深夜、頭痛がとりあえず引き、まだ少し熱っぽくて顔が紅潮している はナイトガウンをしっかり着込み

談話室に下りていった。


談話室は暗くてガランとしていた。寮生は誰もいない。

ハリーもまだ来ていない。

彼女はドサッと近くのクリーム色のカウチに腰掛けて、ボーッと暖炉で赤々と燃え盛る火を見つめていた。

眠い・・・さっき飲んだ頭痛薬が効いてきたのだろうか?とてつもない眠気が急激に彼女を襲った。

いけない・・眠ってはいけないのに・・・シリウスがもうすぐ来るのに・・・・



暖炉のすぐ脇の壁に取り付けてあるペットメイトドア(動物専用の自由に出入り出来る小さなドア)

が音を立てて開いた。


中からクルックシャンクス、の猫、続いて黒犬が這い出してきた。

黒犬は辺りをキョロキョロ見回し、 しかいないのを確認するとボンッと変身を解いた。

「ありがとな。君らがこの入り口を案内してくれたことに感謝するよ」

人間の姿に戻ったシリウスは二匹の猫の頭を軽く撫ぜた。



「さてと・・ハリーはまだみたいだな。 ?」

彼女はスース―寝息を立てて、カウチに深くもたれかかり眠り込んでいる。

「せっかくだから、起こさないでおくか・・」

シリウスはフッと微笑むと、 の隣りにドサッと腰を下ろした。

「そういや・・ロンドンの屋敷でもこんなふうに君の寝顔を見てたな・・・」

シリウスは額にしなだれかかる の髪を指で弄びながら呟いた。

「リーマスどこにいるのよ・・薄情者!」

が眉をぎゅっとよせ、ぼそぼそと寝言をしゃべった。

シリウスは戸惑ったような傷ついたような表情をしたが、そっと彼女の左肩に手を回し、グッと自分のもとへと引き寄せた。

「リーマス、やはりあいつか・・・」

シリウスは自分の左肩でスース―寝息を立てている彼女をちらりと見て、寂しそうに囁いた。





10分後、 は誰かが側にいるのを感じて、ふっと目を覚ました。

シリウスが彼女の頭を抱えて、左肩にもたれかけさせている。

「な、な、何やってるんですか!?」

彼女はびっくり仰天、顔を真っ赤にして、慌ててシリウスから身をよじって離れた。


「いや、あんまり気持ちよさそうに眠ってるからつい・・肩を貸したくなった」

シリウスはにんまりとしてやったりという顔で言った。

「あの・・ハリーはまだ来てないんですよね?」

は辺りを見回して彼に聞いた。

「ああ・・そのようだな。でもちょうどよかった。君と二人きりでこうやって話しが出来る。」

彼はにんまりと笑うと、開いている小型の椅子をひっぱってきて、 の正面にすえた。

「さて・・」シリウスは椅子に浅く腰を下ろすと、あごに手をあててじっと考え込んだ。

「何?何考えてるんですか?」

は何だか真剣な顔をした彼がおかしくてクスクスと笑ってしまった。


「うーーん、ほんとうは6月に渡そうと思ってたんだが・・・どうだろうな・・五ヶ月も遅れて渡すなんて・・」

シリウスはローブのポケットから小さな箱を取り出した。

「はい・・六月六日・・誕生日おめでとう!」

彼は、はにかみながら、彼女にそっとスカイブルーの正方形の箱を差し出した。


「あ、ありがとう!」

は何故自分の誕生日を知っているのかという疑問をぬかして、あまりに唐突なプレゼントに感激して礼を言った。

彼女は目を輝かせて「今開けてもいい?」と甘えた声で聞いた。

