波止場の休憩所では一人の女子高生がミイラ男に追いつめられていた。

「やめろ、海賊め!」

リョウマ、ハヤテ、ゴウキ、ヒカル、サヤ、それにヒュウガと

の七人はすんでのところでレンガ色の石畳を駆け下りて

立ちはだかった。

少女はほっとしたのと恐怖が抜け切れないのとで

「キャーッ!」と悲鳴を上げて一目散に逃げ出した。

それを見たミイラ男は焦って、手下の水兵達を繰り出してきた。

たちまちリョウマ達と水兵達の間で小競り合いが勃発した。

石畳を上がってきた水兵を思いっきり蹴飛ばしたヒュウガは

いち早くミイラ男を追いかけた。

ヒュウガのブルライアットが抜かれ、彼は華麗に宙返りして

それを敵に叩きつけた。

敵はファラオ風の錫杖でブルライアットを弾き飛ばし、

ヒュウガはその勢いで跳ね飛ばされた。

だが、すぐに体勢を立て直して起き上がり、ブルライアットの

引き金を引いた。

バンバンと緑色の閃光が弾け飛んだが、敵はその隙に

姿をくらました。

「ちっ、逃がしたか!」

ヒュウガはくやしそうに舌打ちした。

そして、ブルライアットをベルトに収めると近くで倒れていた女子高生

を見つけて走っていった。

ヒュウガは気を失っている少女の肩を揺さぶった。

すると少女ははっと意識を取り戻し、「怖かった、すごく怖かった!」と

叫んで彼にしがみついたのだった。

「君・・」

ヒュウガの表情が曇った。

「お願い、私を守って!」

だが、少女はそんなことなどおかまいなしにさらにヒュウガに

しがみついて懇願した。

少女はヒュウガにしっかりとしがみついていたが、彼はどうすべきかと迷い、抱きとめかねているようだった。

やっと水兵を片付けてやってきた、サヤはその光景に凍りついた。

サヤはショックでうつむき、はきゅっと唇を結び、固い表情をしていた。

その脇を何も知らない男達が駆け抜けていった。

「兄さん、海賊はどこへ?」

「すまない、逃げられた」

「その子は無事なのか?」

「ああ、怪我はない」

「でも、念のため、病院へ行って調べてもらったほうが・・」

「いや、この娘は俺が守る」

リョウマ、ゴウキ、ハヤテの心配する声をよそにヒュウガは

少女を立たせ意外な提案をした。

「えっ・・」

「兄さん、それはどういう・・」

「この娘はさっきの奴に怯えている。だから俺が家まで無事に送り届けてやりたいんだ」

「分かったよ」

「行こう」

兄に逆らったことがないリョウマはこの提案に何の疑いも持たなかったが、これを目撃した女性陣の心は

穏やかではなかった。

「ヒュウガ・・」

「やっぱり普通の人間の娘のほうがいいんだ・・」

激しく落胆するサヤ、一方、の心も彼の真意をはかりかねて散々に乱れていた。



「ヒュウガ、もしかしてあの娘のこと好きになっちゃったんじゃない?」

「馬鹿、不謹慎だろ。今そんな場合か?」

「海賊がどこに潜んでいるか分からないんだぞ」

お調子者のヒカルをハヤテはたしなめていた。

「でも、ヒュウガのあの娘を見る目・・真剣だった。あんな目今まで見たことないだろ?」

だが、ハヤテの言葉にヒカルはあきらめきれず食い下がった。

「そういわれれば・・」

「確かに・・」

「ちょっと、何言ってるのよ!」

「そうよ、あっさりぐらつかないでよ!」

たちまち女性陣の猛反発を食らったリョウマとハヤテであった。

「ヒュウガは銀河の森で最高の戦士なんだよ。きっとこれには何か考えがあるんだよ!!」

サヤはさらさらあきらめきれない様子で言った。

こうしている間にも街では次々とうら若い女性達が空飛ぶ

布に襲われ、意識を失っていた。


モークが各地に散らばる樹霊のネットワークを通じて、ヒュウガの現在地を

探ってくれたが、金メッキで縁取りされた鏡に映し出された二人の

姿を見た皆は、ますます分けが分からず疑惑を深めるばかりだった。

ヒカルは「見損なったぜ!そんなチャラチャラした奴だったは!」と本気で怒り出し、

