ハリー、 は急いで大広間に向かっていた。

10月、ハロウイーンの季節だ。もう大広間では全学年の生徒が集まり、美味しいご馳走に舌鼓を打っているとこだろう。

ハリーは先ほどまでクィディッチの練習、そして、根性悪のフィルチに捕まり、

はこの間起こした「黒い炎」のことでスネイプ教授に呼び出され、すっかり遅くなってしまった。

ちょうど、二人は玄関ホールで鉢合わせし、今に至るわけである。

「デザートぐらい残ってないかしら?」 が走りながら言った。

「そうだといいけど・・・え?」ハリーが突然、立ち止まった。

「引き裂いてやる・・・八つ裂きだ・・・殺してやる・・・・」

冷たい、残忍な、体の芯まで凍らせるような声。

「ハリー、また悪寒がするの」

途端に彼女が真っ青になって震えだした。

「あの声だ!あの時と同じだ!」

ハリーが思い出したように叫んだ。

「殺してやる・・・血の臭いがする・・・血の臭いがするぞ!」



「もうダメ!この気味悪い声は何なの!?」

彼女は力が抜け、ヘナヘナとその場にくず折れた。

「誰かを殺すつもりだ!来て!」

そう叫ぶとハリーは の腕をつかみ三階への階段を一度に三段ずつ吹っ飛ばして駆け上がった。

ハリーと は三階をくまなく飛び回った。

二人は、角を曲がり、最後の、誰もいない廊下に出た。

がふと近くの壁を見上げた。

彼女は悲鳴をあげた。


ハリーも驚いて後ろにとびさすった。

近くの壁になにか光っていた。血文字だ。べったりと大きな文字が壁にぬりつけられていた。


秘密の部屋は開かれたり

継承者の敵よ、気をつけよ



そして、その下には松明の腕木に尻尾をからませてカッと目を見開いたまま硬直しているミセス・ノリスの姿があった。



の絶叫を聞きつけて大広間で食事をしていた生徒、教師陣が次々と駆けつけてきた。

血文字と猫を見て気絶する生徒、なにかわけのわからないことを口走る生徒で辺りは一時、騒然となった。


おぞましい光景を前の方で見ようと押し合っている生徒らを押しのけて、ようやくロンとハーマイオニ―が二人の側にやってきた。

二人は真っ先に目に飛び込んできた光景を目の当たりにし、悲鳴をあげた。





「継承者の敵よ、気をつけろ!次はお前の番だ!「穢れた血」め!」

四人のすぐ後ろにドラコ・マルフォイが冷たいアイスブルーの目をぎらぎら光らせながら立っていた。

その言葉はあきらかにハーマイオニ―に向けて発せられたものだった。


人だかりを見つけてフィルチがやってきた。飼い猫の異常な姿に彼はたじたじと後退りをした。



「お前だな!お前が殺ったんだ!あの子を殺したのはお前だ!俺がお前を殺してやる!!」

フィルチの目が真っ直ぐにハリーをとらえ、彼はハリーの首を絞めようと飛びかかった。

「やめろ!僕じゃない!」

ハリーは必死に抵抗して応戦した。

「やめて下さい!やめて!!」

「やめろ!その手を離せ!」

「誰か、誰か先生を呼んで!!」

ロン、 がハリーからフィルチを引き剥がそうと格闘し、ハーマイオニ―は生徒らに向かって大声で叫んだ。

「アーガス!」

「校長!?」

ダンブルドアがいいあんばいに他の数人の教師を従えて現場に到着した。

校長は松明の腕木から素早くミセス・ノリスをはずし、今は手を離しているフィルチとハリー達に一緒に来るように命じた。


一行は事件現場から一番近いロックハートの部屋に入った。

「アーガス、猫は死んでおらんよ。」

机の上にミセス・ノリスを置き、くまなく調べ終えた校長が言った。

「死んでないですと?」

フィルチが声を詰まらせた。

「石になっただけじゃ。ただし、どうやってこの姿になったかはワシには答えられん」

「あいつに聞いて下さい!」

フィルチが涙でぐちゃぐちゃになった顔でハリーを見据えた。

「二年生がこんなことをできるはずがない」

ダンブルドアはその事実をきっぱりと否定した。

「最も高度な闇の魔術をもってして初めて・・」

その言葉には一瞬ギクッと強張った。




彼女はつい先日、無意識のうちにスリザリン生めがけて闇の魔術でしか作り出せない「黒い炎」を放った。

一緒に入ってきたマグゴナガル教授、スネイプ教授がちらりと気難しい顔をして彼女を見た。

そう、ここに例外の生徒がいる。

だが、彼女のはずがない、彼女のような純粋な汚れなき心を持つ者に闇の魔術は完璧にはつかいこなせない。

二人の教授はそう確信していた。

「あいつが、あいつは見たんだ!私の事務室で、クィックスペルから来た手紙を見やがったんだ!!

