1939年、前回のハムナプトラでの冒険から帰還したリックはエヴリンと結婚し、

二人は一人息子をもうけていた。

そして、今やオコンネル夫妻はベニーがハムナプトラから持ち出した金銀財宝のおかげで大金持ちになり、ロンドン郊外に

豪奢な邸宅を構えていた。

このお屋敷には相変わらず遊び人のジョナサン、それに前回のハムナプトラでの冒険を本

にして出版した挿絵作家のも同居していた。

「アレックス、着替えたら手を洗ってらっしゃい」

大広間ではオコンネル夫妻の帰りを待っていた

にこやかに出迎えてくれた。

「もうそろそろ帰ってくるころだろうだと思ってさっきケーキを焼いたの。

 三人とも食べるでしょ?」

「本当?じゃ、俺とエヴリンには熱いコーヒーか紅茶を一杯頂けると嬉しいね」

パナマ帽を目深に被ったリックは、ご自慢の愛息をエヴリンのいとこに預けながら言った。

「リック、ああ、何て重いこと・・・アレックス、少し見ない間

 にまた大きくなったわね!ところで旅行中お宅の息子さんおとなしくしてた?」

リックから突然渡されたアレックスを抱き上げて床に下ろしながらは尋ねた。


「いいや、母親に似て好奇心旺盛だ。こっちを脅かすようなことばかりやってくれる」

「でも、将来が楽しみでしょう?そういう子は将来大物になる可能性があるわ」

やれやれと頭を抱え込むリックとは裏腹にエヴリンは明るく言った。

「エヴリン、この子は確かに利発だわ。問題を起こす大天才でもあるけど」

はまじまじと父親の優れた行動力と母親の俊敏な頭脳を受け継いだ

この甥っ子を見つめて言った。

「伯母さん、僕が毎日毎日問題を起こしてるとでも言うの?」

一人納得のいかないアレックスは不満そうに呟いていたが。


「きっと腕輪はアム・シェアーの失われたオアシスにいく道しるべなのよ!」

「エヴリン、君の言いたいことは分かる。

 だが、だめだ。俺達は新婚旅行から帰ったばっかりなんだぞ!」

オーク材のきしる木の階段をオコンネル夫妻がぺちゃくちゃ話しながら

上がってしまうとは厨房に下りていってお茶の支度にかかった。


「アレクサンドロス大王も、カエサルもそこに軍を送ったわ」

「それにナポレオンも」

「彼はあまり賢くない。それに背が低いしな」

「だから私達が見つけるのよ!」

「だけど、行かない」

ふかふかのペルシャ絨毯がひかれた二階ではくるみ材の本棚から本を引っ張り出す

エヴリンとリックの声が降ってきた。

そんな彼らをよそに、雷鳴がとどろき、風がふきさすぶ石畳の中庭には

不審なクラシックカーが停まっていた。

「ママ、伯母さん!この箱どうするの?クソみたいに重い!」

「アレックス、小さな男の子は俗語なんて使っちゃだめって何度も言ってるでしょ?」

二階の窓からは銀の盆に載せたコーヒーセットを持ってきたとエヴリンに、不満

を垂れるアレックスの姿が見えた。

「たいそう重うございます」

エヴリンとに睨まれたので、上流階級風の馬鹿丁寧な言葉でアレックスは

言い直して箱をマホガニーのテーブルの上にどんと置いた。

「アレックス、ママの許可なくその箱に触らないこと!いいわね?」

銀の盆をナイトテーブルに置いたは歌うように警告してまた階下へと

降りていった。

「は〜い!やっばい、これ取れないよ・・」

しかし、その警告もむなしくアレックスは興味をそそられた開けてしまった

黄金の腕輪を腕から外そうとやっきになっていた。



が階下に下りていくと裏戸口から出入りするジョナサンとその連れに

出くわした。

「ミイラをボカンボカンにぶちのめしてオシリスの杓を盗んでやったんだ!」

ジョナサンは手に黄金に輝く杓を握り締めて大得意だった。

「ああ、ジョナサン・・あなたとってもお強いのね・・」

ブロンド美女がうっとりと彼の肩にしなだれかかりながら囁いた。

「そちらはガールフレンドの方?」

「ああ、!久しぶりに会えて嬉しいよ!

