蔵馬、がコーヒーを飲み終わった頃、明日の対戦相手である六遊怪チームが冷やかしに来た他は
客人は一人も来ず、皆は眠りにつくことにした。
「そういや部屋割りなんだけどよぉ、俺は浦飯とでいいが、ちゃんや蔵馬はどうすんだよ?」
桑原がよいしょっと高いびきをかいて寝ている友人を背負いながら尋ねた。
「ツインベッドの部屋らしいから私はそこの覆面の方と」
「もちろん覆面の方が承諾なさればの話だけど」
の提案に、覆面戦士は冷めたコーヒーカップをかちゃんと受け皿に置くと、
黙って頷いた。
「よかった。じゃなきゃ私、ここのソファで一人寂しく寝ることになったかも」
「フン、割と長い間いたわりに、そんなに俺が信用出来んのか。
そういやお前、最近、そこの蔵馬に性格が似てきたな」
「さんは女性なんだから、俺達には分からないデリケートな部分があるんですよ。ね?」
「下らん。勝手にしろ」
飛影は蔵馬と楽しそうに話す彼女が気に食わないのか、怒ったように
間近にあるドアを乱暴に開けてさっさと寝入ってしまった。
その夜、桑原、覆面は早々と高いびきをかいて眠りに落ちたが、は初めての武術大会とあって
なかなか寝付けずにいた。
「眠れないんですか?」
「蔵馬!?起きてたの!」
「今夜は月が綺麗ですよ。ほら、そんなところにいないでこっちに来て見てみるといいですよ」
「本当・・」
夜更けのホテルにはファンの音と冷蔵庫のモーター音だけが鳴っていた。
薄暗い部屋でガラス窓から差し込む月光の他に照明はついていない。
ファンの上に腰掛け、は蔵馬の言うとおり、窓から零れ落ちる月の光を眺めた。
冷蔵庫の飲み物を取って、すぐに戻るつもりだったので、ネイビーブルーのスリップの上に綿入れの部屋着だけしか羽織ってこなかった
はちょっぴり後悔した。
「さんは相変わらず、俺や飛影に対しては警戒心が強いんですね」
蔵馬はそんな彼女の恥らう心を読み取ったのか、少し距離を縮めてきた。
「幽助は可愛い年下だと思ってるのか、割と親しくしているように俺には見えるんですが」
「浦飯さんはね、ちょっとつっぱっててて、口が悪いのが玉に傷だけど、老若男女を惹きつける魅力があるわね」
はなんだそんなことかと思って誤解のないよう説明してやった。
「へえ、じゃ俺は、あなたと同学年で何を考えているか分からない危険な男子生徒ってところですか?」
「そんなに拗ねなくても・・」
「別に拗ねてませんよ。ただ、ちょっと幽助が羨ましいなと思っただけですよ」
蔵馬はすっかり調子を崩して、怒ったようにそっぽを向いた。
この温厚な狐でも怒ることがあるんだなとちょっぴり可笑しく思ったが。
「じゃあ、そんな狐さんにこれを」
「これは・・大事なものじゃ・・」
蔵馬は突然目の前に差し出されたものを見て驚いた。
何とは部屋着のポケットから、銀色の鎖がついた氷泪石のペンダントを取り出して
見せたのだ。
「私は補欠だから、誰かが怪我したり、何らかのアクシデントがないと試合に出られないと思うけど、少しでもあなたの力になりたいと思ってる。
だから、これを魔除けのお守りだと思って持っていて欲しいの」
「しかし・・」
「氷泪石には特別な力がある。垂金はそれを悪用して金儲けをした。でも、蔵馬になら安心して渡せるわ」
「分かりました。あなたがそこまで言うなら俺は大事に持っておきます」
「ありがとう、」
蔵馬は、彼女がこぼした瑠璃色の涙の石をそっと受け取って礼を言った。
「それからこれは私からのお願いなんだけど、よく眠れる薬草かなんか持ってないかな?」
「いいですよ。じゃこれはどうです?」
「紫色の薔薇?」
「いいですか。この薔薇をよく見てて下さい。1、2・・俺が10数える間にあなたは眠くなる・・」
蔵馬の物憂げな声が、まるで子守唄のように彼女の耳に心地よく響いた。
彼がぱちりと指を鳴らすと、紫色の薔薇の花弁が風も吹いてないのにそよそよと散り始めた。
「おっと・・十秒まで行かなかったか」
の長い睫が閉じられ、ゆっくりと彼女の体が傾きかけたので蔵馬は
ぱっと薔薇を手放し、落ちかけていく彼女の体を支えた。
「知ってますか?俺は、高校に入学した時からあなたがずっと気になってた・・でも、あなたは一度もちゃんと俺を
見てくれなかった・・」
蔵馬はぎゅっと彼女を抱きしめながら、自分の秘めた想いを吐露していた。
以上ちょっと甘い蔵馬とヒロインさんの小話でした^^