 私が出来そこないのスクイブだってことを知ってるんだ!!」



「僕、ミセス・ノリスには指一本触れてません!!」

の頭の中でフィルチとハリーのやりとりがぼんやりとこだました。

結局、証拠が何ひとつないというマグゴナガル、ダンブルドアのとりなしで事態は収拾を迎えた。

「アーガス、君の猫は直してあげられますぞ、マンドレイクをスプラウト先生が手に入れられてな・・」

「帰ってよろしい」と言われ、教室を出ていくハリー達にダンブルドアの穏やかな声が追いかけてきた。




「ミス・ 」入り口のところで はスネイプに呼び止められた。

「何ですか?」

スネイプはフィルチに聞こえないように小声でヒソヒソと喋った。

「お前は例外で闇の魔術が使える、その事を忘れるな。警告しておく。ポッター達との妙な行動は避けることだ」

「今度何かあったら言い逃れはできないと思うんだな」


「すみません」 はボソリと申し訳なさそうに謝った。

「早く行け・・」

こちらを疑わしそうに見やったフィルチの視線に気づき、スネイプは 慌てて彼女を廊下に追い出した。




それから数日、学校中がミセス・ノリスが襲われた話で持ちきりだった。

フィルチはあの血文字を消そうとやっきになり、一日に何回もあの壁を落書き落としでゴシゴシとこすっているらしい。




「ねえ、 。ミセス・ノリスがあんな事になっちゃってすごく可愛そう・・」

「ジニ―、心配しなくてもマンドレイクが採れたら元に戻るわよ」

「本当?」

「ええ、本当よ。私授業でマンドレイクの効能について習ったもの。」

昼下がりの談話室では といつの間に親しくなったかウィーズリーの末っ子がおしゃべりしていた。

「あら、

そこへクリーム色の猫が伸びをしながら会話に入り込んできた。




「わあ、可愛い猫ね・・」

無類の猫好きのジニ―が嬉しそうに の膝の上に飛び乗ってきた猫を眺めた。

「あたしもペットに猫が欲しいわ。兄さん達のお下がりじゃなくて私だけのものがね」

ジニーはクリーム色の塊を愛しそうになぜて、うらやましそうに言った。



「あら?ハーマイオニ―が呼んでる。ごめん、この猫ちょっと預かっといて」

談話室の入り口で手招きしているのが目に入ったは、

ジニ―の手にクリーム色の塊を押し付け、一目散に飛んで行った。




「どうしたの?」

「いいから、ちょっとこっち来て!」

ハーマイオニ―はそういうと を三階のあの廊下まで引っ張っていった。

、これ見てくれ!」

あの血文字の書かれた壁の下にハリーとロンがいた。

「焼け焦げだ・・こっちにも」

ハリーは四つんばいになって何か手がかりはないかと調べていた。

「これだよ、このクモ!!」

ロンが悲鳴を上げた。

「来てみて、何か変よ!」

ハ―マイオニ―が を呼んだ。



それもそのはず、血文字の書かれた壁のすぐ下を何十匹のクモがガサゴソと先を争って這い出そうとしていた。

、このクモ変だと思わない?」

ハリーが顔を上げて聞いた。

「そうね・・まるで何かに追いかけられてそれから逃げ出そうとしてるみたい」

がわけがわからないというように呟いた。




「ねえ、クモがこんな動きをするのみたことある?」

ハーマイオニ―もロンに尋ねていた。

「僕、クモが大嫌いなんだ・」

「あいつらの動きが嫌なんだ」

ハーマイオニ―が彼の可愛らしい答えにクスクスと笑った。



「笑いごとじゃないよ!本当に世界一嫌いなんだ!」

ロンは急にむきになって怒った。




それから四人は談話室に戻り隅の方で額をつき合わせてヒソヒソと雑談した。

「ねえ、秘密の部屋については私、本で調べたからだいたいのことは分かったけど・・」

ハ―マイオニ―だ。

「つまり、私達がおおいに疑問を感じているのは・・。」

だ。

「穢れた血を追い出したいと思ってるのは誰でしょう?」

ハリーが先を続けた。

「マルフォイだろう?」

ロンが実にそっけなく答えてくれた。

「だって壁の文字は「継承者の敵よ、気をつけよ!」、それに次はお前の番だぞ、穢れた血め!

