(美朱・・鬼宿がついてるとはいえ、何かとてつもない事件に巻き込まれているような気がする)
(これが女の直感というもの・・すごく嫌な胸騒ぎが・・まるで自分自身の大事な部分が引き裂かれるような・・)
「悪い、皆!美朱と鬼宿がどうしても気になるの。今から行けば追いつくわ!」
「何やて!?あ、こらっ、勝手に行動すんな!お前は女なんやから一人で行く・・って、え〜っ!!」
は手綱を引き絞ると、かかとでグレーの若馬の脇腹を蹴った。
そして、大声で砂漠地帯をすすむ仲間達に呼びかけると驚愕した翼宿を
ほっぽりだしてもときた道を駆け出した。
「こら〜このアホが〜なんでお前まで動こうとせえへんねん?」
翼宿は馬首を叩いて白い雌馬を駆け出させようとしたが、なぜか賢い彼女は踏ん張って
その場から動こうとはしなかった。
「美朱からもらった髪飾り。これで彼女の気を探れば・・朱雀の者の気を白虎の者がうまく探れるか分からないが・・」
は肌身離さず持ち歩いていた巾着袋から、オフホワイトの水玉模様があしらわれた可愛らしいリボン
取り出した。
それは自分より年下の朱雀の巫女が「これ、私の世界で流行ってる物なの。あなたの綺麗な黒髪ならよく似合うと思うんだ!」
と笑顔でくれた物だった。
はそれをしっかりと手のひらに握り締め、全身の気を集中させて朱雀の巫女の気配を探り始めた。
が着実にこちらに向かって馬を飛ばしている間、鬼宿はとっくに倶東国の野営地に踏み込んでいた。
彼はうすら笑いを浮かべる心宿の態度に、怒りに身をたぎらせていた。
「心宿、てめえだけは絶対に許さねえ!」
彼は朱雀の巫女を汚した心宿に向かって、特大の赤い気弾を放った。
怒り任せで出た技とはいえ、それは倶東国将軍の分厚い鎧をつらぬき、左腕を
溶かしかねない熱さだった。
「鬼宿、危ない!」
鬼宿が自分でも放った技の大きさにびっくりしていると、の放った流虎水と房宿の放った雷がぶつかって目の前で
砕け散るのがわかった。
「心宿、このままではまずいです。早く馬に乗って下さい!」
房宿は憎しみのこもった目つきで、どこまでも邪魔をするを睨みつけながら
負傷した将軍を庇って言った。
「くそっ、逃がしたか・・でも、俺、あの力は・・いったい?」
「鬼宿、追いついてよかった。怪我は?」
馬から飛び降りたは心配そうに彼に駆け寄って尋ねた。
「!助かったぜ。どこも怪我してねえよ。だけどお前・・翼宿達と一緒に行ったんじゃないのか?」
鬼宿は軽く礼を言ったが、どうして彼女がここに来たのかとても不思議そうにしていた。
「途中まではね、だけど、何か美朱のことで胸騒ぎがして慌てて引き返してきたのよ」
はあっさりといってのけた。
「ところで美朱は?」
「やべっ、そうだ、あいつは・・」
鬼宿と一緒に倶東国の野営していた移動式のテントに踏み込んだは
言葉を失った。
乱れた髪、ところどころ傷ついた肌、胸元がはだけてぐちゃぐちゃになったこげ茶色の制服。
朱雀の巫女は苦痛の表情を浮かべて床にむなしく転がっていたのである。
「井宿達が先に行ってるんだ、早く追いつかねえとなぁ〜」
「ほら、翼宿が今頃問題を起こしてるかもしれないからさ、翼宿が問題を起こして皆、タスキテ〜な〜んてな♪」
がきちんと着せてやった制服に身を包んだ美朱は、鬼宿の冗談に声を立てて
笑うことなく重苦しくうな垂れていた。
「すっごく寒いわよ、鬼宿。全然笑えない」
「やっぱりそう、さん?」
鬼宿に厳しい突っ込みを入れてからはため息一つついて、馬の足掻きを早めた。
しばらくして朱雀の巫女が「すごく疲れたから休みたい」と言ったのでと鬼宿は
見晴らしのよい湖で休憩をとることにした。
「よーし美朱、しばらく休憩にすっか」
「待ってろ、今、上手い魚食わしてやるからな。、お前も腹減っただろ?美朱と一緒にここで休んでな」
二人の娘達に明るく声をかけると鬼宿は腰帯を解き、上着をばさっと脱ぎ捨てると
上半身裸で下着だけ身に着けて湖に向かって駆け出した。
「鬼宿・・私に何があったのか何も聞かなかった・・何で?」
美朱は落ちていた彼の上着を拾うと、それを胸にかかえて呟いた。
「それは・・」
がなんと答えていいか分からずに困っていると彼女はきっぱりと言った。
「そうだよね・・聞きづらいし、聞かれたって答えようがないよ。私・・あの後、本当に心宿に汚された?」
「何があったか覚えてないの?」
「うん、あいつの強い気に吹っ飛ばされて私、しばらく気を失ってた。だから、もしかして何もなかったのかも。
でも、あいつが網にかかった獲物を逃すわけないもの。あいつ、自分の所有物みたいに私を扱って・・」
「あいつ、欲望とか愛情とか全く感じてなかった。ただ策略の為に私を・・」
美朱は激しくしゃくりあげていた。
「きっと何もなかったのよ。私にはそれが分かるもの。覚えてる?私の憧れの巫女様ははあの食堂で柳宿と座ってた時のまま。
今と何一つ変わってないもの」
「怖かった・・あいつが・・私、必死に抵抗したんだけど・・あいつの力にはかなわなくて・・」
その年上の女友達の柔らかい言葉をきくと、美朱はせきをきったように話し出した。
「可愛そうに・・こっちへいらっしゃい」
は美朱の頭を引き寄せ、まるで母親のように慰めの言葉をかけながら気が済むまでそうしていた。
その後、に頼んで、湖で彼女の気を通した聖水でお清めの儀式として身体を洗いっこした
美朱は鬼宿のおこした焚き火にあたってまどろんでいた。
「まさか覗かなかったでしょうね、鬼宿?」
「お前も疑い深いなぁ・・こんな時にするわけないだろ、ほら美朱、よく焼けてるだろ、、お前も食えよ」
「ありがとう」
鬼宿から焼き串から外されたよく引き締まったマスを受け取ると、腹を空かしていたはさっそくかぶりついた。
美朱もこの場の暖かい雰囲気に浮かされたのか、焼き串に刺さったマスを一かじりし始めた。