は階段を二段飛ばしで駆け上り女の子達を起こさないように静かにドアを開け、ベッドに倒れこんだ。

「こんちくしょう!!何て下品な先生なんだろう!!」

羽根枕に顔を突っ伏し、彼女はスネイプをあらん限りの罵詈雑言で呪い、それでいくらか気を楽にさせた。

「まったく―――あの先生と顔を突き合わせればいつも嫌味ったっらしい口調での論争だ。いったい何なのよ!いくらシリウスとリーマスが嫌いだからと

 いってあそこまでコケにすることないじゃない!!ああ、もう考えたくない!あんな先生のことなんて!」

そういい終わると、 はかけぶとんを頭までひっかぶりうとうとと眠りの底についた。


折悪しく翌日はハリーの懲戒尋問の日だった。

は最悪な気分でベッドから起き上がると階下の大食堂に向かった。

「おはよう 。今日は遅かったね。昨日よく眠れなかったのかい?」

テーブルにはルーピン、シリウス、ロン、ハーマイオニ―、ジニ―がいて、旺盛な食欲でポリッジをかきこんでいた。


ルーピンが の眼の下にうっすらと隈が出来ているのに気づいて、慌てて舌が焼けるぐらい熱いジンジャー・ティーを入れてくれた。

「あ、ありがとございます。」

シシーは礼を言うと紅茶茶碗を受け取りカップに口をつけた。

彼女がポリッジに砂糖をかけてスプーンですくおうとしていると横からシリウスがベーコンエッグをひょいと受け皿に入れた。

「ありがとう」

「どうも」

がにこやかな笑顔を浮かべて礼を言うと、シリウスは照れくさいのか慌てて、飲みかけのコーヒーに口をつけ表情を押し隠した。

「ねえ、裁判ってさぁ終わるまで何時間ぐらいかかるんだろね?」

彼女はスプーンでポリッジをつつきまわしながら隣のハーマイオニ―に聞いた。

「う〜んそれは――分からないわね〜ウィ―ズリ―叔父さんは「大丈夫、すぐに終わるさ」っていってたけど・・・」

彼女はちょっと考えて答えた。

「心配すんなよ。ハリーのことだ。味方は多いからあっという間に終わって晴れ晴れとした顔で帰ってくるに決まってる!」


比較的二人より楽天的なロンはボウルからポリッジのおかわりを頂戴し、シロップをかけてせっせと口に運んでいた。

「ねえ 。朝食が済んだらシリウスがほら――ここんとこ掃除とかで忙しくて息抜きしてなかったでしょう。乗馬でもしないかっていってるの。

 もちろん行くわよね?姉さん。」

朝食を食べ終えたジニ―が(今朝はそばかすがいつも以上に目立っていた)斜め前の聞いてきた。

「え?あ、もちろん行くわ。でも乗馬やるスペースってあるの?」

は紅茶茶碗を受け皿に置くとシリウスに聞いた。

「心配ご無用。この屋敷の裏手にはちょっとした庭、昔は父がお気に入りだった狩猟場があるんだ。大丈夫。父が特殊な魔法を施したから、マグルはもちろんその他の危険なやからにも