しかもあいつの家族は全員スリザリン出身ときてる。パパに聞いたらあいつの父親も相当な悪玉だってさ。

あいつならサラザール・スリザリンの末裔だっておかしくないぜ」

ロンはそこまで見事に言い切った。

「あいつなら秘密の部屋の鍵をあずかってるかもしれない・・」

ハリーが納得して頷いた。



「そうね、その可能性はあると思うわ」

「そこで、それを証明するために今からざっと学校の規則を破らなきゃなりません。」

ハーマイオニ―が議論はこれで終わりだというふうに締めくくった。

「それってまさかとてつもなくヤバイ事?」

はワクワクしながら尋ねた。





「ええそうよ!私達がスリザリンの談話室に忍び込んでマルフォイに正体を悟られないように幾つか質問するのよ」

「不可能だ」ハリーが却下した。

「いいえ、そんなことないわ」

ハ―マイオニ―が楽天的に言った。




「ポリジュース薬よ!」

「それ、何なの?」

ロンとハリーが同時に聞き返した。

「ちょっと前の話じゃない!?聞いてなかった?」

がキョトンとした顔で二人を眺めた。

、僕らがスネイプの話をまじめに聞いてるとでも思ってたのかい?」

ロンが呆れたように呟いた。

「はあ・・ポリジュースは自分以外の誰かに変身するクスリよ!」

がロンとハリーに急いで説明してやった。

「そう、その通りよ、そこで なら家に科学者がいるから分かると思うけどこのクスリ、

材料を手に入れるのが難しいわ。だって作り方の書いた本が禁書の棚にあるほど危険なのですからね!」

ハーマイオニ―は難しそうな顔をしてさらにこう付け加えた。

「それと、もう一つ大問題があるのよ。禁書の棚にある本を持ち出すには先生のサイン入りの許可証が必要なの」

「うわぁ、そりゃやばいぜ。そんな本が読みたいなんていったら変に思われるぜ。」

ロンががすかさずつっこんだ。





「理論的な興味だけだと思い込ませればうまくいくと思うわ」

ハ―マイオニ―はよくよく考えてから言った。

「じゃあ、スネイプ先生は真っ先に除外ね!」

が元気よく言った。

「同感。スネイプには人の心を読む力があるそうだよ」

ハリーもロンもその意見に従った。




「じゃあ、残るは・・あのロックハート先生?」

ハ―マイオニ―がおずおずと言った。

「ご名答!そう、あの先生の出番よ!」

がにんまりとほくそえんだ。

「何だって?あいつ?」ロンが嫌そうにしかめっつらをした。

「ロンが頼まなくてもいいわよ。私か、ハーマイオニ―、うん、女の子が頼んだ方が騙されやすいわね」

がにっこりと笑って言った。

「だけど、いくらロックハートでもそう簡単にだまされるかな?」

の笑みにドキッとしながらハリーが言った。

「大丈夫、やるしかないわ。あの人の著書のクスリの部分をネタにすればいいわ。それと、

ロックハート先生にサインを頂くのはこの私ですからね!」

ハーマイオニ―はそういうとうっとりと夢見る表情になった。




「またいつもの熱発作が始まったぜ」

ロンがうんざりとした顔になった。

「いいじゃない、今回は彼女にまかせましょうよ」

がポンポンとロンの肩を叩いて慰めた。


「後は神のみぞ知るのみ・・・だね」

ハリーは の綺麗な横顔を見て、頬を赤らめながら呟いた。








 ピクシー妖精の事件以来、ロックハートの授業はとてもつまらないものになった。

ロックハートは自分の著書を拾い読みし、その場面の再現を行っていた。そして、たいてい相手役はハリーが務めていた。

「ハリー、大きく吠えて・・」今日の再現シーンは狼男との出会いだ。



その様子を見ていたは、口に手を沿えて、そっと欠伸をかみ殺した。

「まあ、 なんて不謹慎な・・」

隣席のハーマイオニ―があきれ返った表情になった。


「だって・・この授業退屈なんだもの。なんか、、もっとパーッと闇の魔術の防衛術らしい華やかなものを期待してたのに」

「でも、彼の著書って最高だと思わない?著書を読んでいるだけで私達、すごくいろんな事を学んでると思うわ!」

ハーマイオニ―がロックハートの方をうっとりとした表情で眺め、ウキウキと に向かって反論した。



「私、だいぶん前にフレッド&ジョージにもらった夢見粉があるのよ。これ試しに撒いてみようかな?ちょうど

 皆退屈してるし・・二人が授業中に撒いたらとても面白い事になったんですって〜♪」

そういうと はニヤリとし、ゴソゴソと、ローブのポケットから粉袋を取り出そうとした。

「やめなさい!何やってるの?」

ハ―マイオニ―が間一髪で気づいて彼女につかみかかった。

「返してちょうだい、さっきのは冗談、あ〜もうっ!」

は夢見粉をハーマイオニ―から取り返そうと身を乗り出した。だが、二人がもめていたちょうどその時、終業のベルが鳴り響いた。



皆はぞろぞろと教室をあとにしていた。

ハリーは教室の一番後ろに戻り、そこで待機していたロン、そして慌てて到着したハーマイオニ―、 と一緒になった。

「今だ、行け!」

「皆いなくなったわ」

ロン、 が周りを確認してからハーマイオニ―に声をかけた。





