翌朝、シリウスはぎしぎしとスプリングが軋むベッドの中で目覚めた。

昨晩、夜中の3時を回ってから床についたのにも関わらず、この数年来、こんなに爽やかな目覚めはなかったぐらいだった。

アズカバンの監獄では孤独で世間は冷たかったが、ここには愛しい とジェニファー、それにルーピン、ハリーがいる。

大きく息を吸い込むと彼はベッドから起き上がり、窓のところまで行って外を眺めた。

そこからは、スイカズラやシダレヤナギ、セイヨウヅタにありとあらゆる角度から覆われた、荒れ果てた庭が見渡せた。

クルックシャンクスと が花壇を飛び越して、物凄い勢いで追いかけっこをしている。

シリウスは物思いにふけりながら、口元にかすかに笑みをたたえ二匹の追いかけっこを面白そうに眺めていた。



コンコン!


ハリー、ロンの部屋がノックされた。

「お袋が起きろと言ってるぞ。朝食は厨房だ。それから客間に来いってさ。ドクシーの駆除だそうだ!」

ジョージがドアの外から大声で言った。




地下の大食堂に下りていくと 、シリウスそれにジェニファーが揃って、朝の一杯目のコーヒーを飲んでいた。

「おはよう、ハリー、ロン」

三人がテーブルから口々に挨拶した。

「おはよう。他の皆はもう朝食を食べ終わったの?」

から湯気の立つコーヒー・ポットを受け取りながらハリーが聞いた。

「ああ、ハーマイオニ―やモリ―はつい今しがた朝食を食べ終えて客間に向かったよ」

シリウスが妹に糖蜜の瓶を手渡しながら言った。


「どうぞ、二人共」ジェニファーがほかほかの焼きたてのバター付きパンをロンとハリーによこした。

「どぅもあんがとぅ。君、ほんとにシリウスに似てるね〜」

ロンがバター付きパンにがぶりとかじりつきながら言った。

「うん。特に目元がね。」

ハリーは幸せではちきれんばかりになっている名付け親に微笑みかけてから言った。

名付け親とその偽息子はこのまま時間が止まればいいのにと一瞬、思った。

その後ジェニファーは厨房の後片付けのために、そそくさと席を立った。


「ところで ・・その格好でドクシーの駆除を?」

一足お先に朝食を済ませて、階段を上る途中、シリウスがに彼女に話しかけてきた。

「そうよ・・ウィ―ズリ―おばさんがね。ひどく汚れるだろうからと言ってこの服をジニ―、ハーマイオニ―、私に

 貸してくれたの。やだ・・シリウス。そんなにじろじろ見ないで・・私そんなに酷い格好かしら?

