「明日、ウィーズリー夫人のところにあなたを預けていくわ」

ある日の朝食の席で、フェリシティー伯母が出し抜けに言った。

「なぜかというと 。あなたには大変申し訳ないんだけど、急にダンブルドアと泊り込みの

 仕事をしなくければいけなくなったの。昨日、あちらから連絡が来てね」

彼女はただでさえ、寂しげな表情の姪を見て、出来たらこの仕事はごめんこうむりたいと

不遜なことを思っていた。

昨日まで宿泊していたルーピンも不死鳥の騎士団の仕事やら何やらで、早急に

発ってしまい、フェリシティーとしてはこのただっぴろい屋敷に

彼女を残して行きたくなかった上での決断だった。


これを聞いた は、伯母の思ったとおり、途端に銀器の上でジュージューいっているハムをつつくのをやめてしまった。

「ほんとうにあなたには寂しい思いをさせてばっかりね。

 用事が済み次第、すぐにあちらの宿泊先に顔を出すから、ね、約束するわ」

伯母はほかほかのバターつきパンをかじるのをやめて、彼女の手に自分の手を重ね元気付けるように言った。

伯母は心底すまなさそうな顔をしていた。

には彼女の心が顔にすぐ表れているのがわかったので、にっこりと笑って「はい・・お仕事頑張って下さいね」

と言い知れぬ寂しさを隠して言った。




がウィーズリー一家にハリー、ハーマイオニーとともに

お世話になって一週間後、最速でダンブルドアとの任務を終えてきたフェリシティー伯母が

姿を現した。


その日はどんよりと曇った陰気な日だったが、いつもなら憂鬱になりそうな気分はどこへやら、ウィーズリー一家、ハリー、ハーマイオニー、

諸手をあげて彼女が無事に帰還したことを喜んだ。





「えーと、マダム・マルキンのお店に最初に行ったほうがいいわ」


朝食後、ウィーズリー一家、ハリー、 、ハーマイオニー、フェリシティー婦人

は揃ってダイアゴン横丁へとショッピングに繰り出した。



「ハーマイオニー、 は新しいドレスローブを買いたいし、ロンとハリーも

 まぁ、この一年で筍のように背が伸びたこと!学校用のローブを買い換えなきゃダメだわね」


ウィーズリー夫人は男の子二人を感心するように見上げながら言った。


いつも見慣れた光景だが、今年は違う。


有名なフォーテスキューのアイスクリーム店、オリバンダーの杖の店がブラインドを下ろしている。

ウィーズリー氏の話では押し入ったデス・イーターによって拉致されたらしい。

ダイアゴン横丁にもヴォルデモート復活の暗い影が落ちていた。


魔法省からの「保安上の注意事項」と書かれたポスターが町中に張られ

「一人での外出を禁ず」とデカデカとした飾り文字が通行人達の目を引いていた。




そして、その閉店した店舗の近くでみすぼらしい違法屋台が路上を占拠するのをウィーズリー家と 達ははいや〜な顔を

して通り過ぎた。





そして何区画かブロックを歩きとおした後、ハリー、ロン、ハーマイオニー、 達はフェリシティー婦人と共にマダム・マルキンの店の

ドアを押した。


(ウィーズリー夫妻、ジニーは先にフローリシュ・ブロッツ書店へと向かった)





チリンと鈴がなると、そこには先客がいた。


緑と青のスパンコールのついたドレスローブがかけてあるローブ掛けの

向こう側から「母上、僕はもう子供じゃないんだから一人で買い物に行けますよ!」

と駄々をこねるような男の子の声が聞こえる。


は嫌な予感がした。


あのいけ好かない金髪だ。


そう思った時、ひょいとその男の子がローブ掛けの後ろから顔をのぞかせた。




「母上、穢れた血とバンパイアが連れ立って入ってきましたよ」

プラチナ・ブロンドの豊かな髪―ドラコは開口一番、いやらしい笑いを浮かべながら言った。


「そんな言葉は使って欲しくありませんね!」

マダム・マルキンはむっとしてローブ掛けの後ろから出てきた

「それに私の店で喧嘩はお断りです!」

彼女はそれに次の光景を見て慌てて付け加えた。


ハリー、ロンが、女の子たちを押しのけ、カンカンになって杖を構えてマルフォイを攻撃しようとしていたからだ。


ハーマイオニーは「やめて、そんな価値はあいつにはないわ」と


袖を引っ張って引き止めていたが、 は逆に「やっちまえ!」というような面白そうな表情を


浮かべ、成り行きを見守っているだけだった。




フェリシティー婦人は頭が痛む思いで、「おやめなさい」と

彼らの間に割って入ろうとした。


しかし、その前にドラコの母親がローブ掛けの後ろから現れ、杖を下ろすよう

男の子たちに命じた。



「私の息子に指一本でも触れてみなさい。それがあなたたちの最後になるように

 してあげますよ」


ナルシッサ・マルフォイ夫人は凍りつくような声で言った。


「お宅の息子さんに向かって杖をあげたのは、確かにこの子達が悪いわ。

 でも―この子達をけしかける侮辱的な言葉をを吐いたのはそちらの息子さんでしょう?」


そこでフェリシティーは前に進み出、挑むような目つきでナルシッサに言い返した。



「うちの息子が何か気に障るようなことを言いまして?杖を急に上げたそちら様が悪いわ」

「耳の悪い人ね。自分の息子が何を言ったか聞いてないの?」

「もちろん聞いてましたわ」

「だったら、この女の子たちにきちんと謝罪させてちょうだい。あんな酷いことを言ったのですからね」

「頭の悪い人ね。ですから、ドラコが何をしたというの。謝るのは杖をあげたそちらのほうですわ」





洋品店内の空気は途端に険悪なムードに包まれた。

フェリシティー婦人はナルシッサ夫人より背が高かったので、相当威圧感があった。

二人の女は目から火花を飛ばしてにらみ合い「謝れ」の一点ばりで一歩もあとに引かなかった。



ハリーたちはまるで小さなヒヨコのように恐々と身を寄せて、この言い争いを見物していた。




どうなるかと思った時、この修羅場を破ったのはドラコだった。

彼は相当頭に来ており「こんな汚らわしい店、二度と来るものか!」とドレスローブを頭から引っ張って

脱ぎ、おろおろとしていたマダム・マルキンに投げつけたのだ。




「ドラコ、待ちなさい!」


ナルシッサ・マルフォイは愛息が足音荒く店から去っていくのに

肝をつぶしたらしい。


ハーマイオニー、 を侮蔑的な目で見た後、絹のスカートをさらさら鳴らして

立ち去った。


普段の赤毛を金髪に変え、ポンバドールにまとめあげた髪を振りたてて、フェリシティーはフンと鼻を鳴らした。


「マルフォイ家の連中は皆高慢ちきで、石頭だわ。やれやれー何がナルシッサ夫人よ。

 あんな物分りの悪い女は初めて見たね」


彼女は とハーマイオニーに、真っ白なシルクサテンのドレスローブを選んでやりながら

ぶつくさ言った。



ハーマイオニーはびっくりして「いいです!自分で買いますから」と遠慮したが

フェリシティーは「私からのプレゼントだと思って」と聞き流し、マダム・マルキンに

「これを二着買うわ」と命じた。








 

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