走り去るバンの中からにこやかな笑顔を作って手を振る女の子。
サヤに瓜二つのアイドルは、追っかけの子達が豆粒になるまで手を振っていたが、
突如、その可愛い顔を不満げに曇らせた。
「あ〜あ・・疲れた〜ねぇ、マネージャー、この後どっか遊びに行かない?」
「仕事さぼって。たまにはいいよね?」
この普段からわがままし放題のアイドルに男性マネージャーは、ほとほと困り果てていたが、
きっぱりとだめだと言って聞かせた。
「けど最近全然休んでないし。いったい私の休みどうなってるのよ?
休みたいよ!休みたい休みたい休みたい!!」
「今日だけは何とか頑張ろう!」
そのマネージャーの言葉に、さらにしかめっ面をしたアイドルは腹いせにファンからもらったぬいぐるみに
一撃お見舞いする始末だった。
どこかの大学のキャンパス風の白いコンクリート造りの建物。
大きなレフ版を掲げる者。見晴らしのよい場所でレンズを構えるカメラマン、そのアシスタント、
それにやきもきしながら見守る男性マネージャーが配置につく中、グラビア撮影は行われていた。
「美咲ちゃん、頼むよ〜もっと真剣に仕事して」
「だって〜なんか眠いだもん・・」
ピンクのカットソーにブルーのフラワープリント柄のミニスカートをはいた
サヤそっくりのアイドルはマネージャーの言葉もどこ吹く風で、馬鹿にしたように伸びをしていた。
二人が木立にもたれていると、休憩のため、撤収したカメラマンの背後のカメラに御札が張り付き、爆発を起こした。
「待て、海賊め!」
爆発の衝撃を避けるため、革のブリーフケースでアイドルを庇った男性マネージャーは
何事かと後ろを振り返った。
武装したリョウマ達が駆けつけてきていた。
「お前達の相手をしている暇はない!」
金色の派手な袈裟の札僧正は持っていた御札をリョウマ達に投げつけると、爆発させた。
ただ一人爆発の衝撃を逃れたサヤは、勇ましく札僧正目掛けて突っ込んでいくと
高く飛び上がり、猫拳の構えを取った。
だが、札僧正にその隙を読まれてしまい、左足にぴたりと御札を貼り付けられてしまった。
「え?ああっ!」
サヤは悲鳴を上げ、たちまちアスファルト地面へと落下した。
「サヤ!」
「どうした?」
男達は、左足を押さえて痛みを訴えた彼女の元に駆け寄った。
「これは・・呪いの札!」
一人、木立をぬって遅れて駆けてきたは、サヤの左足にはっきりと刻まれた
呪札の刻印に色を失って叫んだ。
「逃がさない!」
サヤは苦し紛れに、寝転んだ状態からピンクの洋弓を引いた。
だが、札僧正は後ろ手で楽々とピンクの矢を叩き落し、近くの木へ非難していた二人の男女へと
跳ね返した。
サヤの放った矢が樹上で爆発し、砕け散った閃光が雨あられとアイドルと男性マネージャーの上に降り注いだ。
「愚か者!」
「待て!」
「追うな!」
このままずらかるのを許すかと怒ったが氷柱の剣を片手に突き出そうとしたので、ハヤテは
慌てて彼女の間に割って入った。
「でも・・」
ハヤテの言葉どおり、札僧正は妖術であっという間に姿を消してしまったのだった。
変身が解けたサヤは、御札の呪いで左足を押さえて苦しんでいた。
「あいたたた・・」
別の木立では被弾したアイドルに、男性マネージャーが心配そうに声をかけているところだった。
「あっ!サヤ、急に走ったらだめだってば!」
が、彼女の左足の呪いの刻印がただものではないと悟って声を荒げた。
「足、くじいちゃったみたい・・」
サヤに瓜二つのアイドルはとても痛そうに、地面にうずくまっているところだった。
男性マネージャーは悲鳴を上げ、の静止を振り切って駆けつけてきたサヤは
自分のミスを責めた。
「だめ、ひどくひねっててたてないよ・・」
アイドルはしかめっ面をして、男性マネージャーに訴えた。
うずくまっている女性の顔を見て驚いたのはヒカルだ。
何と、目の前にいるのはティーン雑誌のあの憧れのアイドルの女の子だったからだ。
「ごめんなさい。私がちゃんとしていなかったせいで・・本当にごめんなさい」
サヤは頭を深々と下げ、男性マネージャーに心から詫びた。
男性マネージャーは何気なく頭を上げて、びっくりしてこけそうになった。
自分の担当のアイドルに瓜二つの女の子が、目の前で申し訳なそうに頭を下げている。
「私、ギンガピンクのサヤです」
「うそぉ〜ほ〜んとそっくり・・」
これには現役アイドルも目を丸くしていた。
ここで男性マネージャーは頭をフル回転させ、足を怪我して動けないアイドルの身代わりを申し出た。
「ちょ、ちょっと待って下さい!そんな急に言われても!俺たちには海賊と戦う・・」
あまりにも急な申し出に困惑したリョウマは、マネージャーの間に割って入ったが、
足を怪我して動けないアイドルを気遣って、心優しいサヤは進んで引き受けたのだった。
「でもお前、こんな時にまた海賊が現れたらどうするんだ?」
冷静沈着なハヤテは、眉をひそめて言った。
「あ、あのっ、それは大丈夫!私がサヤのボディガードをするから」
「えっ、お前が!?」
この沈黙を破ったのは誰あろう、あの精霊だった。
「そりゃいい考えだ!がついててくれれば安心だもんな!」
リョウマの朗らかな笑顔に、ハヤテは反対しようかどうか考えあぐねていたが、
非常事態なのでしぶしぶOKを出した。