ブラド夫人が退院した翌日の午前中、せまりくるクリスマスに向けてハリー以外の皆は、クリスマスの飾りつけを

行った。

「ねえ、何でハリーは降りてこないのよ?」

は浮かれて上機嫌な、おまけにクリスマス・ソングまで歌い、にわかにはしゃいでいる彼の名付け親を

遠目で見ながら不思議そうに聞いた。

「それは・・・」

ジニーは、レープクーヘン(蜂蜜・香辛料ケーキ)の小さな包みをクリスマス・ツリーに飾りつけようと

していたところだったが、その手が途中でぴたりと止まってしまった。

「俺がかわりに話すよ。お袋に聞こえないようにな。」

すかさず、ジョージが理由を説明してくれた。

「俺たち、昨日、聖マンゴに親父の見舞いに行っただろ?そのときに俺とフレッドは何とかして親父が

 何であんな目にあったのか詳しく聞き出そうとしたんだ。だけど、親父はお袋と目配せして俺たちに

 どこにいたのか?何をしていたのかをはっきり言わないんだ。俺は親父がーー例のあの人から武器を護衛

 していたのかと質問するとだーーもういけない。俺たちとハリー、ロンはドアの外にほっぽり出されたわけさ。

 
 仕方ないのでー伸び耳を使って親父やお袋、トンクス、マッド・アイの話を盗み聞きしてやった。

 そしたら、例のあの人は蛇を偵察に送り込んだのだの、ダンブルドアがハリーのことを心配してるだの、

 それからマッド・アイが例のあの人の蛇頭の内側から、ハリーは事を見た。ハリーは例のあの人に取り付かれて

 るんじゃないか・・って話してたんだ。」


「そっからなんだ。ハリーの顔色が悪くなったのは。」フレッドとロンが続けて言った。

ウィーズリー夫人が今にもこの部屋に入ってこないか、常に戸口を警戒しながら皆はヒソヒソと話した。

「それじゃあ、ハリーは例のあの人が、自分に取り付いたかもしれないーそう、思ってるわけ?」

は驚いて、目を丸く梟のように見開いた。

「そう思ってるみたい。でも、私は彼はそんなことないと思うけど・・・。あたしは一回、

 例のあの人に取りつかれたでしょう?だからーーその時の状況がどんなのか分かるもの。

 彼の場合、長期の記憶喪失、つまり、例のあの人に操られて何かしてるときの記憶が

 全くないーー話じゃそんなことないでしょ?」

ジニーはなかなか明確にハリーの状況を分析してみせた。

「それにハリーは蛇がパパを襲う夢を見ていた時、ベッドから1インチも動かなかったぜ。そういう状況で

 どうやってハリーが蛇になって僕のパパを襲えると思う?彼は自分がパパを襲ったってすごく思ってるけど。」

ロンが納得がいかないぜという顔で、 に言った。

「私も、これはカンだけどーー彼があいつに取り付かれたとはとても思えないわ。ジニーやロンの言うとおり

 確たる証拠もないし。でもどうする?彼がこのままうじうじ考え込んで引き篭もって私達と顔をあわせなかった

 ら?」


は一刻も早く、このやっかいな状況を打開するすべはないかやきもきしていた。

「そうだなーーしばらくそっとしておくか・・・。今、俺たちが行っても出来ることはないだろう?

