鶏の胸肉とデザートのアップルパイの夕食を終えた後、は
こっそりと屋根裏へと通じる木のきしむ階段をあがっていった。
「ママ、わざわざ見に来なくてもちゃんと片付けやってるって!あっ、今度は君か!」
彼女がぽんと木のドアを開けると、ロンが寝転がっていたベッドから
慌てて起き直って片付けるふりをしはじめるのが目に入った。
「ウィーズリーおばさんの姿なら影も形もないわよ。ここにくるまでつけられてないか確かめたから」
は床に腰をおろすと、クルックシャンクスの側に青いティンセルのリボンをした
を抱き下ろした。
「、来てくれてちょうどよかったわ。今、二人が持っていく教科書を詰めてるとこなの」
ハーマイオニーが部屋の隅に座り込んで、教科書の山を二つにわけてよりわけているところだった。
「私の方は幸い荷造りは終わったの。リーマスの目につかないようにバッグを隠さなければいけないのが
難点だったけど」
ハーマイオニーの作業に手を貸しながら、はキャンプベッドに腰掛けている
ハリーに言った。
「そっか・・君達、一緒に寝てるんだったっけ」
彼はふと、ウィーズリー家のルーピン夫妻に与えられた小さな寝室を思い浮かべて
胸がしめつけられた。
それはまるでが自分の恋人で、その恋人の不貞を見せつけられたかのような錯覚を起こさせた。
「、君はやっぱりルーピンの側にいたほうがいい。彼は結婚したばかりだし、だいたいおかしいよ。
新婚早々の奥さんが旦那さんの側にいないなんて。おいそれと君がいなくって彼がすごく悲しむのは目に見えてる――」
ハリーは愚かな妄想を振り払っての目を真っ直ぐに見つめて言った。
「待って。その先は言わないで。分からないの?ダンブルドア先生と洞窟に行った時から、
分霊箱探しに私はもうどっぷりとつかってしまった。今更ほっぽりだして自分だけ幸せな結婚生活に逃げるなんて出来ない相談だわ。
もともとあのグリフィンドールの剣は私の家に関わりのあるものだし・・ハーマイオニーとも相談したけど、
私達はどんなことをしてもあなたと一緒に行くつもりよ」
「でも――それじゃ」
「おい、黙れよ」
「私もはじめはがついて行くことに大反対だった。だけど、彼女も私も何ヶ月も前から答えは同じだった。
彼女と一緒に私とロンも行くわ」
ロンとハーマイオニーはしつこく食い下がるハリーとの間に立って意見を述べた。
「君達、本当に真剣に考え抜いたのか?」
ハリーはもはや今度こそあきらめきったようにつぶやいた。
「そうね・・私はこの計画の為にずいぶん前から持ち物をまとめ、
マッド・アイのポリジュース薬を盗んで、両親の名前と記憶を変えてヴォルデモートの追跡が難しくなる安全な
オーストラリアに避難させたの。もし、分霊箱探しから生きて戻ったら二人を探して魔法を解くわ。
もし、それが出来なかったら両親は私がいたことも知らずに幸せに暮らせると思う・・」
ハーマイオニーは気丈にもそう言ったが、あふれんばかりの涙をこらえていた。
ロンはハーマイオニーの肩に腕を回して慰めた。そして、ハリーの方を繊細さに欠けるという意味をこめてにらんだ。
「僕はそこまで考えてなかった・・ごめん、ハーマイオニー、それに・・僕はただ
君が他の結婚した人達のように幸せになってほしいって思って・・」
「ありがとう。あなたはあいかわらず優しいのね」
はハリーの手を取って暖かい微笑を向けた。
そこでハリーは、彼女のブラウンアイに隠された悲しみと大きな決意の色を読み取った。
そして、もう何も言うまいと心に決めた。
それから四人はフラーの結婚式のこと、最初に行く手はずになっているゴドリックの谷のこと、の両親が
住んでいたヨークシャー州の村のこと、ハーマイオニーがダンブルドアの書斎から取り寄せた本に書いてあった
分霊箱の破壊の仕方の方法等、時間の許す限りしゃべった。
翌日から結婚式までにはハリーの誕生日やら魔法大臣のスクリムジョールの突然の
訪問やら驚くべき出来事に見舞われた。
何とスクリムジョールはダンブルドアが四人に残した遺品を手渡しにきたのだった。
ハリーには金のスニッチ、ロンには火消しライター、ハーマイオニーには「吟遊詩人ビードルの物語」の本、
には合わせ鏡が贈られた。