イリエスの弟であるデスフィアスを倒したサヤは樹上に登って、のんびりとりんごをかじっていた。
(あの時、が来てくれなければ・・)
サヤはりんごをかじるのをふとやめて、顔にカットラスで切り裂かれた傷を作りながらも駆けつけてくれた
精霊の姿を思い浮かべていた。
川に飛び込み、頭の先からつま先までびしょぬれになりながら、鴛鴦斧を奮い、星獣剣をなかなか繰り出せないでいる
自分を助けてくれた彼女。
(、何でヒュウガがあんたのこと好きなのか分かったような気がする)
(でも、まだあきらめたわけじゃないからね)
サヤは心の中でそう呟くと、何だかとてもいい気分になってりんごを美味しそうに頬張り始めた。
一方、海賊側では実弟を失ったイリエスが深い悲しみに暮れていた。
耐え難い怒りに打ち震える彼女は銀河の守護戦士達に復讐を誓い、とっておきの妖術で
水晶玉に呪いをかけはじめた。
シェリンダは命がけの賭けに出た彼女を鼻で笑ったが、船長は成功すれば金貨を倍にしてやるぞと約束し、
彼女の士気を上げさせた。
前にデスフィアスを倒した広場では異常発生したとかげに噛み付かれた人々が
うんうん唸っていた。
すぐさま、武装したリョウマ達が駆けつけるが、噴水と三角形のモニュメントがそびえる広場に
入った途端、全員、強制的に武装解除されてしまった。
「嘘、何で!?」
「どういうことだ?」
「こんなこと一度もなかったのに!」
サヤ、リョウマ、は酷く狼狽していた。
その時、リョウマはしゅるしゅるとタイル張りの床を這ってやってきた
トカゲを素早い反射神経で叩き落した。
「何、今の?」
「こいつは・・吸血トカゲ!」
は自分の下にやってきたトカゲを足で思い切り踏み潰してから
よくよく観察して言った。
「私の聖域にようこそ〜」
物憂げな声に彼らが振り向くと、いやにもったいぶって長い裳裾を翻して
イリエスが歩いてくるところだった。
「我が生贄の街へ。この街の人間の血を一滴残らず魔獣復活に使わせてもらうわ」
イリエスの余裕綽々な態度に皆は戦闘の構えを取った。
「生贄をお望みならあんた達もね!」
イリエスは不適な笑みを浮かべて宣言した。
「あんたが黒魔術で私達を武装解除したのね?」
はくやしそうに歯軋りしながら問いかけた。
「よく気がついたね、小娘。だがもう遅すぎるよ」
次の瞬間、イリエスは黄金の玉に妖術をかけ、武装した。
そして、謎の気体を噴射した。
皆、驚き、左右に飛んで硝酸らしき気体を避けたが、一人、遅れたヒカルは左足に
気体を食らってしまい、焼け爛れた足を押さえてうずくまった。
「ヒカル、大丈夫か!?」
血相を変えたハヤテが飛んできたが、ヒカルはものすごく痛そうに顔をしかめていた。
「兄さん・・」
「いったいどうすれば・・」
「俺達は完全に囲まれているらしい」
リョウマの不安そうな顔、の泣きそうな声に、ヒュウガはヒカルを後ろ手に庇いながら告げた。
そんな時、モークの通信が腕輪やの脳裏に響いた。
街中、すごい数のトカゲが我が物顔で歩き回っており、一旦引き上げろということらしい。
「でも・・」
ゴウキはこのまま引き下がることを渋ったが、ハヤテは即断し、傍らのリョウマ、、
ヒュウガを促した。
「炎のたてがみ!」
「氷の慟哭!」
二人は以心伝心のごとく、ほぼ同時にアースを放って目くらましをした。
「うあっ!」
炎と氷のダブルアースを食らってげほげほとむせかえるイリエス、たちまちあたりは
もうもうとする煙とぞっとするほどの冷気に包まれた。
「あんた達、命が惜しければそのまま引っ込んでるのね!」
しばらくして、イリエスはむしゃくしゃしながら捨て台詞を吐くと立ち去った。
シルバースター乗馬クラブにほうほうのていで逃げ帰った七人は、モークから
吸血とかげに血を吸われた人間は数時間後に息絶えると聞かされた。
七人は作戦を額をつき合わせて相談し、こうなれば誰が倒れようとも海賊の
魔の手を食い止めるという非情な結論に達したのだった。
「どこまでも馬鹿な連中。あれだけ警告したのに・・お望みどおり、苦しむがいいわ!」
海賊船ではイリエスが水晶玉に映しだされた七人の姿を見て嘲笑った。
星獣剣や鴛鴦斧を背中にしょった七人の男女は、自ら危険に飛び込むべく、
走っていた。
その前を雨あられとトカゲの大群が降り注ぐ。
「止まるな、時間はない!」
やけに男らしいリョウマの声に、全員無言で頷き、力強く飛び上がった。
だが、最後尾を走っていたサヤにどこからともなく紫色の包帯が伸びてきて
巻きついた。
上手く飛び上がれなかったサヤは、引きずり落とされ、何者かに胸を踏んづけられた。
「あいつは!」
「お前はミイラ怪人!」
サヤの悶え苦しむ声、ヒュウガとは敵の姿を見て戸惑った。
「あいつは兄さん達が前に倒したはずだ!」
リョウマは目を大きく見開き、、ヒュウガ、サヤのチームプレーで
倒した怪人を見据えて叫んだ。
その大きな声に、ミイラ怪人は振り向き、開いている方の手からヒカル目掛けて
包帯を繰り出してきた。
「ここは何とかする、先に行ってくれ!」
ヒカルは男らしく苦渋の決断を下していた。