「ネックレスの解析は進んでる?」

「いいや・・ところで君は暇なのかね?」

「ええそうよ。今のところお仕事がないから」


闇の魔術の防衛術の大教室でフェリシティー・チェンとセブルス・スネイプは

お互いに敵意をむき出しにして喋っていた。

二人とも一本の箒を中に挟んだような距離を保ち、どこまでもよそよそしく振舞った。


やロナルド君ががネックレスに触れなかったのは賢明だったわ。ハリー君が触るなと命じたらしいけど」

「ポッターが?」

「そう。少し前にボージン・アンド・バークスにネックレスが展示されてあったのを覚えてらしいわ。

じゃなきゃとっくに二人とも呪いのとばっちりを受けてるわね」



「じゃ、これでおいとまさせて頂くわ。長居はあなたにとっても私にとっても無用ですからね」

フェリシティーは今日のところはこれで引きあげることにし、真紅のハンドバッグの留め金を止めると、靴音高く立てて立ち去ろうとした。

婦人」

スネイプが儀礼的な調子を含んだ声でその背に呼びかけた。

「つかぬことを聞くが・・その、ブラド女伯爵は確かに死んだのだな?」

「何ですって?」

フェリシティーのボンネットの羽飾りが大きく動いた。

「そうよ。あなたも彼女のお葬式に参列したでしょう?今更何を言ってるの?」

彼女は酷く動揺し、ハンドバックを今にも取り落としそうな勢いだった。

「いや・・すまない・・変なことを聞いたようだ」

彼も酷く動揺し、手に持っていた魔法薬学の本をバタンと床に取り落とした。

「どうしたの?お顔の色が悪いわ。何かあったの?」

途端にフェリシティーは、この教授とは長年の犬猿の仲であったことを忘れ、

心配そうに尋ねた。




「帰ってくれ・・今すぐにだ!」

スネイプは荒々しい口調でフェリシティーを廊下に追いたて、バターンとドアを閉めた。

「ちょっと!セブルス・スネイプ!大丈夫なの!?」

邪険に放り出された彼女は、慌てて大教室のドアを叩いて叫んだ。

「帰れ!ここには二度と来るな!お前になど心配されたくない!!」

返事のかわりに、がしゃんとフラスコがドアに当たって砕け散る音がかえってきた。







「やめろ・・やめてくれ!」

フェリシティーがしぶしぶその場から引き上げた後、セブルス・スネイプは悲痛な叫びをあげていた。

「出て行け!出て行ってくれ!我輩は何もやっていない!何も関係ない!」




彼は頭を抱えてうずくまっていた。

「あなたが・・あなたが・・殺したのよ!」

地底の底から響くような声で、そのうら若い婦人は彼を脅していた。

ふさふさとした腰まで届く黒髪が血走った両眼を覆い、金糸を織り込んだグリーンのタフタのドレスが

優雅に彼女の華奢な身体にまとわりついていた。

「やめろ!やめてくれ!」

「許さない、未来永劫、許さない!」

「やめろ!頼む!」

「あっ・・あああぁ・・」


次の瞬間、青白く細い腕が彼の首をむんずと掴み、ぎりぎりと締め上げていた。


「たっ、助け・・」

女の手がぶるぶると震え、男の顔はだんだんどす黒くなってきていた。

「や・・やめ・・」


「スネイプ先生・・クィディッチの練習場の申請許可をもらいたいんですが・・」

その時だ。プラチナブロンドのドラコ・マルフォイがひょっこりと顔をのぞかせた。

スネイプは教壇の下でまるで眠っているかのように倒れていた。


先ほどの女はいつの間にか姿を消していた。


ケィティ・ベルの呪い事件もあっという間に話に尾ひれがついて

学校中に広まったが、今や、それをひっくり返すようなスネイプ暗殺未遂事件に

かき消される勢いだった。



「首には女の手の跡がべったりついていたんだってさ」

夕食時、大広間はスネイプ暗殺事件で持ちきりで、早速グリフィンドール席でも、ロンがハリー、 に向かって大げさに身振り、手振りで説明していた。

「お可愛そうなスネイプ先生。もし、マルフォイが入ってこなかったら・・」

ハーマイオニーが心痛な面持ちで言った。

「確実にその女に殺されていた」

ハリーがどこか黒い笑みを浮かべながら言った。

「あなた上機嫌すぎるわよ・・人が殺されかけたっていうのに・・」

がこづいてたしなめた。

「痴話喧嘩かな?スネイプに恋人がいたんだぜ・・きっと・・別れ話のもつれとかさ・・」

ロンはハリーと同じく、これっぽちも同情していないようだった。

「ロン・ウィーズリー、いいかげんにしないと叩くわよ!」

ハーマイオニーが銀の盆を持ち上げて叫んだ。

「うわ・・怖い・・聖母様のバチだ・・」

ロンはこわごわとハーマイオニーの手の届かないところ( の後ろ)に非難した。



次の闇の防衛術の授業はスネイプが気絶したまま、意識が戻らない為、おおわらわで

チャン・ミラという皆の知らない女の先生が、スネイプの代理を務めた。

この先生はもちろん、フェリシティー・チェンの偽名で

このことはハリー、 、ハーマイオニー、ロン、ダンブルドア、マグゴナガル、スラグホーン、ムーディ、ルーピンだけが