 まあ、悪魔の化身みたいだけど」

彼女は恥ずかしそうに言った。今日の彼女は粗末な緑色のブラウスに、擦り切れた空の色の青いスカートをまとっていた。

「いいや」

彼は嬉しそうに彼女の頬に手をかけ言った。

「驚いてるんだ・・どんなボロで・・オッと失礼。言葉が悪かったな?例え、百姓娘の格好をしていても君の美しさは損なわれんと見える」

その言葉にポーッとみるみる頬を染めた にシリウスは満足そうに微笑むと、素早くこめかみにキスを与えた。


「早く行かないと皆待ってるぞ♪」

シリウスはボケ―ッとその場に立ち尽くしている に声をかけ、三階の自分の部屋へと駆け上っていった。

「おっどろきぃ〜」

後ろから遅れて上ってきたロンがピュ―ッと口笛を吹いた。

「あ、 、ゴメン、聞ぃちまったぜ」

ロンが悪びれずに言った。

「しかし知らなかったな〜シリウスは君に気があるんだ〜ああ、なるほどだから叫びの屋敷で、君を抱きしめ・・」

「ロン!」

が慌てて叫んだ。

大食堂の扉が開き、ハリーが階段を上がってきた。

「何?何の話?」

ハリーが何も知らずに二人の側に来た。

「いや・・何でもないよ・・何でも・・」

の一睨みにロンはこの驚くべきニュースを言いたそうにしていたが、とりあえずその場は黙った。


「ふ〜んそうなんだ。まあいいや行こう」

ハリーはたいして気にせず、二階の客間へと先頭だって上がっていった。


「あら、やっと来たわね。じゃあ三人共顔を覆って、スプレーを持って!」

客間に足を踏み入れると、ウィ―ズリ―夫人が真っ黒なスカーフをハリー、ロン、 に手渡した。

ジニー、ハーマイオニ―、フレッド&ジョージはもうとっくにスカーフで鼻と口を覆い、手に手に黒い液体の入った瓶を握り締めていた。

「ドクシー・キラーよ。こんなに酷くはびこっているのよ。あの屋敷しもべ妖精はいったい何をやってのやら・・・」

ウィ―ズリ―夫人の呟き声に、ハーマイオニ―はサッと咎めるような目を向けた。


「クリ―チャ―はとても歳を取ってるのよ。とうてい手が回らなくて・・」

ハーマイオニ―は横にきた にこっそりとこぼした。

「クリ―チャ―って?ああ、昨晩私達の寝室に無断で入ってきた不埒な輩のこと?」

がピンときて言った。

「そうよ・・でも・・まあ、昨晩のことは許してやりましょうよ。もう相当な歳だし、寝ぼけて入る寝室を間違えたのよ」

ハーマイオニ―が優しく言った。


「あんたって心の広い人なのね。ハーマイオニ―。私はとてもじゃないけどそこまで寛大に思えないわね。

 眠ったと思ったら、掛け布団をめくる生温かい手の感触で起こされたんだから!どんなに恐かったか分かる?」

は一気にまくしたてた。

「そうよねぇ、 が枕をクリ―チャ―の頭に思い切り叩きつけた音で目が覚めて、慌てて照明をつけたら

 間が抜けたもん。私はてっきり、 の寝顔をのぞきに男性の誰かが部屋に忍び込んだと思ったから。」

そういうとジニ―はぎろりと横目で男性陣を睨んだ。

「ほう・・奴はそんなうらやま・・いや、不埒なことをやったんだな?」

「シ、シリウス・・」

はびっくりして自分の頭の上から覗き込んだ彼に飛び上がりそうになった。

言葉をはき違えそうになったシリウスを疑念の目つきのジニ―、ハーマイオニ―の視線が注がれた。

「バックビークに餌をやっていたんだ」

シリウスはハーマイオニ―、ジニ―の視線から逃れ、ハリーの側へ来て言った。

「上にあるお母上様の寝室で飼ってるんでね。」

シリウスは肘掛け椅子に血に染まった袋を投げ出しながら言った。

「ちょうどよかったわ。シリウス。この文机に入ってるの真似妖怪だと思う?」

「どれどれ・・ああ、こいつは真似妖怪だと思うが・・念のため、マッド・アイにのぞいて貰った方がいい。」

昨晩の諍いを忘れていないせいか、二人の口調にはどこか刺が含まれていた。


それから玄関ホールの呼び鈴がけたたましい音を立てて鳴るのが聞こえ、シリウスは急いで客を迎えるために階下へと走っていった。

「さあ、みんな、気をつけるんですよ。ドクシーは歯に毒があるの。毒消しはここに一本用意してあるけどできれば誰も使わないように

 したいから」

ウィ―ズリ―夫人はカーテンのところまで歩いていき、皆に離れるようにいった。

「私が合図したら噴射よ。動けなくなったところをこのバケツに投げ入れてね。では用意ー噴射!!」

ウィ―ズリ―夫人がサー―ッとカーテンを引いた。


その次の瞬間、成虫のドクシーが一匹、カーテンから飛び出してきた。

一番近くにいたハリーがドクシー・キラーの黒い容器の噴射ノズルを引き、液を飛んできたドクシーに噴き付けた。


「フレッド、何やってるの?」



が振り返ると、彼が親指と人差し指でバタバタ暴れるドクシーを指でつまんでいた。

「ここだけの話、ズル休みスナックボックスの実験台につかうのさぁ」

フレッドは の耳元でひそひそとつぶやいた。

「ズル休みスナックボックスって何?」

ドクシーを起用に二匹まとめて仕留め、ハリーはフレッドの側に移動してこっそりと聞いた。

「病気にしてくれる菓子もろもろ。」

ジョージが横からにやっと顔を出して言った。

その時、がに股のクルックシャンクスが の足元をすりぬけていった。

「クルックシャンクス!もう、このややこしいときにぃ。ドクシーに噛み付かれたらどうするの!?」

は呆れたように言った。

「おっと!」バシン!!ボテッ!


