「ミナはこの日記によると、トム・リドルが老女殺しの事件を起こした前に別れたみたい」
フェリシティー伯母は
が青ざめた顔で日記を全部読んでしまうのを見計らって言った。
「ヘプジバ・スミスが殺された事件だね」
リーマス・ルーピンが物知り顔で付け加えた。
「ダンブルドア校長から聞いたんだ。いいかい?事件の全貌というのはこうだ。
トム・リドルはホグワーツ卒業後、ボージン・アンド・バークスで働いていた。
ある日、商用で彼はヘプジバ・スミス、彼女はヘルガ・ハッフルパフの血をひく老婦人だ。その老女の家を訪れ、そこで二つのホグワーツゆかりの
品を見せられた。一つはハッフルパフのカップ、もう一つはスリザリンのロケットだ。
トム・リドルはホグワーツゆかりの品欲しさに二日後、その家の屋敷僕妖精に魔法をかけ、自ら手を汚すことなく老女を殺させて品物を盗んだ。」
「ミナ伯母様はなぜ、そんな―人殺しと付き合ったのでしょうね?」
しばらくして、事の重大さに驚愕し、やっと口が利けるようになった
は伯母に尋ねた。
伯母は複雑な表情で「おそらく彼女は愛情を全く知らずに育った青年に哀れみを感じたのね。
彼女はかれこれ半吸血鬼の寿命である二百年も生きながら、世の中の邪悪を知らない善良すぎる貴婦人だったわ。
日記の内容から察するに、彼女は彼が長い間求め、誰からも与えられなかった愛情を教えた。
だが、それは――トム・リドルが彼女への積年の思いを告げると全て水の泡と帰したわ。
トム・リドルは彼女を異性として深く愛した。
でも、ミナはその思いに答えてあげられなかった。なぜなら、ミナのトムに対する感情は兄弟か息子に接するような
ものだったからよ。」
と語った。
「あの時、二人が出会わなければ――ミナ、私の弟達、それにポッター、
夫妻も死なずに済んだのにね・・」
彼女はそこでハンカチを取り出すと、目に一杯涙をため、ソファに泣き崩れた。
「それ、本当か?トム・リドルが君の伯母さんを愛してたなんて?」
リーマス・ルーピンの操るバギーで送ってもらい、ホグワーツに到着すると
は真っ先に
このことをハリーに報告した。彼は衝撃の事実に目を白黒させていた。
「でも、奴は魔法省でブラドさんを惨殺したじゃないか?いったい、あいつは何を考えているんだ?全く、あの血も涙もない
輩が誰かを愛していたなんて――豚が空を飛んだって信じられないだろうな」
ハリーは肘掛け椅子に深く座りなおすと、悲惨そうに呟いた。
「誰かを深く愛しすぎると、それが深い憎しみに変わることがある。フェリシティー伯母さんがそう言ってたわ。
あいつはそうなのよ。あの冷血極まりない殺人鬼!!」
はくやしそうに息巻くとバン!と両手で肘掛け椅子の腕を叩いた。
その翌日、肩にかかった残雪を振り払い、闇の魔術の防衛術の教室に一人の女が足を踏み入れた。
「何の御用ですかな?」
冷たい大理石の事務デスクで書き物をしていた男はわずかに目を上げた。
「長居は致しませんわ。セブルス」
女はあざらしのマフに両腕を突っ込んだまま、軽く頭を下げた。