「あなたが好きだからよ!!」

チョウが放った思いがけない言葉の一矢はハリーを酷く狼狽させた。

「チョ、チョウ・・?」

ハリーは次の言葉が見つからず、戸惑っている。

「そう・・ずっと私はあなたが好きだったの・・・。」

彼女は必死に声を振り絞ってさっきの続きを言い始めた。

「ずっと・・遠くから指をくわえて見ているだけだったわ。だって、声をかけたくてもあなたの側にはーーー

 いつも がいたんですもの!!あなたたちの間には私が入り込めない強い絆が存在してたわ!

 私ーくやしくて・・ダンス・パーティの時、あなたを誘うと思ったらーあなたはもう先に彼女を誘ってた。

 セドリックのこと?彼のことは何とも思ってないわ。向こうから一方的に誘ってきただけなの!」


「ねえ、私とはつきあえないの?やっぱり じゃなければだめなの?ここまで言ったのだから

 答えて、ねえ?」


チョウは恥も外聞もかなぐり捨てて、ハリーに詰め寄った。



「悪い・・だめなんだ。彼女じゃなきゃ駄目なんだ。ゴメン・・。」


しばらくして気を落ち着けてからハリーは静かに言い放った。


今や店中のカップルが二人の行く末に注目していた。



「どうして??だって彼女にはーーもう付き合っている人がいるん・・あっ!!」


そう気も狂わんばかりに言ってしまってから、チョウはしまった!と顔をしかめ、慌てて両手でぱっと口をおおった。


「どこでそんな情報を仕入れたかは知らないけどーー」


ハリーはそのことにしばし動揺していたが、真っ赤になって、泣きそうな顔で床を見つめている彼女にやさしくなだめるように話しかけた。


「僕は彼女のことをあきらめきれないんだ・・。この気持ちはこの先もかわらないし・・

 君にはー僕がどれだけ彼女が好きかわからないよ。」


これだけいうとハリーは「じゃ、さよなら」と言ってテーブルの上に二ガリオンを投げて、急いで店を出て行った。


あとに残されたチョウは飲み残しの冷たいコーヒーをぐっと一気に喉に流し込んだ。


「どうして??そんなのあなたが傷つくだけじゃない・・どうして・・そんな結果を選ぶの??私にもチャンスをくれてもいいでしょう!!」

彼女の眼から一筋の涙が伝って、鼻の上を滑り落ちた。彼女の心の中でその叫びは空しく響いた。



ところ変わってー通りの向こうでは と伯母が楽しそうに歓談していた。


「ねえ、あなたー将来の職業とか考えてる?」

フェリシティーはテーブルの上に手を出し、 の手に重ね合わせながら言った。

「いいえ。まだ何も。どうしても見つからない場合は郵便局で働きながらいい職を探すつもりです。」

彼女は食後のコーヒーをすすりながら軽く答えた。

「あらぁ〜そう?まあ^^もったいないわねぇ・・・あなたほど魅力的な子が郵便局だなんて・・・」

フェリシティーはその答えにがっくりして酷く残念そうな声を出した。

「ねえぇ〜まだ何も決まってないのなら・・・一度考えてくれないかしら?」

そう彼女は甘ったるい声で言うと、ごそごそとバックの中をかきまわし、小さな羊皮紙を引っ張り出してきた。

「何ですか?これ?」

は何だかわけがわからずに、羊皮紙を受け取って内容に目を通し始めた。


「ディアヌ・クラウン・レコードから正式にあなたを歌手としてスカウトするわ。」

フェリシティーはにやりとして言った。

「えええっ?何ですって!?」

はすっとんきょうな声を上げた。

「ムーディから聞いてずっとスカウトしたいなって思ってたの。あなたはまれに見る美声の持ち主だとか。

 授業で歌ったそうね?ルーマニア国歌を。」

フェリシティーは姪の慌てふためいた様子にくすくすと笑いながら言った。


「今度のこの日時に新人歌手選抜があるの。ちょっとでも興味を持ったら来ていただいたらいいわ。」

フェリシティーの目がきらりと光った。

「もちろん、今すぐ慌てて決めなくてもいいのよ。嫌だったら遠慮なく断ってちょうだい。でも、考えてみてくれないかなぁ〜

 あなたほどの類まれなる才能の持ち主をほおっておくのはーもったいないわ。」

フェリシティーは腕を組み、 の顔を探るような目つきでうかがっていた。


「じゃ、私はこれで。悪いけどこの後,魔法省に行かなくちゃ行けないの。私の現在のお仕事はレコード社の会長と、スパイの二役。

 けっこう忙しいけど充実してるわ。それじゃ。」


そしてフェリシティーは唖然としている に手を振って、立ち去った。





数分後、 はハリーとハーマイオニーとの約束どおり、三本の箒に居た。


飲み仲間としてルーナ、それに誰あろう とハーマイオニーが世界で一番気に入らない、元日刊預言者新聞の記者、リータ・スキータ女史が

同席していた。


「んまあぁ! 、ハリー!元気にしてたざんすか?」


リータは早速、目を輝かせ、コガネムシを見つけたガチョウのように二人に食らいついてきた。

リータは去年、ハーマイオニーの壮絶なる復讐劇によって、被害を被った張本人だった。(しかも失業中の身である)


