「ここまで来れば大丈夫。ブドーは深手を負ったみたいだし」

黒騎士はに支えられて、夏野菜の畑が広がる脇の小道まで逃れていた。

(、黒騎士と一緒か?また奴らが別の場所に現れた。それにハヤテはトマトをまだ食べていない)

(彼は今、気力だけで戦っている)

(一刻も早くハヤテのところへ行きなさい。彼は傷ついたままだ)

(お前の助けが必要だ)

黒騎士を人気のないビニールハウスの角にもたれかけさせてやった時、

モークからの連絡が彼女の脳裏に響いた。彼女は険しい顔で黒騎士から離れるとすっくと

立ち上がった。

「行くのか?」

黒騎士は何の感情もなく淡々と尋ねた。

「黒騎士、こんなことを聞くのは変かもしれないけど」

彼女はこくりと頷き、彼に背を向けて歩き出そうとしたが、思い留まって

振り向いた。

「何だ?」

彼は不思議そうに言った。

「食わず嫌いってどうすれば治せると思う?例えば、トマトが嫌いな人が

 いるんだけど、傷を治すにはそれを食べるしか方法がない」

「なのにその人は誰が何と言おうと口をつけようとしない」

はこうしている間も一人深手を負った風の戦士を思って

胸を痛めていた。

「そういう奴には荒療治しかない。お前が隙を見て奴の口に無理やり突っ込め」

黒騎士はいらいらしながら答えた。こういう時のの顔は心ここにあらずで

見ていて一番腹の立つものだ。

「やっぱり聞かなければよかった・・絶対にそういうだろうと思った」

はがっくりと肩を落として呟いた。

「おい、聞くだけ聞いておいてその態度は何だ!?」

かっとなった彼は彼女の腕をつかむと、無理やりこちらへ振り向かせた。

「とにかくあなたは今日は調子が悪いみたいだから、深追いはしないこと!!」

はいつも無茶をして事態をさらにややこしくする黒騎士に

怒ったように釘をさすと、さっと腕を振り解いて駆け出してしまった。

「何と可愛げがない奴だ・・」

黒騎士は不機嫌そうに呟いた。

彼女は今いたかと思えば、そこは精霊らしく、気まぐれですぐにいなくなってしまう。

黒騎士は、彼女と一緒にいればこの不可解な胸の痛みも消えるのではないかと

そんな不遜な考えが脳裏をかすめたが、いやまさかそんなことはないと思い直した。


その頃ゴウキはハヤテを女先生の実家で休ませ、一人、のどかな田舎道を

走っていくと近くの山中に実っているトマトを取りに行っていた。

彼が女先生が保障した「ハヤテでも食べられる美味しいトマト」

をもぎ取った時、どこからその情報を嗅ぎつけたのか湾曲した剣を

手にした水兵達が現れた。

「野郎〜!」

ゴウキが闘志をむきだしにして水兵の一人を足を高く掲げて

蹴り飛ばした時、近くの茂みががさがさと鳴り、水兵と剣を交えながら

飛び出してきたの姿があった。

「ゴウキ、こいつらは私に任せて早くそれを!!」

は足を高く掲げ、向かってきた水兵を蹴り飛ばしながら叫んだ。

「分かった!」

ゴウキは頼もしい加勢に力強く頷くと、トマトを片手にしっかりと握り締めて

駆け出した。

その背後をのレイピアーのような細身の剣がシャッと孤を描き、水兵の左腕を切り裂いた。



砲烈道のバズーカーが容赦なく銀河の守護戦士目掛けて浴びせられていた。

重傷のハヤテはオレンジ色の炎が噴き上がる中、被弾の反動で空高く吹っ飛ばされ、思いきり地面に叩きつけられた。

他の三人もあまりの爆発の凄さに起き上がれず、ハヤテは「俺が好き嫌いをしたばかりにこんなことに・・」

と後悔して呻いていた。


「ハヤテ〜!!」

トマトを右手に掲げ、聖火ランナーのように必死に走ってくるゴウキの姿が見える。