ハーマイオニ―がロックハートのデスクに近づいていった。

「何かな?ミス・グレンジャー」

彼女に気づいたロックハートがにっこりと微笑んだ。



ハリー、ロン、 はその間廊下に出て待機することにした。

「お待たせ」

数分後、教室のドアが開いてハーマイオニ―が戻ってきた。

「うまくいったわ」

その足でハリー達は図書館に出向き、例の本をまんまとせしめた。



「クサカゲロウ、満月草、ニワ柳」10分後、四人は嘆きのマートルのトイレに立てこもっていた。

「うん、こんなのは簡単ね、生徒用の材料棚にあるから自分で勝手に取れるわ。ニ角獣の粉末、毒つるへびの皮の千切り・・」

「この二つは手に入れるのがちょっと難しいんじゃないの?」

ハーマイオニ―と一緒に本を熱心に覗き込んでいた がうなった。

「僕が心配してるのはその事だよ。この二つ、生徒用の棚にあるわけないだろう。

じゃあ、どうするんだい?スネイプの個人用保管倉庫に盗みに入るとか・・」

ハリーが横から突っ込んだ。




「それと、ここ、変身したい相手の一部ってあるだろ??僕、クラッブの足の爪なんか入ってたら飲まないからね!!」

ロンが本の項目に目を通しながら憤慨して言った。




「やるの?やらないの?」

「私は規則を破りたくないわ。でもやるしかないのよ!」

怖じ気づいているハリーとロンに向かって とハーマイオニ―が目をギラギラさせながら詰め寄った。

無条件降伏をしたハリーに対して、「でも、足の爪だけは勘弁してくれ・・」とロンは条件をつけて認めた。

「決まったわね」

ハリーとロンの返答で嬉しくなったハーマイオニ―と はバシッとお互いの手を叩きあった。



「じゃ、これで予定は終わり!」

ハ―マイオニ―はそう言うと古い本をバタンと閉じた。

「ハリー、明日のクィデッチの試合頑張って。実況の方もしっかりと力を入れさせて頂くわ!」

トイレから出るとき、ひょいっと は背伸びをして、ハリーに耳打ちした。

の顔が間近にきたことで、彼は顔だけでなく耳まで真っ赤になってしまった。

「頑張れよ、マルフォイに負けんな!!」

その様子を見ていたロンは親友の肩を力いっぱい、バシッと叩いて活を入れてやった。




そして迎えた翌日―――――


の元気な声が実況席からグラウンド全体に響き渡った。

試合開始の笛が鳴った。選手が矢のように飛びだした。

「調子はどうだい?傷物君?」

シーカーのハリーの下をマルフォイのニンバス2001が通り過ぎた。

ハリーの髪が逆立つほど近くをブラッジャ―が掠めた。

ジョージが棍棒で飛んできたブラッジャ―を力いっぱいスリザリン側に打ち返した。

「危なかったな」

だが、ジョージが打ち返したブラッジャ―がブーメランのようにハリーのところに戻ってきた。

ハリーはひょいと急降下してブラッジャ―を交わした。

それでもブラッジャ―はハリーの頭を狙い撃ちすべくビュンビュンと追いかけてきた。

「やったぞ!」

今度はフレッドがブラッジャ―を思いっきり棍棒で叩き落した。

しかし、それでもブラッジャ―はハリー目掛けて襲い掛かってきた。




「スリザリン、リード」

「60対0」

実況席からリーと の声がかわりばんこに聞こえてきた。

「タイム・アウト!!」

フーチの笛が鳴り響いた。

どうやら狂ったブラッジャ―に気づいたジョージ&フレッドがキャプテンのオリバー・ウッドにサインを送ったらしい。

観衆のスリザリン生がワーワーとタイム・アウトを取られた事について野次っている。

実況席のリーと の所にも伝言メモが回ってきた。




「えー、ただ今入ってきた情報によりますと・・」

が素早くメモの内容を読み上げた。

「グリフィンドール側に何か大変な不備が起きた模様です・・」

「試合再開」を求めるスリザリン側からいっせいに野次が飛んだ。

「皆さん、少しお待ちください!!ただ今、調整中です」

がグラウンドのフーチとオリバーに目をやりながら言った。


「試合開始!!」

ようやくフーチ審判の笛が鳴り響いた。

「バレエの練習かい?ポッター」

地面を蹴り、再び襲い掛かるブラッジャ―を避けようと空中でばかげた動きをしている

ハリーを見てマルフォイがせせら笑った。

「こんな無様な君の姿を見て実況の彼女はなんていうかな?」

マルフォイはひどく楽しそうにケタケタと笑った。

「黙れ、マルフォイ。彼女のことを口に出すな!!」

ハリーが何とか狂ったブラッジャ―を交わしながら怒鳴った。

「僕がスニッチをつかめば、彼女はどう思うかな?」

マルフォイがニヤニヤとした。




ハリーがちょっと油断した隙にブラッジャ―がハリーの肘を強打した。

彼はあまりの痛さに悲鳴をあげ、かろうじて箒にしがみついた。



ハリーを視線で追っていた の悲鳴がマイクで何倍にも拡声されて会場内に響き渡った。

「ブラッジャ―が、シーカーの腕を強打しました!!ハリー選手大丈夫か?」

同じくハリーを追っていたリーがマイクで実況した。

ハリーは使いものにならなくなった腕を今だなお、襲ってくるブラッジャ―から庇っていた。

その時、ハリーとマルフォイが同時にスニッチを発見、物凄い勢いで突っ走った。