「二人は今日はーデートざんすか?まあぁ・・素敵ざんす!!!」


リータは勝手にそう決めつけ、ごそごそと鰐皮バッグから黄緑色の速記用羽ペンを取り出そうとした。

「ちょっとお待ちなさい!今日はそんなことを書かすためにあなたを呼んだんじゃないのよ!」

ハーマイオニーがすかさず嘴を入れてきた。

「君達、いったい何をするつもりなんだい?僕らー何も聞いてないよ。」

ハリーは不思議そうにルーナ、ハーマイオニーの顔を見つめながら聞いた。

「そうよ。何をするかまだ聞いてないわ。」

も言った。

「ミス優等生がそれをちょうど話そうとしていたところに君達が到着したわけよ」

リータが横から嗄れ声で説明した。

「もちろん、こちらの二方とお話できるんざんすねぇ?」

リータは意地悪くハーマイオニーに聞いた。


「ええ、そうよ。」

彼女は冷たく答えた。




「じゃ、さっきの続きをーー二人はこれが初めてのデート?それともーー」

「これ以上、余計なことに口を突っ込まないで頂戴!取引はなしにしますからね。」

ハーマイオニーがぴしゃりと言った。

「何の取引ざんしょ?まだ取引の話なんかしてないね。あたしゃ、ただ顔を出せといわれただけで。」

リータは口を塞がれてううっと低くうなった。


「あなたはただ真実の記事を、今からハリー、 が供述するとおりに書いてくれればいいのよ。隠れデス・イーターの名前も、例のあの人のことも」

ハーマイオニーはなかば軽蔑したように言った。


「なんるほど・・つまり、こういうことざんすね。魔法大臣および、巷の日刊預言者新聞は去年、この二人が見聞きした真実の数々を全て否定した。

 だが、二人はそれにもめげず、いまだ例のあの人が戻ってきたと言い張るわけだ。」


リータはそこでぐびりとカクテルを取り上げ、気持ちよさそうに喉に流し込んだ。


「ダンブルドアが皆に触れ回っている戯言を・・例のあの人が戻ったとかーー君達が唯一の目撃者とか。君達も言い張るざんすね?」


「そうよ。そのとおり。」

「もっともその場には僕達以外に、デス・イーターが十人いた。名前を言ってもいいよ。」

、ハリーは椅子から身を乗り出して答えていた。


「ハリー・ポッター、 の二名は身近に潜伏するデス・イーターの名前をすっぱぬく・・・云々・・」


リータは恍惚とした表情でハーマイオニーに早速即席で仕上げた「こんな見出しはどうざんしょ?」とお伺いを立てていた。


「そうね。それで結構よ。」

ハーマイオニーは黙ってリータの一言、一言を聞き、しばらくして首を縦に振った。



「だけどーこ〜んな記事をどこへ載せるんざんすかぁ?まーさか、日刊預言者新聞じゃありゃしないだろうねぇ?」


フンと馬鹿にしたように笑い、リータはもう一杯カクテルをすすった。

「預言者はそんなもの活字にしないよ。お気づきでないとしたら一応、申し上げますがね。大衆の風潮に反するんだ。

 そんなもんは。二人がまともに見えたら面白くない、いや、誰も読みたがらないざんす。それにあの大馬鹿三太郎の

 ファッジが預言者に無言の圧力をかけているしねぇ。」


リータはこれで決まりといいたげににやりと笑った。


「あら!そ〜んなこと、とっくに分かってるわ。だからここにとっておきの人を連れてきたのよ。

 カードを読み違えたわね。まだチェック・メイトじゃないわよ。ミセス・スキーター。」


ハーマイオニーは「それは心外だわ」といいたげな口調で得意げにリータを打ち負かした。


「フン、世間知らずのお嬢さん。いったい預言者みたいな大きな新聞紙以外にどこに載せるんだね?まあ、察するところ

