「シリウス!!シリウス!!」

、ハリーの絹を裂くような悲鳴が部屋中にこだました。

べラトリックス・レストレンジは狂ったように高笑いしている。

永遠に時間が止ったかのように二人には思われた。


「離してくれ!!」

「嫌!!彼はまだ死んでない!!死んでないの!!」


二人は無意識のうちにシリウスが潜り抜けていった台座に駆け出そうとした。


「やめろ、やめるんだ!君たちにはもうーー」


ルーピンは二人の服をつかんで、必死にひきとめた。


「あいつはー戻れない!もうー止める事はできないんだ!!」

ルーピンは言葉をつまらせた。

「離して!!離してったら!!」

はありったけの力をこめて、ルーピンの力に抗った。

「シリウスはあそこにいるんだ!!」

ハリーは唐突に叫んだ。


「彼は生きてるーほら、あそこにーねぇ、分かってるでしょう?ルーピン先生。」

は今度は激しく泣き笑いしながら、甘えたような表情でルーピンをたよりなげに見返した。

「もう戻れない、戻れないんだ!!彼はーー」

ルーピンの声が涙声に変わった。

「死んだんだ!」


その衝撃的な言葉は嫌でも二人の耳を刺し貫いた。


「嘘だ!!嘘だ!!彼はー死んでない!!」

ハリーが否定するかのように喚いた。

「シリウス!シリウス!戻ってきて!!ふざけないで!!ねえ、そこにいるんでしょう!!

 私たちを困らせないでよ・・ねぇ・・」


「シリウス・ブラック!!シリウス・・戻って来てよ〜〜〜〜〜!!!!あぁぁぁぁ・・」


が両手をもみしぼり、甲高い声で叫んだ。

最後のほうは涙声でぐしゃぐしゃになり、彼女は拳で激しく床を叩き始めた。


「シリウス・・」

ハリーはもうルーピンに抵抗するのをやめて、力が抜けたように彼の腕の中へ倒れこんだ。

「どうしていつもー私の大切な人は先にいってしまうの?どうして・・」

彼女はまだ狂ったように泣き笑いしながら、床を拳で叩き続けていた。


ハリーはその言葉を聞くと、もう我慢できなくなり、ルーピンの腕の中で泣き叫んだ。




その時、台座の裏側で悲鳴が上がった。

べラトリックスを捕まえようと、彼女とさきほどから決闘していたフェリシティー伯母が

あえなく閃光を食らい、床にたおれたのだ。



すかさずダンブルドアが杖を向け、彼女に向けて呪文を発射したが、

べラトリックスは、素早い身のこなしでそれをよけ、階段を飛ぶようにのぼり、上階へと姿を消そうとしていた。





途端に は床を叩くのをやめた。


「よくもシリウスを!」

と狂ったように叫び、ルーピンが慌てて服のそでをつかむのを振り切り、弾丸のように飛び出した。


「行くな!!」


彼もまた彼女とほぼ同時に、ルーピンの静止を振り切り、矢のように

階段をよじ登った。





「おまえを殺してやる!!」


二人はほぼ同速度で部屋をとぶように駆け抜け、数メートル先にいる彼女に向けて叫んだ。


「待て!この人殺し!!」


は凄い形相で喚いた。


二人はべラトリックスが発射した呪文を、めちゃくちゃに打ち返し、廊下を疾走した。


階段をいくつ駆け下りたか分からない。

一階の大ホールにたどり着いたとき、ぴたりとべラトリックスが走るのをやめた。


彼女は振り返って、何発も呪文を発射してきた。


、ハリーはそれら全てを怒りのあまり、ぶち返した。



「お〜やるじゃないの、嬢ちゃん、坊ちゃん!」


二人が息せき切って、ホール中央の銅像二体の影に走りこむと

べラトリックスが猫なで声を作って呼びかけた。



べラトリックスも、近くの大きなケンタウルス像の影に走りこんでいた。


「何で出てこないんだい?私を追ってきたんじゃないのかい?」


「そっちこそ、堂々と出てきたらどうなの!!」

「僕ら二人を相手にするのが怖いのか?」


、ハリーは挑発するように呼びかけた。

「怖い?私がかい?馬鹿も休み休みいうんだね!私にお前ら二人が

 適うはずがない!!さぁ、ハリー坊ちゃん、 嬢ちゃん、出ておいで!!

 どっちが先に死ぬかね?

 あぁぁぁぁぁ・・あいつを愛してたんだろう? 嬢ちゃん!

 お前のお母さんと私の可愛い従弟のことは親戚中で物笑いの種になったもんだ!