シリウスは嬉しそうに頷いた。

は箱を開けてみた。

「すごく綺麗だわ・・」

の表情がいっきに緩んだ。

彼女は指でちっちゃな、真中に小粒の真珠と両端に同類の黒真珠が二つついているアンクレットを摘み上げた。

「これ真珠よね?私の誕生石」

はシリウスを見上げて聞いた。

「ああ・・そうだ」

シリウスは喜びに満ちた彼女の顔を嬉しそうに見つめた。


「つけてみていいかしら?」

彼女は微笑んで、右手首にアンクレットを通した。

それは大きすぎてストーンと右手首から滑り落ちた。

「ちょっと大きいみたい・・」

彼女は恥ずかしそうに笑った。

「それブレスレットじゃないよ」

彼は可笑しそうに笑うと、椅子から立ち上がり、 の手からアンクレットを取り上げた。


そしてサッと彼女の足元にしゃがみこんだ。

「やだ、何するの?」


はハッと彼の行動に気づき、座ったまま慌てて彼の腕を掴んだ。

シリウスはそれを振りほどくと、「ちょっと失礼」といって、 のガウンの裾を数センチほど上げ、

左足首にアンクレットを素早く取り付けた。



「ア、アンクレットだったんだ・・私ったら・・」

は真っ赤に火照っている顔でぎこちなく言った。

シリウスは片膝を床につき、 の両手をそっと握りしめた。


「私は君が好きだ」


の目が一気に普段の二倍にも開かれた。彼女の中で全ての時間が止まったようだった。

「こんなこというの・・実は凄く苦手だ・・でも、言わなきゃ君はこのまま私の気持ちに気づいてくれないだろう

 と思った。」


シリウスは に負けないぐらい真っ赤になって言った。


「そ、そんな・・信じられません。私、あなたが今までそんなふうに私を見てたなんて・・・」

はとまどいながら、彼の手から自分の両手をさっと引き抜いた。

「俺を見てくれ」

カウチから立ち上がろうとする をシリウスは強い力で押し戻した。

彼は彼女の両肩をしっかりと掴んで、熱心に語りかけた。


「君がリーマスを好きなのは知っている、でもそれ以外は目に入らないのか?」

「他の男にはチャンスもくれないのか?」

彼は の澄み切ったブラウンアイを悲しそうに覗き込んだ。


彼は髪を短く切り、顔も前より健康そうになって、彼女の持っているアルバムの中の写真に近かった。

とてもハンサムだし、髪も目も活き活きと輝いている。

「ゴメンナサイ・・」

彼女はスッと顔を背け、シリウスの腕を振り解くとカウチを立ち、おおまた歩いていき、談話室のドアを乱暴に開けると、女子寮の

階段を駆け上がってしまった。


「おい・・ !」

シリウスは追いかけたかったが、出来なかった。

あまりにも無謀な賭けだった。いまだ指名手配中の彼が、亡き女性にそっくりな彼女に思いを告げるなど。

だけど、リーマスには負けたくない。彼に先を越されたくない。

そんな思いからついつい、後先考えず口走ってしまった。



「シリウス!?元気だった?あの・・今 が出て行ったんだけど・・」


談話室の扉が開いて彼女と入れ違いにハリーが顔をパッと輝かせて入ってきた。


「ハリー、ああ、ハリーか。遅かったな」

シリウスは慌てて笑顔を取り繕った。


「後で彼女にこれから君にいうことを伝えといてくれるか?」

シリウスはハリーに言った。


「いいけど・・でも何で彼女出ていったの?」

