暗闇に警鐘の重苦しい音が鳴り響いた。
ピーター、スーザンと別れて城内で暗躍しているナルニアの住人達の様子を探っていた
はその不吉な音にびくっとした。
「何てこと・・作戦が失敗したんだわ!」
はチッと舌打ちすると、黄金の弓に矢を番えて抜き足差し足で
城内の回廊へと消えていった。
実はこの致命的なミスの原因を作ったのは、暇にあかして懐中電灯を弄んでいた他ならぬエドマンドで
あった。
彼があっと叫んだときには時すでに遅し。
塔の螺旋階段の暗がりに潜んでいた場所からぱっと懐中電灯が
落下し、その物音を不審に思った下の階の警備兵が木戸を開けて出てきたのだ。
警備兵は物珍しそうにエドマンドの落とした懐中電灯を拾い、何気なく
点灯スイッチに手をかけた。
その途端にぴかっと懐中電灯の光が兵士の顔に反射し、その光を出撃の合図にしていたナルニアの住人達に
誤報を招く結果となったのである。
カスピアンに寝込みを襲われ、着の身着のままで逃げてきたミラースの命により、
城内はにわかに騒がしくなった。
上級武官は同僚や下級武官や一兵卒達をたたき起こし、皆、次々と武器庫に立てかけてあった鋼鉄の甲冑やボーガン、長剣などを
手にとって夜襲に備えた。
「エド、合図だ!」
「今それどころじゃないんだよ!!」
ピーターは城内を飛ぶように駆け回り、ようやく中庭へとたどり着いて叫んだ。
彼が見上げた視線の先には、懐中電灯を奪おうと実弟が夜警の兵と取っ組み合っていた。
「私に任せて!」
恰幅のいい兵士に長剣を突きつけられて動けないエドマンドを見かねて、すっと黒い影が
ピーターを追い越していった。
その華奢な黒い影は何十メートルもあろう城壁を、中庭の石畳を蹴ってひらりと舞い上がった。
そして、燃えるような黒髪をなびかせて城壁に姿を現したかと思うと、驚き慌てる兵士に剣を振る隙を与えず、オレンジ色の炎に包まれた
短剣を投げつけた。
燃え盛る短剣が命中した兵は喉を押さえて絶命し、騒ぎをきいて駆けつけてきた
もう一人の兵は助勢に勇気付けられたエドマンドの長剣の二振りと、奪い返した懐中電灯での殴打のもと、城壁に
頭をぶっつけて動かなくなった。
「大丈夫?」
は炎の消えた短剣を、ベルトに差し込むと心配するように言った。
「ああ、平気さ。だけど、これ、完全につかなくなっちゃたよ・・」
エドマンドはに礼を言うと、困ったように壊れた懐中電灯をかちゃかちゃさせながらぼやいた。
その間にピーターは力強い長剣の二振りのもと、中庭に現れた二人の夜警の兵士を倒していた。
「ピーター、もう遅すぎるわ!引き返したほうがいいんじゃない?」
「いいや、まだ大丈夫だ!」
左腕を負傷したカスピアンと連れ立ってやってきたスーザンは嫌な予感がして兄を止めたが、
ピーターにはそんな気はさらさらなく、何が何でもこの城攻めを強行突破する気らしかった。
「頼むよ、おい・・ついてくれ・・」
一方、見張り台の塔ではエドマンドとが困ったように壊れた
懐中電灯をさすっていた。