 あいつは馬鹿だねぇ・・今も昔も愛してもくれない女になんか関わるから

 命を落としたんだ!!ほっんと馬鹿な男さね〜」





その言葉に は顔面が火を吹くようにほとばしり、カァッと頭に血が上った。



「クルーシオ!!」


は銅像の影から踊りだし、一番初めに頭に浮かんだ呪文を唱えた。


「ぎゃぁぁああ嗚呼ああああああああああああああああああああ!!!!」

べラトリックスの大絶叫が響き渡った。


「よくも、シリウスを!」

の声は怒りで震えていた。

「血を分け合った従弟をーーあんたは簡単に殺したね!」


彼女は細い肩を怒らせ、ずんずんと大またでひくひくと痙攣している彼女の元へすっ飛んでいった。


「おまえー使ってしまったねぇ・・魔法界で禁句の許されざる呪文を。フン、馬鹿な女だ。

 事情はどうあれ、お前は無法者だ。もう戻れる場所などないよ。

 アズカバンがお前を待ってる。」

べラトリックスは苦しい息の下からあえぎ、あえぎ言った。

「うるさい!!!」


彼女は杖をびしりとべラトリックスに突きつけた。


「もう私は何も怖くないわ!どのみち後戻り出来ないのよ。アズカバンにぶちこむ?勝手に

 ぶちこむならぶちこめばいいじゃない!!あんたの脅しなんか怖くないわ!

 今なら何だってやってやる!!私は本気よ。お前を殺すまではここを絶対に動かないわ!」

彼女は切り裂くような笑いを浮かべ、叫んだ。


「やめろ、 !!君は犯罪者になってはいけない!!」


「来ないで!!来たら大怪我するよ!!」


成り行きをびっくりして見守っていたハリーが、悲痛な声で叫び、一歩かけだそうとした。


はくるりと後ろを振り返り、叫んだ。

「アバダ ケダ・・」べラトリックスが叫ぼうとした。


ドーーン!!


銃声が響きわたった。


「あ、あ、おまえ・・マグルの女・・」

倒れているべラトリックスの右肩から大量の血が噴出した。

「動くな!!それ以上動いたら心臓に弾を撃ち込むよ!!」


そこにはいつのまにきたのか床に伏せ、六連発銃をしっかりと握り締めたジェニファーがいた。


ジェニファーは走ってきたのだろう、ぜいぜい息をきらし、ゆっくりと床から立ち上がった。

「そのまま、動くな! 嬢様、その女の杖をこっちへよこして!」

ジェニファーはシリウスそっくりの怒りの形相で、彼女に命令し、銃口をこちらに向けたまま、

近寄ってきた。


は了解とばかりに無言で頷き、ポーンと彼女の杖を蹴飛ばして、ジェニファーのほうへよこした。


ジェニファーは杖を拾い上げ、銃を片手にちらつかせたまま彼女の目の前に立った。


「フン、マグルの女に殺されるとはね。私も落ちたもんだ。」


べラトリックスはせせら笑って、ジェニファーを見上げた。

「黙らないと傷口が広くなるわよ。ハリー・ポッターさん、大丈夫ですか?」

ジェニファーは彼に背を向けた格好で叫んだ。

「大丈夫です!!ジェーン。助かりました!!」

彼は大声で隠れていた銅像から顔を出し、叫んだ。

嬢様、ハリーさん、この女は私が始末をつけます。いいえ、殺しません。殺したいけどーー

 責任を持って魔法省へ突き出します。早く皆さんのところへ戻って!!」

ジェーンは叫んだ。

「お前が誰だか思い出したよ!!どうりであいつにそっくりだと思った!!マダム・ブラックとアメリカ人マグルの間に出来た娘だね?

 フン、私生児が今じゃご立派なブラック家の跡取りに座るわけだ。私を突き出せば、お前は

 しがない私生児から貴族のお嬢様になるんだからね!!たいしたもんだ。これだからー混血は嫌いなんだ!

 でしゃばりで鼻持ちならない傲慢なー。」

べラトリックスは急ににやりと笑い、苦々しく言い放った。


嬢様、この煩いおばさんを運ぶ担架かなんかありませんか?

 このおばさん、立って歩けなさそうですから。」

ジェーンはさらりとべラトリックスの嫌味を聞き流し、尋ねた。

「お前におばさんと呼ばれる筋合いはないよ!」

べラトリックスは憎憎しげに叫んだ。

「黙らないともう一発、頭にぶちこみましょうか?ハリーさんも 嬢様も反対はしないと思うわ。

 それにお兄さんも。」


ジェーンは彼女のこめかみに冷たい銃を突きつけて静かに言った。


「僕が担架を作るよ。」


「ハリーさん?」


ハリーが近づいてきて言った。



「ほんとにありがとう。君には二度も助けてもらったな。」


ハリーは魔法で緊急の担架を作り上げ、その上にべラトリックスを乗せながら言った。


「私が出来ることはこれぐらいしかないんです。私、魔法が使えないスクイブだから。」

ジェーンは恥ずかしそうに言った。


「恥じることはないよ。君は僕が出逢った人の中で最も勇気がある人だ。お兄さんも

 きっと喜んでるよ。」

ハリーはぐっと涙をこらえ、励ますように言った。




 