 それに俺たちがゴチャゴチャハリーに嘴を入れたら、よけいに落ち込むかもしれないからな。」

フレッドは楽天的に言ったが、顔の表情は少し曇っていた。




それからそこでハリーの話は打ち切り、皆はせっせとクリスマスツリーの飾り付けに戻った。

、ジニー手作りのモミの球果で作ったひょうきんな人形、赤いほっぺのりんごなども無事に

ツリーのあちこちに飾り付けられた。

その日の午後、 が案じていた事態の打開を、幸運な人物が行ってくれた。

ハーマイオニーは頬を高潮させ、額についた残雪を手で振り払いながら屋敷に突然、姿を現したのだった。

は会いたかったとばかりに、大喜びでハーマイオニーを抱きしめた。

それから、彼女はハリーのことを聞くと、自ら勇敢にも、彼が引き篭もっている三階の部屋を訪れ、

賢明にも上手く、ふさぎこんでいる彼を部屋の外に連れ出すことに成功したのだった。

その後、さらに二階の部屋でハリーに待ち構えていた、ジニー、ロン、 までが「君は(あなたは)例の人に

取り付かれていない。第一、確たる証拠がないじゃないか」とあの手、この手で彼をせっついて

納得させたのだった。



それはそうと、ハリーはあの悲惨な告白事件後、いつのまにか彼女とまた何も変わらずに自然に話が出来ることに

対して驚いていた。

確かにフラレたショックは多少、今の彼は引きずっていたが、それでもこうしてまた、ただ、仲の良い友達のよう

に接してくれる彼女が嬉しかったし、ますます彼女の寛容な性格にひかれていった。


夕方近く、上の階で、シリウスと が大声でクリスマス・ソングの替え歌を歌っているのが聞こえた。

「世の中のヒッポグリフよ忘れるな、クリスマスは〜♪」

彼女の綺麗なソプラノとシリウスのテナーの二重奏が、吹き抜けの屋敷に気持ちよく響いた。

ハリーは一緒に歌いたい気分だった。



はシリウスに頼まれて、馬の健康状態を調べに行く途中、納屋でルーピンに出会った。

「やあ、 !もうすぐクリスマスだね。今日この屋敷に着たらすごく綺麗になってたもんだから!」

ルーピンはそう朗らかに言うと、何の前触れもなく、いきなり彼女を抱き上げてぐるぐると回し始めた。

は嬉しい悲鳴を上げ、けらけらと大声で笑い続けた。

おおはしゃぎのルーピンは、いつもの冷静沈着な態度はどこへやらまるで子供のようだった。


寒空に二人の楽しい暖かな笑いが響いた。

ルーピンと はしじゅう、ニコニコと微笑んで、シリウスの持馬や、自分の栗毛の雌馬らの毛をすいたり、

歯をのぞいて、仲良く健康状態を調べた。



。」

彼女の艶やかなふさふさとした黒髪を撫でながらルーピンは呼びかけた。

「今年のイヴは君と、一緒に過ごせるね。去年はトライ・ウィザードでダメだったから。」

の顔がパッと明るくなった。

「ほんとうに!?リーマス、ありがとう!!

