「ようこそわたくしのクラスへ。この現世で皆様にお目にかかれてうれしゅうございます。

私はシビル・トレローニー。皆様がお選びになったのは、占い学。魔法の学問の中では最も難しい分野ですのよ。

初めにお断りしておきましょう。この学問ではあまり書物は役に立ちませんのよ。

したがって、眼力の備わっていない方には、お教えできることはほとんどありませんの」

新学期最初の授業は北棟で行われた。

トレローニー教授はやたら発音の語尾を伸ばす人で、占い学の教授にふさわしい大きなトンボメガネに、

スパンコールを散りばめたドレスをまとっていた。

腕にはトルコ石や水晶、珊瑚、ビザンチンの金貨、マリアのメダルがじゃらじゃらとついた腕輪をはめ、

折れそうな首には月長石の首飾りをかけていた。


「生徒達よ!心を広げて〜神秘の帳を見透かすのです!」

ハリー、ロン、ハーマイオニ―、 、他の生徒達は円卓を前にカップにお茶を注ぎ、

それを飲み干して残留物のお茶の葉から葉の模様を読み取ろうとしていた。

「試練と苦難、気の毒に・・あっ、でも待って!太陽らしきものがあるから・・これは大いなる幸福。

 それじゃ君は苦しむけどと〜っても幸せってことだな」

ハリーは「未来の霧を晴らす本」を参照しながらロンのお茶の葉の模様を読み取っていた。

「そこのあなた!」

トレローニ教授がネビルのところにやってきて言った。

「あなたのおばあ様は元気かしら?」

教授はグッと身を乗り出し、ネビルに詰め寄るように聞いた。

「は、は、はい・・たぶん元気だと思います」

彼はつっかえながら答えた。

「あたくしがあなたの立場でしたら、そんなに自信を持ってお答えできませんわ」

ネビルは教授の言葉にショックを受けたようだった。




「ああん、もうじれったいわ」

ハーマイオニ―は のカップを見ながら呟いた。

「書物が役に立たないからね・・えっと、解読するけど、ハーマイオニ―の葉の模様は小さな災難、でも新しい変化もあるかなと・・」

が懸命に本と格闘しながら言った。

「その通りですわ!あなたはなかなか優れた心の目をお持ちですこと。この手の模様は私ですらなかなか解釈しがたいですのよ」

「ありがとうございます」

いつのまにかトレローニ教授が来て、の眼力を褒めちぎっていた。

「さあ、さあ、そちらもカップを見せて」

そういうと、教授は彼女の隣席のハリーのカップを受け取った。

「おお、可愛そうな子!!あなた、あなたにはグリムが取り付いてますわ!!」

教授がカップを床に落とし、おろおろと叫んだ。

「グリム?先生、それって何ですか?」

ハリーは首を傾げていた。

「グリム、墓場に現れる死神犬、亡霊犬、古代エジプトの死者の神、アヌービスの生まれ変わりともいえる。

この犬は不吉な前兆、死の予告だ」

可愛そうなトレローニー先生は答えられないようだったので、

ハリーの2、3列後ろに座っていた黒人の生徒が教科書を読み上げて説明した。

「おお・・まだ若いのになんて可愛そうな子・・」

教授はハリーの頬に手をかけ、芝居がかった声で嘆いた。

「馬鹿馬鹿しい!グリムには見えないわ!」

ハーマイオニ―がどんよりとした空気を振り払うように言った。

ハリーはそういわれても、しばらくカップの底を見ていた。

底にはくっきりと茶色い葉が犬の形をかたどっていた。



次の授業はスリザリンとの合同授業「魔法生物飼育学」だった。

達はスキップをしながら、ハグリッドの小屋に向かった。

他の生徒達はぞろぞろと怪物の本を片手にハリー達の前を歩き、小屋がある森の中に入っていく。

「おい、ポッター!」

突然、マルフォイが後ろから呼びかけた。

そして、彼はその場で気絶するふりをした。

「ポッター!ディメンター!ディメンターが出たぞ!」

ハリーが何事かといぶかしんでいると、マルフォイが怯えた声で向こうのほうを指差した。

何人かの生徒とハリーが驚いてその方向を見た。



マルフォイが馬鹿にしたように口笛を吹き、クラップ、ゴイルと一緒に頭から黒いフードをかぶり吸魂鬼の真似をした。

「あんなの無視して」

