夕闇が辺りをすっかり支配する頃、ジョナサンの運転する白塗りのクラシックカーはカイロ古代博物館へと向かっていた。
「今まで聞いた話では、あの黒い本は死者を蘇らせるものばかりだと思ってた」
御影石の階段を急ぎ足で上りながら、エヴリンはリックにとうとうと説明していた。
「でも伝説は現実に」
「奴は墓から本当に蘇った」
彼らの前を館長とアーデス・ベイが厳しい顔つきで歩んでいるのがソフィアにも分かった。
「あの黒い本。つまり、死者の書は死人を蘇らせるけど・・」
「反対に黄金の本は奴を殺せる」
「それが言い伝えよ。でもいったい、生者の書はどこにあるのかしら?」
エヴリンが額に皺をよせて考え込んでいると、こんな時間に博物館の外で異様な呟き声が聞こえた。
皆、小首を傾げて何事かと窓の方へ寄った。
そこには松明を掲げた何十人もの現地のエジプト人達。
皆、眼窩がうつろで、焦点が定まっていない。
「いよいよ最後の呪い、黒死病だ」
ジョナサンが、顔の皮膚に不気味な瘤が浮き出ているエジプト人達を見てため息をついた。
「あの人達、様子が変よ。まるで私達を襲いに来たといわんばかりに・・」
「奴らはイムホテップの奴隷に成り下がった者達だ」
ソフィアのこの上ない不安を払拭するかのように、アーデス・ベイが肩にそっと手を置いた。
「この世の終わりはすぐそこだ」
「まだチャンスは残ってるわ」
エヴリンはぎゅっと唇を結ぶと、リックを見上げて言い放った。
表ではイムホテップの命令で、奴隷達が頑丈な閂が差し込んであるドアをいっせいに叩く音がした。
「ベンブリッジの学説ではアヌービス像の下に黄金の書があるはずなのに」
「だが、実際にあったのは黒い本だ」
暴徒化した民衆によって打ち破られそうなドアを欄干から見守るアーデス、ソフィアの
後ろでは黒い石版を必死に解読するエヴリンと館長の姿があった。
「あの扉はどのぐらい持つの?」
「あの人数では長くは持つまい」
慢性的な興奮状態に陥ったソフィアは、少しでも誰かと会話していたいらしく
怖い印象しか残っていないアラブ人の彼に尋ねていた。
「分かったわ!ベンブリッジのお偉い先生方は二冊の本の隠し場所を取り違えたのよ」
「じゃあ死者の書がアヌービス像の下なら、生者の書は・・」
エヴリンの暗号解読の呟き声もそこそこに、遂に閂が外れ、暴徒化した民衆が館内になだれ込んだ。
皆、いっせいに欄干から身を乗り出した。
切羽詰ったジョナサンはエヴリンを急かしたが、「忍耐は美徳よ」とすげなく跳ね返されてしまった。
「今はそんな場合じゃないぞ!」
リックが真剣な顔で言った。
「何だか長くかかりそうだね・・表行って車のエンジンかけとくよ」
ここで機転を利かしたジョナサンが踵を返して走っていった。
「あったわ!黄金の書、アムン・ラーはホラス像の足元に!」
エヴリンの顔が喜びでぱっと輝いた。
「やったわ!これでベンブリッジのお偉いさん方に勝った!」
彼女は得意そうにガッツポーズをした。
「早く早く!」
黒髪のアメリカ人と共に暗闇を走るのは、ソフィア達だ。
「こんな所もう沢山だ!」
黒髪のアメリカ人はジョナサンがハンドルを握るクラシックカーに真っ先に飛び乗り、
ジョナサンは、大事な妹とそのいとこを呼び寄せて車に乗っけてやった。
「イムホテップ様、こちらです!」
やせてひょろひょろした日和見主義の男、ベニーが運悪く裏階段を駆け下りてきて叫んだ。
「うるさい!あんたは引っ込んでなさい!!」
慢性的な興奮状態に陥ったソフィアは、この際恐怖も何もかも忘れてリックの戦友であった裏切り者を叱り付けた。
「くたばれ、ベニー!」
リックも一度乗り込んだ車から立ち上がって、真っ直ぐに彼を睨みつけて怒鳴り散らした。
「今に見てろ、きっと後悔させてやるぞ!」
「あんた、いっつもそんなことばっか言ってるよな!」
イムホテップの命で裏階段から駆け下りてきた民衆、だんだん小さくなっていくベニーに悪態をつくリック。
彼の脳天目掛けて今にもピストルをぶっ放しそうな剣幕のソフィア、そんな彼女の肩をつかんで座らせるアーデス。
ただでさえ狭い車内はにわかに殺気立っていた。
そして車は人気のないバザールを通り抜け、皆がほっと安心した時だった。
ジョナサンはぎょっとしてブレーキを踏んだ。
何と、ここにもイムホテップの命で先回りしたエジプト人達が待ち受けていたのだ。
両者ともにしばし睨み合いが続いた。
ソフィアは発狂しそうになり、隣に座ったアーデスの黒服の袖を反射的につかんだ。
突如、ジョナサンが痛そうな悲鳴を上げた。
リックが大胆にも彼の足ごとアクセルを踏みつけたのだ。
車は急発進し、民衆はそれでも怯まずに車目掛けて突っ込んできた。
「突っ切るぞ!」
リックの掛け声とともに、皆、用心して身構えた。
ジョナサンの運転でバンバン跳ね飛ばされていく民衆、だが、一人の男が
フロントガラスに強靭な力でしがみつき、エヴリンに手をかけようとした。
それを合図に、芋の子を洗うように狭い車内に次々と民衆がしがみつき、リック達を振り落としにかかった。
リックはさっそく、男の襟首をつかんでパンチを食らわし、フロントガラスに頭をぶっつけて
車外へ放り出した。
アーデスは顔面に強烈なパンチを食らわし、館長は男の肩を押し返し、車外へ放り出した。
エヴリンも果敢に細く長い指で男の片目をつき、ソフィアは男のターバンをつかむとバシッバシッと平手打ちを
食らわしたり、首を絞めたりして振り落とした。
リックとアーデスは協力してすでに数人の男達をぶちのめしていた。
だが、彼らはまだ気付いていなかった。
二人の男が最後尾に怯えて座っていた黒髪のアメリカ人に襲いかかったのだ。
「オコンネル、オコンネル、助けてくれ!」
黒髪のアメリカ人の叫びもむなしく、彼は車外に引きずり落とされ、二度と帰らぬ人となった。
さて、リック達は車が途中で商品棚に乗り上げたので、それを捨て、慌てて
車から飛び降りて走った。
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