その後ろには一人で五人の水兵を食い止めるがいた。

ハヤテは薄らぐ意識を取り戻し、腹ばいになったままその光景をしっかりと目に留めた。

「食べろ、ハヤテ〜!それは銀河一美味しいトマトだ!!」

「早く!!」

ゴウキがトマトを投げ、が彼に飛びかかろうとした水兵の一人を後ろから剣で一突きにした。

ハヤテはしっかりと友情の証を受け取り、「銀河一美味しいトマト・・」

と感慨深げに呟いた。

「ハヤテ、後はお前の気持ちだけだ!!」

「ハヤテ、早く!!」

相当の食わず嫌いがたたってか、かぶりつくにもかぶりつけない

彼にゴウキとは後から後から駆けてくる水兵を食い止めながら

叫んだ。

それは砲烈道にいっせいに飛びかかって時間稼ぎをするリョウマ達も

同じだった。

「美味い。本当にこれは・・」

ハヤテの顔に笑みが浮かんだ。

ゴウキの熱意がようやく通じ、彼はようやくトマトにかじりついたのだった。

ゴウキはたちまちヘッドロックをかましていた一人の水兵を放り出し、が、

ガッツポーズをした彼に襲いかかろうとした水兵を背後から剣で切りつけた。



「良かったな。トマト嫌いが直って」

それから無事に砲烈道を倒したハヤテに向かってゴウキは呟いた。

「お前らのおかげだよ。傷だらけになってまで銀河一美味しいトマトを取りに行ってくれた」

夕焼けが美しく辺りを染める頃、彼は小波が打ち寄せる浜辺を

歩きながらゴウキとに礼を述べていた。



別の日、うす曇の中、堤防の下で剣の特訓をするリョウマ達の姿があった。

サヤはヒカルと、ゴウキはハヤテと、リョウマはと剣の稽古を行っていた。

カンカンと剣戟の音が響き渡り、その横をゴウキとハヤテが横トンボ返りしていった。

「いいぞ!」

のレイピアーのような細身の剣の切っ先を、星獣剣で受け止めながら

リョウマはとても楽しそうに言った。

「サヤ、今の手は違うだろ!こう切るべきだろ、こう!」

サヤに剣で思いきり押さえ込まれたヒカルが反駁した。

「うっそ、今のでいいんだよ!」

サヤはぷっと膨れて反論した。

「バーカ、簡単に避けられたぞ!!」

「だいたい勢いがないんだよ!」

子供じみたヒカルの反論もまた止まらない。

「ちょっと手加減しただけです!」

サヤもだんだんむきになって言い返す。

「ああそうですか!」

ヒカルもかっかしてきて言い返した。

「何よ!」

「何だよ!」

二人は肩で押し合い、しまいめに星獣剣を振り上げて物騒な喧嘩に発展した。

「おい、そこまでだ!」

「お前らな・・いい加減にしろよ」

「これはれっきとした訓練だ。兄妹喧嘩じゃない」

剣道の師範のごとく二つのぶつかりあう剣の間に自らの剣を入れて

争いを中断させたハヤテはため息まじりに言った。

先ほどまで仲良く剣を交えていたリョウマともぱたりとその手を

止めて思わず三者に見入ってしまった。

「いったいどうしたのあの二人?普段はすごく仲がいいのに」

は小首を傾げて尋ねた。

「あ、そうか・・はいなかったから知らないだろうけど、昨日さ、あの二人本当に喧嘩したんだよ」

リョウマはにんまりと笑って、彼女の耳元に手をあてがってひそひそと教えてやった。

事の真相はこうだ。

サヤが皆にとホイップクリームを塗ったケーキを、ヒカルが全て平らげてしまい、

怒った彼女と悪びれる様子もない彼の間で、口論になり、最終的に枕や竹篭を投げるだの乱戦に発展していた。

さらにサヤが怒りに任せて投げたボックが、ハヤテの額にクリーンヒットし、

彼はとんでもなない巻き添えを食らう羽目になっていた。

「嘘〜そんなことでそこまでやったの・・じゃ、ハヤテのあの額の傷はその時に・・」