 見られることはない。さて、皆食べ終わったようだから行くか?」

シリウスがガタリと椅子を引いて立ち上がるとロン、ハーマイオニ―、ジニ―は待ちきれんばかりにせかせかと椅子から滑り落ちると

彼の後に続いた。

「あ、先生。」

最後に残った はポケットから昨日スネイプから渡された例の薬を取り出した。

「ああ、薬だね。スネイプ先生から渡されたのかい?」

ルーピンはにっこりと微笑んで彼女の手から薬瓶を受け取った。

「ええ。先生はあの、よかったら私たちと一緒に乗馬しませんか?」

彼女は思い切って言ってみた。

「OK!一応今日はフリーだ。じゃあお言葉に甘えてご一緒させてもらいますよ」

ルーピンはサッと彼女を抱きしめて言った。

久しぶりに彼の体温を感じることが出来た彼女はたちまち頬に赤みがさした。





「栗毛の雌馬。こいつは のとこの御者が預けてる馬だな?」

「ええ、そうよ。」

「じゃあ、 はこいつで決まりだ。」

ブラック家所有の馬小屋で現当主、シリウスは馬の毛並み、それから巧みに頭を押さえて歯を調べた。

「良い馬だな。毛はつやつやしてるし、健康状態も最高だ。」

「ああ、でもシリウスが預けてる間世話してくれたのでしょう?ありがとう。こんなに毛も梳いてくれて」

は馬の光沢のある毛にさっと手を走らせた。

「で、私はどの馬にすればいいのかな?」

「リーマス!何だ?今日はお前もしかして1日フリーか?」

ぴっちりとした仕立ての乗馬服に身を固めて現れたルーピンに嬉しそうにシリウスは叫んだ。

「ああ、パッドフット。適当に選んでくれよ」

ルーピンはにっこりと微笑んだ。



「よし、全員乗ったな?」

「待って!ハーマイオニ―がまだ乗れてないわ!!」

が叫んだ。

見ると彼女は背の高い馬に悪戦苦闘してよじ登ろうとしていた。

「馬のたてがみをしっかりつかんで乗るんだ!そいつはおとなしい馬だ。君が乗れるまでじっと待っていてくれるから!」

シリウスが叫んだ。

「ダメだわ!届かない!!」

ハーマイオニ―が悲鳴を上げた。

結局、ルーピンが彼女のところに行き、「もう少し、よじ登って!!」と声をかけながら登る手助けをしてやった。

シリウスは男性用の十六ハンドの背丈のあるとても大きな黒毛の去勢馬に乗って、一行の先頭に立った。

「はじめはゆっくりと。慣れてきたらトロット(速歩)を馬に命じるんだ。」

ジニ―、ロンはこれまでにヒッポグリフに乗ったことがなかったので、ルーピンが傍についてあれやこれやと(特にジニ―に)

乗り方やお辞儀の仕方を教えていた。

「いいよ。ジニ―。ロンも。そうそうしっかりとたてがみをつかんでね」





一方――――――

「シリウス、手綱はこれでいい?」

「まだまだ!もっと脇を閉めるんだ!!」

ハーマイオニ―、 はシリウスと共に馬を並べ広い放牧場を駈けていた。

「ああ、サイッコーの気分だわ!!ここんとこ新鮮な空気を吸ってないんですもの!!」

「そうか!じゃあ、思いっきり楽しめよ!!」

シリウスは黒馬を の栗毛の馬の傍に寄せ、吼えるような笑い声を上げた。

彼は彼女と馬首を並べながら(よくあいつ(エイミー)ともこうやって禁じられた森を走ったよな)と思い返した。

「シリウス!その馬とてもかっこいいわね?ねえ、今度乗ってみても良い?」

だんだん調子の出てきた二人はハーマイオニ―そっちのけで馬の首を軽くたたいて軽快に芝生を駆った。

「君一人だけでは危ないだろうな?こいつはもともと暴れ馬だし、馬丁が調教するまでずいぶん長いこと時間がかかったんだ。

 まあ、私がついてる時なら乗ってもOKだ。」

シリウスはにやりと笑った。

「そうだ!競争しないか?君は乗馬の初心者じゃないだろう?俺もそうさ」

彼はふと思いついて言ってみた。

「そうね、名案だわ。じゃああそこの柵まで!」 はにやりとした。

その言葉を言い終わるか終わらないうちに二人は馬首をそろえ、ほとんど同時にいきなり馬を走らせた。


「ちょっと、二人とも!ああん、もう行っちゃった!!」

「どうしたんだい?」

「先生、シリウスと ったら競争するとか言って駈けていっちゃって・・・」

ハーマイオニ―は半ば呆れ顔でもうもうと昇る土ぼこりを手で振り払いながら、後からのんびりと鹿毛のサラブレッドにまたがってやってきたルーピンに言った。


「まあいいさ。シリウスと は最近屋敷に缶詰にされてることが多かっただろう?開放の時だよ」

ルーピンはにっこりと笑ってハーマイオニ―の肩を軽ーく叩いた。


 