 あ、そうそうクリスマス・プレゼント楽しみにしててね!きっと気に入ると思うか。」

「そうかい?そりゃー楽しみだな。公女様は私め、しもべにどんなプレゼントをお恵み下さるんだろう?」

ルーピンは、ちょっと茶化して言った。

「もう、からかわないで下さい!!」

はゲラゲラ笑ってルーピンの肩をドン!と叩いた。

「そうだ!晩にはどんな衣装を着るんだい?イブニング・ドレスかい?」

ルーピンはハッと思いついて聞いてみた。

「ううん、まだ考えてないわ。」

は言った。

「そうかーじゃあ、それもお楽しみにとっておくよ。じゃあ、夕食)の席で。」

ルーピンは上機嫌で、彼女の頬に軽くキスすると先に屋敷の中に入っていった。





その日の晩餐の席には沢山の人物が集まった。

屋敷はヒイラギの花飾りと、金銀のモールで飾り付けられ、床には赤いふかふかの新品のじゅうたんがひかれ、

天井のシャンデリアからは、色とりどりの花々がぶらさがり、じゅうたんの上には輝く魔法の雪が積もっていた。

この家の主、シリウスはとっておきの晴れ着を着込み、とても格好よく見えた。

「さあ、皆様、お席へ!」

客人たちがぼーっと感激して、魔法の園に生まれ変わった小サロンを見回しているのを見越して、

シリウスは上機嫌で声をかけた。


は白のブラウスを中に、ざっくりしたリンネルのディルンデルをまとっていて、他の女の子たちより

抜きん出て愛らしかった。


「その姿、今晩の晩餐にピッタリだよ。とてもよく似合ってる。」

すかさず、今日は真新しい茶色の豪華な晴れ着を着込んだルーピンが近づいてきて耳元で囁いた。

シリウスの向いに座るとき、彼も満足げに彼女の姿を眺めて、他の客に分からないように

口だけ動かして「凄く綺麗だ・・」と褒めてくれた。


「ルーピン先生!まあ、見違えるほどだわ!まるでその・・どこかの貴族みたい!」

ハーマイオニーの向いに腰を下ろした彼を彼女はうっとりとして言った。

「ありがとう。ハーマイオニー。君もなかなか似合ってるよ。」

ルーピンもアイリッシュ・レースをあしらった淡いブルーのドレスをまとった彼女を褒めちぎった。


全員席についたところで、ホスト、ホステス役(もてなし役)の二人、

シリウスとジェニファーが高々とグラスを上げた。

「では乾杯しましょうか!アーサーの回復とよき今日を願って!乾杯!!」

「乾杯!!」

シリウスの掛け声で、皆はグラスを突き合わせた。

大人たちはトカイ産、ボルドー産ワイン、ミュンヘン産のビール、子供たちはラズベリー・コーディアル、

バター・ビールを飲み干した。

テーブルに並んだ料理はお腹を空かせた客人に、生唾を湧かせるのに、みるからに食欲がそそられるものだった。

まず大きなロースト・ビーフの塊、白身魚のテリーヌ、白ソーセージ、釘のように丁字を刺して焼いた、これまた

大きなハム、

丸ごとよく太った七面鳥のローストは鳶色にてかてか光っている。その他、野菜の付け合せも色とりどりの豪華な

ものだった。人参のクリーム煮、ふんわりとクリーム状に仕上げられたさつまいもの甘煮、カボチャやカブの煮物。

そして極めつけは、モリーが腕によりをかけて作った等のように高いクリスマス・ケーキ!

