その後、魔界に乗り込んだ霊界探偵とその友人、蔵馬、飛影達が無事に虫笛とそれを操っていた四聖獣を
倒した為、人間界の岩本達の洗脳は解け、蛍子、ぼたん、の危機も救われた。
は音楽室から拝借したフルートを返しに行くと、ぼたんを抱きかかえたまま廊下に座り込んだ
蛍子に「じき、その先生たちの催眠は解けるよ。じゃ、私はこれで」と言い残して立ち去ってしまった。
ガラス窓を通じてさんさんと降り注ぐ朝の光。ここは霊界探偵、浦飯幽助の友人の部屋だ。
傍らのベッドでは戦いに疲れて寝入る霊界探偵の姿があった。
「へえ、じゃさんが・・」
「そう、この人が駆けつけてくれなかったら幽助がいない間、あたし達とっくに
やられてたよ・・」
ぼたんは勉強机にもたれかかって感心したように話を聞く蔵馬に、人間界での
の活躍を話していた。
「本当にあの時は、見ず知らずの私達にありがとうございました。それにあの盟王高校の方だったんですね。知らなかった・・」
「いいって、お礼なんか・・」
普段着に着替えた蛍子に頭を下げられ、は照れくさそうに言った。
「あ、それから南野君。学校休んでた分のノートと、プリント渡すように先生に
頼まれてたから渡しておくね」
それからは通学鞄をかきわけ、ずっしりと重みのある茶封筒を背丈の高い彼に手渡した。
「ありがとう」
蔵馬は微笑すると、細く長い指でそれをありがたく受け取った。
「まあ、今回はいろいろ大変だったみたいね。そのお腹の怪我も」
「これはもう直りかけてます。それにしてもさんもよく頑張りましたね」
彼の側を通り過ぎるとき、はそっと囁いた。
彼も温かい微笑を浮かべて努力をねぎらってくれた。
それから数日後の魔界。閻魔大王の息子はデスクに座り、何やら難しそうな顔をしていた。
「飛影に例のテープは持たせた。あとは計画通りになることを願うことだ」
「それと前回、人間界でぼたんと蛍子ちゃんが世話になったという少女のことだが・・」
「何か分かりましたか?」
彼のデスクの脇に立って話を聞いているのは蔵馬だ。
「うむ、暇なのでいろいろ調べていたら、興味深い履歴が出てきてな」
コエンマはきちんと整頓されたデスクの中から一枚の紙を引っ張り出した。
「まず、彼女の父親のことだが、この男はれっきとした人間で、幽助の前に短期で霊界探偵を勤めていた隼人という。
次に、え〜・・彼女の母親のことだが、彼女の母親は氷河の国の氷女、泪だ」
「そうだったんですか・・俺も彼女と初めて出会った時から普通の人間じゃないと思ってました。
ということは、彼女は人間と他種族との交配がタブーとされている氷女の間に生まれた娘ということになりますね」
蔵馬はちょっと考えてから納得したようにうなずいた。
「そうだ。霊界探偵、隼人は泪とのスキャンダルを起こした後、自ら霊界探偵の職を辞し、その一人娘を
人間界に連れ帰って男手一つで育てた。まさか、その娘が今回の件に関わっていようとはな・・」
コエンマは湯気を立てている昆布茶に手をつけながら、懐かしい過去を回想していた。
「あれだけ大勢の人間に囲まれながら、ひるまずにぼたんや蛍子ちゃんを見事に守ったのも
父親の血と母親の血のなせる業といえよう・・」
「飛影や今回の一件とあながち関係がなかったわけではないんですね・・」
蔵馬はしんみりと言った。
「うむ、しかし、もう一つまずいことが分かってな。人間界をたまに騒がせとる幽霊強盗。
あれはどーも彼女の仕業らしいのだ」
コエンマはここで腕を組み、厳しい表情で呟いた。
「そうでしょうね。俺もあの鮮やかな手口から見てそうじゃないかと感づいてました。目的は?」
蔵馬はやはりそうかと確信して相槌を打った。
「使い魔に今、探らせとるが、どーも生活費の為らしい。父親が残した闇ルートを
たどってこっそりと宝石を売りさばき、金に換えているらしい」
「さん、一人暮らしですからね。マンションの家賃や高校の学費なんかで何かとお金がかかるのでしょう」
蔵馬は頼る身内もいない女一人での生活はこうも大変なのかと痛感してしまった。
「それでだ。わしはこう思った。現霊界探偵の助手に彼女を起用してはどうかとな」
「さんをですか!?また随分と思い切ったことを・・」
蔵馬はコエンマの奇想天外な提案に今度こそ本気で驚いた。
「朱雀の事件の録画テープを見ていてわしは確信した。彼女の力なら十分にあいつのフォローが出来るとな」
「もちろん、報酬ははずむ。彼女が十分に生活していけるだけのな」