あの後、市街地で暴れている海賊どもを一蹴し、リョウマ達は銀河の森が沈んだ
湖のほとりに馬達をつないで休息していた。
皆、湖底に沈んだ銀河の森やヒュウガのことなどここ数日が目まぐるしく
今日がいったい何日かも思い出せないほどだった。
彼らはあてどもなく、潅木や背の低い植物が密集している湖の周りを歩き回った。
こんな時でも太陽は優しく輝き、それに反射して湖面はきらきらと輝いた。
しかし、いつまでもここにいるわけにはいかない。
生まれてこの方銀河の森で生活を営んできた彼らには、これから行く宛ても
頼る宛てもなかった。
だが、偶然、市街地で倒壊した建物の下敷きになっていた子供を助けたのがきっかけで
その子の親切な父親が乗馬クラブでの仕事と生活を保障してくれたのである。
その乗馬クラブは都心から離れた郊外にあり、リョウマ達はその中にあるコテージを
新しい住居とすることが決まった。
「助かります。こんな素敵なところを紹介してくださってありがとうございます」
いつも礼儀正しいハヤテが親父さんに礼を述べ、他の皆もどこか銀河の森に似た
暖かさをかもしだすコテージをとても気に入ったようだった。
ひととおり、コテージを見て回ると、皆はぴんとしたレースのカーテンがかかっている窓から
よく見えるところに木の実の精が持ってきた涙型のペンダントを開けて、植物の種を取り出して植えた。
それは「知恵の樹」の種で長老が森を離れる彼らの手助けになると思ってくれたものだった。
「いい天気。それにここ・・いい所ね」
それから数日後、ヒカルにそっけなく声をかけて、彼とともに納屋から干草を運び出しているの姿があった。
「ああ、確かにね。だけどよ、森を出てまで訓練訓練ってきつくない?俺達、実力もアースもばっちりで戦士になったって言うのにさ、
この上まだ・・」
彼は新しい話相手が出来たのをいいことにここぞとばかりに愚痴った。
二人が誰もいないと思って、飼育場まで来て見るとそこには先客がいた。
「よーし、今度は黒い馬だ」
「あれは俺がやるんだよ」
その声はヒカルとを緊張させた。あきらかに悪意のある声だ。
それにともなう馬のいななき、彼らは何事かと思って辺りを見回した。
エゾマツの樹の下に黒い詰襟の学生服を着た高校生が二人。
見かけない顔だが、おおかた学校をサボってここに来た連中だろう。
彼らは今まさに、パチンコで白い囲いの中にいる馬達を狙っていた。
すかさず、ヒカルが干草の運搬車を投げ出し、雷のアースを彼らに向けて放った。
「うわっ!?」
「痛ぇ!」
タチの悪い高校生二人は驚いて、びりびりと痺れが来た手首をさすり、焼け焦げて使い物にならなくなったパチンコを眺めた。
「お前ら、いったい何やってんだ!?」
ヒカルはひとっとびで彼らの前に飛んできて怒鳴った。
「何だ、お前?俺達のやってることにけちつけようってのか?」
長髪の高校生は髪をかきあげ、悪びれもせずに言い返した。
その時、どこからともなくザシュッと風を切る音がして鴛鴦斧の一片が飛んできた。
鴛鴦斧はぐさりとエゾマツの幹に突き刺さった。今しがた長髪の高校生の左肩があった場所だ。
「顔に傷がつかなくてよかったわね!」
巧みにワイヤーを引き、自らの手元にあったもう一片の鴛鴦斧と連結させてしまってしまうと
は鼻で笑って、完全に腰を抜かした彼らを見た。
たちまち彼らは「殺される!」とかひいひい悲鳴を上げながら逃げてしまった。
「あんな奴、あれぐらい脅しとけばもう悪さはしないでしょ?」
「どうせ、暇だ何とかでここに来て憂さ晴らしでもしに来たのよ」
ヒカルは自分も雷のアースを放ったことを忘れて、(嫌、あの・・あれ、本当に殺る気だったろ・・)
といろいろ突っ込みたくなったが、それはこの光景を離れたところから一部始終目撃していたハヤテによって遮られた。
「ヒカル!それに、!」
「何だよ、あいつらが全部悪いんだろ!」
「別にそんな気はなかったの。ちょっと脅かしただけなのに・・」
むっつりと不機嫌なハヤテから逃れる為にヒカル、はコテージで花壇の作業をしていた
リョウマ、ゴウキの後ろに隠れた。
「おいおい・・いったい何の騒ぎなんだ?」
何も知らないのん気なリョウマはヒカルを後ろに隠しながら言った。
「聞いてくれよ、こいつは高校生に向かってアースを放って、おまけには鴛鴦斧を投げたんだ!」
ハヤテはそれがどうにも許せないらしかった。
「ヒカル、・・お前ら・・」
それを聞いてさすがのリョウマも顔を曇らせた。
「、何考えてるのよ!一歩間違ったら死んでたかもしれないのよ!」
サヤも自分と比較的年齢の近いを珍しく叱りつけた。
「だって、あいつら、馬に酷いことをしようとしてたんだぜ!」
だが、納得のいかないヒカルは一人食い下がった。
「だからって、一般人を相手にアースや鴛鴦斧を使っていいのかよ!?」
ハヤテも負けずに応戦した。
「でも、リョウマは今朝、星獣剣で薪を割ってたぜ!」
ヒカルの思わぬ反撃に彼はぎくっとしてたじろいだ。
「リョウマ!お前・・」
びっくりしたのはハヤテだ。
「いや、あれはさ・・」
リョウマは何とか上手い言い訳を考えようとしたが、「俺達年上がそういうことじゃ、示しがつかないんじゃないのか?」
のハヤテの冷静な意見に押し黙った。
「それ逃げろ!」
「あ、ちょっと!」
ヒカルはすかさずの手をつかむと一目散に白い囲いを回って、走り出した。
「こら、まだ話は終わってないぞ!」
後ろからハヤテの声が追いかけてきたが、二人はわき目も振らずに逃げた。
「ヒカルはともかく、は根は悪い子じゃないんだけどね・・」
サヤはじょうろでシャクヤクの花に水をやりながら残念そうに呟いた。
「ここ数日一緒に過ごしてみたからそれは俺も分かってる。だが・・」
ハヤテはここで生活していく以上、の冷酷さと残忍さを垣間見る言動を直さねば、いつか取り返しのつかない事態が起こるのではないかと
頭を抱えた。