「パパ、パパ!」
「アレックス、怪我はないか?」
「この子は平気よ。だけどアーデスが怪我を・・」
「心配するな。かすり傷だ」
「、僕の妹が連れ去られた・・」
「ジョナサン・・ごめんなさい。私、エヴリンを・・」
中庭に集合したアレックス、リック、、ジョナサンは互いの無事を
確かめあっていた。
「お前!なぜここにいるんだ?」
次の瞬間、リックに挨拶しようとしたアーデス・ベイはむんずと首根っこを
つかまれていた。
「やめて、誤解よ!彼はエヴリンをあいつらから守ろうとして怪我を負ったの!!」
「本当よ、信じて!!」
はリックの腕に飛びつくと金切り声を上げて制した。
「だったら、奴らは俺の女房をどこへやったんだ?」
の懸命のとりなしで、アーデスを締め上げていた腕をゆるめた
リックは怒りに打ち震えながら叫んだ。
「友よ、すまない。そこまでは私にも分からない」
アーデスはがっくりとうなだれて言った。
「だが、この悪党のところに間違いなく君の妻はいるだろう」
そこでアーデスは懐から一枚のセピア色の写真を取り出した。
「まさか・・嘘よ!」
「知り合いか?」
アーデスはいぶかしんで尋ねた。
セピア色の写真を覗きこんだは色を失った。
「伯母さん、こいつ、大英博物館の館長だよ!」
年中、父親や伯母に連れられて博物館めぐりをしていたアレックスも同じだった。
「ええ、でも・・何で館長さんがエヴリンを?」
その問いは男達三人の足音にかき消された。
「ちょいと待て、君が来て悪党どもが現れたってことは・・」
お屋敷の裏手にあるガレージまで走る途中、リックは尋ねた。
「ああ、倒壊した墓からイムホテップの遺体が掘り起こされた」
「あいつは私達が倒したはずでしょ?なんでまた?」
「それにそいつの盗掘を防ぐのがあんたの仕事だろ?」
、ジョナサンはここぞとばかりに食いついた。
「さっき、君を毒蛇で殺そうとした女がその秘密を嗅ぎつけて掘り当てた」
アーデスはジョナサンにとうとうと説明した。
実は、エヴリン、アーデスが二階で格闘している間、一階の客間でも
謎のエジプト人の女とその手下と、ジョナサンを助けに入ったリックとの間で
死闘が繰り広げられていたのであった。
リックの運転するクラシックカーは雨がしとしと降りしきるロンドン市街を
滑るように走った。
そして、あっという間にガス灯の玉がにぶく輝く大英博物館にたどり着いた。
「アレックス、お前に大きな仕事を任せるぞ。ここでパパの車を守るんだ」
ブレーキを踏んで車を停止させたリックは、運転席から身を乗り出して息子に言い包めた。
「あ、そのお役目は僕に!」
「ジョナサン!」
アレックスを挟んで座っていたに彼はたちまち鋭い目で睨まれてしまった。
「なんで僕が車を守らなきゃだめなの?子供だって馬鹿にしないで!」
アレックスは大人びた目で不満げに父親に向けて文句を垂れた。
「分かってるよ。お前は立派な大人だ」
「パパ、また馬鹿にしてる・・」
エヴリン譲りの賢さを現し始めた愛息にリックは穏やかな笑みを浮かべると
その頭をなぜてやった。
「いいわ。私が一緒に行く。ジョナサン、あなたは車に残って。
あなたの方がアレックスは言うことを聞くもの」
ここできりっとした顔で後部座席のドアを開けたは言い放った。
「危険だ。彼女を守りきれるかどうかもわからないのに」
その爆弾発言にアーデスはすかさず反対した。
「いやいい。アレックスはジョナサンが見ててくれ」
だが、ここでリックは臆病者のジョナサンがついてこられるよりはましだと思ったのか
許可した。
「ああ、・・ありがとう。僕がアレックスをちゃんと見てるから君は安心して
行ってくるといいよ」
「こちらこそ。でも、ちゃんと見ててね」
ジョナサンの手を軽く握り締めると、は今度こそ後部座席のドアを
開けて下車した。
リックは、クラシックカーのトランクに詰め込んだ銃器を広げていた。
「銃は普段何を使ってる?」
「機関銃だ」
リックはアーデスに弾丸の入った袋と黒塗りのずっしりとした機関銃を手渡した。
その横で、は無言で六連発銃四丁をホルスターに差し込んでいた。
「手榴弾か催涙弾があれば嬉しいんだけど。いざというときのために」
「あるよ。ほらこれだ。ピンを抜くときは充分に気をつけて」
リックは優しく微笑むと、横で度肝を抜かれているアーデスを気にせずに
に手榴弾を手渡してやった。
「私はライター(挿絵作家)でもあるけど、爆弾には詳しいの」
「あ、ああ・・そうなのか・・」
アーデスは毒気に当てられたかのように、真っ黒なホルスターを肩にかけ、手榴弾を
ポシェットにしまったを眺めていた。