「お前が好きだ」
「ずっと前から好きだったんだ」
ハヤテはをきつく抱きしめて耳元で囁いた。
今言えなければ、いつ言えるのかも分からない言葉。
ヒュウガの影に隠れてずっと言えなかった言葉。
これ以上隠し切れない言葉。
「ハヤテ・・あの・・」
いきなりそんなことを言われたのでどう反応してよいか分からない
は見る見るうちに赤くなり、酷く戸惑った。
「君達、真剣なところを邪魔してすまないがリョウマ達と合流出来るか?」
そんな二人の沈黙を破ったのは、このシリアスな場面にどう介入しようか悩んでいたモークだった。
「え?あ、ああ!すぐ行く!」
ハヤテは急に真顔に戻り、涙を拭き、しゃんとすると腕輪からの連絡を受け取って立ち上がった。
「今の聞かなかったことにしてね!(つまり他のメンバーに喋るなという意味である)」
「あ、ああ・・それは別に構わないが・・」
はモークに密かに通信を送って、今しがたの告白の秘密を守るようにお願いした。
「行くぞ!」
ハヤテはシェリンダが僅かながら意識を取り戻したのに気づき、と勇太を促して駆け出した。
「待て、貴様ら!戦え!」
最もいらいらする場面を見せられた上、敵にとどめをささずにすたこらさっさと
立ち去ってしまった三人に、シェリンダはやるせない怒りをぶつけた。
それから、ハヤテの飛び蹴りとの鴛鴦斧の介入のおかげで、ガーラガーラに踏みつけられていた
ヒュウガはからくも危機を逃れることが出来た。
無事、ガーラガーラを倒し、爽やかな午後の風を受けて歩く仲間とはうらはらに、
リョウマに支えられ、一人ずたぼろになったヒュウガを見て、はしきりに心配していた。
とうとうあまりに心配するため、「お前だって額からけっこう血が出てるぞ」とリョウマに逆に心配されていたが。
別の日、はヒカルから借りた星獣剣でサヤと剣の稽古をしていた。
「はっ!」
「やっ!」
は愛用の氷柱の剣を失ったとはいえ、代用の星獣剣でも驚くべきスピードと斬りこみで
サヤを圧倒していた。
そんな二人の女戦士達に男達は離れたところから、「すごいな・・」「、星獣剣握ってもさまになってるなぁ・・」
「でも、サヤも負けてないぜ」と好き勝手に応援相手を賞賛していた。
「サヤ、最近なんか怒ってない?」
「何で私がに怒るの?」
買出し当番のサヤはと距離を置くかのようにすたすたと歩いていく。
原因は憧れのヒュウガが彼女にばかりかまうからだ。
ヒュウガは暇さえあれば「、」と彼女の側に何かと理由をつけていたがり、
ボックでさえも、彼と彼女の仲介役になっているようにさえ思えた。
彼女はに感じる嫉妬を「私って、子供っぽいのかな?」と不可解に思いながら、
八百屋の店先でトマトやネギを選び始めた。
八百屋を後にし、プラタナスの並木道を歩いていると向こうから大勢の一般人が
悲鳴をあげて逃げ惑うのが見えた。
「嘆きの仮面!」
集団住宅が立ち並ぶ広場ではデスフィアスと呼ばれるファラオ風の魔人が一般人達を
魔術で苦しめていた。
リョウマ達もすぐさま駆けつけるが、一足早く魔術にかかり、
嘆きの仮面を額にかぶせられてしまう。
「皆!」
「ごめん、遅れた!」
「大丈夫か?」
ヒュウガやが呻く二人を抱き起こしたところ、二人は悲しくもないのに
酷く嘆き悲しんでいた。
デスフィアスは高笑いし、早速、錫杖を遅れてやってきたヒュウガ、サヤ、に向けた。
このピンチを救ったのは八百屋の子供で、彼はデスフィアスに玉ねぎを投げつけ、見事に気をそらした。
「恭平、来ちゃ駄目!!」
サヤは金切り声を上げて棒切れ片手に敵に突っ込んでいった少年を止めた。
ヒュウガ、サヤ、が慌てて止めに入るが、デスフィアスはヤートットを繰り出し、彼らを足止めしてきた。
ヒュウガは向かってきた水兵の腕を押さえて、横っ面を張り飛ばし、サヤは両手を体の前で交差させ、気を込めて
水兵を吹き飛ばした。一方、は水兵に後ろから抱きつかれたが、「放しなさないよ!!」とあらん限りの声で叫び、
その声に驚いた相手の隙を見て、足を高く掲げ、前方にいた水兵の持っていた湾曲した刀を蹴り飛ばした。
そして、驚く水兵を目の前に、抱きついてきたもう一人の水兵のみぞおちに強烈な肘打ちを食らわして、レンガ色の階段に叩きつけた。
シェリンダに剣を折られて、むしゃくしゃしていたの蹴りがもう一発、湾曲した刀を
蹴り飛ばされた水兵目掛けて炸裂し、彼は悲痛な叫びを上げて階段に後頭部をぶっつけて伸びていた。
「気の強い奴ほど泣かせがいがあるというものだ」
「危ない!」
「ヒュウガ!」
遂に抵抗もむなしく首根っこをつかまれた恭平に、命知らずなヒュウガは彼を守ろうと飛び出した。
しかし、運悪く嘆きの仮面をかぶせられてしまう。
サヤとは先を争うように駆けていき、嘆き悲しむヒュウガの目の前に立ちはだかった。
「お前達の泣き顔も楽しみだ!」
デスフィアスが近づいてきたので、サヤとはほぼ同時に「花びらの爪」と「氷の慟哭」のアースを放って
目くらましをした。
二つの強力なアースを食らったデスフィアスは苛立たしげに「奴らを探し出して始末しておけ!」
と配下の者たちに命じた。