ハーマイオニ―とが怖い顔でマルフォイを睨みつけ、彼の腕を両側からサッと取るとスタスタと歩き出した。

ハリーは一瞬目の前がクラクラとした。

この状況はまさに両手に花である。

後ろからマルフォイが小さく舌打ちするのが聞こえた。



「さあ、急げえ!早く来いやぁ!」

ハグリッドが教科書を片手に持って叫んでいた。

「お前さん達、もう教科書を開いたか?」

「どうやって?」

「ああ?」

「どうやってこの噛み付く怪物を開けばいいんです?」

すぐさまマルフォイの気取った声が後ろから飛んできた。

「だ、だ〜〜れも教科書をあけとらんのか?」

ハグリッドはガックリした。

その通り、クラスの大半は噛み付く教科書をベルトで縛っていた。

「お前さん達撫ぜりゃ〜良かったんだ!」

ハグリッドがあたりまえのことのように言った。

マルフォイは胡散臭そうに本の背表紙をなでた。

すると途端に本はおとなしくなった。

「タッタララ〜♪」

皆が教科書を撫でている間にハグリッドはササッと、木の陰から二匹のヒッポグリフのバックとビークを連れ出してきた。

マルフォイは汚物を見たように顔をしかめた。

「可愛い!!」

は歓声を上げた。

「あれが可愛いだって?君、ちょっと熱があるんじゃないのか?」

いつのまにか の近くに来たドラコが彼女の顔を不思議そうに眺めて言った。

「熱なんかないわ!世の中のどこを探してもあんなに可愛い生き物はいないわ!」

は上機嫌でドラコに振った。


納得がいかなかったが、ドラコは憧れの彼女に返答してもらったのが嬉しくて照れていた。

「こっちはバック、そんでもってこっちがビークだ!二匹合わせて俺はビーキーと呼んどる。

 え?どうだ、美しかろう?」

ハグリッドは嬉しそうに大声を出した。

「まず、イッチ番先に大事なことを言うとくぞ。こいつらは誇り高い。すぐ怒るぞ、ぜーったいに侮辱してはなんねぇ。

ハグリッドのこの忠告をマルフォイ、クラッブ、ゴイルだけは聞いてもいなかった。

「それから、こいつの側まで歩いていってお辞儀をする。そんで待つんだ。

こいつがお辞儀を返したら、触ってもいいっちゅうこった。もし、お辞儀をかえさんかったら

すばやく離れろ!こいつの鍵づめは痛いからな」


「よ〜し、誰が一番乗りだ?」


ハグリッドの声に生徒達はそろろろとあとずさった。


ロン、ハーマイオニ―、その他の生徒は自動的に有名人二人をグイグイと前に押し出していた。

「おお、一番手はハリーと か!よ〜し、そんじゃハリーはバック、 はビークとやってみよう!」

ハグリッドが嬉しそうに二人をヒッポグリフからちょっと離れたところに連れて行った。

「さあ、落ち着けハリー、 。」

「目を反らすな」

二匹のヒッポグリフは鋭い目で二人を睨んでいた。

「そ〜だ、二人共それでええ。それ、お辞儀だ」

ハリーと は言われたとおり、軽くお辞儀をした。

バックとビークはまだ油断なく、二人 を見つめていた。両翼をそよそよさせているが動く気配は全くない。

「あー、いかん、二人共下がるんだ」

ハグリッドの声で二人はそろそろとあとずさった。

しかし、ここでどうしたことかバックとビークは二匹揃って前足を折り、優雅にお辞儀を返してきた。



観衆のほとんどがピィピィ口笛を吹いたり、拍手をしてくれた。

「くそっ、面白くない!」

ただ一人マルフォイだけは青リンゴをかじりながら、ハリーを睨みつけていた。

「ようやった!ようやった!よ〜し触ってもええぞ。嘴をなでてやれ」

ハグリッドは狂喜していた。

二人はほっと胸をなでおろし、ゆっくりとヒッポグリフの嘴をなでてやった。

「よ〜し、それじゃハリ〜、 、こいつらはお前さんがたを背中に乗せてくれるぞ〜」

二人が慌てて抗議する前にハグリッドはヒョイと二人をつまみあげ、バックとビークの背中に乗せてやった。

「そら行けぇ〜!」

ハグリッドは二匹のヒッポグリフの背中をばしっと叩くと号令をかけた。

バックとビークの巨大な両翼が大きく羽ばたき、地面を一気に蹴って大空へと急上昇した。

二匹のヒッポグリフは野を超え、山を超え、学校の大きな湖の上を大滑走した。


