ。

「三人とも、血を頂こうか。お腹がすいてるしね」

はじりじりと血に飢えた目で三人にせまった。


「逃げろ、フレデリック、ジャン!」

レコード店のよく磨きこまれた棚からレコードの束をつかんで、ロイは

彼女に向かって投げつけた。

だが、彼女は猿のような身のこなしで飛んできたレコードをよけると

三人に襲いかかった。



「なんなんだ、彼女、人間じゃないぞ!」

によって施錠された真っ暗な店内を逃げ回りながら、男たちは叫んだ。

彼女はレコード店の棚の上にひゅうっと飛び上がると、

床を駆け抜ける彼らをひょいひょいと棚から、棚へと飛び移りながら追っかけた。

「くそっ!」

三人は瀕死の思いで床を走りまわされ、とうとう最初のガラス張りのドアの前に戻った。

「やられるなんてゴメンだ!やられる前にやっちまえ!」

三人が異口同音に叫び、彼女を探して走り出そうとした時、天井の大理石のシャンデリアにぶら下がっていた

馬鹿にしたように口笛を吹いた。

「ハーイ!」

彼女は中指と人差し指を唇に当てて、投げキッスをすると、豹のようにしなやかにしなって

彼らの目の前に降り立った。

彼女は絹のような黒髪をさっとなびかせると、目にも留まらぬ速さでロイの首や頭に上下左右往復の蹴りの嵐をお見舞いし

ガラス張りのウィンドウにたたきつけた。


彼は頭を強打され、ぴくりとも動かなかった。



今度は2メートル近い体格の男が拳を振り回し、彼女に襲いかかった。

だが、彼女はえび反りのように体を前後に反らし、その男の隙が出来た時に

高く足をかかげ、素早く回転すると回し蹴りを繰り出した。


「麻痺せよ!」

ここでなんとか役に立ちたかったセドリックのいとこが杖と勇気をを取り出して、

麻痺の呪文をかけようとした。

だが、それは麻痺の言葉を言い終わるかいなかのうちに杖は

彼女の乳白色の伸縮自在な長い杖にポーンと弾かれ、丸腰になった彼は

の名を呼ぶ前に、杖で首や腹や足をさんざん打ち据えられ、痛みに気を失った。


「まったく、どいつもこいつも私に喧嘩を吹っかけて何が楽しいのかしら?」

気絶した男達が床に転がり、シーンと静まりかえった中で彼女は呟いた。

たっぷりと念願の食事にありつくと、彼女は杖を振って散らかり放題のレコード店を元に戻し

裏口で待たせておいたセストラルに跨って、姿を消した。


































 

 

 

 

 

 

 

 

 




















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