「あ〜負けたわ。完敗ね。」

「何を言うか。君もたいした手並みだった。」

乗馬で気持ちのいい汗を流したメンバーは今、台所にいて冷たいレモネードをのどに流し込んでいた。



「無罪だ!!皆喜べ!無罪放免だ!」

バーンと厨房の扉が勢い良く開かれウィ―ズリ―氏がハリーと共に入ってきた。

「ホーメン、ホーメン、ホッホーホ〜〜〜」

ウィ―ズリ―おばさんはエプロンで顔をぬぐい、ハーマイオニ―、 は嬉しさのあまりかわるがわる彼に抱きついた。

「ホーメン、ホーメン、ホッホーホ〜〜〜」

いつのまにか午前、午後中屋敷にいなかったフレッド&ジョージが加わり、ジニ―と共にインディアンの戦いの叫びをあげながら踊っていた。

「ちょいと静かにしてくれんかね?」

ウィ―ズリ―叔父さんは怒鳴りながらも笑っていた。

「ホーメン、ホーメン、ホッホーホ〜〜〜」


「いいかげんになさい!三人とも!それでアーサー、皆と一緒にお食事は出来ないの?」

「ああ、すまないね。モリ―。逆流トイレの件があるんだ。行かないと」

ウィ―ズリ―叔父さんはそう言うと慌しく厨房を出ていった。


数分後、夕食の席で―――――

「ぼかぁ大丈夫だと思ったね。ダンブルドアが弁護してくれたんだろう?鬼に金棒さ」

ロンがマッシュポテトと口いっぱいにほおばりながら言った。

「フレッド&ジョージ。今までどこに行ってたの?」

が前菜を口にしながら聞いた。

「悪いがおふくろが目の前にいるから詳しいことは教えられないんだ。な〜にちょっと秘密の買い物にね」

フレッドは耳元でぼそぼそとつぶやくと、いたずらっぽくウィンクして見せた。

「俺の部屋に来たらすべて教えてやるよ」

ジョージがにやにやしながら言った。

「まあ、兄さんったら!」

ジニ―が顔を真っ赤にして言った。

「無罪万歳。これでまた一緒に学校に戻れるわね。」

が軽く親しみをこめて彼の手を叩いた。

「あ、ありがと僕も嬉しいよ」

とたんに彼は真っ赤になってしまい、フォークをガチャンと皿の上に取り落としてしまった。

ロンはにやりとし、ハーマイオニ―はくすくすとそのほほえましい光景を見守った。

「よし、じゃあもう一回行こう!せーの、ホーメン、ホーメン、ホッホーホー!!」

フレッド&ジニ―&ジョージが景気付けにバタービールを取り上げ大声で連呼した。

「もう、あんた達!いいかんげんにお黙りなさい!!」

ウィ―ズリ―叔母さんの雷が落っこちた。

「うへぇ・・・」



数日後―――――

ハリー、 はグリモールド・プレイスに自分達が帰ることを心底喜んでいない人間がいることに気づき始めた。

シリウスは確かにあの晩、ハリーが無罪放免になったことをたいそう喜んではいた。が、しかし、彼はまもなく以前よりも塞ぎ込み、

不機嫌になり、ハリーや とさえもあんまり話さなくなった。

そして、母親が昔使っていた部屋にますます長い時間バックビークと共に閉じこもった。

二人はその様子に大変心を痛め、「どうしたらいいんだろう」と額を突き合わせた。

ハーマイオニ―に言わせれば単に「シリウスは我侭だ」という結論だったが、二人はロン同様「シリウスはずっと長い間この屋敷に

一人ぼっちだったんだ―だからまた二人がいなくなってしまうのが嫌なんだ」と思っていた。

たった一人の妹のジェーンも兄の行動に心を痛めている一人だった。

「お兄さん。塞ぎ込んでばかりじゃよくないわ。ねえ、二人と――」

「頼む、ジェーン。今は一人にしてくれ!」

部屋に妹が入ってきてもこんな調子で追い返されてしまった。






   


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