「ハリー、すごく楽しいわ〜こんなのはじめてよ!」

がポニーテールを振り乱しながらビークをバックの側に寄せていった。

それを聞いたハリーも調子に乗って、両腕を思いっきり水平に伸ばしてバックと一体化した。

前から吹く向かい風が二人の髪をびゅんびゅん乱れさせた。



ハグリッドが口笛を吹いた。

二匹のヒッポグリフはようやく森の方へ飛び、ドサッと地面に着地し、そのままハグリッドの所まで猛ダッシュした。

「ようやった、ようやった!すごかったぞ、二人とも」

ハグリッドが駆け寄ってきて、満面の笑みで二人をヒッポグリフからおろしてやった。

「初めての授業はどうだ?」

それから彼は二人の上に屈みこんで尋ねた。

「最高だよ、先生!」

ハリーと は嬉しそうに即答した。

観衆は大喜びで、戻ってきた二人に最高の拍手を浴びせた。

「へん、簡単じゃないか。ポッターにできるんだ。僕にだって」

いつのまにかマルフォイが大股でバックの所に近づいていった。

「そうだろう、醜いでかぶつの野獣君」

「マルフォイ、やめろ!」

ハグリットの顔色がさっと変わった。

ハグリッドが止めに入ったが遅かった。マルフォイは堂々とバックの真正面に来て罵ったあとだった。

怒ったバックは前足を思い切り振り上げ、マルフォイのちょうど左腕に前足を叩きつけた。


「痛い、痛い〜!僕、死んじゃう〜!」

マルフォイは鋭い痛みのあまり、何とも情けない声で叫んだ。

「大丈夫、かすり傷だ!」

ハグリッドがそそくさとマルフォイを抱え上げた。

「皆、授業はこれまでだ。教師の俺がマルフォイを医務室に連れて行く」

「こんなことをしてお前もあのデカ鳥も思い知らせてやる〜!!」

ハグリッドに抱えられたドラコは痛さに顔をしかめ、さんざん悪態をつきながら姿が見えなくなった。

「何て、馬鹿なの!」

が呆れて、小さく悪態をついた。



木曜日の昼食時、スリザリンのテーブルではマルフォイが左腕を骨折したらしく、腕を吊っていた。

「ドラコ、具合はどう?」

さっそく彼の隣に座ったパンジー・パーキンソンがとってつけたような笑顔で聞いていた。

「ひどく痛むの?」

「ああ」

マルフォイはいかにもものすごく痛そうなしかめっらをした。




「わざとらしい」

「何だよあれ」

「大げさな」

「全く馬鹿なんだから・・」

グリフィンドールのテーブルではロン、ハリー、 、ハーマイオニ―が

昼食のステーキ・アンド・キドニーパイを口に運びながら、スリザリン席の方を軽蔑して見ていた。

「マルフォイの奴、やっぱり引っ掻き回してくれたな」

ハリーが憎しみのこもった目つきをドラコに向けながら言った。

「ハグリッド、首にはならないよね?」

女の子たちは心配そうに言った。

「だけど、初日の授業であんなことが起こったのはまずいよね」

ロンも心配そうに言った。





かなり古びた洋服ダンスが揺れるたびに生徒達は震えた。

「さあ、この中には何が入っているか分かる人いるかな?」

「ボガ―ト、形態模写妖怪です。わたしたちが一番怖いと思っているものに姿を変え、怖がらせます」

真っ先にハーマイオニ―の手が挙がり、すらすらと説明した。

「すばらしい!私でもそんなに上手く説明できなかっただろう」

この日の最終授業はルーピン教授の闇の魔術の防衛術だ。

教室のうなぎの寝床のような部屋には職員室から運び込まれた古びた衣装箪笥がおいてあった。

「ボガ―トは暗いところを好む」

ルーピンは言った。

「今から彼らを外に出してやると、彼らはそれぞれ私たちがもっとも怖いと思っているものに変身する」

「 何かな、?」

ルーピンはすっと挙手した彼女を目に留めて言った。

「ですが、こんなに沢山の人がいる中で彼らが出てきても、一人、一人怖がるものが違うんですから、ボガ―トはいったい

 何に変身したらいいのかこんがらがるんじゃないですか?」

「うん、いいところに気がついたね。」

ルーピンは彼女 ににっこりと微笑みかけた。

途端に彼女の頬はさーっと赤くなった。