「ナイスショット!」

ハリーがにやりとした。

「うぅわ〜血染めの袋でぶん殴っちゃたわ〜」

が顔をしかめながら肘掛け椅子に袋を戻した。

クルックシャンスの肩に、あわや留まろうとしたドクシーを彼女は近くにあった袋を頭に振り下ろしたのであった。

「油断すんなよ。来るぞ」

ジョージとフレッドがソファの影に二人を引っ張りこんだ。


カーテンのドクシー駆除に午前中まるまるかかった。

「こっちの飾り棚は午後にやっつけましょう」

「お昼にしましょうーここにいなさい。サンドイッチを持ってきますからね」

ウィ―ズリ―夫人はそういい残すと出て行った。


「マンダンガスがシリウスに何か話してる」

ハリーが手招きし、皆、いっせいに石段にかけより、玄関の石段を見下ろした。

「よく聞こえねェな・・」

フレッドが耳をそばだてた。

階下からまたもやマダム・ブラックの悲鳴が聞こえてきた。


「あのうるさい婆、なんとかなんねぇかな?あれのおかげで、ちくしょう!ますます聞こえにくいぜ」

ジョージがいまましそうに言い、扉を閉めかけたが、閉め切る前に屋敷僕妖精が部屋に入り込んできた。

僕妖精はハリーや他の連中にもまったく関心を示さない。

「罪人に・・いやらしい裏切り者。そのガキどもが奥様のお屋敷を荒らして。ああ、おかわいそうな大奥様。

 お屋敷をこいつらが荒らしに荒らして・・おお・・なんたる恥辱。穢れた血、狼人間、吸血鬼、裏切り者、泥棒めが」


クリ―チャ―を室内をうろつきまわり、小声でブツブツと言った。


「血を裏切る者のいやしいガキめ。」

クリ―チャ―はぎろりとフレッドを睨み、はっきりと聞き取れる声で言った。

「それに穢れた血め。ずうずうしく鉄面皮で立ちよって。おびただしい血にまみれた吸血鬼め。神聖なブラック家の寝台をアズカバン帰りや人狼と

 と共に汚している。」

「こいつ!!ハーマイオニ―や のことを!」ロン、フレッド&ジョージが怒りのあまり何か言おうとした。


「それ以上言うとぶっ叩くわよ!!」

それより先に、黙ってクリ―チャ―のブツブツを聞いていた彼女が、ついに切れて手を上げた。

「やめて! 。クリ―チャ―は何を言ってるか分かってないのよ!正気じゃないのよ!」

ハーマイオニ―が後ろから彼女を羽交い絞めにした。

「いいこと?私は、自分のことをあれこれ言われるのはもう慣れっこだけど、ハーマイオニ―やルーピン先生、シリウスのことを赤の他人に

 侮辱されのは我慢できない!今度、私の目の前でその言葉を言ったら・・・シリウスが何と言おうと引っ叩くわよ!!」


ハーマイオニ―が を羽交い絞めしながら後ろに下がらせていた。

彼女はその力にあらがいながらもきっぱりとクリ―チャ―に向けて言い放った。


「たいした癇癪だぜ。まったく。」

フレッドがあっぱれと言う顔で に話しかけた。

「やっこさん、えらく目ん玉が飛び出してだぜ。まさか他人にあそこまで言われるとは思わなかったんだろーな」

ジョージが言った。

「嫌な野郎だ。ハーマイオニ―。君は甘いよ。こいつはちゃーんと何を言ってるのか分かってるんだぜ」

ロンが彼女にとくとくと話していた。


「ここで何をしてるんだ?」

ちょうどその時扉が開き、シリウスが入ってきた。

「はい、ご主人様。見ての通り、てまえは掃除をしております。」

クリ―チャ―の顔がサッと一瞬にして変わり、馬鹿丁寧に頭を下げて、豚のような鼻を床に押し付けた。

「見え透いたことを」

シリウスが苦々しげに言った。

「ちゃんと立て!」

彼はクリ―チャ―の態度にイライラして言った。

「何がねらいだ?」

「てまえは掃除をしております。高貴なブラック家にお仕えするために―――」

しもべ妖精は同じことを繰り返した。

「そうかい。そのお前がお仕えなすってるブラック家は日に日にブラックになっている。汚らしい」

シリウスははき捨てるように言った。

「お前は掃除をしているふりをして必ず何かをくすねて自分の部屋に持っていくな。私達が捨ててしまわないように」

