「お前も今回の事件をきっかけに覚えておおき。ヘ ビの毒は血清で消せるけど、もしなかった場合、ムカデの毒で消すことが

 出来るの」


ヤン牧師が教会に出かけてしまったので、閑散とした屋敷の中をとフェリシティーと は散策していた。


「それも東洋医学の教えですか?」

「ええ。知っておくと何かと便利よ」


「伯母さんは誰が今回の事件を仕組んだか心当たりはありますか?」

はフェリシティーが後遺症そっちのけで、こしらえた見事な菜園に入ると聞いてみた。

「一応あるわ。でも私を殺したがっている人間は大勢いるので一律に誰かとは言えない」

伯母はそこでさらさらと土をさらい、高麗人参、水参、ナズナ、セリ、赤カブ、唐辛子、カブラ、ショウガ、ジャガイモなど をよいしょっと引き抜くと槲細工の 籠に放り込んだ。

「お粥でも作るの?」

は聞いてみた。

「作るのは御飯だけじゃないわ。薬も作るのよ」

フェリシティーは言った。そしてこう付け加えた。

「まずは水参を使って糖尿病の薬を煎じるわ。ある高名な先生がこの病を患ってるからね。」





そのころ、ヤン牧師とスネイプは牧師館の事務所で暖かい日差しを受けながら

お茶を飲んでいた。


「老けたな―ヤン牧師」

開口一番、スネイプは嫌味を言った。

「牧師という仕事は君にはわからん苦労があるのさ」

ヤン牧師は彼の嫌味をさらりと聞き逃すと、瑠璃色のティーカップを受け皿に置いた。

「だが、なかなかやりがいのある仕事だよ。信者の悩みを聞いたり、お説教をしたり、それから孤児院を訪問したりと・・ど うだ?君も退職したらこの仕事を やってみないか」

「絶対に断る」

「まぁ、そうカッカしなさんな」


昔からこの男とはどうも波長があわないとヤン牧師はそこまで言ってから

ためいきをついた。


ヤン牧師はまだ二十代後半の若さなのに、数々の苦労のせいか、短く切りそろえた髪は真っ白だった。

だが、黒い目はとても優しく輝き、それが多くの信者たちを引きつけていた。

首からぶらさげたプラチナの十字架がこれほど似合う男も少ないだろう。

それほど神聖な雰囲気を漂わせていたのだ。







「で、用件は何だ?」

慈善バザーで残ったレアケーキを美味しそうな顔一つもせずに

食べながらスネイプは聞いた。

「ああ・・ちょっとお前に聞きたいことがあってな」

ヤン牧師はここで気を引き締めて本題に入った。

「不死鳥の騎士団のメンバーから聞いたんだが、少し前にいろいろと悲しい出来事があり、

 一人の魂が天に召されたそうだな?」


「あの黒犬のことか・・自業自得だ。自ら罠に飛び込んでいったものだからな」


スネイプはその時のことを思い出してあざけ笑うように言った。


「死者に対してそのような冒涜はしてはならない。その人が安らかに眠れるように

 祈りを奉げるのが我々生者のつとめだ」

ヤン牧師は不快な表情を隠そうともせずに、スネイプの不謹慎な発言をいさめた。



「お前はブラックに対してずいぶんと寛容になったもんだな・・これはこれは、牧師という

 職業は素晴らしいものだ」

スネイプは喉をのけぞらせて笑った。

体が前後に揺れていた。



「今から多少不愉快なことを聞かねばならんが、いいか?」

ヤン牧師はそこで決まり悪そうに咳払いをして、スネイプの嘲笑を止めさせた。

「ああ、どうぞ聞きたまえ。お前の性格上、納得のいく説明をせねば

 そのうち我輩の身辺調査を始めだすかもわからんからな。そうなると実に不快でかなわん。

 それに君の兄の娘がポッター云々のせいで、どのような被害にあったのかも知りたいだろうからな。

 いいとも、全て話してやろう」

スネイプは意外なことに、誰かに憎き同窓の話をしたくてたまらなかったらしい。

ひどく上機嫌だった。

どのように脚色をつけて面白おかしく話してやろうか考えているところだった。



「君の寛容な性格に感謝しよう」

ヤン牧師はほっとすると同時に、さきほどから感じるおぞましいほどの寒気を胸にしまいこんで、聞き始めた。


「不死鳥の騎士団が魔法省で抗争していたとき、お前はいなかったそうだな?なぜだ?

 あの時、ほとんどの騎士団団員が飛び出していったそうだが」


「ああ・・そのことか」

スネイプはにやりと笑った。

「ダンブルドアにホグワーツに残っていろと命じられたものでね。

 ウィーズリー兄妹、ポッター、グレンジャー、ラブグッドの馬鹿どもの騒ぎにスリザリン生が巻きぞいをくらい、

 その後始末に追われていたのだ」



はその騒ぎに加わっていなかったのか?」


「いなかった。天文台の階段から落ちて病室にいたからな」


に「魔法省に来てはならない」と警告の手紙を送ったのはお前か?」

「そうだ・・あの生徒は将来を嘱望される才女だ。ポッターの早とちりで命を落としたらあまりにも哀れだからな。

 慌てて阻止したのだ」



「なるほど、君は を危険から守ろうとしたわけか。君は才能のある生徒が好きだからな。

 だが、彼女はお前の命令を無視して、危険もかえりみずに魔法省に向かったぞ。

 そんなに大事な生徒を・・マルフォイの次に大事な生徒が、取り返しのつかない事件に突っ込んでいったのに

 校長の命令を無視してまで助けにいこうと思わなかったのか?」


「それはいささか無理難題というものだ。我輩はフェリシティー婦人からかなりの数の騎士団員が

 現場に向かったから心配することはない。という連絡を受け取った。

 それで安心して残ったのだ」




結局、ヤン牧師はあの手この手を使い、有力な情報を得ようとしたが

無駄に終わった。

実は、彼は兄夫妻とポッター夫妻の非業の死から、確たる証拠はないが、ひそかにセブルス・スネイプが

ヴォルデモートに寝返ったのではないかと疑っていたのだった。

事実、あの小心者のぺディグリューが敵方に寝返っていたのを見ればなおさらだった。


だが、スネイプの話はきちんとつじつまが合っていたし、彼が不死鳥の騎士団に恐ろしいほど

忠実でヴォルデモートに寝返ったという証拠はどこにもなかったかった。





しかし、夕方この話を持ち帰って姉に報告した時、

フェリシティー婦人は「おかしいわね。校長は魔法省の抗争の時、スネイプに残っていろとはおっしゃらなかったわ。残るよ うに頼んだのはシリウスよ」と変な ことを言ったのだ。


彼は嘘をついたのだ。


だが、なぜだろう?

なぜ、私に嘘をつく必要があったのだろう?


ヤン牧師の疑問はさらに深まるばかりだった。


その数日後、教会からの帰り道に彼は何者かに襲われて亡くなった。

ピストルで胸を撃たれていたので、魔法警察はマグルによる殺しだと発表した。

アメリカから駆けつけてきた牧師夫人はこの世の終わりとばかりに泣き叫び「どうしてこんなことになったの?」

と夫の遺体に取りすがっていた。

フェリシティーは簡素な葬儀の後、牧師夫人に出来るだけ早くイギリスを経つように言った。

彼女にも暗殺の手が忍び寄るのではないかと心配したのだ。





















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