サヤだけは半ばやけくそで「違う、絶対にこれには何か理由がある!」「私、確かめてくる!」

と突っぱねて出て行ってしまった。

モークの密かな視線を感じて、は私情を押し隠して頷くと彼女の後を追うことにした。

「おい、まで・・待てよ!」

ハヤテの声が地下室の壁にむなしく響いた。

マリーゴールド、ぺチュニア、パンジーなど色とりどりの花が咲き乱れるフラワーショップの店先にヒュウガと女子高生はいた。

サヤはかぼそい声で彼の名を呼んだ。

だが、彼は厳しい顔で恋に揺れる女の子を睨みつけ、その数メートル後ろを密かにつけてきた別の女の子の姿を見止めると

わずかに表情を変えた。

・・」

ヒュウガは複雑な思いがぐるぐる渦巻く中、くぐもった声で囁いた。

だが、彼女は彼の視線を避けるように顔を背け、ぱっと樹木の陰に隠れてしまった。

ヒュウガは湧き上がる思いを押し隠すと、何食わぬ顔で

少女に笑いかけ、店の奥へと入っていってしまった。

数分後、彼は少女を伴い、一輪の黄色い花を携えて現れた。

「綺麗・・この花、何ていうんですか?」

「これはね・・」

「ヒュウガ、いったい何やってるの!?」

サヤはもう我慢できなくって彼の前に飛び出した。

「サヤ・・」

たちまちヒュウガの声のトーンが下がった。

「海賊のせいで街が大変なの、一緒に来て!!」

「言っただろ。俺はこの娘についててあげたいんだ」

サヤの必死の懇願にもヒュウガは冷たくあしらうだけだった。

少女もますます不安そうに彼にしがみつく始末である。

「帰ってくれ、サヤ」

「ヒュウガ・・」

彼の目が鋭く光り、その凄みに彼女はたじろいだ。

「俺の故郷ではこの花には悪を寄せ付けない言い伝えがあるんだ」

彼はそれから少女の制服の胸ポケットに黄色い花を挿してやり

優しく微笑んだ。

「本当?嬉しい〜」

その言葉に少女はわずかに頬を染めて微笑んだ。

「行こう」

ヒュウガが少女の肩に腕を回して連れ去ってしまうと、は何だか

がっくりと力が抜けてくるのを感じた。

サヤはもう何が何だか分からずに、ショックで、もと来た道を駆け出していってしまった。


それでもヒュウガを追わなければならない。

は私情と任務の狭間で揺れていたが、彼の尾行を続けた。

「ヒュウガさん、喉渇きません?私、あそこでジュース買ってきますね」

クヌギの樹が植えられた小道を行きながら、少女と楽しそうに歓談していたヒュウガはここでようやく一人になった。

、そこにいるんだろ?」

少女が完全に公園内の売店に行ってしまったのを確かめてから

彼はそっと呼びかけてみた。

・・怒ってるのか?」

「そうだよな・・返事なんかしてくれるわけないか」

「俺、何だかすごく嫌な役回りだな・・」

「皆、そう思ってるだろ?」

彼は背後にそびえるクヌギの林に呼びかけるが、風がさわさわ吹くだけで期待する声は返って来ない。

仕方なく彼が木のベンチでくつろいでいると、先ほどの少女が売店で二人分のオレンジジュースを

買って戻ってきた。

「お待たせしました〜どうぞ。とっても冷たいですよ〜」

「ありがとう」

ヒュウガが喜んで少女に礼を言い、ストローに口付けた時だった。

「ヒュウガ!」

と同じように思い直して彼を追ってきたサヤが彼の

手からジュースをひったくった。

「もういい加減にして!!」

サヤの登場で、はほっとして剣の柄にかけた手を放した。

「サヤ!」

「戻ってきてヒュウガ、今はこんなことしてる場合じゃないよ!!」

「帰れって言っただろ!」

ヒュウガの目はあくまでも冷たかった。

「馬鹿!ヒュウガなんか大嫌い!!」

サヤは顔をくしゃくしゃにするといいたいことだけ言ってのけ、

走り去ってしまった。

「ごめんね、びっくりしただろ?」

「いいえ、これ、冷たいうちにどうぞ」

穏やかに交わされる二人の会話。だが、はそこに恐ろしい陰謀が隠されて

いるのに気づいていた。

