「2人が戻るまで僕らは砦を守るよ」

「それでよしと致しましょう」

ピーター王は安心させるようにに微笑んで見せた。

も僅かに口角を上げて彼に微笑み返すと言った。

翌朝、早速、ミラース卿のもとへ三人の使者が送られた。

「森の貴婦人らは降伏する気でしょうか?」

それを望遠鏡で覗いていたミラースに向かって、グローゼル将軍は尋ねた。

「いや、それはありえん。あの呪いの森を守ってきた誇り高き魔女と結束の

 堅い連中だ」

「どうにもあの狡賢い魔女の腹は読めん・・」

ミラースは何事も許さぬ目つきでパタンと望遠鏡を閉じると

忠実な将軍に「油断するな」と釘を刺した。


テルマール人の陣営では女王直筆の書簡を預かったエドマンド王が

それを淡々と読み上げていた。


「私、七世は長年対立してきたテルマールとの和平を望むべく、

 カスピアン王子を仲介し、最善を尽くして参りました。(中略)

 そこで無用な争いは避け、今回、一国をかけた戦いとし

 て私の代理として前ナルニア国王であらせられたピーター王との一騎打ちを

 貴殿に申し込みます。

 この戦いはどちらかが死ぬまで続け、敗者は勝者に全面降伏を致すことを誓います。」




「一つ、教えて頂きたいのだが・・エドマンド王子」

ミラースはじろりと女王の使者を一瞥すると尋ねた。

「王子ではなく王だ。くれぐれもお間違えなさらぬよう」

「それに僕の兄のピーターは偉大なる王だ」

ミラースの無礼な振る舞いにひるむことなくエドマンドは言ってのけた。

「それで私が魔女、いや、お前達の女王の申し出を受ける理由がどこにあるのだ?」

「お前達森の住人を攻め滅ぼそうと思えば

 今夜にでも大軍を差し向けることも可能だが・・」

ミラースはふんと鼻で笑うと言ってのけた。

「ずいぶんと見くびられたものだね。貴殿の軍の過信はいつしか身の破滅を導く。

 そう、女王はお伝えせよと」

「何をほざくのだ?今夜にでも壊滅する運命のお前達が」

にんまりとほくそ笑んだエドマンドの真意をはかりかねてミラースは呟いた。

「それは実際にやってみなければ。僕らが勝ってからではそちらが後悔するだけだ」

「何と何と・・これは若き勇敢な女王陛下だな。さすがあの森を死守してきただけある。

 だが、所詮こけおどしだ。ばかばかしい」

「では、女王にはミラース殿がこの申し出をお断りになられたと

 お伝えすればよろしいので?」

エドマンドはこの時を狙ってましたとばかりに突っ込んだ。

「誰も断るとは言ってはおらん」

ミラースは周囲の軍人達の探るような視線を受けながらも、きっぱりと言い放った。

「私は国王陛下を支持致します。あちらの女王の挑発行為がどうであれ、

 ここはきちんとご決断なさるべきだと」

いい機会だといわんばかりに若いテルマール人の騎士が賛同した。

「陛下。どうせ我々の軍力はあちらの女王の軍力を軽く上回ります。よいではないですか。

 少々あちらの貴婦人のお遊びに付き合うなど・・」

腹黒い年配の副官の一人が嬉々として言った。

「お前は国王たるわしを馬鹿にしておるのか?私があの若い娘の挑発に怖気づくとでも

 思っているのか?」

次の瞬間、かっとなったミラースはするりと長剣を引き抜くと年配の副官の鼻先に

突きつけた。

「いえ、私はいかにお遊びであろうとも、陛下には拒む権利があると申し上げたく・・」

年配の副官は剣先に動じる風もなく淡々と答えた。

「まさか拒んだりなさらないでしょう。お遊びであろうとなかろうと

 新国王の勇気を我が民に示す絶好の機会でしょうから」

ミラースの戴冠をもともと快く思っていない

副官であるグローゼル将軍がさらに追い討ちをかけるように呟いた。

その意外な言葉にエドマンドの顔はぱあっと輝いたが、

ミラースは何か言ってやりたいのを必死でこらえていた。

「貴様!」

「兄の剣がペンよりも鋭いことを祈れ。そして、愚かな女王に

 くだらんこけおどしはいつまでも通用せぬと伝えよ」

ミラースは何とか威厳を取り戻そうとエドマンドに向けて長剣を突きつけた。




「よく言ってくれました」

「あれでよかったのですか?」

「テルマール人はもともと海賊で気性の荒い性格です。

 こちらの挑発行為には必ず乗ってくると思いました」


遺跡内では無事、使命を果たし終えたエドマンドとが談笑していた。


「デストリアは賢い。彼の手に全てを委ねて」

「蹄にね」


こちらではカスピアンが漆黒の毛並みの持馬にスーザン女王を乗せているところだった。

彼女とルーシー女王は朝一番の馬で出立し、いまだ所在が不明なアスランに

救援を求めに行く予定だった。


翌朝、空はからりと澄み渡った。

アスランのレリーフが描かれた銀の甲冑に身を包んだピーター王とエドマンド王は

バラ色のモスリンドレスをまとった女王と共に現れた。

「グローゼル将軍。もし、わしが不利になることがあれば奴らの女王を射殺せ」

「分かりました、国王陛下」

金の甲冑に身を包んだミラースは、バラ色のモスリンドレスをはためかせてやってくる

と影のように付き添う二人の騎士を見比べて目配せした。















































 

 

 

 

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