ケーキには砂糖を溶かして作ったピンク色の大きなバラの花がふんだんに飾られ、てっぺんにはシュガー・アーモ

ンドが銀粉のように振りかけられていた。



ダーズリー家では一度も、こんな豪華なご馳走で一緒に祝ってもらったことのなかったハリーは

大感激して、さっそくぐいと手を伸ばし、目の前の料理を取り皿に盛り始めた。

白ソーセージなど今まで食べたことのなかった物だし、クリスマス・ケーキもいつもの倍以上、美味しく

感じられた。



それに彼はダイニング・テーブルの横に据えた田舎風の純朴なツリーにも驚愕させられた。

ダーズリー家ではモミの木は必ず、銀箔モールと輝く玉できらびやかに飾り付けられる。

それに対しここでは、枝からレープクーヘンがぶら下がり、赤いほっぺのりんご、モミの球果で作った

ひょうきんな人形や鳩( 、ジニーの手作り)、それにその周りをぐるりと本物のフェアリー・テールが

飾り付けられていたからだ。


ーーー―シリウスが大枝を何本か火にくべると、柴のいい匂いが小サロン中にただよった。

ジェニファーはせっせとリンゴを火にかけて焼き、ロンはこっそりと両親に見つからないように後ろ

から手を伸ばしてツリーのお菓子をポケットにしのばせていた。


「なんて和やかなお祝いだろう。」

とハリーはにっこりと愛想よく微笑みかけてきた に笑みを返しながら思った。

「プリペッド通りに帰ったらさぞかし、この楽しい雰囲気に僕は懐かしがるだろうな」


皆がおおかた豪華な食事を食べ終わると、待ちかねていたようにシリウスがテーブルの下に隠していた

ギターを取り出し、ゆっくりと爪弾き始め、クリスマス・キャロルを歌いだした。



皆、かちゃり、かちゃりとフォーク、ナイフをおいて、彼の素晴らしいテナー・ボイスに聞き惚れた。



最後のギターの弦の一本が弾かれると、大歓喜した客人達から湧き上がる拍手が起こった。


「シリウス、とても上手いよ!!」

ハリーがひどく感激して彼を褒めちぎった。

「ありがとう。さあ、客人方。次はダンスと行こうかな?それ!」

シリウスは途端にいたづらっぽい表情を浮かべると、妹のジェニファーに目配せし、

さっきとは打って変わって景気よく、ギターの弦をかき鳴らした。


「よーし、乗ってきたぜ。皆、立て!踊るぞ!」

フレッド&ジョージが音頭を取り、手を叩き、靴底でリズムを刻み始めた。

ジェニファーのバイオリンが鮮やかなアルペジオをかなではじめた。


こうなるともう、他の客人たちもぐずぐずしていまい。

せかせかと床をすべり鳴らしたかと思うと、あっという間に皆、手と手を取り合い、

床を踏み鳴らして踊り始めた。



ムーディはトンクスと二拍子のステップを踏み、 はルーピンとぴったりくっついて踊っていた。


バイオリンの音がだんだん速くなり、皆かかとでステップを合わせた。


シリウスとジェニファー兄妹の指の動きも今や、物凄く忙しくなっていた。


それにつれてどこからともなくボーンズとリールの音が聞こえ、典型的なアイリッシュ・ミュージックの

軽快なテンポとリズミカルな波に飲まれていった。

今、 はルーピンとはなれ、ハリーと踊っていたが、彼も前と比べてだいぶダンスのこつを

つかんでいたらしく器用な手つきで、彼女をくるりくるりと何度も回転させていた。


とうとうここでシリウスが、楽器に自動演奏の魔法をかけ、ダンスの輪の中に加わってきた。



シリウスはマントを脱ぎ、部屋の中央に進み出、肩をまっすぐにし、腕はぴったりと両脇に

つけられた直立の状態で、いきなり猛烈な速さで足を前後に動かし始めた。


その動きがあまりにも速いので、 の目には足が六本か八本あるかのように思えた。

床はシリウスの革靴のかかとの下で、ドラムのように響き、その動きはもはや神業としか

思えない所業だった。


皆、尊敬や感激の念で彼にいっせいに盛大な拍手を送った。

やがて、音楽が変わり皆、パートナーを変えて魔法にかかったように踊りだした。

今度は とシリウス、ハリーとジニー、ロンとハーマイオニー、フレッドとブラド夫人、

ジェニファーとジョージというふうに主に比較的若年のペアが揃ってステップを踏み始めた。



「さっきのステップ凄かったわ〜〜あれ何て言うのかしら?」


シリウスの腕に抱かれながら、 は夢見心地で聞いた。

「ああ、言葉どおり、アイリッシュ・ステップって言うのさ。ホグワーツで聖パトリック祭が行われたときに

 みよう見真似で覚えたんだ。足を素早く動かし、力強いステップを踏む。」


は両手で長いスカートを少し持ち上げて彼のステップに合わせて軽快に

足を動かし始めた。

「上手いぞ。その調子!もうちょっと寄ってくれるか?」

シリウスは目の隅で、彼女の細い足がリズムを刻むのを目に留め、彼女の手を持ち上げて

くるり、くるりと回転させ始めた。


「いや〜誠に嬉しい限りなり。我がしもべがーー麗しき貴婦人さまと踊れる光栄に至れりたてまつり・・・」

向こうの隅ではフレッドが、冗談ばかり言ってブラド夫人を笑わせるので、危うく

夫人がステップを間違え、転倒しかねないほどだった。


音楽は最高潮に達し、シリウスと の組はペアを途中で交代するのも忘れて夢中で

この夜を踊り明かそうとしていた。

ルーピンとハリーは二人、不安げに各パートナーと踊りながら のほうを何度も、首をねじって

見ていた。


彼女は無邪気に、シリウスの腕に抱かれて喜んでいる。

彼女にとってはただ単に、刺激的な出来事なのだろうと二人は考えたかったが、やはり

妬ましさと不安に幾度となくかられるのであった。


ロンとハーマイオニーもさっきから、シリウスが を離さないことに

気づいていた。


ハーマイオニーはキッと唇を結んで、ハリー、シリウス、ルーピン、 の四角関係を

垣間見ていたが、なにかやらかそうという気は起きなかった。

一方、ロンは自分の方から を誘い、さりげなくハリーに渡そうかと考えていたが、

やはり、そんな勇気はなかった。



複雑な思いが幾つもの糸で絡み合い、この聖なる夜は更けていった。



























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