ヒュウガは今度こそ喜んで、サヤがテーブルの上に置いていったジュースを

取り上げると一気に飲み干した。

「ああ、美味かった」

「でしょう?だって特別製だもの」

ヒュウガのすがすがしい顔を一瞥すると、少女は嫌な笑みを浮かべた。

それに覆いかぶさるように、ヒュウガは急に喉をかきむって倒れた。

少女の高笑い、「正美ちゃん、どうしてこんなことを・・」と信じられない面持ちで

嗚咽をもらし、意識を失ったヒュウガ。

少女は革靴でヒュウガを容赦なく蹴飛ばすと、胸ポケットに挿した花を彼の

胸元に放り投げた。

「何がこの花は悪を寄せ付けないだと。笑えるわ」

少女はフンと鼻で笑うと、恐ろしいミイラ怪人に姿を変えた。

実は彼女は、ずっとこの男に体と心を乗っ取られていたのだった。

ミイラ怪人から分離された少女は意識を取り戻すと「キャーッ!」

と悲鳴を上げて林の奥へと駆け出した。

「慌てずともこの手でその若さ吸い取る!」

ミイラ怪人はそう言って、意識を失ったヒュウガの横をすり抜けようとした。

だが、ぱっと意識を取り戻したヒュウガに足をつかまれなぎ払われてしまった。

「貴様、なぜ生きている?」

「最初に彼女に触れた時、屍の匂いがした」

「だが、彼女を傷つけずに、お前から引き離すにはこんなやり方しか思いつかなくてな」

ヒュウガはにやっと笑って起き上がると説明してやった。

「馬鹿な、あの猛毒の液体を飲んで死なないはずは・・」

ミイラ怪人は驚愕の事実に慌てた。

「それ、これのこと?」

いつの間にかサヤとが連れ立って現れ、隠し持っていた毒入りジュースを

怪人目掛けてぶっかけた。

それからサヤは一芝居打って、ヒュウガと喧嘩しているように見せかけて

ジュースを摩り替えたこと、その前に彼からこっそりと受け取った花言葉の

メッセージに気づいたことなどをぶちまけた。

「おまけに、お前はその女の子になりきることに夢中で、私が追けていることにも気づかなかった」

は腕組みしながらつかつかと歩いてくると得意そうに言い放った。

「初めは私も騙された。だけど、お前が執拗にヒュウガに執着することで逆に疑いが増したの」

「残念ながらサヤみたいに花言葉は分からなかったけど、お前が何か企んでいることぐらいは分かったのよ!!」


「おのれ、戯れた真似を!」

企てが失敗したミイラ怪人は怒って手下達を繰り出してきた。

「行くぞ!」

ヒュウガは両脇の二人の女の子に声をかけると走り出した。

ヒュウガは背後に回った水兵に肘打ちを食らわし、前から向かってきた水兵の腕を

押さえて横に押しやった。

サヤは水兵の手首を捻って投げ飛ばし、はどっと後ろに倒れこむと、のしかかって来た水兵をその反動で蹴り上げた。

そして、黒のサッシュベルトから短剣兼長剣を引き抜くと、別の水兵の喉笛目掛けて投げつけた。

「キャーッ!」と再度少女の悲鳴が上がったので、サヤは捕まえていた水兵の

腕を振り払うと素早く花のアースを放った。

ミイラ怪人は少女を締め上げていた腕を緩め、あまりの痛さに飛びさすった。

サヤは植え込みを飛び越えて少女を後ろ手に庇い、真っ向から怪人に立ち向かった。

だが、怒った怪人の包帯が彼女に巻きつき、締め上げられて空高く

持ち上げられてしまう。

「サヤ!うわあっ!」

「ヒュウガ!こいつ!」

一人の水兵の腕を押さえていたヒュウガは、いち早く危険に気づいて

駆け出そうとしたが、背後から別の水兵に羽交い絞めにされてしまい身動きが取れなくなってしまった。

も水兵に氷柱の剣を持っていた腕をつかまれそうになり、何とか身を翻して

回し蹴りで交わすのに精一杯だ。

幸い、サヤはリョウマがブーメランを手に植え込みを飛び越え、拘束していた

包帯を叩き切ってくれたおかげで助かっていたが。


























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