ハリーは不思議そうに聞いた。

「悪いが時間がないんだ。ここにあまり長くいれない。すまないな・・まず・・君から君は最近どうだね?」

シリウスは先ほどあったことを答えずに、ハリーに尋ねた。



次の日、ハリーはハーマイオニ―、 を引っ張って校庭に出た。

湖のほうへぶらぶらと歩きながら、ハリーは二人にシリウスの言ったこと、

ハグリッドが最初の課題用のドラゴンを真夜中に見せてくれたことなどを全て話して聞かせた。

「デス・イーターの活動が、最近活発になっているんですって?」

は少し恐怖を覚えながら聞いた。

「それから、シリウスがカルカロフを警戒しろって・・」

ハリーは湖にポーンと石を投げ込んだ。

「何で?あのダームストラングの校長を警戒する必要があるの?」

ハーマイオニ―が不思議そうに聞いた。

「あいつはデス・イーターだったんだ。ムーディが逮捕してアズカバンに送ったけど、魔法省と取引して

 釈放された。シリウスはそいつがゴブレットに僕らの名前を入れたんじゃないかって言ってる。

 彼が僕らを殺そうとしているらしい。」

ハリーは深刻な顔で言った。

ハーマイオニ―と はあまりの話に驚いたが、ハーマイオニ―はカルカロフより、ドラゴンのほうがより緊急の問題

だと即座に意見した。

「とにかくーこれはこれ、それはそれ。二人が火曜日の夜も生きているようにしましょう。

 カルカロフのことはにの次よ。」

ハーマイオニ―は二人を何とかして助けたいという必死の面持ちだった。

三人はそれから図書館にこもって、ドラゴンを出し抜く方法を書いた本をかたっぱしから引っ張り出し、読み漁っていた。

「ここ見てよ・・ドラゴンを殺すのは極めて難しい。古代の魔法がドラゴンの厚い皮に浸透しちゃって

 最強の呪文以外は、どんな呪文も受け付けなくなったって・・・」だけど、シリウスは簡単な呪文が効くって言ったわね」ハーマイオニ―が憂鬱そうに言った。

「ああ・・その話の途中でロンが談話室にぶらっと降りてこなきゃ何の呪文が聞けたのにな」

ハリーはむすっとして言った。

「何で降りてきたのよ?」

が呪文集に目を通しながら彼に尋ねた。

「さあ、こそこそかぎまわってやろうと思ったんだろう。嫌な奴だよ」

ハリ―は乱暴にバタンと本を閉じると本棚へ戻しに行った。


「自分自身に魔法をかけるっていうのは?自分にもっと力を与えるのよ」

がふと思いついて言ってみた。

「すごく難しいと思うわよ・・私O・W・Lの模擬試験をやってみたからわかるんだけど・・それに載ってるって

 ことは私達まだ授業で習ってないし・・」


ハーマイオニ―が残念そうに言った。


「ああ・・嫌だビクトール・クラムだわ。どうして自分のボロ船で読書しないのかしら?

 あの人がここにいるとあの人のファン・クラブが・・ああ、来た・・・」

ハーマイオニ―が嫌そうに後ろを振り返って言った。


ビクトール・クラムがむっつりと三人を見て、本の山と一緒に席につくところだった。

その更に後ろには女子学生の一団がクスクス忍び笑いしながら彼の様子を本棚の影から伺っていた。


その後、ハリーは防衛術の授業終了後、ムーディに呼ばれ、二つドラゴンを出し抜くヒント(ヒントと言えるかどうか疑問だが)をもらった。

はムーディに声をかけられる前に素早く教室から走り去ってしまった)