「ボガ―トを退治するときには、誰かと一緒にいるのが一番いいんだ。 の言うとおり、向こうが混乱するからね。

 では、ここでボガ―トをやっつけるコツについて言っておこう!彼らを退散させるのは笑いだ。君たちは、ボガ―トに

 君たちが滑稽だと思える姿をとらせる必要がある。その呪文はこうだ。初めは杖なしで言ってみよう。リディクラス、ばか笑い!」


「リディクラス、ばか笑い!」

全員がいっせいに唱えた。

「もう一度」

「リディクラス、ばか笑い!」

「そう、とてもいいよ。じゃ、一列に並んで。最初は誰かな?」

ルーピンは期待をこめて生徒たちの方を見た。

ぞろぞろと皆が1列に並び、ネビルを前に押し出した。

一人察しが遅れた彼はガタガタと震えていた。


「よし、ネビル、君が世界一怖い物はなんだい?」

ルーピンはネビルの側に来てさっそく言った。

「ス・・スネ・・イ・・プ」

「ん?ごめん、ネビル、聞こえなかった」

ルーピン教授は明るく聞き返した。

「ス、スネイプ先生」

その場にいた全員が大爆笑の渦に巻き込まれた。

などは目に涙まで浮かべていた。

「あははは・・スネイプ先生か。ふーむ、ネビル、君のお祖母さんはどんな格好をしてるんだい?」

ルーピン先生は自身もクックッと笑いながら言った。

「えっ、でも僕ボガ―トが婆ちゃんに変身するのも嫌です」

ネビルはとても不安そうに言った。

「いや・・あははは、そんな意味じゃないんだよ」

ルーピン教授はネビルの肩を軽く叩きながら言った。

「君のお祖母さんの格好をよく思い浮かべて〜お祖母さんはいつもどんな格好をしてらっしゃるのかな〜」

ルーピンはネビルの周りを歩きながら楽しそうに言った。

「おっきな赤いハンドバックを持ってて、グリーンのドレスを・・」

「ネビル、口に出さずに頭の中で想像してごらん」

「お、オッケーです。」

彼は自身なさそうに言った。

「じゃあ、行くよ、1,2,3!」

ルーピンは懐から杖を取り出し、洋服ダンスの鍵穴目掛けて振った。

ハリーやは一番怖い物を考えた。

彼は例のあの人を、 は自分が吸血鬼になった姿を。

洋服ダンスがパッと開き、中から鉤鼻の恐ろしいスネイプ教授が目をぎらつかせながら現れた。

「ネビル、頑張れ!」

そろそろとあとずさる彼をは励ました。

「リ、リディクラス!」

生徒がまたまた大爆笑した。



とハーマイオニ―はお互いに抱き合い、涙を浮かべて床にくず折れた。

スネイプ教授はグリーンのレースのふち飾りのドレスを着、ハゲタカの婦人帽をかぶり、

手には巨大な真紅のハンドバックをゆらゆらとぶら下げていた。」

ネビルの隣りにいたルーピンは腹を抱えて床に倒れた。

しばらく皆は、笑いが止まらなかった。


「よし、次、あはは・・ロン、行ってみよう」

ルーピンがようやく腹をおさえながら立ち上がった。 は涙を拭いた。

ロンの髪の毛が逆立ち、彼は泣きそうな顔をしていた。

スネイプが消滅し、クモが鋏をがちゃつかせながら近づいてきたのだ。

「リ、リディクラス!!」

彼は叫んだ。次の瞬間、クモの足はローラーがついており、派手な音を立ててすっころんだ。

「よし、のってきたぞ!バーバティ、前へ!」

ルーピンはとても楽しそうに言った。

大蛇が彼女の呪文で巨大なピエロの姿になった。

「ハリー!」

次に彼が前に出た瞬間、ボガ―トは一瞬の沈黙の後、恐ろしい吸魂鬼に姿を変えた。

彼のすぐ後ろにいた はふうっと気が遠くなり、床にくず折れた。

!」

後ろにいたハーマイオニ―が慌てて支えた。

「やめろ!」

ルーピンはとっさにハリーの前に飛び出し、彼の視界からボガ―トを遮った。


途端に吸魂鬼は雲に半分隠れた満月に姿を変えた。

今回は運良くすぐに意識を取り戻した がそれを見てしまった。

「リディクラ―ス!!」


ルーピンは杖を振り上げ、風船に姿を変えたボガ―トを洋服ダンスの中に放り込んだ。

あきらかに彼は焦っていた。

「本日の授業はここまで!続きは次回にしよう」

ルーピンは残念そうな顔をした生徒らをそうやって引き取らせた。


「ハリー、大丈夫かな?」

ルーピンは誰も生徒がいなくなってから彼に呼びかけた。

