ピーターは長剣をはっしと構え、を傷つけた狼の前に立ちはだかった。


「それ以上近づくな!」


彼はじりじりと距離をつめつつある狼に油断なく剣先を

ちらつかせながら威嚇した。


「お前には無理だ。俺たちと刺し違える度胸などない!」


狼はぐるりとピーターの周囲を回りこみながら、先を見通すように言った。


「王様気取りだが、お前は今ここで死ぬのだ!犬のようにな!」


ころあいを見計らって、突如、狼はピーターに襲いかかった。


女の子たちはいっせいに恐怖の悲鳴をあげた。



「ピーター!!」

「やめて〜っ!!」

女の子たちはどさりと二人が倒れたのを見ると、めちゃくちゃになって


上っていた木から飛び降り、彼の元へ駆け寄った。


スーザンは急いでピーターの上に乗っかっている狼を

引き剥がし、は彼を抱き起こした。



ピーターは生きていた。


被害を被ったのは狼の方で、彼の長剣に喉元をぐさりとつらぬかれて

死んでいた。


彼は何が何だかわけがわからない様子で目をしばたいた。


スーザン、ルーシーは彼をぐっと抱きしめ、

この場の空気に浮かされて後ろから羽交い絞めに抱きついた。


「よかった。ほんとによかった・・死んだのではないかと思った・・」


「そういや君のほうこそ怪我は?あいつらに足をかまれたんじゃ・・」


ピーターは妹たちを優しくひきはがすと、彼女の方に向き直って尋ねた。


「大丈夫。ドレスが破けただけだから・・」


「ごめん。君をこんな危ない目にあわせて・・すごく怖かっただろ?」


「本当に大丈夫・・だからっ・・えっ?」


ピーターは今度は自分のほうからの髪を

かき抱きそれに顔をうずめてつぶやいた。



その夜、白い魔女の陣営をアスランの密命を受けた兵士たちが夜襲した。


突然の奇襲に敵はあわてふためき、ほうほうのていで逃げ出した。



木にくくりつけられていたエドマンドに短剣を向けていたジナーブリックは、


背後からが放った火矢にあっけなく射抜かれ、「熱い、熱い、助けてくれぇ!」


と地面をのたうちまわりながらどこかへ行ってしまった。



「大丈夫?」


「君は・・もしかして妖精の?」


エドマンドは熱さにのたうちまわる敵をこわごわとみやり、それからうわごとのようにつぶやいた。


「そうよ。静かに・・一緒に来て」


セントール達が背後で剣を振るう中、はそこここに短剣をあて、


エドマンドを縛っていた縄をざっくりと切り離した。







「何というざまだ」


ミンクの毛皮をはおってやってきた白い魔女は、先ほどまでエドマンドが縛り付けられていた


木に倒れ掛かっていたジナーブリックを見下ろし苦々しく呟いた。


白い魔女は、酷い火傷を負った従者を氷の魔法で直してやり、厳しい一瞥をくれてから

たたせた。


「あなた様の妹君からの伝言です。人質は返してもらった。降伏するなら全てを水に流すと」


従者はぜいぜい息をはずませながらの言葉を伝えた。



「フン・・どこまでもこしゃくな娘だ。この私がそう簡単に降伏すると思うのか?

 ジナーブリック!お前の処罰はあとだ。私にはやらねばいけないことが一つ増えたのだからな」



白い魔女はそういうと、くるりと長い裳裾を翻し、衣擦れの音をさせながらミノタウルスを


従えて立ち去った。



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