 紹介するよ。僕のいとこの。彼女は挿絵作家でもあるんだ」

「まあ、じゃあもしかしてあのハムナプトラの冒険を執筆した方?」

「ええ、まあ、そう・・」

「お茶の支度が出来てるの。ジョナサン、お客人もどう?」

「喜んで頂くわ。よろしくね、さん」

びっくりするほど胸の開いたドレスを着たブロンド美女は、ジョナサンと談笑しながら

一階の客間に入っていった。




「やあ、ジョナサン。今夜はずいぶんとぶっそうなパーティだな」

「おかげさまでね・・僕はこの界隈じゃずいぶん顔が知れてるんだ」

数十分後、不穏な空気を察知して客間に足を踏み入れたリックは義兄が

侵入者達にナイフを突きつけられている現場に遭遇していた。


「アレックス。鍵をなくしたら遊びは禁止よ」

「伯母さんの言ったこともう忘れたの?むやみやたらに触っちゃだめって」

「あるよ!ただどっかに置いちゃって見つからないだけだよ!」

「じゃ、ママや伯母さんの雷が落ちる前に探しなさい」

二階では銅製の箱の鍵をなくしてエヴリンとに叱られているアレックスの

姿があった。


「こんばんは、奥さん方。」

「誰なの?」

「このお屋敷に何の用?」

「俺は箱を探しに来たんでね」

パイン材の衝立を横切ってぬっと姿を現したアフリカ系土人の男に二人の女は固まった。

「それを頂きたい」

アレックスがテーブルから引き摺り下ろした箱を見てその男は有無を言わせぬ

調子で言った。

「今すぐに家から出て行きなさい!」

エヴリンは大またで部屋を横切ると壁際にずらりと立てかけられた武器から

一本の剣を引き抜いた。

「盗人には一ペニーたりとも渡さない!今すぐ出てって!」

も右に倣えとばかりに壁際に立てかけてあった九節鞭を手につかむと警告した。

「ママ、伯母さん、それ絶対にまずいよ」

「パパを呼んだほうがいいって・・」

アレックスがやばそうにそろりそろりと後ろに下がりながら呟いた。

アレックスが怯えたのも無理はない。

アフリカ系土人の筋骨隆々とした男がにやりとほくそ笑むと、どこからともなく六人の

アラビア系の男達が姿を現した。

「殺してでももらう」

アフリカ系土人の男はぎらぎらとした目で迫った。

「そうはいかん」

その時だ。緊迫した空気が流れる中、救いの声が響いた。

その頼もしい声に強盗集団はさっと顔色を変え、皆、三日月刀を引き抜いた。

「アーデス?なぜロンドンにいるの?」

九節鞭を手にしたは驚き桃の木で太陽と月の銀糸の刺繍が施された

濃紺色のマントを脱ぎ捨てた彼を見つめた。

「詳しい説明は後だ」

アーデス・ベイは自分より頭一つ低いを見下ろして言った。

「アーデス・ベイ、久しぶりだな」

「ロックナー、その言葉そっくりお前に返そう」

どうやら強盗集団の男とメジャイは少なからず因縁があるらしかった。

「アーレィ」

アラビア語で会戦が告げられ、アーデス・ベイは羽織っていたもう一枚のマントを

脱ぎ去ると戦闘態勢に入った。

エヴリンは箱を持って走り去るアレックスを追った。

たちまちその後ろ姿を強盗集団が追いかける。

エヴリンは勢いをつけて走っていくと側転し、追いかけてきた一人の暗殺者の顎を

蹴り上げた。

ここでも九節鞭片手に参戦し、現場は酷い乱闘へと化した。

九節鞭(くせつべん)は長さ8〜10cmの鉄の棒を鉄のリングでつないだ軟器で、

第一節の「鞭頭」は紡錘形の重りになっており、

最後の持ち手である一節は「鞭把」になっていた。

が力任せに鉄の鞭を振り回すと、打撃部が相手の振り上げた三日月刀に当たり、

そのあまりの威力と音に暗殺者の一人は吹っ飛ばされて尻餅をついた。

アーデスはすでに三人の暗殺者達を倒して足蹴りにしていた。

九節鞭は中国旅行でが防犯用に購入した携帯に便利な武器だが、まさかこの家で

使う羽目になるとは思いもよらなかった。

が暗殺者の三日月刀に、鉄の鞭を振り下ろすたびに激しく火花が飛び、

そのとばっちりを受けた調度品が次々に破壊されていった。

エヴリンはエヴリンで黒っぽい剣を振り回し、右や左に暗殺者を切り裂いていた。

「メジャイにしてはやるな」

部下の兵士達がアーデスにことごとくやられていくのを目にしたロックナーは

不適な笑みを浮かべた。

「放せ、放せったら!」

こちらではアレックスと真紅のカフィーヤを巻いた男との箱の争奪戦が

繰り広げられていた。

「箱の中には何が入っている!?」

アーデス・ベイはアレックスを突き飛ばした暗殺者の喉をかき切りながら叫んだ。

「アヌービスの腕輪よ!」

エヴリンは左腕で必死に三日月刀を受け止めながら叫んだ。

いよいよロックナーが参戦した。

アーデスは荒々しい力技を繰り出す彼に向かっていくが、防戦するだけで精一杯だ。

「絶対に渡してはだめだ!」

「分かってる!」

アーデスはピンチに追い込まれながらもの方を振り返って叫んだ。

「早く外へ!」

の鉄の鞭が、本棚に突き刺さった剣を引き抜こう頑張っていた男めがけて振り下ろされた。

本棚は木片が砕け散り、男は間一髪で突き刺さった剣の真横に振り下ろされた凶器を避け

てしゃがみこんだ。

そこへアレックスが待ってましたとばかりに倒壊した本棚をひっくり返し、

男の頭上へと叩きつけた。

「ありがと、アレックス!」

は礼を言うと、残っている男どもと格闘するため、

部屋の隅へと九節鞭を振り回しながら走っていった。

「ママ、危ない!」

アレックスが悲鳴を上げたときはすでに遅し。

エヴリンは音もなく現れた伏兵によってこめかみを殴られて気絶させられていた。

「エヴリン!」

アーデスが助けにいこうとするが、彼はロックナーに肩を切り裂かれ、ひっくり返った。

「待ちなさい!」

やっとのことでが、やみくもに三日月刀を振り回して威嚇する相手の腰と足に鉄

の鞭を当てまくって蹴りを入れて吹っ飛ばした。

そして、くるりと後ろを振り返ると大男に担がれていくエヴリンの姿が目

に入った。その後ろには余裕綽々とマントを羽織り、

アーデス・ベイめがけて暗器を投げつけて立ち去るアフリカ土人の男の姿があった。












































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