「ハーマイオニ―、ちょっと助けて欲しいんだ」

ハリーはムーディに礼を言うと、教室の外で待機していた彼女に声をかけた。

「ハリー、もちろんいいわよ。何かいい方法が見つかったのね!!」

ハーマイオニ―は喜んで言った。

「あれ?ところで は??」

ハリーは彼女がいなくなっていることに気づいた。

「さあ、何か用事があるって急いで駆けていっちゃったわ。」

ハーマイオニ―はわけがわからないわと言う顔をした。

「ふーん、そう?何か には謎が多いよね」

ハリーは言った。

「あ、それとは別に「呼び寄せ呪文」をちゃんと覚えなきゃならないんだ。明日の午後までにね」





はその頃ぼろぼろに擦り切れた「仙人の召還術―4000」と言う古代中国の呪文書を持ち出し、「禁じられた森」

に通じる吹き抜けの寒い廊下(去年ルーピンとここで話した)を駆け抜けていた。

彼女の後ろからはヒョコヒョコと愛猫がついてきた。


「召還術その10、青竜または黒竜の召還。

 あ〜ダメだ青竜は誰でも呼び寄せるもんじゃないわ。限られた上級の仙人しか呼び出せない。

 なになに〜青竜は神に仕えし神聖な生き物で俗人が呼び出せるものではない。

 だが、安心するがよい―下級の仙人でも呼び出せるのに最適な竜が存在する。

 それは闇に潜む―黒竜。これは自ずからの憎しみの感情が最も高まり、そして強力な魔力と

 ドッキングした時、どこからでも現れる。

 これは言うならば闇の魔術の一つであり、使用するには幾つか注意が必要である。

 気を抜くな。決して竜から目を離してはいけない。

 黒竜は気まぐれであり、いつ召還した者自身に牙を剥くか分からない

 からだ。

 そうならないためには強力な魔力を放出しつづけそれを餌に、黒竜を自分に服従させておくことである」


は本を読み終わると溜息をついた。

こんな大それた難しい呪文、自分に出来るのだろうか?


横ではがフンフン鼻を鳴らしながら、コオロギを追っかけていた。


「でもやるしかない・・あ〜これしかドラゴンを出し抜ける方法ー思いつかないんだから〜〜」

彼女は再び本を開け、どんな呪文を唱えるか記述箇所を読んだ。

「え〜呪文は中国語で唱えなきゃ・・・いけないんだろうね・・中国語で書かれてんだから・・ハ〜〜」

それから杖を取り出し、まず呪文を中国語で正しく発音する練習から始めた。


    
それから彼女は幾日も幾日もかけてこっそりと「禁じられた森」の一番奥の目立たない場所で

黒竜召還の呪文を練習した。

ハリー、ハーマイオニ―は授業終了後や休みの日彼女がどこへ抜け出していくのか聞いてきたが、

は頑として言わなかった。

召還術の練習はただでさえ気まぐれな竜を扱うので、それだけで手一杯なのでハリー達が来たら

竜が興奮して暴走するのじゃないか――とにかくこの黒竜が服従する相手は自分しかいないと

教え込まなければいけなかった。



チャトランは彼女の練習の時はいつも後をついてきて追い返してもまた戻ってきた。

この猫はどこまでも彼女に忠実で、ある日など黒竜が吐いた黄緑色の炎から彼女を護って、

軽い火傷をしてしまった。



最終日―黒竜の召還は何と三日目で出来たのだが、まだ竜は気まぐれで彼女の命令を無視することもあった。

「もう、しっかりしてよ!今日半日しかないんだからね!」

は地面からボオッと黒く燃え盛る炎に包まれて出てきた黒竜を怒鳴りつけた。



一方こちらは空き教室―ハリー、ハーマイオニ―が一緒に「呼び寄せ呪文」の練習をしていた。




「アクシオ!辞書よ来い!」

「ハリー、あなた出来たわよ!!」

ハーマイオニ―が大喜びで手を叩いていた。

「明日上手くいけばいいわね!」

ハーマイオニーが杖をしまいながら言った。

彼は最終日―最後の一時間でやっと「呼び寄せ呪文」のコツをつかんだのだった。


呼び寄せたものをざっと上げると、本、羽ペン、逆さまになった椅子数脚、トレバー、古いゴブストーンゲーム一式などなど。

「ファイア・ボルトはここにあるものよりずっと遠いところに―城の中に。

 僕は競技場にいる」

ハリーは心配そうに言った。

「大丈夫―本当に集中すれば―ファイア・ボルトは飛んでくるわ」

ハーマイオニ―がきっぱりと言った。



もきっと今ごろ練習しているわ・・最近姿を見かけないのはそのせいよ。」

ハーマイオニ―は元気づけるようにハリーに言った。
     
「そうだね・・僕も元気ださなきゃ」

彼はその言葉におおいに勇気づけられた。




 

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