「アバダ ケダブラ!!」


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



三人がほっと安心したのも束の間、どこからともなく緑色の鋭い閃光が飛んできて、ジェニファーの背中を

直撃した。



彼女はものすごい悲鳴をあげ、衝撃で 、ハリーにぶつかり、吹っ飛んだ。




「油断したな。」


甲高い冷たい声がホールに響き渡った。

「これでブラック家直属の子孫は息絶えた!」



、ハリーは呪文の衝撃で吹っ飛ばされ、数メートル先に重なるように倒れていた。



数分後、二人が痛みにうめきながら起き上がろうとすると、目の前に恐ろしい蛇のような姿が、フードを被り

立っていた。





「お前達の命運もこれまでだ。さあ、どちらが先にあの世へ行くかな?」


ヴォルデモートは杖を二人に交互にむけ、あざけ笑うように言った。

「もうお前のお得意の召還術は使えんぞ。悪魔の罠は俺様がここへ来るとき、焼ききった。」

の手がぴくぴくと動いたのを目に留めると、ヴォルデモートはにやりとした。

「馬鹿な奴らだ。俺様が四年前に仲間に加わるように進めたのを断らなければ、

 長生きできたろうに。」


ヴォルデモートは気味の悪い筋くれだった手を伸ばし、彼女の顎をつかみ、自分の方へ向けさせた。


「可愛そうにな・・ 。お前のせいであの男は死んだのだよ。

 お前の色香に迷ったあいつにもっと平等に愛情をわけてやればよかったのにな。

 お前が狼人間ばかりかまうからだ。愛情とは愚かなものだ。

 これでよくわかったろう?」


はヴォルデモートの手を振り払い、絶望してしくしくと泣き出した。


「もう一度聞く。俺様のもとへ来るなら命とハリー・ポッターを助けてやろう。さもなければ、

 お前も、こいつも仲良くあの世に送ってやるぞ。さあ、どちらか選べ。

 俺様を選ぶか、死を選ぶか?」



「命が惜しいだろう?あの恋しい狼人間のもとへ帰りたいだろう?よく考えるんだな。」

ヴォルデモートは の耳元で誘惑するようにささやいた。


!何があってもこいつのもとへ行くな!!僕にかまうな!!

 ヴォルデモート、僕を殺せ。そしたら気が済むだろう?でも、彼女には手を出すな!」

ハリーは渾身の力を集めて立ち上がり、 の前に両手を広げて立ちふさがり、彼の視界からおおいかくした。

「本当に彼を助けてくれるの?」

今や疲労困憊と絶望のため、正常な判断が出来なくなった、 がぼんやりと言った。

「ダメだ!!何を言ってるんだ!!」

ハリーは絶叫した。


「ああ、約束しよう。俺様は約束は破らんよ。」ヴォルデモートはしてやったりとほくそえんだ。

「嘘だ!! 、絶対にダメだ!!」

ハリーは叫んだ。

「お前は取引できる立場じゃないぞ。ポッター。彼女が決めるんだ。」


ヴォルデモートは激しくハリーを突き飛ばした。

「いいわ・・もう私の手は血でべったりと汚れてしまったもの・・ハリー、次、会うときは

 私たち、敵同士ね。」


彼女は力なく微笑み、ヴォルデモートの差し出した手を取った。

「そうだ。それが賢明な選択だ。 。よく言った。

 今までの暴言は許してやろう。俺様を攻撃したこともな。」


「彼女は絶対に渡さない!力づくで連れて行くなら僕を殺すんだな!」

ハリーは起き上がり、 の腕をつかんで叫んだ。

「小僧、離せ!」

ヴォルデモートの手が彼の首を掴んだ!

「嫌だ、死んでも離すものか!!」

ハリーは苦しさにうめきながら彼の首を掴んだ。




「ウッ!」


ヴォルデモートが彼女を突き放した。ハリーは倒れてきた彼女の下敷きになった。


彼の背中を真っ直ぐに緑の閃光が突っ切った。

「グッ・・」

彼は体を真っ二つに折り曲げて床にくず折れた。




ハリー、 の視線の先には細い肩を怒らせたミナ・ブラドが、緑の炎に包まれた片手を握り締め、

圧倒的な憤怒に満ち溢れた表情で立っていた。




 


ブラック兄妹の無念の死・・そして、ミナ・ブラドは空しくヴォルデモートと対決するのだった。
これを書きながら涙が出てきました・・。ほんと悲しい。

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