「は、はい、何とか・・」

、君は?」

ルーピンが心配そうに床にペタンと座っている彼女に声をかけた。

「ちょっと気分が悪いです」

は冷や汗をかきながらも正直に答えた。

「少し、外に出よう。話があるんだ。」

ルーピンは彼女に手を貸し、床から立ち上がらせた。

「大丈夫よ、外の空気を少し吸ってくれば直るわ。先に帰ってて」

二人を待ってくれているハーマイオニ―、ロンに は声をかけた。




防衛術の授業の後、ルーピン、ハリー、 は城と森をつなぐ橋げたのような廊下にいた。

ここは見渡す限り、辺りをブナ、クヌギ、トチ、シイの木で囲まれていた。

そして、橋げたの下は急斜面になっており、ごおごおと渦逆巻く川が流れていた。

廊下は吹き抜け式で、森の爽やかな風が三人の髪をくすぐった。

橋げた式の廊下は三人が歩くたびに鈍い音を立てていた。

「私、ホグワーツに三年いますけど、こんな所があったなんて知りませんでした」

は辺りを物珍しそうに眺めながらルーピンに言った。

「そう?それはよかった。この場所は他の生徒もあまり知らないからね。

 そうそう、この先は一応、禁じられた森だからね」

機嫌をよくしたルーピンは言った。

は橋げたの手すりの部分に背を持たれかけ、心地よい森からの空気を吸い込んだ。

森からの風が彼女の髪を乱した。それは黒い炎のようにの顔のまわりで狂ったように踊りだした。

炎のような黒髪に取り囲まれたの顔は、これまでのどんなときよりも美しく見えた。

ルーピンとハリーは束の間それに見とれていたが、彼女と眼が合うと慌てて視線を逸らせた。

「どうかしたんですか?」

は無邪気に風に踊っている髪を一まとめにして、ローブの中に押し込みながら不思議そうに言った。

「なんでもないよ」

「気にしないで」

ルーピンとハリーはこの時、無邪気とは恐ろしいと思った。

「あの、先生。あの時、ボガ―トが僕の前に現れた時、どうして戦わせてくれなかったんですか?」

ここでハリーは唐突に切り出した。

「ん?君には言わなくても分かることだと思っていたが・・」

ルーピンはちょっと不思議そうな顔をした。

「どうしてですか?」

彼はまた繰り返した。

「そうだね、あの時、ボガ―トが君に立ち向かったら、ヴォルデモ―ト卿の姿になるだろうと思った。

 そうなれば、皆が恐怖に駆られる可能性があったんだ。」

とルーピンは平気で例のあの人の名前を口にした。

「最初は確かにヴォルデモート卿の姿を思い浮かべました」

ハリーは正直に言った。

「でも、僕はディメンターのことを思い出したんです」

「そうか。何故、君がディメンターのことを思い浮かべたのかというと、それは君の最も恐れているのが恐怖そのものだと

いうことなんだ。だが、ハリー。とても賢明なことだよ」

ルーピンは丁寧に彼に答えてやった。

ハリーは何と言っていいか分からず黙ってしまった。

「それじゃ、私が、君にはボガ―トと戦う能力がないと思った、そんなふうに考えていたのかい?」

ルーピンは鋭く言い当てた。

「あの・・はい・・そうです」

ハリーはふーっと肩の荷が下りる思いがした。

はさっきからずっと黙ったまま二人の話を聞いていた。

とにかくこの手の話になると自分の正体が、友人のハリーにばれそうになるのではと不安に駆られるからだ。

「ハリー、君の目は本当にお母さんにそっくりだ」

ルーピンはハリーの顔を覗き込むと懐かしそうに呟いた。

「母をご存知なんですか?」

「そうだよ。ホグワ―ツで私は君のお父さんとお母さんと一緒だった。リリーは人の美点を見抜く人でね・・それもその人

 が気づかないような美点をね。リリーはどんなときでも私の味方だった。素晴らしい女性だったよ」

ルーピンはハリーにしばらくジェームズやリリーのことについて話していた。

。」ルーピンはぼんやりしていた彼女を呼んだ。

「君はエイミーに生き写しだ。髪はお父さんの黒髪を受け継いでいるけどね・・」

それからルーピンはしばらく夢見るような面持ちで彼女を見つめていた。

(何か、この二人の雰囲気がおかしい・・)

