「それにしても・・いつまでこれ着てなあかんねん?おい、張宿!まーだ字ぃでえへんのか?」

翼宿は憎憎しげに真紅の宮廷服のスカートとアンサンブルの

黒ベルベットの上着を一瞥すると、文机にひじをついて

ぼんやりと空を見つめている子供に向かって尋ねた。

「こんなん今だけぬいどったってかまへんやろ」

「ちょ、ちょっと翼宿!勝手なことして!もしここの侍女が入ってきたらどうするのよ!」

畢宿は戸張の降りた寝具の裏でばさばさと女物の着物を

脱ぎ捨てていく翼宿に向かって叫んだ。


「入ってこられへんって。ちゃんと内鍵までかけとんさかいな・・」

さっさと綿の白い上っ張りだけの軽装になった翼宿は、がしっと畢宿の両肩を

つかんで呟いた。

「ここには俺とお前の二人だけやで・・」

宴で酒を飲みすぎた彼は、どんどん大胆になり、その手は彼女の艶やかな

黒髪のほつれ毛にかけられた。

「張宿もいるでしょうが!」

彼女は翼宿のいつもと異なる言動に、トマトみたいにまっかっかになって叫んだ。

「まだ子供や。なんか酒のせいか俺・・おかしくなってしもうたみたいや。

 今日のお前、そうやって宮廷服着て、ちゃんと化粧したらどこぞの誰や

 わからんぐらいに別嬪やな・・」

「俺、本気でお前を口説いてみ・・」

彼の手が優しく頬にかけられ、首筋まで彼の顔が近づいてきたときだった。

「お二人とも、僕の目の前で何やってるんですか!?」

張宿がこの場の甘い空気をぶち破るように言った。

「どわーっ、張宿、お前、字でたんか!?」

「いや、いやーね・・張宿。黙って聞いてたなんて。翼宿、お酒に酔って節操がなくなってたみたいで、介抱してただけだから

 誤解しないでね!」

二人は大慌てで何とか平常心を取り戻そうと取り繕った。


「もう~さっき居眠りして、机に頭をぶつけたときから気づいてましたよ」

「ほんとにお二人とも、何のん気にいちゃついてるんですか?」

張宿はあきれ返った顔で大人二人組を見つめた。


「ここはそんな悠長な国じゃないんですよ!?あ、そーだ、軫宿さんはどーなりました?」

元の聡明な子供に立ち返った張宿はとうとうと早口でまくし立て始めた。

「へ、どうって、井宿がどないかしてくれとうはずや」

翼宿は、なにをそんなにあわてる必要があるのかといいたげに言った。

「それは良かったです。じゃあ、お二人ともすぐに荷物をまとめてください!今夜にでも

 この国を離れなきゃならないです!男とばれないうちに・・」



「それ、どういうことなの!?」

畢宿の顔がさっと引きつった。





「柳宿、柳宿!起きてちょうだい!」

「なぁ~にぃ、こんな時間に?まさか畢宿ちゃん、やっとあたしの魅力に気づいて夜這いにでも来てくれたのぉ?」

「この人は・・いったいどんな夢見てたのよっ!?さあさあ、服着替えて静かに来て・・」


それからはめまぐるしく物事が行われた。

畢宿は着のみ着のまま部屋を抜け出、ドンドンと拳で扉を叩いて近くの

部屋の柳宿を呼び出した。



「美朱、鬼宿、起きい!えらいこっちゃで!」

「どしたの翼宿?」

「柳宿は畢宿が起こしにいっとうさかい、お前はタマ早く起こせえ!」


同じく翼宿は張宿を従えて、朱雀の巫女とその連れの部屋を拳で叩いて呼び出していた。


巫女の部屋に集まった七星士達は、知恵袋の張宿より、「ここは男尊女卑の国で、もし、自分達が男だとばれた場合、

目玉を抜かれ、一生、牢に鎖で繋がれて女の道具にされること、抵抗するものは

その場で処刑されること」などを細々と教えてもらった。

そしてその彼らは今、そっと閂をはずし、寝室の扉を開けようとしているところだった。


「井宿、軫宿!」

回廊を曲がって何かに追われるように駆けてくる七星士の姿が見える。


「皆、にっ、逃げるのだ~!!」

井宿がぜいはあ息をはずませながら叫んだ。


「見つけたぞ、男どもめ!」

鞘ががちゃつく音や、怒号の声、

剣や槍や大刀や錘を手に手に大勢の女兵士達がせまってくるのだった。


「何だありゃ~皆、逃げるぞっ!!」

鬼宿の鶴の一声で、皆いっせいにくるりと敵に背を向けて駆け出した。


「あいつらも全員男だ。生け捕りにしてしまえ!」

女隊長らしきと思われる人物が指を引っ立てて叫んだ。


「ひどーい、あたしは正真正銘の女よっ」

「そ~よ、たくっ、失礼しちゃう」

「おめーは男だろーが!」

泣きそうな顔で否定する朱雀の巫女にちゃっかりと

便乗した柳宿は、堂々と自分の性別を忘れて否定したので

それを耳にした鬼宿に突っ込まれてしまった。

その横を疾風のごとき勢いで畢宿が通り過ぎていった。



「おめーも否定しろよっ!」

鬼宿は「お前も女だろーが!」とあきれかえって我関せずの

畢宿の背に向かって叫んだ。



「わっ!」

「きゃっ!」


鬼宿、畢宿、翼宿は背後から飛んできた四本もの

矢にぎくりとして何とか避けた。


「後ろから攻撃するなんて!」

ちらと冷や汗が流れる顔で背後の兵士たちを睨みつけながら畢宿は叫んだ。

「くっそー、これやから女は嫌いやっ!」

「ちきしょー、女相手じゃ戦えねえ!」

隣に並ぶ翼宿と鬼宿はぶつくさいいながら必死に走っていた。





「野蛮人め、これでも食らえっ!」


怒った畢宿は剣の鞘に手をかけ、必死の形相で振り向きざまに「流虎水」を

放った。


白虎の形をした水流は幾手にも別れ、「何だあれは!?水が向かってくるぞ!!」

と騒ぐ女達めがけて怒涛の勢いで襲いかかった。


「やったぜ!奴ら、これでしばらく追ってこれねえ!」


鬼宿はガッツポーズをして叫んだ。


「こいつ・・ほ、ほんまに攻撃しよった・・」

翼宿はぽかんと、神剣を手に得意げな顔をしている畢宿を見上げて呟いた。


「早く、北甲国が見渡せる西の城壁に行きましょう!あの人達が逃げている間に!」

張宿の言葉に再び朱雀七星+白虎七星達は走りだした。









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