 あんたの考えているのはどっかのミニコミ誌にハリー、 の記事を載せてばらまくんだろう?

 小さなミニコミ誌なら、ファッジの圧力も気にせずにおおっぴらに出版できるってわけだ。な〜るほど

 こりゃあいいアイデアでございますざんしょ。」

リータは今度こそげらげらと大声で腹を抱えて笑った。


「違うわ。」

ここでさっきから一言も口を開かなかったルーナがリータの笑いを見事に引き裂いた。

「あたしのパパのところー「ザ・クィブラー」から出版するのよ。」


「こいつはとんでもなく愉快な話ざんすね!ザ・クィブラー??あたしゃぁ、あのぼろ雑誌を暖炉にくべて薪の代わりにするね!」

リータは鋭い目つきでルーナを覗き込み、ナイフのように尖った声で彼女を侮辱した。

「あちらさんとはもう、話し合いがついてるのよ。ルーナのパパ、つまり編集長は喜んで二人のインタビューを引き受けるって。」

ハーマイオニーはすかさずここで切り札を持ち出した。

「ザ・クィブラーねぇえ?二人の話があんなのに載ったらみ〜んな、さぞかし信用するだろうねぇ!」

リータはまだ笑いが止まらないらしかった。

「そうね、さぞかし皆、信用するわね〜」

ここでハーマイオニーは皮肉っぽくリータの口調を真似て言った。

「だけど預言者新聞の記事には幾つか大きな穴があるのよ。お気づき?何が起こったのかもっとましな説明が

 ないのか〜って不思議がってるひとも多いわよね?だから詳しい説明がーたとえ、ボロ雑誌だろうと載ってたら

 皆、喜んで飛びつくわね。」

リータはしばらく無言のままだった。

どうやら完全に勝負のつきはハーマイオニーにまわったらしい。



「よござんしょ。引き受けましょう。たーだしー、幾らお支払いいただけるざんしょ??」


リータはしばらく宙を見つめ、うんうん考え込んでいたが結論を出した。

「パパはー雑誌の寄稿者に支払いなんかしないよぉ。」

ルーナが調子っぱずれな声で告げた。

「皆、名誉だと思って寄稿するんだよ。それに、もちろん自分の名前が活字になるのを見たいからだよ」



リータは途端に「糞食らえ」と言いたげな顔になり、すかさずガチョウが嘴でつっつくようにハーマイオニーを攻撃した。

「ギャラなしで??冗談きついざんすねぇ。」

「いいえ!お支払いするわ。幾ら欲しいんですか?」

!?」皆、びっくりして椅子から飛び上がった。


この時、見事に静寂を破ったのは誰あろう、あの だった。


「まあ、まあ、まあ、ほんとざんすかーそうこなくちゃね。」


リータは「さすが、話がわかるね」と呟き、にやにやとした。


、ギャラはなしよ。ルーナの言ったこと聞いたでしょ??」

ハーマイオニーが咎める様に言った。

「聞いたわ。だけどお支払いするわ。これは個人的な気持ちからね。特別手当てがあったほうが、その素晴らしいペンもいっそう、

 作業がはかどるでしょう?」

はにやりとし、上目遣いにハーマイオニーを見上げた。


「そうときたら話は早い!お嬢さん、この額でどうざんすかね。」

「ええ、まあ、いいわ。お支払いいたしましょう。ところで口座番号は?」

「グリンゴッツ××××・・・」

金の話になると途端にゲンキンになったリータを一同、あっけにとられて見ていた。


「それじゃー契約成立ね!リータ、やってちょうだい。」

しばらくして、グラスの底からチェリーをつまみあげながらハーマイオニーが落ち着き払って言った。





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