鬼宿とは砂漠地帯を馬が共倒れになるまで走らせたので、途方にくれて歩いていた。

容赦なく照りつける直射日光にお腹は空き、喉はからからに乾いた。

「鬼宿・・すごく暑い。このままじゃ美朱を探す前に私達、もうだめかも・・」

は額からにじみでる汗をぬぐうと絶望的につぶやいた。

彼女の立派だったネイビーブルーの縞の衣装も汗でぐっしょりとぬれてべとついたり乾いたりした。

鬼宿は真紅の上着を脱ぎ捨てており、彼女の衣装と同様似たりよったりの有様だった。

「おい、どうしたんだ・・しっかりしろ!」

そして、廃墟と化した水車小屋のがそこここに建つ場所にくると、ついに彼女はばたりと倒れた。

一人残った鬼宿はを助けおこし、必死にその頬を叩いて叫んだ。

「くそっ、この暑さにやられたのか!」

鬼宿は風車小屋の瓦礫跡にそっと彼女を横たえるとくやしそうに叫んだ。




「その娘は僕が介抱しよう」

鬼宿がどうすべきかまごついていると、浅黒い顔立ちに長い黒髪をたらした羊飼い風の男が音もなく風車小屋の

瓦礫が連なる棟に向かって歩いてきた。

「鬼宿、それに、どうしたの?」

その男の後ろから現れたのはなんと彼らが血眼になって探していた朱雀の巫女だった。

「僕は白虎七星士。はかつての仲間だ。君は朱雀七星の鬼宿だね?

 朱雀の巫女から話はきいた。彼女はこの先でぐったりしていたところを見つけてつれてきたんだ」

不思議そうな顔をしている鬼宿に聡明そうな目を向け、その男はこれまでのいきさつを説明してやった。

「婁宿・・なの?」

婁宿が口に強い気付け薬のブランデーをつぎこんでくれたおかげで

ぼんやりと意識を回復した。

「そうだよ。。君達が探している西廊国はこのすぐ先だ。

 君達は見たところ、相当疲れてるようだね?僕がそこまで案内しよう」

「本当か!?そりゃ助かった。よかったな美朱!俺達やっと、西廊国に行けるぞ!」

愛しい朱雀の巫女をその腕にかき抱いた鬼宿は感極まって叫んだ。

「婁宿・・本当にあなたなのね?私・・ずっと、あのときのことをあなたに謝らなければと・・それにとても会いたかった!」

「僕もだ。まさかこんな砂漠で君と再会できるなんて思いもしなかった。とにかく無事に戻ってきてくれて嬉しいよ」

婁宿の差し出した優しい腕には迷わずしがみついた。

だが、この時、二人は知らなかったのだ。

自分達がとっくに氏宿の作り出した「甘い幻覚」の罠に入り込んでしまったことを。



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