「そういうこと」

「本当に仲がいいんだか、悪いんだか」

「まあ、まだまだ二人とも子供だからさ」

にやにや笑うリョウマとの大人組に、ヒカルとサヤはむっと膨れて

星獣剣片手に詰め寄った。

「リョウマの言うとおりだ。二人とも今日、買出し当番決定だな」

「ちょっと行って頭冷やして来い!!」

リョウマとが「いや・・」「まずい」とあたふたしていると、すかさずハヤテの教育的指導が入った。

「それから・・お前は笑うんじゃない!」

「だって・・その顔で真面目に言われても説得力がいまひとつ・・」

彼女は手で口元を隠しながら、ハヤテのすっきりとした額に貼り付けられた大きなガーゼを指差して言った。

。俺までつられるからやめ・・」

「お前ら、人が真剣に怒ってるのに酷すぎないか?」

必死に湧き上がってくる笑いをこらえると、思い出し笑いをしてしまったリョウマに

ハヤテは真っ赤になって怒っていた。


それから数時間後。

二人が繁華街に買い出しに行って、戻ろうとした時、町全体が

見えない壁で覆われていた。

モークからの連絡で地下道を通って壁を突破しようとしたリョウマ、ハヤテ、ゴウキ、だったが、

の特殊な氷柱の剣もゴウキの体重の乗ったパンチも

全て跳ね返されてしまう始末だった。

全身を真紅の鎧で固めた怒涛武者との戦いも突如現れた

銀河の光を巡って泥沼化し、ヒカルとサヤの和解で無事に壊すことが出来た

壁を抜けて森林公園へともつれこんだ。

常緑樹に囲まれた小道で銀河の守護戦士五人は剣を振り回したが、とてつもない馬鹿力の怒涛武者

には全く歯が立たない上、木々の上に輝く銀河の光を水がめに吸い取られた上、

逃げられてしまった。

すぐさまは間者らしく、木々の間をぬって、密かに彼の後を追けた。



ごつごつした岩場まで走る怒涛武者の背目掛けて投げナイフが突き刺さった。

それはいつものごとく黒騎士だった。

黒騎士はすさまじい勢いでブルライアットを構えて走っていった。

両者はそのまま激しい戦いにもつれこみ、しかし、背後から

突然現れたブドーに切りつけられ、まっさかさまに断崖から転落してしまう。

二人は少しの間何か話し込んでいたが、すぐにどこかへ行ってしまった。

それをブナの木の陰に隠れて見ていたは、二人が完全にいなくなったのを

確かめてから走り出た。

「黒騎士!大丈夫なの?」

はごつごつした黒い岩まで近づいていって安否を確認した。

「ああ、だが、何か投げてくれ!」

黒騎士は何とかせりだした崖下の岩に危なかっしげにぶら下がっていた。

「分かった」

彼女はほっとして、丈夫なワイヤーで連結された鴛鴦斧の一片を降ろしてやった。


数十分後、鴛鴦斧をロープ代わりに利用して岩肌をよじ登った黒騎士は

とともに二人の行方を追っていた。


「あれは・・怒涛武者!」

「いったいどういうことだ・・奴ら、銀河の光を魔獣復活に使うはずではないのか?」

青々と生い茂る常緑樹の森の中を、連れ立ってやってきた二人は足元から数十メートル下の滝つぼのところで、水がめに入れた銀河の光を

自ら使って高笑いしている敵の姿を見とめて首をかしげた。

「フン、愚か者め。疑いもせぬわ」

しばらくして、滝つぼの奥深くの洞窟からブドーが笑いをこらえながら現れた。

「全てはマザーイリエスの思うがまま。これでブドー軍団も終わりね。二度と日の目を見ることはないでしょう」

何とブドーに化けていたのは、蛇のような髪を垂らしたイリエスの忠実な配下で、

彼女は水がめを手にしたまま、高笑いすると小川の飛び石を渡っていった。



「ここまで来て仲間割れ?」