シリウスはぎろりと僕妖精を睨みつけた。

「とんでもございません。てまえはご主人様のお屋敷で、あるべき場所から何かを動かしたことはありません」

クリ―チャ―はそうきっぱりと言った。

「ならば今すぐ立ち去れーそれはここに置いてな」

シリウスは、隙をみて肘掛け椅子にの下に転がっていた、金のシガー・カッターをこっそりと腰布に入れて持ち去ろうとしている

クリ―チャーの首を後ろからひっつかんだ。

しもべ妖精はご主人様直々の命令にはとても逆らえないようだった。

シガー・カッターをポ―ンと床の上にほるとありったけの嫌悪感をこめてシリウスを見た。

そして、部屋を出るまで悪態をつきまくった。

「アズカバン帰りがクリ―チャーに命令する。ああ、お可愛そうな奥様・・・奥様はこんな奴は息子でないとおおせられたのに・・・

 なのに、戻ってきた・・・その上、世間では、奴は人殺しだと言う・・・」

「ブツブツ言いつづけろ!本当に人殺しになってやるぞ!!」

シリウスは僕妖精が出て行くとその背に向かって大声で怒鳴った。


がその声にびっくりしてヒッと飛び上がった。

「シリウス、クリ―チャ―は気が変なのよ・・」

ハーマイオニ―が弁護するように言った。

「あいつは長いこと独りでいすぎた。母の肖像画からの狂った命令を受け、独り言を言って。しかし、あいつはずっと前から、腐った嫌な・・・」

「ねえ、彼を自由にしてあげれば」

ハーマイオニ―が願いをこめて言った。

「それは出来んな。騎士団のことを知りすぎている」

シリウスはにべもなく言った。

それから彼はふと何かを思い出したかのように、壁のほうへ歩いていった。


ハリーも他の者もついていった。


ダークグリーンの色あせ、擦り切れたタペストリーが壁にかかっていた。


長年の湿気とドクシーが食い荒らした跡が見られたが、縫い取りをした金糸が家系図の広がりをいまだに輝かせていた。

時代は中世にまで遡り、家系図のてっぺんに大きな文字でこう書かれてあった。


高貴なる由緒正しきブラック家ー純血よ永遠なれ


「純血よ、永遠にか。どっかで聞いたことのあるセリフね〜ああ、あの憎たらしい金髪坊ちゃんが言ってたっけ。」

がフフンと鼻で馬鹿にしたように笑った。

「シリウスとあっ!妹さん、ジェニファーが載ってないよ!」

家系図の一番下を見ていたハリーが言った。


「どうやらジェニファーの枠は最初から作らなかったようだ。しかしながら私は―」


「おやさしいわが母君が、わたしが家出したあとに抹消してくださったようだ」

シリウスはタペストリーの小さな焼け焦げを指差した。

「家出したの?」

が聞いた。

「ああ、十六のころだ」

「もううんざりだった」

「どこに行ったの?」

ハリーが聞いた。

「君の父さんのところだ」


「君のおじいさん、おばあさんは本当によくしてくれた―私を二番目の息子のようにしてくれた。学校が休みになると、

 君の父さんのところでキャンプした。そして十七歳になると―独りで暮らし始めた。叔父のアルファードがかなりの金貨を

 残してくれててね。この叔父もそれが原因でここから抹消されているがねーまあ、とにかくそれ以来独りでやってきた。

 ただ日曜の昼食はいつもポッター家で歓迎された。それに家が近くだったので夕食はしょっちゅう、 の母親の家でね」


「だけど・・何故家出したの?」

ハリーがいぶかしそうに聞いた。

「なぜなら純血主義者の我が家を憎んでいたからだ。両親は狂信的な純血主義者だ。ブラック家が王族だと信じていた。愚かな弟は哀れにも両親の言うことを真に受けて・・

 こいつが弟だ」


シリウスは家系図の一番下を突き刺すように指差した。


「レギュラス・ブラック」





  





 











 

 

  










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