すぐ横でハリーが疑問をいだきながら、二人を眺めていた。

「先生はもしかして彼女の両親とも同期だったんですか?」

少し間をおいて、ハリーは言ってみた。

「ああ、そうだよ。 のご両親と私はホグワーツの同窓生だった。彼女の母、エイミーは当時、最も

 有名なピアニストだったよ。そうそう、エイミーとリリーは同じグリフィンドール寮で大の親友だったんだ。

 彼女とリリーははたからみると、本当に姉妹のようだった。

彼女はとても綺麗で才能に溢れた優しい女性だった」

ルーピンは懐かしそうに語った。

「へ〜、父さんや母さんと同じ寮だったんだ。それにしてものお母さんってすごい人だったんですね」

ハリーは との新たな接点ができてとても喜んでいた。

「ただ、エイミーはコンサートの不定期なスケジュールで私達と一緒の時間が少なかった。

ヨーロッパならまだしも、アジア公演のときは、本当になかなかホグワーツに帰ってこれなかったからねぇ」

そこで、ルーピンの顔が少し曇ったのを は見逃さなかった。

いつの間にか夕焼けが三人を赤く照らしていた。

「思い出というのはいつまでも薄れないものだね」

「おっと、そろそろ夕食の時間だよ。行こうか?」

ルーピンはそこで二人 に明るく促した。




それから、闇の魔術の防衛術の授業はたちまち生徒達の間で大評判になった。

「あのローブのざまを見ろよ」

ドラコ・マルフォイとその数人のスリザリン生だけがルーピン教授のあら捜しをした。

「まるで僕の家の屋敷僕妖精の格好じゃぁないか」

マルフォイはルーピン教授が通ると、これみよがしに悪口を言った。

「あら?心麗しければ、みえまた麗しよ。知らないの?」

「どういう意味だい?」

たまたまその場面に出くわした がドラコにすれちがいざまに言い放った。

「ドラコには一生分からないでしょうよ」

彼女はそれには答えてあげずに立ち去った。

「な、何なんだよ?」

ドラコはしばらく彼女の言った言葉の意味を考えていた。



「座りたまえ、さあ」

スネイプ教授は気楽に言った。

魔法薬学のクラスでマルフォイはいつもお咎めナシだった。

魔法生物飼育学でバックに蹴られて骨折した腕を押さえながら、マルフォイは5分も遅れて入ってきた。

「なんだいあれ?」

「遅れてきたのが僕らだったら厳罰を下すのにさ」

ハリーとロンは腹ただしげに顔を見合わせた。

「二人共、聞こえるわよ。」

後ろにハーマイオニ―、ネビルと座っていたがスネイプがこちらを向いているのに気づいて注意をした。

今日は縮み薬を作る作業だ。

前の席ではマルフォイが骨折を理由にやりたい放題やっていた。

「先生、僕、雛菊の根を刻むのを手伝ってもらわないと・・こんな腕なので」

「ウィ―ズリ―、マルフォイの根を切ってやりたまえ」

「先生、それから、僕しなび無花果の皮をむいてもらわないと!」

「ポッター。マルフォイの無花果の皮をむいてあげたまえ」

マルフォイは底意地の悪い笑みを浮かべているし、スネイプ教授はここぞとばかりに憎しみのこもった視線をハリーに投げつけていた。

「何、あれ?ちょっと調子に乗ってるんじゃないの?」

「ダブル・パンチじゃないの。最低!」

大鍋の陰に隠れて とハーマイオニ―はヒソヒソと文句を言い合った。

「出来たのか?」

「ええ、あと少しですけど」

二人がちょうど文句を言い終わったところで、スネイプが の側を通りかかり鍋を覗き込んだ。

「少し色が薄いのではないか?」

スネイプは鍋の中を覗き込みながら言った。

「え、ああ、ヒルの汁をもう少し入れたほうがいいですよね?」

はにっこりどこか黒い笑みを浮かべながら言った。

「そうだな・・」

スネイプは彼女の笑みに少し赤くなりながら、隣のネビルの鍋を見に行った。

「オレンジ色か。ロングボトム!」

その声には身の毛がよだつ思いがした。

「オレンジ色!君、教えていただきたいものだが、我輩ははっきり言ったはずだ。ネズミの脾臓は一つでいいと。

 聞こえなかったのか、ヒルの汁はほんの少しでいいと。明確に申し上げたつもりだが!」

スネイプは容赦なくネビルをとがめた。

(また、始まったわ。毎回、毎回・・全く酷いんだから)

