激しい火花を散らす犬夜叉と姫を尻目にかごめ、弥勒、七宝は弓や錫、狐火で湖や森から続々とわきでる雑魚妖怪を
相手に応戦を繰り広げていた。
これではきりがないと判断した弥勒は錫をおおむかでの頭にぶんっと振り下ろすと、
水色の数珠で封印してある風穴を開いた。
ごおごおと、突風のうなり狂う音が響き、うぞうむぞうの雑魚妖怪が彼の開いた風穴に吸い込まれていった。
姫は焦りにさいなまれ、自分も吸い込まれないよう、氷の矛を盾に暴れ狂う風穴から
身を守った。
「おのれ・・法師、同胞をよくもやってくれたな・・あまり調子に乗るとどうなるか見るがいい!!」
姫はふと奈落から法師封じの毒虫の巣をもらったことを思い出し、
ぎりぎりとくやしい思いを胸にねじこんで、それを地上に向けて放り投げた。
勢いよく地面に叩きつけられた毒虫は、刺激され大変興奮した様子で法師の開いた風穴
向けてぶんぶん飛び込んでいった。
「うっ・・しまった・・」
「弥勒様!」
「弥勒!!」
毒虫の毒を大量に吸い込んでしまった法師は、ううっとくぐもったうめき声をあげ、
その場に倒れてしまった。
かごめは弓矢を右肩に背負ったまま、弥勒を支え、七宝はどうしようどうしようとうろたえるばかりだった。
「てめえ!」
激怒した犬夜叉の不意打ちを避けきれず、姫は鉄砕牙の太刀をざくりと食らってしまったのだった。
「ううっ・・化け犬め・・」
どくどくと吹き出る血を抑えながら、姫は氷の矛をなぎ払い、そこから鋭く重いつららを繰り出し、
犬夜叉の左肩めがけてお見舞いした。
犬夜叉も手負いの彼女の素早い反撃によけきれず、勢いよく突き刺さったつららを受けて
バランスを崩し湖へと落ちていった。
「あんた、待ちなさいよ!!」
姫がほっとしたのもつかの間、今度は憤怒の形相のかごめが放った羽魔の矢の一撃が
姫の矛に命中し、矛は急速に妖力を失い使えなくなってしまった。
「ここはひとまずずらかりましょう、姫様。手負いの獣ほど危険な奴はいませんからな」
その時だ。突如、無数の毒虫を引きつれヒヒの皮をまとった奈落が現れ、手負いの彼女をそっと抱き上げた。
「待ちやがれ!!奈落、、二人とも逃がしゃしね〜ぞ!!」
湖からほうほうのていではいでた犬夜叉が鉄砕牙を片手に、竜神の頭に乗っかる二人に切りかかろうとしたが、
逆に奈落の放った大量の瘴気に目くらましされ、再びバランスを崩し、湖の底へと落ちていった。
「わからん・・幾ら探してもあの娘の匂いがつかめん。彼女が自ら匂いを消して姿を隠したとしか思えぬ」
ところかわって、犬夜叉の兄、殺生丸は綺麗な顔にしわをよせ、先ほどから難しい顔で考えをめぐらせていた。
「も〜う、殺生丸様ぁ〜あんな雪女のことなんかほっときましょうよ〜!!
いくら探してもいませんって!!な〜んで高貴なご身分の殺生丸様が半妖ふぜいの娘をそこまでお気にかけるんです
か〜?この邪険にはさっぱり理解できませぬ」
「邪険・・」
銀髪をなびかせた長身の貴公子は、何食わぬ顔でちょこまかとついてくる部下をくるりと振り返って見据えた。
「はい?」
「黙れ」
「プギャッ!!」
「痛い・・ああ・・私が悪うございました、殺生丸様〜」
その言葉にかちんときた殺生丸は、容赦なく部下の緑帯びたしわくちゃ頭を踏みつけると
阿吽の綱を自ら取り、優雅に歩み続けた。