二人は物凄い勢いで急降下し、スタンド席の近くの狭い通路をお互い、どつきあいながら大滑走した。




「二人は何処いったんだ??」

「あんな狭いとこはいったら観客席から見えないわ!!」

ロンとハーマイオニ―がぴょんぴょん飛び跳ねながら二人の姿を目をこらして探していた。

「えー、ただ今、ハリー選手とマルフォイ選手がスニッチを見つけた模様ですが、

ここ実況席から全く見えない位置に入ってしまったので状況が理解できません!!」

は困った様子で実況を続けていた。


突然、観客席からすごい歓声が上がった。


ハリーとマルフォイがやっと死角からでてきたのだ。

二人は今やもう、どつきあうことを忘れ、お互いの箒の上に二本足だけで立ち、スニッチつかみとろうと思いっきり右手を伸ばしていた。

「いけっ、ハリー!!」

「さあ、栄光のスニッチはどちらの手に渡るか?」

リーと がマイクをひったくって大声で叫んだ。


ハリーがマルフォイより一瞬早く、思いっきり、箒からジャンプしてスニッチをもぎ取った。

「素晴らしい、ハリー選手スニッチを取りました!!」

「グリフィンドール、優勝です!!」

リーと の実況がハリーの薄れていく意識の中でこだました。

「勝ったんだ・・」

それだけ呟くとハリーは痛みにたえかねて意識を失った。

再び意識の戻った彼の視界に真っ先に飛び込んできたものは、ロックハートの白い、輝くような歯だった。






「あんなにアホだとは思わなかった!!」

今、は烈火のごとく怒っていた。

あの後、クィディッチで腕を骨折したハリーは「私が直しましょう」としゃしゃりでたロックハートに右腕の骨を全部抜き取られてしまったのだ。

いつもはロックハートに好意的な彼女もこの時ばかりは我慢ならなかったようだ。

の言うとおりだ、ハーマイオニ―。これでもロックハートの肩を持つっていうの?え?」

医務室に運ばれたハリーがパジャマに着替えるのを手伝いながら、ピッチリと覆われたカーテン越しからロンーが話しかけた。

「誰にだって間違いはあるわ。それにもう痛みはないんでしょう?ハリー」

ハーマイオニ―がおろおろと自身なさそうに反論した。

「ああ、痛みはないけど、おまけになーにも感じないよ」

ハリーはハーマイオニ―に向かって、嫌味たっぷりに返答した。




それからハリーの元にはフレッド&ジョージ、オリバー、リー、その他グリフィンドール生らがひっきりなしに見舞いにやってきた。

その後数十分して、マダム・ポンフリーがやっとこさ見舞い客をハリーを休ませるために追い出した。

そして深夜12時、ハリーはふと目を覚ました。腕の痛みではない。ドビーが海綿でハリーの額の汗を拭っていた。

「ドビー?」ハリーはむくっとベッドから起き上がった。

「ああ、ハリー・ポッターは学校に戻ってきてしまった!!」

ドビーが打ちひしがれたように嘆いた。

「それに、お嬢様、お嬢様もドビーめの静止をお聞きになさらずに戻ってしまわれた!!」

ドビーは再びワンワンと嘆いた。

「ちょっと待って、お嬢様って誰のこと??」ハリーは急いで聞き返した。

「ハリー・ポッターと同じく、気高く、勇敢で優しい様でございますよ!」

ってあの伯爵令嬢の彼女かい?」

ハリーの眠気が急に吹っ飛んだ。

「そうで ございます。そのお方ですよ」

ドビーはそこでグッスンと鼻をかんだ。

「あなた様とお嬢様にはドビーが戻ってきてはいけないなんべんもと警告致しましたのに!!

ああ、なぜ汽車に乗り遅れたときなぜにお二方はお戻りにならなかったのですか?」

ドビーは非難するように彼を攻め立てた。

「ドビー、なぜここに来たの?それに僕と が汽車に乗り遅れたことをなぜ知ってるんだい?」

ドビーは唇をわなわなと震わせた。

「あれは、君の仕業か?」

ハリーはこみ上げてくる怒りを押さえながら言った。

「柵を通れないようにしたり、まさかあの時の狂ったブラッジャー、あれも君のせいか!?」

「その通りでございます」

ドビーは激しく頷いた。

ハリーはそこまで言ってのけると、ドビーの胸倉をむんずとつかんで怒鳴り散らした。

「どういうつもりだ?一時は君 のおかげでロン、 も退校処分になるとこだった。

それから君はブラッジャ―で僕を殺そうとしたのか?

え、彼女もそうか?彼女にも僕と同じように命の危険にさらしたのか!?」



「殺そうとしたのではございません。めっそうもない!!ドビーめは、ハリー・ポッター、様の命をお助けしたいのです!

ここに留まるよりは大怪我をして家に送り返される方がよいのでございます!

ドビーめはハリー・ポッターが家に送り返される程度に怪我をするようにしたかったのです!

それからお嬢様のお命が危険になるような事はこのドビーめはやっておりません!

なぜなら、ミナ女伯様にこのドビーめが直接お会いしまして嬢様をお屋敷に返すようはからいました。

大奥様(ミナ)は快く承知してくださいました。これでお嬢様の身の安全は確保されたわけです。

クリスマス休暇にはお嬢様はお帰りになられます。だから、ハリー・ポッター様!!お願いです!家に帰って!!

