時は3000年前の中国。
これは破ることの出来ない運命の契約に翻弄された五人の男女の物語である。
一人目の者は冥府を司る神、である。彼女は運命を司る神、満神と賭けをした。
ある時、暗い冥府の底で孤独と退屈な日々を感じていたは、ふらっと降り立った下界で一人の男に恋をした。
男は北の公爵と呼ばれる者で、漆黒の髪に冷たい容貌の美男である。
どこか儚げで寂しい雰囲気に魅せられ、今まで恋をしたことのないは、すっかりこの男の虜になり、
とうとう冥府の国の神の仕事を辞めてしまった。
彼女はおつきの者の反対を押し切り、運命を司る女神に駆け込むと
「自分を人間にしてくれるよう」頼んだ。
初めは冥府の神たる者が勤めを忘れ、人間にうつつをぬかすとはとしぶっていた満神だったが、
彼女の熱意に突き動かされ、ある条件と引き換えに願いをかなえてやる事にした。
「もし、絶世の美女である傾城から公爵を見事振り向かせられたならば、お前の勝ちとみなし、完全な人間にしてあげます」
「だが、公爵と傾城がお前より早く、互いに思いを通わせられたのならばお前の負けとみなし、死をもって償ってもらいます」
傾城という女の名前を聞くと、はちくりと胸に嫉妬の矢を感じた。
傾城は下界の国の王妃で絶世の美女だったが、満神のおかげで乞食同然の少女から
這い上がったいわゆる成り上がり者だった。
傾城はつんととりすました高貴な顔に、自分の美貌を鼻にかけているような女だった。
一方、冥府の神であるは、いわゆる絶世の美女というタイプではなかったが、とても可愛らしい感情豊かで無垢な優しい女であった。
念願の下界へ再び降り立ったは、嬉しさと興奮のあまりただっぴろい緑の絨毯を踏みしめ
一日中歩き回って美味しい空気と食べ物と自由な世界を満喫した。
ゆるやかに流れる透明な澄み切った川で捕れた鱒は美味で、彼女はお腹がはちきれそうになるまでつめこんだ。
それが終わると彼女は緑の絨毯に気持ちよさそうに寝転び、かつて自分が支配していた冥界の空を眺めた。
下界の風は思ったより肌に心地よく、彼女はうとうと気持ちよさそうにまどろみ始めた。
その時だ。ぴたりと風がやみ、側のいぼたの茂みが
がさがさと音を立てた。