は全身を寒気が襲うのを感じた。

ネビルは赤くなって小刻みになって震えていた。

今にも涙がこぼれそうだ。

「先生、私に手伝わせてください。ネビルにちゃんと直させますから。」

ネビルの右隣にいたハーマイオニ―がすすみでた。

「君にでしゃばるように頼んだ覚えはないがね!ミス・グレンジャー」

スネイプは冷たく言い放ち、ハーマイオニ―はネビルと同じぐらいまっかっかになった。

「ロングボトム、このクラスの最後に、このクスリを君の蛙に飲ませてどうなるか見てやろう」

そして、スネイプは恐怖で青ざめているネビルをその場に残して他の生徒の鍋を見に行った。

「あ〜やだやだ!何なのあの先生、今日は特にひどいじゃないの」

が完全にスネイプの姿が見えなくなったのを確認してから、顔を思いっきりしかめた。

「と、とにかく急いで作り直さなきゃ」

ハーマイオニ―が危機感を感じ、ネビルの鍋の上にかがみこんだ。

「ハーマイオニ―。自分の鍋は出来たの?」

は心配そうに言った。

「ええ、何とかね。」ハーマイオニ―がネビルに指示を与えながら言った。

「違うわ。ここは2つ入れないと。」

はネビルに慌てて注意した。

、あなたまで手伝ったらまずいんじゃないの?」

ハーマイオニ―は、スネイプの位置を確認しながら油断なく言った。

「だけど、このクスリ服用するまでに煮込まないといけないのよ。早く完成させるためには人手は多いほうがいいわ」

「ゴメン、二人共」

ネビルは汗だくになりながら自分の鍋を必死にかき回していた。

「臨機応変ってやつね」

ハーマイオニ―は仕方なく同意し、 がしなび無花果の皮を向くのを手伝いながら言った。


「諸君、ここに集まりたまえ!」

数十分後、スネイプは暗い目をギラギラさせながら言った。

「ロングボトムのヒキガエルがどうなるか見たまえ。縮み薬が成功していれば、ヒキガエルはおたまじゃくしになる。

 だが、失敗すれば、ヒキガエルは毒にやられる」

とハーマイオニ―は冷や汗をかいていた。

ネビルは今にも気絶しそうな形相だ。

スネイプが、ネビルの鍋にさじを突っ込み、緑色の薬を2,3滴トレバーの喉に流し込んだ。

様子を伺っていたグリフィンドール生は嬉々として拍手喝采した。

トレバーは見事スネイプの手の平の中でおたまじゃくしに変わった。

「グリフィンドール、5点減点!」

スネイプの言葉で拍手がやんだ。

「そんな!酷いわ!」

「黙って」

の哀願するような声をハーマイオニ―は見事に遮った。

「手伝うなといったはずだ。ミス・グレンジャー。本日はここまで」

スネイプは腹ただしそうにハーマイオニーを睨みつけると教科書をしまい始めた。



「薬が出来たからって5点減点か!」

「信じられないわ。理不尽じゃないの!」

ロンと はスネイプのことで煮え繰り返っていた。

「ああ、縫い目が破れたわ・・」

ハーマイオニ―はカバンを眺めながらまずそうに言った。

「ちょっと、このカバンの重みはなんなの?」

は呆れて言った。

「そうだよ、どうしてこんなに沢山持ち歩いてるんだい?」

ロンも聞いた。

「私がどんなに沢山の学科を取っているかご存知よね?」

ハーマイオニ―はに本を持ってもらいながら言った。

「うん、それにしてもあまりにも多すぎない?」

ハリーも不思議そうに聞いた。

「ええ、そうね」

ハーマイオニ―はあいまいに答えた。

「最近、目の下に隈が出来てるわよ。無理してるんじゃないの?」

は心配そうに彼女の顔を覗き込んで言った。










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