あなた様はここにいてはいけません!!またしても秘密の部屋の

闇の罠が開かれようとしておるのですよ!!」


「ドビー、それじゃ秘密の部屋が本当にあるんだね?そしてそれが以前にも開かれたっていったよね?教えてよ!ドビー!」

ハリーは最後の言葉を聞き逃さなかった、そして、ドビーの肩を激しく揺さぶった。

「ああ、言えません。言えないのでございます。家に帰って!ハリー・ポッター、お願いします!!」

しもべ妖精はキーキー叫んだ。

「僕はどこにも帰らない!それに本当に彼女を家に帰すのか?なんでそんな勝手なことをしたんだ!!」

ハリーは激しい口調になってこのしもべ妖精に詰め寄った。

ハリーの思考回路はもはや最悪な一途をたどっていた。

いつのまにかドビーの姿は消えていた。

そしてそれと入れ替わりに今や石に成り果てたコリン・クリ―ビーが隣のベッドに運ばれてきた。

「襲われたのじゃ」

「またですか?」

「秘密の部屋が再び開かれたということじゃ。」

「いったい誰が?」

隣のベッドから校長、マグゴナガル、校医の切羽詰った話声がハリーのところに響いてきた。



翌日、見事退院できたハリーはハーマイオニ―、ロン、 がいるであろう女子トイレに真っ先に向かった。

「もうすぐできるわ。あと毒ツルヘビとバイコーンの角があれば・・」

ハーマイオニ―が床にあぐらをかき、ビーカーの色を観察しながら言った。

「明日、魔法薬学の授業があるわ。そこで事を実行するんですって。」

が鍋をぐるぐるとかき混ぜながら言った。

「私が実行犯になるわ。ハリー、ロン、。あなた達がひと騒ぎ起こしてスネイプを五分ぐらい足止めしていてくれればいいの」



それから、ハリーは三人にドビーが昨晩来たこと、秘密の部屋のことを話した。

「それじゃなおさら急がなきゃいけないわ」

が彼に熱心に言い寄った。

「これで分かったよ、ルシウス・マルフォイが学生のときに部屋を開けたんだ。

 親から子へ、そして今度はドラコへ秘密の部屋の開け方を教えたに違いない」

ロンが意気揚揚と言った。



この日はハリーにとってもう一つ特別な日であった。

決闘クラブの開催日だ。


「皆さん、さあ、集まって。私がよく見えますか?私の声がよく聞こえますか?結構!結構!校長から私がこの決闘クラブを

 始めるお許しを頂きました!」

午後八時、生徒の大半が大広間に集合した。

金色の舞台の上に今日は深紫のローブをまとったギルデロイ・ロックハートがスネイプ教授を従えて登場した。



「こちらは助手のスネイプ先生です。模範演技のおり、勇敢にも手伝ってくださるというご了承を頂きました。」

「マジかよ!相打ちで両方やられてしまえばいいと思わないか?」

ロンがハリーと に面白そうに言った。

「ああ、神よ。なぜ、あの先生なのでしょう?」

がこの世の終わりのような顔をしてロックハートを見上げ、悲しそうに嘆いた。

「まあ、 、失礼ね!彼よ、彼が決闘するのよ!!素晴らしいわ!!」

ハーマイオニ―の頬は今や興奮でバラ色に染まっていた。

「おい、あの熱発作何とかならないかかな?」

ロンはハリーにあきれかえって助けを求めていた。






「ご覧のように私達は杖を構えています。」

ロックハートの声だ。スネイプと向き合い、お互いに杖を前に突き出していた。

「三つ数えて最初の術をかけます!」

スネイプは完全に殺気だっていた。ロックハートをこのまま殺しかねない勢いだ。

「ではいきます、ワン、ツー、スリー・・」

二人は高く杖を振り上げた。

「エクスペリアームズ!」

スネイプが叫んだ。

ロックハートが舞台から派手に吹っ飛んだ。




「先生っ!!」

ハーマイオニ―が悲痛な声をあげた。

「アーメン・・彼に安らかな眠りがあらんことを」

がふざけて言った。ロン、ハリーはにやにやしていた。

「バカッ!まだ死んでないのよ!!」

すかさず、怒ったハーマイオニ―が ののわき腹を思いっきりどついた。

避けられなかったはハリーにぶつかって倒れた。

「大丈夫?」

ハリーがクスクス笑いながら彼女を助け起こした。

「ちょっとからかっただけじゃない」

はハーマイオニ―を睨みつけ、ちょっと膨れた。



「あれが、武装解除の術です。ご覧あれ!私は杖を失ったわけです」

よろめきながら舞台に戻ったロックハートが説明した。

「以上で模範演技は終了です。これから皆さんのとこへ下りていって、二人ずつ組にします。スネイプ先生お手伝い願えますか?」」

ここでスネイプの恐ろしい殺気に気づいたロックハートが慌てて言った。



嫌味なスネイプは真っ先にハリーのとこに来て、マルフォイと組ませた。

ハーマイオニ―はスリザリンのミス・ミリセント、ロンはシェーマスと組んだ。

「さて、ミス・ 。君だけ余りましたね?どうです?よかったら私と手合わせしませんか?」

ロックハートが余った彼女に素早く目を付け、ニコニコ顔で歩みよってきた。



「失礼、ミス・ とは私が組みますわ。」

とってつけたような気取った声が後ろから響いた。

「ああ、ミス・パーキンソン!ちょうど良かった。では、このお二人で決まりですね」

何も知らないロックハートが嬉しそうに言った。



相手はスリザリンのパンジー・パーキンソンだ。 の事を明らかに快く思っていないのが手に取るように分った。

「本当にイライラする子ね」

杖を構えた へのパンジーの第一声が浴びせられた。

「ちょっとドラコといちゃつきすぎじゃないの?それにしても、なんでグリフィンドール嫌いのドラコがあなたみたいな

イライラする子の事を好きなのかしらね?」

パンジーは怒りのあまり顔をゆがめた。

「あら、そう?あまりに馬鹿馬鹿しくて反論する気にもなれないけど、はっきりいっておくわ。私はあいつの事大嫌いよ」

はこの手の争いに関わりたくないので、実にそっけなく返答した。

「な、な、何ですって?そのあなたの生意気な態度が気に食わないわ。

 生意気ね、ちょっとグリフィンドールで人気があるからって!」

だが、それはパンジーの怒りに油を注いだだけだった。



「さあ、行きますよ!1、2」

ロックハートが二人に号令をかけた。