知っていた。


この先生を代理にすることを企てたのは、フェリシティーの闇払いの師であるムーディであり、

彼に重きをおいていたダンブルドアはこころよく承知したのであった。





スネイプが知ったら、陰謀だと騒ぎ立て、フェリシティー、ムーディを殺しかねないだろう。

マグゴナガルは絶対に口外しないようにと関係者全員に固く口止めした。




、フ、じゃなかった・・ミラ先生からスネイプのことについて何か聞いてない?」

「壁に耳あり、ドアに目ありよ・・もっと小さい声で喋って」

「わかったよ。で、どう?」

「全然意識が戻らないらしいわ・・死んでるんじゃないかって心配してらっしゃった」



クィディッチの練習終了後、ハリー、ロン、 はばったりと玄関ホールで落ち合い

一緒に帰る途中だった。


「あ!」

途中の三階の廊下の隅で、 はパッと顔を赤くして立ち止まった。

ロン、ハリーも彼女に折り重なって立ち止まってしまった。


そこで目に飛び込んできた光景とはディーン・トーマスとジニー・ウィーズリが熱情に浮かされて

激しくキスを交わしているところだった。


ロンの拳がぶるぶると振るえ、「おい!何やってるんだ!?」

と二人の間にずかずかと割って入っていた。

「何なの?」

ジニーがうるさそうに振り返った。

「自分の妹が公衆の面前でハァハァ喘ぐのなんて見たくないんだよ!」

「盛りのついた雌猫みたいな言い草はやめて!」

ジニーは真っ向から反論した。

「あ〜ジニー、来いよ。談話室に帰ろう」

ディーンがけだるそうに言った。

「先に帰ってて。私はお兄様と話があるの!」

ジニーは憤懣やるかたない態度でディーンを追い払い、戦闘の構えをとった。

「私が誰と付き合おうと、ロン兄さん、あなたには嘴を入れて欲しくないわ!」

「入れる必要があるね!」

ロンもジニーと同じぐらい腹を立てていた。

「嫌なこったね、皆が僕の妹のことを何て呼ぶか―」

「何て呼ぶのかしら?」

「やめなさい」

ジニーが杖を取り出したので がその手を押さえた。

「ジニー、ロンに他意はないんだ―」

ハリーが間に割って入った。

「いいえ―あるわよ!」

ジニーは長い赤毛を振りたてて怒鳴った。

「この人は自分が、まだ一度もいちゃついたことがないから、そう言えるのよ!」

「黙れ!」

「世の中に出て少しは自分もいちゃついて見なさいよ!そしたら今みたいなことが言えなくなるわ!」


「黙らないと呪いをかけるぞ!」

ロンは杖を脅すように振った。

「やめろったら!」

ハリーは彼の手を必死に押さえた。

「ハーマイオニーはクラムと、ハリーは とこの間、キスしてるところを見たわ!

ロン兄さんは、したことがないからそれが難だか汚らわしいもののように振舞うのよ!

あなたが十二歳の子供並の頭しかないから!」

それだけ言うと、ジニーは台風のように去っていってしまった。








「君達、ほんとにキスしたのか?」

しばらくたって、ようやく息のつけるようになったロンが聞いた。

二人はお互いの顔を見合わせ、こくこくと頷いた。


それは数週間前のこと、リドルがミナ伯母と付き合いがあったことに

ショックを受け、「この出会いがなければ・・伯母さんは死んでいなかったのに!」

とさめざめと泣き崩れる彼女にハリーが慰め、なんとなく成り行きでキスしたというものだった。





その時、レコード店から伯母の日記を手に帰ってきた彼女はクリーム色のトレンチコートに身を包み、木枯らしの吹く中、

一人で中庭のベンチに腰掛けていた。



ダンブルドアとの個別授業から帰ってきたハリーは、四階の窓から彼女の姿を見止め

慌てて駆け下りてきた。


「どうしたの?風邪ひくよ」

「少しでいいから私の話を聞いてくれる」

彼女は泣き濡れた睫を上げて言った。

「うん・・いいけど」

長々とわたる話をハリーは文句一つ言わずに聞いてくれた。


「どうしてかな?伯母さん、なぜリドルなんかに惹かれたんだろう?」

彼女はぐすんと鼻をつまらせながら言った。

「危ないとわかってて何故、付き合うのをやめなかったんだろう?」



「危ないと分かってても・・一度その人を好きになったら止められない」

ハリーはゆっくりと言った。

「あ〜なんていうかな?一度ほどけた糸は簡単には元に戻せないだろ?」

彼は決まり悪そうに言った。

「僕だって、危ない人に惹かれてる・・ブラドさんの気持ち、分からなくないな」

ハリーはそこまで言ってのけると、彼女を両手でしっかりと抱きしめた。

「私、あなたのこと、好きになりそう・・だって、その危ない人って私のことでしょう?」

それから、彼女と彼の熱っぽいまなざしが交錯し、彼の唇が優しく彼女の唇に触れ、二人は一つに溶け合った。
















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