「ほら、お前の武器はこれで全部だ。それから手荒な真似をして悪かったな」
夕闇が迫る頃、黒騎士は彼女を縛り付けていた黒く太い鎖を愛用の長剣で断ち切ってくれ、鴛鴦斧と氷柱の短剣兼長剣を返してくれた。
「一度、お前の仲間のところへ帰ってやれ」
「だが、もし、あのことを誰か一人にでも喋れば・・」
「俺の意思が変わるかもしれんぞ」
「何よ、偉そうに・・」
氷柱の短剣をしっかりとサッシュベルトに差込みながら、はぶすっとして言った。
「何か言ったか?」
黒騎士は聞こえていないふりをして呟いた。
「別に・・」
「これからもお前と俺は、共通の敵が現れる度に顔を合わすことになるだろう」
「あの約束、信じていいんでしょうね?」
「俺は嘘はつかん主義だ」
「宇宙海賊全部滅するまでいったい何年かかるやら・・」
「お前の協力次第ではかなり早くなるぞ」
「一つ聞きたいのだけれど、海賊を倒してヒュウガを開放したらあなたはどうするつもりなの?」
「さあな。その時はその時だ」
「そう・・それからこんなこと言うのも何だか変な感じだけど、時々、会いに来ていい?」
「俺は別に構わんが、お前の仲間に感づかれるとまずいんじゃないのか?」
「そんなヘマは致しません」
「じゃ、もう帰ります」
鴛鴦斧を背中に背負い、むっつりと夕闇の中を歩き出すの後姿を黒騎士は
湧き上がってくる笑いをかみ殺しながら見送っていた。
「おかしな精霊とやらだな・・」
しかし、彼は急に真面目な顔になりがヒュウガに授けたという不思議な花のことを思い出した。
時々、あのスノードロップのほのかな残り香が漂う時だけは、復讐のことを忘れて穏やかな気持ちになれた。
本来の自分に戻れるような気がした。
はこっそりとシルバースター乗馬クラブに帰ってきた。
厩舎の馬達は皆、寝静まっている。
しかし、灯りのともる白塗りのコテージでは、何故かハヤテが一人、暖炉の前にしゃがんで彼女の帰りを待っていてくれた。
彼に思いっきり怒鳴られるかと半ば覚悟したが、彼はつかつかと歩いてくるとそっと彼女を抱きしめた。
「何でこんなに遅くなったんだ?だめじゃないか・・お前はまだこっちの生活に慣れてないんだから」
なぜ、いつものように怒らないのだろう?それにいきなりそんなことをされて心臓の鼓動が速くなる。
ハヤテはいつもこんな感じだっただろうか?それになぜ私は戸惑っているのだろう?
は彼に抱きしめられるままになっていた。そして、彼女は静かに口を開いた。
「あの・・ごめんなさい。黒騎士を尾けてたら、道に迷っちゃって・・それで・・」
見え透いた言い訳だと思ったが、優しい彼の顔をまともに見れる自信がない。
「精霊でも迷うことがあるんだな。頑張るのはいいけどこれから気をつけろよ」
「さ、もうすぐ夕食が出来るぞ。台所へ行ってみるか」
(いったい何がどうなっているの?)
ハヤテに手を取られ、はますますわけが分からなくなった。