「待ちなさい!まだ始めとは言ってませんよ!!」

彼が静止をかけたが遅かった。

彼女の体は宙を吹っ飛び、かなりの距離を飛んで、床に思いっきり叩きつけられた。

「卑怯よ!!まだツーカウントまでしてなかったじゃない。」

はよろめきながら立ち上がり、非難した。

「決闘には卑怯もなにもないわ」

パンジーが冷たく言い放った。



「風よ来たれ! 」

むかっとしたは杖を構え、一番初めに頭に思い浮かんだ呪文を唱えた。

次の瞬間、見えない空気圧がパンジーの腹に命中し、彼女は思いっきり吹っ飛ばされた。



「そこまで!今からモデルになる組の決闘を行いますよ!」

ロックハートが完全にノックアウトされたパンジーや、他のまだ決闘が続いている組に停止をかけた。

「え〜、スネイプ先生が選んでくださいました。ミスター・ポッターとミスター・マルフォイにやっていただきましょう!」

皆がいっせいに注目した。

は最前列のハッフルパフ生ジャスティンの隣に来た。

ロンとハ―マイオニ ―は最前列から少し離れたところに席を取った。



ハリーとドラコが壇上に上り杖を構えた。

ドラコがフライングをして呪文を唱え、ハリーの体を吹っ飛ばした。

「リクタスセンプラ!!」

怒ったハリーがすかさず杖を彼に向けた。

銀色の閃光が見事に命中した。

「タラントアレグラ!!」

ドラコが杖を向けた。

ハリーの足は勝手にクィック・ステップを踏み出し、彼は笑い転げた。


はのんきに隣になったジャスティンと勝敗の行方を予想していた。

「フィニート・インカーティム!」

スネイプが叫んで呪文を終わらせた。

その後、スネイプはマルフォイに何かよからぬことを耳打ちした。

マルフォイがニヤリとほくそえんだ。




「では、再開!1、2、3!!」

ロックハートが号令をかけた。

「サーペンソーティア!!」

マルフォイがすばやく杖を振り上げ大声で怒鳴った。

周囲の生徒達の間から悲鳴があがった。

真っ黒で獰猛なヘビが壇上に落ちてきたのだ。




「動くな、ポッター」

スネイプがヘビににらまれて身動きできぬハリーを見てほくそえんでいた。

「私に任せなさい!」

ロックハートがはりきって杖を振り上げた。

大きな音がしてヘビはニ、三メートル宙を飛び、また、床に落ちてきた。

だが、ヘビは怒り狂い、ジャスティン めがけて滑りより、牙をむき出して攻撃の構えを取った。



「手を出すな!去れ!」

突然ハリーが低い声でささやいた。

するとヘビは急におとなしくなった。ヘビは床に平たく丸まり、従順にハリーを見上げた。

だが、恐怖のあまりジャスティンの右手に握られていた杖が落ちた。

せっかくおとなしくなったヘビがその鋭い音に敏感に反応してしまった。

ヘビは今度はまた牙を剥き出し、ジャスティンの右隣にいた に襲いかかった。

!!」スネイプが慌てて杖を振り上げようとしたが、距離があまりにも離れているので間に合わない。

ドラコは恐怖のあまり声が出せず、そのまま固まった。

「やめろ!」

ハリーが蛇語で命令したが時すでに遅し、の首元に蛇の牙は確実に近づいている。あと数センチというところまでだ。

「嫌〜来ないで〜!!」

彼女があまりの恐怖にかられ、持っていた杖をメチャクチャに振り回した。

すると杖から真っ黒な炎が蛇の喉を直撃し、黒蛇はあまりの苦しさにそこら中をのたうちまわった。



炎の勢いはどんどん強くなるばかりだ。

グリフィンドール生、スリザリン生、ハッフルパフ、レイブンクロー生は生きて間近で蛇の生殺し、いや本物の地獄絵図を見ることになったのだ。

その後、スネイプが杖を慌てて振り、黒焦げのヘビを消し去った。



「いったい、お前ら何を悪ふざけしてるんだ?あ、悪魔だ、悪魔の使いだ!!」

ジャスティンはハリー、 に恐怖の表情を浮かべると、くるりと背を向け、怒って大広間から出て行ってし まった。

スネイプは問題の二人 を鋭くさぐるような目つきで見ていた。

その上、周りの連中がヒソヒソと、何やら不吉な話をし始めた。

「悪魔だ。 はやっぱり闇の魔法使いだったんだぜ、あの噂通り。ああ、例のあの人の子孫かもしれな いぞ!」

「見ろよ、ハリー・ポッター様は秘密の部屋の継承者だ、いや、サラザール・スリザリンの子孫だ」



ロンとハーマイオニーは とハリーを慌てて人込みの中から引っ張り出した。

そして、そのままホールの外へ連れ出した。




「君はパーセルマウスだったんだ!!」

「今、何て言ったんだ?」

ハリー達は決闘クラブの後、人気のない談話室に戻った。

ロンはハリーを肘掛け椅子に座らせ、初めて口を聞いた。

「君はヘビと話ができるだろう?」

「それが何か?」

「それが、まずいんだよ。そんな能力は誰しもが持ってるものじゃない。ハリー、僕は君が蛇語を話すのをあの場で聞いた。

 君が何を話したか他の人にはわかりゃしないんだ。

 ジャスティンがパニックしたのも分かるな。君ったらまるでヘビをそそのかしてるような感じだった。

 あれにはゾッとしたよ」

「違う!僕はそんな・・」

ハリーはむっとして弁解しようとしたが、ロンはうなだれていた。



ロンはひどく青ざめていたが、このもう一つの事実を逃すわけにはいかなかった。


「君がヘビに向けて放ったあの黒い炎、あれは普通の炎じゃないんだ。黒い炎は黒魔術、つまり闇の魔法使いしか出せない特殊な炎なんだ」

「そんな!じゃあ、明日になれば皆が私のことを例のあの人の子孫だとか、

闇の魔法使い、悪魔の使いとかおおっぴらに指をさして言うわけ?」

ロンの言葉に はケタケタと自嘲気味に笑い出した。

「あら、もう一つ忘れてたわ。秘密の部屋の継承者はあの有名なハリー様と 様だって皆が噂するわ!」

彼女は椅子を蹴飛すような勢いで立ち上がると、気が狂ったように高笑いした。

「やめてくれ!」

ハリーが追い詰められた の姿を見て悲痛な声を上げた。

、やめて!ねえ、正気に戻って!!」

ハーマイオニ―は目の前でぼろぼろになっていく親友の姿大粒の涙をこぼした。

「どうせ私は普通じゃないんだわ!そうよ、伯母様も普通の人間じゃないし・・」