は、黒のサッシュベルトにぶら下げた氷柱の剣の柄に手をかけながら

思いもかけぬ事態に驚いていた。

「そういうことか。これは使えるぞ」

黒騎士はにんまりと頷くと、彼女に「先を急ぐぞ」と促して駆け出した。

その頃、リョウマ達をあと一歩のところまで追いつめた怒涛武者は、腕に巻きつけた

数珠から噴出した毒煙を浴びて動けなくなっていた。

ブナの高い樹上から水がめを抱えて高笑いするイリエスの手下は

それは呪いのかかった数珠で、命が惜しければ銀河の光を渡すよう迫った。

「さあそれを渡せ!ああっ!」

メドゥメドゥの甲高い悲鳴が上がり、水がめががちゃんと砕け散った。

「待ちくたびれたぞ。なかなかお前が動かんからな」

彼は悠々とブルライアットを肩に担いで得意げに言い放った。

「銀河の光、返して貰いましょうか?」

さらに追い討ちをかけるように、黒騎士から遅れて木々の間をぬってやってきた

が鴛鴦斧を構えて怒涛武者に迫った。

「何ですって?お前達グルになって私をつけていたのか?」

メドゥメドゥは蛇のような髪の毛を振り乱して叫んだ。

次の瞬間、黒騎士のブルライアットの引き金が引かれ、メドゥメドゥは

情けない悲鳴を上げて樹上から落下した。

「ブルブラック、おのれ小娘。余計な邪魔を・・」

銃弾をもろに食らった彼女はほうほうのていで逃げ帰るのがやっとだった。

「さっさと銀河の光を手放さんと死ぬぞ」

黒騎士は冷や汗を流す怒涛武者を脅かすように言った。

もう出る幕がなくなったは、目の隅でリョウマ達の気配を嗅ぎ取っていた。

黒騎士は、玉砕覚悟で向かってきた怒涛武者の日本刀を難なく受け止めると、力強い二太刀を浴びせた。

さらに彼の腕に巻かれていた呪いの腕輪を叩き切ると、衝撃で

封じ込められていた銀河の光を解放した。

風は吹き荒れ、木々はざわついた。

「銀河の守護戦士、退け!!その光は私の為に使う!」

「渡さない!!復讐だけが目的のあなたが使っても破壊を生むだけだ!!」

早速、先回りしたリョウマ達と全速力で駆けてきた黒騎士の間に小競り合いが勃発した。

「それがどうした?奴らさえ倒せばいい」

たちまち黒騎士のブルライアットが火を噴いた。

「ごめんなさい・・」

間者の立場であるは当然、どちらも裏切れない。

彼女は樹上から黙って仲間が傷つくのを見ているだけだった。

黒騎士は嬉々として緑の芝の上を走っていくと、頭上高くに輝く

銀河の光に手を伸ばした。

リョウマ達は獣撃棒を担ぎ出し、「黒騎士や海賊に使わせるんだったら壊した方がましだ」

と喚いた。

怒った黒騎士は容赦なくブルライアットの引き金を引いた。

「俺達に必要なのは真っ当な力だ!」

リョウマがそう叫んだ時、銀河の光がきらきらと輝きを増し、

すーっと五人の下に降りていった。

これには黒騎士はもとより、リョウマ達でさえ驚いた。

「まさか銀河の光が使い手を選ぶのか?そんな馬鹿なことが・・」

黒騎士はくやしそうに呟いた。

目と鼻の先の銀河の光に手を伸ばした五人とはうらはらに、邪心を持つ黒騎士の前で黄金の閃光がはじけ飛んだ。

「黒騎士!」

はもう見ていられなくなり、樹上から飛び降りて、一歩駆け出そうとした。

しかし、そこにしつこく銀河の光を狙う怒涛武者が現れた。

だが、彼は結局無駄足を踏んだだけであっさりと彼らの強力な武器の前に倒れた。

「貴様らに銀河の光が使いこなせるとは・・」

黒騎士は腹立ち紛れに捨て台詞を吐くと、木の幹にしがみつき、

何とか立ち上がって姿を消した。












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