絹を切り裂くような悲鳴があがった。

だが、やられたのは朱雀の巫女、白虎七星士、畢宿ではなく

朱雀の巫女が放った神剣が吸収した稲妻と畢宿の聖水の

混合光をもろに食らい吹き飛ばされた房宿だった。



「やっつけた・・」

風がスーッと残っていた聖水の結界を吹き散らしたころ、

畢宿はほっとため息をつき、白い熱を帯びた神剣を

盾に立ち上がった。



畢宿、美朱・・無事やったんか・・あ、待てっ!」


翼宿が雷撃による四肢のしびれが消えたこととを確かめ、

顔をあげた時、重傷を負った房宿が必死で城壁から

飛び降りて逃げ帰るのが目に入った。


「ちっ、あいつ女やったんかい!、せやけど、畢宿、お前、よう美朱を守ったなあ」

「美朱も偉いじゃん。よく戦ったわねぇ・・」


鬼宿に抱きしめられた美朱、神剣をかちゃりと鞘におさめた畢宿のもとに

無事を喜ぶ仲間たちが続々と集まってきた。


「うん、よく分からないけど、結界の中で、畢宿の神剣が房宿の雷をどんどん吸収して

 熱を帯びてるのに気づいて、もしかしたらって思って、自分の剣を抜いてみたんだ・・あとは

 手が勝手に動いて反撃してたっていうか・・」


美朱がいまだ状況が飲み込めない様子で語った。



「二人が持っているのは神剣なのだ。稲妻の力とそれを取り巻く畢宿の聖水を吸収して

 敵にそっくり返したってわけなのだ」


「つまり、畢宿さんの神剣が稲妻の守りになり、美朱さんの神剣が攻撃になったってわけですね」


物知り顔の井宿と張宿が嬉しそうに説明していた。




「でも、ここどーやっておりるの?縄梯子も何もかかってないし・・」


「房宿がここから飛び降りて泳いで逃げたってことはいけるんじゃないか?」


「この高さにこの水量。それにわずかですが浅瀬がありますね。今日は確か大潮の日。この河は月の潮と日の潮が

 合わさるとき水の流れが逆になるので・・大丈夫です!じゃあ、皆さん、早速飛び込んで浅瀬に上って下さい!」


柳宿、鬼宿がつぶやく中、張宿は小さな頭で複雑な計算さっと示し、皆に方法を説明して見せた。





「お、俺・・泳げんねん・・どないしょ~」


皆は着々と背の高い城壁から飛び降り、河を泳いでいたが、一人、翼宿だけは青ざめてその様子を見ていた。


「あの男たち、どこに行ったのだ?」

「隊長、もはや逃げたのでは?」

「そんなはずない、探せ!」

そんな時だ。ざっざっざっと城壁の石段を、剣や槍を手にした女どもが怒り狂って上ってくるのが二人の耳にまで

はっきりと聞こえた。



「まず~い・・」

「げっ、いらんとこで来てもうたで・・」



「早く、肩に捕まって!結界張ってあげるから」

あせった畢宿はぐいっと翼宿をひっぱると、思い切り城壁を蹴ってジャンプし、

下の河目掛けて飛び込んでいった。



「ぷはっ!」

「息出来るでしょ?」

城壁下の河に落ちて一瞬浮き上がった翼宿に畢宿は声をかけた。

「肩から手を離さないでね」

「わかっとる!」


そうして、二人で波をかきわけかきわけ泳いでいき、一緒に浅瀬に上ってしまうのを

例によって鬼宿、美朱、柳宿がにやにやして見ていたので、

彼らはちょっと機嫌が悪くなってしまったが。






北甲国、国境―――


先に馬車越えで到着していた青龍七星士達のもとに重傷を負った房宿が

ほうほうのていで戻ってきたところだった。



「すみませんでした――心宿」


軍の真っ白な野営用テントの中、一糸まとわぬ姿で房宿は心宿に向き合っていた。


「まさか、あの朱雀の巫女と白虎七星士の二人が神剣を持っていたとは・・」


「もういい、お前にはもう一度機会をやる」


彼は彼女の弁解を遮り、あいもかわらず無表情のままだった。


「でもこの国の気候は西の人間の私には不利です」

彼女は房中術を用い、完全に弱ってしまった自分の肉体のエネルギーを高めようと

彼にもっと密着しようと切なそうに体をすりよせた。

「すみません・・お役に立てずに・・」

房宿は静かに美しい一筋の涙をこぼした。



(この者の傷・・思ったより具合が思わしくないな。聖水と雷撃の神剣返しを二重に被ったせいか・・)


(白虎七星、畢宿・・女だと思い甘く見ていたが、房宿に負わせたこの傷・・少々厄介な相手だな)



「今度は多少の荒療治・・尾宿を使うとするか・・」


心宿は何の感情もないまますすり泣く房宿を機械的に抱くと、次の打開策を練り始めた。




「これはいい馬ねぇ・・」


北甲国のふもとの村に一夜泊めてもらい、人数分の馬と食料、水、服、コートまで貰った


畢宿はすっかりご機嫌だった。


「怖い顔のおにーちゃん、綺麗なおねーちゃんもさよなら~」


「いい事いってくれるじゃない」

「どついたろか、このガキ・・」

「まあまあ・・」


北甲国の遊牧民族の子供に嬉しいことまで言われて見送ってもらった


一行は馬を駆って一人、また一人と旅立っていった。



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