今度は は笑うのをやめ、馬鹿みたいに床に座り込んで泣き出した。



「ハーマイオニ―、彼女は混乱してる。彼女は自分が闇の魔法使いだと噂されてよっぽどショックだったんだろう。

 とりあえず、女子寮に連れてって休ませた方がいいよ」

「ここだと、じきに皆が戻ってきちゃうよ」

ハリー、ロンはハーマイオニ―にゆっくりと言った。

「分かったわ。 、さあ、行きましょう」

ハーマイオニ―が優しく彼女 の肩に手を回した。


やがて二人が部屋から消えてしまうとロンが重い口を開いた。


がおかしくなっちゃうのも分かるよ。これだけ立て続けに不審な事件が起きてるんだ。

 彼女は自分がやったって皆に後ろ指をさされるのが絶えられなかったんだ」

ハリーはがっくりとうなだれて言った。

「ハリー、さっきの事だけどサラザール・スリザリンはヘビと話ができることで有名だったんだ。だから――ああ、今度は学校中が君のことをスリ

ザリンのひ孫とかなんとか言い出すだろうな。参ったよ」

ロンはこれから起こる災難を予感して悲しそうに呟いた。


「だけど、僕は違う!それより彼女、とてもじゃないけど大丈夫じゃないよ」

ハリーは心配でたまらなくなった。

「ああ、 が本当に闇の魔法使いだと思うか? 信じられない!ああ、でもとんでもないこと言っちゃったよ。

 黒い炎は闇の魔法使いしか出せないって!」

ロニ―がまずそうに嘆いた。

「ロンのせいじゃないよ、彼女は闇の魔法使いじゃない!絶対に!」

ハリーはうな垂れる友人の肩をポンっと叩いてから、きっぱりと否定した。



翌日 は大広間の朝食に下りてこなかった。

ハーマイオニ―によれば猫の をなぜながらぼんやりとベッドに腰掛けているという有様だそうだ。

「部屋からでてこないわ。可愛そうに・・」

ハーマイオニ―が涙を浮かべながらベーコンを口に運んだ。

「そりゃ気も滅入るぜ、何しろ君の一番の理解者のだからな。」

ロンがモゴモゴと口に何か詰めながら言った。

「くそっ、 のどこが悪いんだ?彼女が悪魔?闇の魔法使いだって?

そんなによってたかって彼女を犯人にしたいのか!?皆、どうかしてるよ!!」

ハリーが腹正しさのあまりゴブレッドでテーブルを叩き、その音で周囲の生徒が目に恐怖の色を浮かべて振り返った。




その二日後、また新たな犠牲者が出た。

教職員の先生方によって、ジャスティンと首なしニックが石化して階段に倒れているところを発見された。

この事件はハリー、特に に決定的なダメージを与えた。

生徒達はハリー、今だ姿の見えぬ がやったとおおっぴらに噂した。

そして迎えたクリスマス休暇はハリー達にとって陰鬱なものとなった。

マルフォイ、クラッブ、ゴイルが学校に残るだけでなく、 が家に帰省し、二度とホグワーツに戻れないかもしれないのだ。




、あなた二度とここには戻れないかもしれないって本当?」

こっそりと部屋に持ち帰った昼食を彼女に渡しながらハーマイオニ―が尋ねた。

「う〜ん、まだ分からないわ。伯母様がね、絶対に今年は家に戻ってこいって手紙をよこしたの。

正確にはドビーが伯母様に会って私を家に帰すようにとりはからったんだけどね。

それで伯母様がホグワーツに安全が戻るまで私を行かせないっていうの。仕方ないわ、私は一度例のあの人にねらわれてるから、

伯母様としては二度と私を危険にさらしたくないのかも。ごめんなさい、ハーマイオニ―、ポリジュース薬一緒に飲めないわね」

はつっかえつっかえ言ってしまうと目に涙を浮かべ、カボチャジュースをグイッと飲み干した。



「なにいってるの?あなたが帰ってしまうことは残念でならないわ。」

ハーマイオニーはの髪を優しく撫でながら言った。

でも、ね、は未だに落ち着いていないし一度家に帰った方がいいと思うの。

 ここにいたら余計にあなたの傷は深くなるわ。二度と戻れなくなるかは別として、私は に元気になってもらいたいの。

 ねえ、あなたの本当の笑顔が

 もう一度見たいの!ロンもハリーもね。だから、家に帰ってゆっくりと落ち着けるのもいいじゃない」

そういいながら、ハーマイオニ―の顔は涙で濡れていた。

「ごめんね、ハーマイオニ―。やっぱり私が帰るのイヤなんでしょ?」

はハーマイオニ―の涙をそっと指で拭った。

「もう何も言わなくていいわよ。トランクもう詰め終わったの?玄関ホールに行きましょう。送ってあげるわ」

ハーマイオニ―はそういうと のトランクを引っ張って行った。

玄関ホールには生徒は一人としていなかった。皆午前中に帰省してしまったからだ。

外は大雪だった。

!!」

玄関ホールにはハリーとロンが居た。どうやらハーマイオニ―から事情を聞いたらしい。

「ハリー、ロン・・」

はまた泣きそうになってしまった。

「さよならは言うなよ!君のことだから絶対戻ってくるだろ!」

ロンがギュ―ッと を抱きしめながら言った。

「早く元気になってね」

少し立ってから飛びついてきた彼女を、頬を真っ赤に染めながらハリーは抱きしめた。

「早く、あっちに馬車が来てるわ。お別れは言わないわよ!」

ハーマイオニ―が今にも泣きだしそうなのを必死にこらえていた。

「ハーマイオニ―!!」

最後に は一番の親友のところに駆け寄り、ぐっと抱きしめた。

「あっ!そうだ 、ハーマイオニ―、あなたに預けていくものがあるの」

そういうと はゴソゴソと懐からクリーム色の塊を取り出して彼女の手に押し付けた。

「え?でもこれあなたの大事な猫じゃない!だめよ、預かれないわ!」

ハーマイオニ―はにクリーム色の塊を返そうとした。

「私、元気になって絶対にこっちに戻って来るんだからその時に返してね」

そういうと はハーマイオニ―にいたずらっぽくウィンクをした。

「分かった、大事にお世話させてもらうわ。

ハーマイオニ―は猫に呼びかけた。

猫は喉を鳴らしゴロゴロと嬉しそうに鳴いた。

「じゃあ、行くわね」

は馬車に乗り込みドアを閉めた。

ハリー達は馬車が見えなくなるまで見送っていた。










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